197 取り返せない重さ・・・。
タン、タン、タン・・・。
畳の部屋にあった横幅広めの階段を下へと進む。そして等間隔で置かれているロウソクの火と木の格子の様な窓から射し込んでくる明かりだけで部屋全体を照らしていた。そのためか若干暗い。
「・・・(どうしてこう・・・)」〔怖いですか?〕「そりゃ~・・・(まあ、そうだけど)」〔一応、火とは別に、私と繋がった視覚で結構暗闇でもカバーは出来ていると思いますよ?〕「(うん、それは助かってます。ありがとう)」〔どういたしまして〕
純は後ろを振り返る。本丸の渡り廊下から離れの4階に到着。そこから3階、2階、1階と何度も畳のある部屋については折り返して下りていく。今はその1階から地下へと進むためか自然と木から石に変わっていた。石の階段に差し掛かったところで振り返り外から光が入っている部屋の天井を見る。
「(ここ・・・。扉が無かったな)」〔・・・。私達が入った4階でしか見てませんね。私の感知でもこの建物の周囲に入口はあそこしか見当たりませんでした〕「(・・・ここは。・・・牢屋、いや・・・隔離?)」〔・・・純の考えで合っているかと〕「(じゃあ、誰かが閉じ込められてる?)」〔・・・元は誰かを幽閉するためだったのでは?誰かを外に出さないため。あるいは・・・誰かに知られたくないためとか?〕「(・・・。歴史を繰り返す。いつの時代になっても似た事件は昔からあったよな・・・)」〔・・・この世界は知れば知るほど悲しい世界の集合体ですね〕「(・・・俺達のやれる範囲で何とかしよう)」〔はい・・・〕
改めて下へ向き直し、純はロウソクの火しかない暗い底へと下りていった。
下りている途中から壁が朱色の柱に変化し始める。そして等間隔で円柱の朱い柱へと変わっていた。
「・・・」〔マナで感知。空気が変わりました〕「(うん・・・)」
純の下りていく靴の足音だけが大きく響く。しかし先ほどとは違い、静謐さの中に地下だからと言うだけでは言い切れない、気温と張り詰める様な空気が奥から伝わってくる純達。瞬時に取り出せるという事で異空間に収納していた双剣を取り出して、警戒しながら下っていく。
下りたった長い廊下には等間隔で朱色の円柱が設けられ。壁には仏像がこれまた等間隔で示し合わせた様に向かい合わせになって奥へずらっと両端に並んで飾られていた。
「うぅぅっ・・・」〔・・・日本ホラーのおどろおどろしさはこういう所ですかね~?〕
仏教関連、またはその近くに住んでいる人でないと、まずあまり目にしない光景に、つい呻く様な声が口から出てしまった純。逆にサポートは能天気な感想を抱いてしまう。
「・・・はぁ・・・」
少しだけ深呼吸。仕切り直して迷わず中央を歩いて行く。純は警戒をしつつ周囲を見回す。石造りになっている地下は天井が高く廊下も離れより少し広めに作られていた。そのためか階段にあった様に壁に柱があるのではなく。独立して等間隔で下から支えとして作られていた。
〔・・・柱の隙間から覗く様に像が見えるのはどういう心理が・・・?〕「(俺には見られているようでなんか居心地が・・・)」〔・・・まあ、侵入者ですし・・・〕「(は、気楽だな~)」〔今の所、特にココに純の様に固まったマナは奥からしかありませんので・・・〕「(あ・・・奥にいるんだ)」〔そりゃ~、そうですよ。そのために調べに来たのですから〕「(いや、俺はクエストもあって念のために)」〔ほらほら、ここには敵はいないので先へ行きましょう〕「(・・・。飽きたな)」
サポートの促し方からもう興味は次に移った事を感じた純。良い意味なのか、何なのか。変わらないサポートの空気感に影響を受けて普段の純に戻っていくのであった。ある意味それが狙いなのかとも思う純だったが・・・。
〔(ボソ)ホラーの鉄則は視界を狭くさせる事・・・〕「ん?」〔どうしました?〕「いや・・・なんか不穏な気配が・・・」〔・・・特に感じませんが?気のせいでは?〕「・・・そう?」
首を傾げながら純は比較的、見通しの良くなった目でも見えにくいほど奥にある扉へと向かって行くのだった。
「ああ~・・・これ~・・・」〔さ、入りましょう〕「いや、まあ・・・。うん、分かってた。分かってたよ?」〔?〕
純は双剣を一度収納して、高さ2メートル位のびっしりと書かれていた呪詛なのか写経なのか不明な厚めの石の扉を押していく。
「(ああ~~~・・・分かってた。そんな予感はしてたんですよ~・・・!)」〔うるさいですよ?純〕
純は冷や汗ダラダラになる思いで部屋の周囲を見回した。30メートル位の正方形のだだっ広い空間。そこの四隅の角に4体の仏像が睨みつける様な顔で立っていた。先ほどの地蔵の様な、純サイズの大きさではなく、こちらは3メートルはありそうなほど大きい仏像だった。そして、純が一番声を出したい気持ちになったのは純に背中を丸めて座り何やらブツブツと言っている存在にだった。最初はそれでも気持ち声を掛けようとはしたが、その勇気が持てなかった。
「(こ・・・こえ~~っ!)」
自然と後ずさりしてしまう。早くも入って来たことを後悔し始める。しかし、その時だった。中に入って来た時は何も反応を返さなかった存在が、純が後退した時の足音には反応を返し唱える事を止めた。
「・・・」
胡坐を掻き、目の前に置いた小さな位牌に念じていたモノはゆっくりと立ち上がり純の方へと振り返ったが・・・。
フッ・・・。バダーン・・・!
「えっ?」
顔が振り返りきる前に部屋のロウソクの火が一斉に消えて真っ暗になる。更に石の扉が強く閉じられてしまった。
〔純、剣を!〕「あっ」
慌てて武器を取り出し身構える。ボッと明かりが点く。ロウソクはいつの間にか松明に変わり激しく燃え上がっていた。
ゴゴゴゴゴ――・・・ゴリゴリゴリ・・・・・・。
何か重いものを引きづる様な音が部屋中に響き渡った。
〔4体の石像です〕「!」
サポートが気付き、そのすぐ後に純も4ヵ所のマナから殺気が発せられていることに気付いた。
バキバキバキ・・・ダーン・・・!
松明に火に照らされている仏像が足元の張り付いている台を無理矢理剥がして動き出す。ゆっくりと足を前へと踏み出していく。束縛から解放された仏像は純を標的と定めゆっくりと近づいて来る。
〔・・・来ます。注意して〕「っ」
純がサポートの声に反応し、腰を落とした瞬間だった。
ダンッ!・・・・・・ボガー――――ンンン・・・・・・!!
約3メートル弱の仏像が石像とは思えないほどの滑らかな動きとスピードで純に襲い掛かった。右側にいた仏像が一足飛びで飛び掛かり拳を振り下ろしてきた。純は拳を見て躱すと同時に部屋の真ん中まで回避する。本来なら取り囲まれてしまう状況になるはずだが、サポートという周囲をマナで360度見ることが出来る相棒のおかげで死角というほどではない純。むしろペースを崩されてしまう方が問題だと思い距離を取った。
〔後方、右〕「っ!」
反転して入り口側に向いていた純の後方から仏像が殴り掛かって来たが。純はそれにカウンターを合わせる。
ザン・・・、ゴガン・・・。
とても石を切り裂く様な感触でも音でもなく反転した回転の勢いに乗ってスムーズに双剣で切り裂き、右ストレートを叩き込もうとした仏像の腕を切断した。離れた腕は軽く宙を舞い落ちて転がっていく。
「・・・」〔左〕「ふっ」
別の仏像からの蹴りに合わせて左の剣で切断。バランスを崩して倒れ込む仏像。さらに右腕を無くした仏像が攻撃を仕掛けてくる所に擦れ違いざまに切り裂き胴体を切断した。
ドガン!・・・ゴドーン・・・!!
〔入口の石像が2体同時〕
純はすぐに反転。マナを大きく宿している気配の方角から視線を上げると飛び上がって攻撃を仕掛けてくる2体の仏像と目が合った。
「(とても石の動きじゃないぞ)」
後方へと飛び離れた純。入れ違いで飛び降りて来た仏像の破壊力は凄まじく仲間の2体の仏像を巻き込んで石の地面を大きく粉砕した。埃を撒き散らして陥没する中央の床。
「・・・仲間意識は、無しか・・・」
しゃがんでいた姿勢から起き上がりこちらに向かってくる姿から純は、自分以外はどうでもいいのだと判断した。
〔残りは・・・目の前の2体〕
サポートの言葉から、目の前の相手以外はいないという言葉を聞き。純は再び双剣を構え、今度は自ら飛び出していった。
「「・・・」」
自分達の攻撃でバラバラになった仲間の仏像の破片を踏み壊しながら前進してくる2体の仏像。その顔は先ほどよりも鋭さを増していた。
「っ!」
一気に懐まで接近した純は足を擦れ違いざまに切り落とすつもりだった。・・・が、どこから通りだしたのか独鈷杵を取り出し純の攻撃を防いでいた。しかし、純の力を完全にくい止めることは難しくガリガリと大きく石床を削りながら純と一緒に後退していく石像。
〔横っ〕
純はすぐさま軌道を変えて外へと逃げる。すると純の頭があった場所に同じく独鈷杵を持ったもう1体の仏像が貫こうとした所を目撃した。
「(あれは、普通に受けたら頭が粉砕してるだろ)」〔純なら問題なく受け止めきれるでしょうが。油断せずに〕
再び攻めに掛かる純。お互いの動きなど合わせているわけではない仏像2体は我先にと動き飛び出していく。片や飛び掛かって、片や直進して向かってくる。
「っ!」
純は瞬時に走ってくる仏像を標的にして加速。更に体内マナの濃度を引き上げて強化。一気に走る仏像まで近づいて行く。流石に空中では何も出来ないと判断したのか。体勢を変えて独鈷杵を投げ飛ばしてくる仏像。
ガギンッ!
正確に飛んできた武器を弾き返す純。しかし走る速度は緩めない。
「んんっ!」
走ってくる仏像が突き出してきた独鈷杵ごと双剣を振り抜き、軽く斬撃をも飛ばして斜めに切り裂いた。純とすれ違い通り過ぎていく中、体がズレ落ちていく仏像。純はすぐさま斬撃を空中に飛ばすが、器用に回転捻りして避ける仏像。着地と同時に少し弧を描きながら転がっていた独鈷杵を拾い上げ、仏像からしたら低姿勢に。重心を前に乗せた前傾姿勢で走ってくる。
「・・・ふぅ~・・・」
純は振り返ると立ち止まり、ゆっくりと純は呼吸をする。そして迎え撃ち気持ちが固まった時、息を止めた。
ダン、ダン、ダンダンダンダン・・・!!
重い地響きを上げて超重量であろう仏像が走ってくる。その距離は一瞬で詰まり・・・。
「(・・・ココ!)」
純は独鈷杵ごと振り下ろしてきた仏像の拳が当たる瞬間に感じたマナの弱い流れの切れ目を突く様にして双剣を斬り払った。
ギィィィン・・・・・・。
ぶつかったにしては軽く、高い音が部屋に響く。
「・・・」
純はゆっくりと斬り払った姿勢から戻って、後ろへと下がっていく。
・・・ズル・・・。ゴトンッ・・・!・・・ドガアンンン・・・。
首が落ちる仏像。その上に後を追うように体が倒れ込み、武器も体がバラバラに崩れた。
「(これで・・・終わり・・・)」〔はい。先ずは1勝〕
純は周囲に他の敵が見えないか警戒を強めていく。するとボロボロと崩れていく仏像は黒い煙を上げてどこかに飛んで行く。それを目で追うと・・・。中央、先ほど何かをブツブツと言っていたモノの場所へと4体の仏像だったモノの煙が集まっていく。
黒い煙が渦を巻き、ぐるぐると回転する。そして煙が薄まってくる頃・・・先ほどのモノが立っていた。布で覆われた顔はフードの様に顔を隠していた。その手には小さな位牌を握り締めていた。
「(ボソ)あの者達は・・・。こころしずかなり。・・・私の娘は、あの子は・・・何の為に・・・。語おだやかなり。祝福は間違っていたのだろうか・・・。許すことは・・・正しかったのか・・・。行ないもゆるやかなり」「・・・(何かを言ってるけど・・・ココからじゃ)」〔この部屋が響く易い空間だと言っても、流石にあそこまで小さいと・・・。しかし男のようですね〕
純は双剣を構える手に力を込めていく。男は位牌を懐へと入れていき純を見ながらゆっくりとフードになった布に手を掛けた。
「(ボソ)何故だ。どうしてあの様な事に・・・。我らには・・・。この結末しか許されておらんのか。この人こそ正しきさとりを得、身と心の安らぎを得たる人なり」
スルルと聞こえる軽い衣擦れ。流れ落ちていく布から顔を露わにした男は純に投げかける。
「貴様は・・・あの男の仲間なのかっ・・・」
先ほど戦った仏像。それと同じ・・・いや、それ以上に怒りをあらわにした表情で純を見ていたのは般若の様な男だった。その瞳の中は真っ黒だった。また、体が微かに震えていた。
「我らの恨み・・・その身で刻め~・・・」
腹の底から唸る様な低い声。そして体を覆っていた布からボコボコと何かが激しく蠢き始めた。
〔・・・話が通じる様な相手ではないでしょう〕「・・・」
男から迸るマナにはピリピリとした殺気が純に向かって飛ばされていた。マナの視界でそれを見ているサポートはもちろん、直で男を見ている純もこの戦いは避けられない事を予感していた。
「貴様らが居なければ・・・!現れなければっ・・・!!」
グチュグチュグチュグチュ・・・ボシュッ!・・・ブシュ―・・・。
男の背中の布が大きく弾けると背中から2本の腕が生えてきた。更に蠢くナニかは男の体を這いずり回り、次第に男の体がどんどんと大きくなっていった。
「・・・諸行は無常なり。・・・さりとて貴様等に栄光はなし!」〔純・・・行きますよ?〕
怨嗟にまみれた男の目には、もはや何も届かないと理解した純は戦闘態勢に入るしかなかった。
【十時影 純 (クリス)】15才 人間・・・かな~?(進化)
レベル 38
HP 724 MP 813
STR 356
VIT 301
INT 393
RES 334
DEX 451
AGI 428
LUK 73
『マナ(情報体):レベル 9 』『波鋼:レベル 8 』『質量拡充:レベル 5 』
『魔法:水、風 』




