19 贅沢と矛盾 人間ってホント、都合がいいよね?
この町、アスーティは大きく4分割された都市である十字路に川が流れていて、場所によって様相が変わってくる。
まず北から西が商業区画になっているところが多く、中央に近いほどたくさんの集客が見込まれるため大手の業者がそこをエリアに販売している。
西から南は住居区画が多くある、ギルドもここの中央寄りにあり、その外周、近くに孤児院が建てられている。
南から東は商業区の中でも主に冒険者たち用の武器の店や、魔法店や露店販売が多くあったりする。
そして、東から北は港の造船所から海でとれた幸など食品を取り扱っているお店が多い。
住居区から少し離れているのはもともと冒険者や観光客、主に海から渡航したりする船着き場がそこに集まっているからだ。
そこを狙って、食品だけじゃなく様々な商品が所狭しと集まってしまうため、ここを地元にするお客さんが買いたい商品等がおけるスペースがなくなってきたためである。
そこで、一気に地元住人が必要とする雑貨類を東北地区に移したそうだ。
ほかの地区はもともと作ってしばらく経ち、自然と今の区画になっていたので、強制的に移設することはできなくなってしまったらしい、とローナから聞いた。
クリスは孤児院から借りたカバンを持って中央広場についた。
大きな川の真ん中を大きく区画に移動するための道路を作り、その道路の下を川が流れている仕組みになっている。
初めて見た時、十字に見えたのは川の幅が大きく区画移動するための橋が小さく見えたからだ。
「・・・近くで見ると、でかい橋なんだが。
それ以上に間を通る川がでかいんだな。」
区画との幅が約30メートルくらい。
その間に大きめの橋が見えても海にわたる水量を考えると納得のいくクリスだった。
中央広場はこの区画に移動する中継点の橋の上に建てられた場所だった。
たくさんの人や馬車が行き来をしている。
そのちょうど真ん中に柱が立ち囲むように整えられた草花や芝生、休憩用のベンチが設置している。
また周りに、露店なんかもある。
休憩場所にはたくさんの人だかりができていた。
その中央に数人が設置された、お立ち台の上で何やら集まった人々に説明していた。
「さあさあ、今年もやってきました、センリュウ祭。
今年のスタンピードは恒例の討伐大会を軸にチーム戦と個人戦の2種目が行われます!」
と、なにやら服装が全身白っぽくして目立つ男が説明を始めた。
「まずは、チーム戦で一定時間でどれだけのモンスターを討伐したかが競われます。
チーム戦の人数は最大10人まで、1人のリーダーがこの赤いアクセサリーを着け、残りの者が青いアクセサリーを着けます。
このアクセサリーはチーム間での討伐数をカウントし、赤いアクセサリーが集計します。
また、赤いアクセサリーがチーム内の討伐数を表記します。
これにより、アクセサリーを着けチームに登録したもの以外が討伐してもカウントを取れなくしています。
よって、不正ができなくなる仕組みです」
白い服の男は右手に赤いブローチの鳥を模ったネックレスを、左手に青い鳥のネックレスを掲げ説明する。
「今年は例年より多く参加する人がいる。
その中には初めて参加する人もいるだろう、そこでなぜチーム戦が先に行われ、開始から終了までが一定時間なのか疑問に思った者もいるだろう。
それは、スタンピードがどれだけの規模で、またどのタイミングが一番多く発生して出てくるのかがわからないからだ!
そのため、毎年、少しずつ内容と開始時間が変わっているため、先に先行する観測手が見極め、数のおおよそから大規模な軍勢になるころに参加チームをあてがうからだ」
(なるほど・・・それで、おおもとの数を減らすのか・・・)
クリスはイベントの説明に合理的な考えもあるんだな、と感心していた。
「そして、軍勢を退けた後もしばらくは、スタンピードの勢いが完全に止まることはない。
少し待つと、多くの軍勢で来るスタンピードよりは減るがまだ余波が残り、この町のダンジョン、遺跡、洞窟といった所から軍勢よりは強力な個体が姿を現す。
そこからが個人戦の始まりだ」
チーム戦は大本の数を減らすこと、個人戦は残ったモンスターの殲滅戦になるそうだ。
「個人戦とチーム戦は別でポイントを集計します。
個人戦はこのアクセサリーでカウントを取ります」
そう言って、男は犬の横顔のブローチような形の黄色いネックレスを見せた。
「今年のセンリュウ祭のメインとなるスタンピード大会はこれで行います!
ぜひとも我はと思う者はギルド前に設置された受付で参加登録してください」
男は説明し終わると、横にいた別の男性がほかのイベントの説明を始めた。
「続いては、アスーティの周りを走る障害レースについてです・・・」
クリスはその話を聞くことなく近くで子供たちの相手をしてる数人の受付のお兄さん、お姉さんのほうに向かった。
「こっちは、子供も参加できるイベントになりますよ~。
参加したい子供は、こっちに来てね~」
どうやら、ロッシュの言っていたのはこの事らしい。
「あの、質問があるんですけどいいですか?」
「はい、大丈夫だよ~。
何かな~?」
「遺跡に行く度胸試しって、遺跡についたら終わりですか?」
「そうだよ。
でも、途中にはこわ~いモンスターが襲ってきちゃうから気を付けるんだよ?」
そう言って、小さい子供を怖がらせようと手を顔の近くまで持っていって食べようとするジェスチャーをした。
そのジェスチャーに怖がる子供が数人、半べそをかきながら家族にしがみつく子供が何人もいる。
「それだけですか?」
「ん~?
ボク、勇気があるね~。
もちろんそれだけじゃないよ?
遺跡に行くまでは初級コース。
中級コースは遺跡に中に入ってとあるアイテムを持ってくることだよ」
「アイテム?」
「そうだよ。
私たちがある場所に置いてきたお宝を見つけて持って帰ることだよ?」
「・・・上級は?」
「・・・ボク、上級に参加するのかい?」
若干焦った、受付のお兄さんがクリスに聞いてくる。
「まだ決めてないんです。
まず、説明を聞いてからにしようかと」
「・・・ずいぶん賢い子だね、キミ」
とても幼い子供の考え方でないからか、感心しきりの周りの大人たち。
クリスは、目立つのは嫌なのでさっさと説明を促した。
「それで、上級は・・・」
「ああ、そうだね。
上級は中級で置いてきたお宝より更に奥にあるアイテムを取ってくることだよ」
「?、中級と同じ感じですか?」
「そうだよ。
ただし、中級と違って、より奥に行くことになるから、もっと大変になっちゃうからねえ。
それだけでも、十分、肝試しになるんだよ」
「・・・確かに・・・」
「それでボク?
このイベントに参加するかい?」
「・・・うーん」
「ははは、まあ、無理に参加する必要はないよ。
でも、もし参加したくなったら、ここかギルド前で受付してるからぜひ参加してみてね?」
「はい、ありがとうございます」
クリスは中央広場からギルドに向かう間、考えていた。
(うーん、遺跡っていうのは興味が湧く。
日本にいても修学旅行とかでの野外研修以外でそんな場所なんて行かなかったし、普通はよほど興味があるか近場にない限り行く子供なんていないんじゃないかな?
だからこそ、興味はある。
それに異世界の遺跡だ、何かファンタジー感のある歴史が残されているかもしれない。
アイテムは・・・残ってないだろうな。
あの説明からしたらおそらく調べ尽くしていると思うし、何より子供が行く場所にただでさえモンスターと戦う可能性のある場所に危険があったら、イベントなんて開催はしないだろう。
そう考えるとなー・・・・)
クリスにとっては多少興味はあるが、あまりに安全で決められたコースをただ進むだけはちょっと物足りないと考えていた。
それは、矛盾と贅沢な悩みだった。
危険すぎるのは嫌だが、安全すぎる用意された場所にただ行くだけの散歩は嫌だ、というほど良い危険ではない程度の冒険を、クリスは求めてしまっていたからだった。
「・・・うん。
とりあえず、ギルドだな」
クリスは孤児院から借りたカバンに先日狩った、狼のモンスターの毛皮と牙、結晶なんかを入れてギルドに向かっていた。
「あれ?
・・・たしかクリス君だったっけ?」
ギルドの扉から入ってきた子供を見て、受付をしている猫の獣人のミュリーが声をかけてきた。
「あ、どうも。
あの?
素材を買い取ってほしいのですが・・・」
「?なにかしら?」
「はい、これです」
「・・・にゃ!」
ミュリーは目を大きく開け、耳と同じく尻尾をまっすぐ逆立てて驚いた。
「ちょちょちょっ、ちょっとクリス君!
これはどうしたのかな!?」
「はい、この町に来る途中で戦って狩ったものです」
「・・・は?
はあぁーーーっ!」
クリスの言葉に動かなくなるミュリー。
「ちょっと、どうしたのよミュリー。
これから忙しくなってく・・・あら、クリス君いらっしゃい。
どうしたの?
ギルドに何か用事?」
「あ!ローナさん。
はい、この素材を買い取ってほしいのですけど・・・」
「どれかな?」
クリスはカバンの中身を見せ、一番目立つ狼の毛皮を見せるとローナもその場で固まって動かなくなった。
「・・・・・・・」
「・・・あ、あの?」
「・・・・・・・」
「ローナさん?」
「・・・あっ!」
「へ?」
「あ、ううん、ごめんね。
あまりのことに止まっちゃった」
「あの、それで買い取りなんですが」
「そうね!買取ね!
クリス君、こっちで受け付けるから来てくれるかな?」
「はい、わかりました」
「ほら、ミュリー!」
「はっ」
「クリス君に買取の案内するから受け付けお願いね?」
「ロ、ローナ!あの毛皮っ!」
「ミュリー、あまりペラペラしゃべっちゃダメ」
「あ、そうだった。
ごめん、ローナ」
「・・・それじゃあ、受付お願いね?」
「うん、わかった」
クリスはローナの案内で受け付けの脇の部屋の奥に向かう。
「ここが買取所兼解体場ね。
ここでモンスターの買取を行っているのよクリス君」
そこは、ギルドの受付カウンターの部屋の優に2倍はあるんじゃないってくらいの大きさだった。
ギルドの内装はステイメッカの部屋のつくりと同じような感じだったが、この奥の買取部屋はステイメッカでは見ることのなかったクリスは、驚きながらも全体を見渡した。
おそらく、成体になったであろう、ゴブリンと呼ばれる種やラット種、蛇とかトロールっていうものかな?が置かれていて、現在、作業員が解体してる最中だった。
奥にはいくつも山積みになったクリスの見たことのない種類のモンスターが解体待ちで置かれていた。
「凄いですね。
見たことないモンスターばかり・・・」
「・・・まあ、クリス君の年齢で見るとなると、中にはそれだけで危険なモンスターもいるから。
まず町に入ったら、被害が尋常な事になるかもしれない。
・・・あ、でもクリス君、確かステイメッカ出身よね」
「出身ではないと思いますけど、ここに来るまではそこの孤児院でお世話になっていました」
「あ、そうだったの?
・・・まあ、そこに住んでいたらわかると思うんだけど。
ステイメッカのギルド長って知ってるよね」
「はい」
忘れるものか。
薦めた場所に行く道を自分基準で教え、一般が使うには危険が伴うリスクの高い場所を教えられたクリスは、あの野性的でどこかいたずらな要素が含む顔を思い出して苦い顔をした。
「この中には、そのギルド長が認めた高いランクの冒険者しか、倒せないモンスターもいるのよ」
「・・・へー」
返事の中にどうしてもギルド長に事で素直に感心のに抵抗するクリス。
「それぐらいもモンスターがここにはたくさんあるの」
「はー、なるほどー」
「と、そうだった。
・・・それで、クリス君のその素材の鑑定をする、ここの担当リーダーのボイトさんよ?」
「おう、よろしく」
【クリス】3才
レベル 20
HP 128 MP 73
STR 49
VIT 37
INT 40
RES 34
DEX 56
AGI 43
LUK 32




