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転と閃のアイデンティティー  作者: あさくら 正篤
198/473

195 笑う先は誰の為。来たる福は何処を向く・・・?

「うおおりゃあああっ!!」


 ドゴー-ンッ!!


「そこっ!」


 バゴーンッ!!


 大きな爆発、地面を深く抉る様な破壊の痕。現在、東北のどこかにある山にはたくさんの人々が武器を持ち、口が特徴的過ぎる身長が3メートルから5メートル位の異常な存在と・・・。体が真っ黒でシルエットの様にしか見えない、そんなモノ達と激しい争いを繰り広げていた。


「っ!!」


 時折、巻き上がる大きな風に顔を守る見学人。


「岡部っ。茉莉たちの援護を」「了解です」


 岡部と呼ばれた女性とその上司の男性は銃を持ち、戦う人々の間を縫うように巫女服を着た少女達に近づく存在に発砲する。


 パン、パン・・・。


「ギィエアアアッ!!」


 撃たれたモノ達は黒い煙をシュウシュウと上げて倒れ動かなくなった。


「ありがとうございます岡部さん。木下さんも」「君達はそのまま他の者達の援護に回ってくれ」「分かりました。澪奈は右、鏡花は真ん中。私は左を」「分かりました」「はい」


 巫女服の少女たちはそれぞれが戦場のサポートに向かってバラバラに走って行った。


「・・・これが・・・戦い・・・」「気にしなくていい。こんな事は滅多に起きない」「それよりも昂輝君は私達から離れないで」


 少年は誰もかれもが戦場で激しい攻防を繰り広げている現場に気圧されてしまった。木下は少年を元気付けつつ、周囲を警戒していた。


 バシュウウウッ!!


「ギャアアアッ!」


 現在、ドーム状に囲む、半透明な膜にぶつかり、大きく煙を上げて襲来してきた化け物が空から落ちてくる。そこを岡部も発見しすかさず発砲。トリガーを引くとき銃のサイドに白いライン線が浮かび上がる。すると弾に何らかの力が込められているのか、微かに白い光の線を一瞬だけ引き連れて飛んで行く。そして化け物に命中。体の一部が大きく吹き飛び、地面に叩きつけられ起き上がらなくなった。


「くそ~。どんだけいるんだよ~」「つべこべ言わず戦え!」「まだまだゲートから来るぞーっ!」「マジかよ」




 戦闘が開始されてまだ10分も経っていない。しかし、愚痴を零してしまうほど戦っている者達の疲労は早くも溜まっていた。



「はああっ」「ウギャア・・・」「ボアアアッ!」「大丈夫ですか!」「助かる」「ありがとう」「今度、一緒にどこかに」「今は口説いてる場合じゃないでしょ!」


 澪奈が異形モンスターと影のモンスター達を屠りながら支援に回る。元々の可愛さに、戦場を舞う姿が凛々しさと可憐さが加わった事で、一部の男達が口説いてしまっている。仲間の女性に頭を叩かれ、注意される始末だった。この現象は茉莉、鏡花でも似た様な事が起きていた。しかし、逆に考えればまだ、これだけの元気と愚痴が零せる程度には余裕があったのだった。


「ありがとう、助かったわ。ここは私達で何とかするから、申し訳ないけど前線の支援に回ってくれないかしら」「分かりました。ここはお任せします」「ええ。頼んだわね」


 走っていく澪奈の後姿を僅かに見送った後、すぐに別方向から迫りくるモンスター達の掃討に掛かる守護者達。


「・・・(いや、澪奈達なら大丈夫か)」


 一瞬、後方から心配になった木下が前線に向かった澪奈達を心配するが、すぐに思考を切り替えて自分達も向かってくるモンスター達の掃討に掛かる。


 澪奈が前線に走っていくように、鏡花、茉莉もそれぞれのサポートをしつつ前線で戦っている、彰隆達の下へと走っていくのであった。


 戦闘に参加している守護者・・・約200名。・・・内、負傷者18名・・・。モンスターの撃破数・・・現在628体。


 ワームホールからのモンスターは増え続けている。



「とおおお・・・りゃあああっ!」


 ボゴオオオオオンンン・・・!!


「よ~い・・・しょっ!」


 ドガアアアアアアアンンン・・・!!


 大きな土煙とクレーターを作り上げ、翼と來未がモンスターに攻撃を仕掛けた。直接攻撃した者だけではなく周囲にいたモンスターまで巻き込まれていた。


「おいおい、なんだあの嬢ちゃん達」「俺達とは次元が違うだろ」


 あまりの破壊力と派手さに仲間の守護者ですら巻き込まれるのを避け、距離を置いていた。そのため彼女達の周囲30メートル近くには基本、モンスターしか入って来なかった。


「ん~~~っ・・・っと~。快適快適~♪」「あの時よりは、かなり使えてきましたね~?」


 しゃがんだ姿勢からゆっくりと立ち上がり。流れる様に手を上げて、上体を反らす翼。そんな翼の傍へのんびりと肩に大きなハンマーを担ぎ歩み寄っていく來未。


「当然。澪奈達には負けないわよ」「翼ちゃん・・・何匹倒しました~?」「私は・・・確か、巻き込んだので多分75くらいかな?」「やった~。じゃあ私の方が多いんだね~?82体目~」「ウソでしょ!っくぅ~。やっぱハンマーの方がたくさん倒すには向いてるか~・・・」「ふふふ、負けないよ~?」「こっちだって」


 拳に着けたクローブを両手で打ち付けて、まだまだやる気を出す翼。それは來未も同様で軽々とハンマーを振り回して、それぞれの獲物を見つけて動き出そうとしていた。


「ちょ~っと待った~」「「?」」


 遠くから走ってくる彰隆の姿に走り出そうとしていた姿勢を戻す2人。彰隆の後を楓花、佳胡、芳守も走ってきた。そしてそこに少し遅れて茉莉と鏡花、澪奈も向かって来た。


「何~?全員でモンスターの取り合い?」「そんなに心配しなくてもこれだけたくさん」「そうじゃなくて」「「?」」「あなた達があまりに派手な戦いをするものだから誰もフォローに入れないのよ」「必要ないじゃない」「そうですね~。別に魔力切れは起こしていませんが~?」「そういう事じゃねえだろ。こういうどれだけ来るのか分からないときに独断で動きまくると他の者達にも迷惑が掛かるんだよ」「そうですね。申し訳ありませんが古野宮さんと蓮奏さんには、もう少し私達とパーティーを組んで連携していただかないといけません」「「ええ~」」「我が儘言ってもダメ」


 茉莉の言葉にあからさまに嫌がる2人。そこへ芳守と楓花も加わり、強制的に単独行動を抑えることにした。


「翼は俺と楓花さん・・・それと茉莉さんと組んでもらうから、そのつもりで」「・・・」「嫌がってもこれは強制だからな~」「私は社長と來未・・・それと鏡花ちゃんに手伝ってもらいます」「・・・」「媚び売ろうとしてもダメ」


 ちょくちょく彰隆に注意される翼と來未。この空間だけ少しのんびりできているのは、それだけ集まったメンバー達が強いのと。先ほどド派手に暴れ回っていた翼と來未に少しだけ本能的にモンスター達が避けているからであった。


「え?あのアタシは?」「澪奈ちゃんは・・・あっち」


 彰隆は少し離れた所で戦っている凱洞聖錬所の花蘭達を指し示して答えた。


「あっちも花蘭ちゃんが前線で戦っているから何とかなっているけど・・・」「う~ん・・・。他の子達は対応するので限界って感じね」「分かりました」


 状況を理解した澪奈は一目散にサポートに向かった。


「あれ?彰隆は心配じゃないの?」「う~ん・・・。ちょっとだけ美華ちゃん家の神社で、鏡花ちゃんも一緒に新たに目覚めた力を見せてもらったんだよね~。それを見ると・・・まあ、大丈夫じゃないかって」「・・・へ~」「まあ、ウチのこのバカ娘2人に比べればよっぽど安心できるってもんだな」「ちょっとそれはどういう意味よ!」「聞き捨てなりませんよ~?」「何度注意しても勝手に突っ込んでいく子には丁度良い言葉です」「「うう~・・・」」


 不満はあれど事実の為に唸るしか出来ない翼と來未だった。その時、丁度サポートに入れたのか澪奈の碧と翠の光の力でモンスター達が苦しむ声が聞こえてきた。そして花蘭達の前線が安定し始める。


「ほらね?」「・・・」


 これには苦笑して肩を落とす楓花だった。


「(ボソ)なんかあの時よりも安定してない?」「(ボソ)やっぱり陰で絶対、努力していると思ってたんですよ~。澪奈ちゃん。結構負けず嫌いな所がありますし~」「(ボソ)でも私達がこの力を手に入れた事は知らないんじゃ?」「(ボソ)知らなくても、どうにかしようと企んでたりとか~?」「それは君達でしょ?」「「わああっ!!」」


 コソコソ話していた翼と來未にヌッと間に割って入って来た彰隆。驚いた2人は彰隆から離れて文句を垂れる翼と來未。


「ちょっと盗み聞きは良くないんじゃない?」「そうよそうよ~。女性の隠し事は黙って受け入れるもんだっていつも言ってるのに~」「あのね~。澪奈ちゃん達はお前達と違って、誰かを出し抜こうとか考えてないの。そこの部分を間違えない様に」「でも、実際あれは・・・」「あれはちゃんと自分の身に付けた力を確かめて、努力して意識的に出せるようにして出来た結果なの。君達みたいに土壇場でアレコレとはしてないんだよ」「・・・」「言い返せません~」


 行き当たりばったりな行動が目立ってしまう翼達と違い、澪奈は切磋琢磨して身に付いた力に慢心せずに確かめた結果だと言われれば流石に翼達も文句の付けようがなかった。


「はいはい。その話はまたゆっくりと。とにかく今は先にモンスター達を片付けましょう」


 楓花が手を叩き、話は流す。それに追随して佳胡が確認を取る。


「現状、前線にいるのは私達を含めて、おそらく130名ほど。負傷者を除いて100名弱・・・。どうしますか?」「・・・花蘭ちゃん達はこのままココを維持してもらおう。俺達は更に前・・・ゲートの傍に向かう」「危険では?」「ゲートに入らなければ問題ない。むしろこれ以上後ろに後退すれば、戦場は拡がってしまうし・・・。戦いやすいが包囲網に穴が開きやすくなる」「・・・木下さんや岡部さん。・・・昂輝君達にまでたくさん向かうという事ですね?」


 鏡花の答えに頷く彰隆。


「今は良くても、これが一体いつまで続くのか分からない以上。下手に拡大するより押し込む形を取りたい」「だったら私達で」「翼達の力は買うが。それが一点ではちょっと心許ない。もう少し相手をゲートに押し込むようにしたいんだよ」「だから二手ってわけですか」「そういう事」


 茉莉も納得した時には全員も理解できたようだった。


「俺達はこのまま真っ直ぐ」「じゃあ、あたし達は迂回しつつ反対からね」「頼む」


 そう言うと彰隆は特殊警棒に魔力を注ぎ込んで近づいてきたモンスター達に攻撃を仕掛けていくのであった。佳胡は木下達と似た様な銃を持ち出して彰隆のフォローに入った。鏡花もそんな2人に巫術で補助しながら扇と札で不意打ちを狙うモンスターを撃破していく。


「ああ~待って~。私も~」


 ハンマーから大鎌に変えて彰隆の下へと入って行く來未。それを見送った楓花達も比較的拡がって動いているモンスターを倒しながら、反対側でワームホールから出現するモンスターを倒すべく迂回していった。




 ある暗い会議室。


「ん?どういう事だ?」「これが・・・楽しい事なのか?」「・・・まあ、お祭り騒ぎとしちゃあ、悪くはないんじゃない?」「でも~、これ~。私~見た事ないんだけど~」「確かに変なモンスターも混ざっているな」「暴発した次層関連と考えるのが妥当なのかな?」「だと思うぜ。それ以外だと・・・誰かが何かしたかだし・・・」「ふんー・・・。これって勝ってるの?負けてるの?」


 会議室の中央のホログラムにはいくつかの中継の映像がリアルタイムで送られていた。澪奈達が結界を張った様に、他の場所でも同じことが行われ映像をハッキリとは見えない。薄いカバーをずっと被せられている様な映像を見せられている。そんな中、会議に参加した者達のまとめ役の男はある映像を見て喜んでいた。


「勝つにせよ、負けるにせよどちらでも構わんだろう。それよりも、あそことそっちの映像を見て見ろ」「ん?・・・げっ!管理者・・・」「あちゃ~。やっぱ出て来たか~」「蹂躙ね~。1人で一ヶ所のゲートを抑え込んでる」「無茶苦茶だな」「ま、俺様も全力を出せばそれくらい・・・」「私達も出来なくはないだろうが・・・」「あの数をゲートの傍から逃がさないってほとんど化け物よ?」「・・・チッ。これだから管理者は・・・」「まあ、そう拗ねるな」「拗ねてねえよ」


 屈強な男が立ち上がるがまとめ役は手を前に。屈強な男は黙って再び座り直した。椅子が大きく軋む音を上げた。


「他の所を見て見ろ。我らにとって障害となる厄介な奴らを勝手に足止めしてくれているのだ。おまけに居場所も知らせてくれた」「あ、そうか。大体の居場所が判れば・・・」「くくく・・・、そう。こちらも動きやすくなるというものだ。奴らの厄介な所は神出鬼没に現れる側面が強い事。ただし居場所がバレればこちらも対策や方法を練り易い。最悪、こちらも支配側として、あの方の従者をお借りする事も・・・」「なるほどな」「ま、それは助かる話なんだけど~・・・。私の気のせいかな?」


 少女の様な姿の椅子にトップの1人が指を指す。それに釣られるように他のトップもその映像を見る。ホログラムの中に、注目されている識別があるかの様に似た映像と共にピックアップされ、拡大化されて表示された。


「あれ、明らかに負けてるよね?それにたくさんあった映像の中でかなり見え辛いし・・・」「「「んー・・・」」」


 何人かのトップが腕を組み唸りだす。それは巫女服姿の少女達が戦う映像だった。かなり映像が荒く、判別できない部分が多分に含まれているが、激しい戦いの様子はココに集まるトップ達にはしっかりと見えていた。


「他の映像もそうだが。なかなか骨のある者達がいる様だな」「ねえ?あの映像ってどこ~?」「ん~?・・・そうね~。確かあの特徴的な服装は・・・確か極東・・・。日本だったかしら?・・・そこの神を奉る人達があんな衣装を着るとか・・・」「日本・・・」


 少女がその言葉に椅子の背もたれに倒れ込んで腕を組み考え出す。少し離れた位置に座っていた女性が少女の変化に気付いた。


「?・・・どうかしましたか?」「いや・・・うん。部下の1人をそこでちょっと実験に行かせただけど・・・。返事が来なくって・・・」「まさか、殺られたと?」「まさか・・・。部下の1人だけど、実力はそこそこよ?映像に移っている連中が束になっても勝てると思うし・・・」「ですが」「たぶんどっかにふらっと遊びに行ったんでしょ。最後に連絡をしてくれた時。大体の事は済ませてたから、好きな時に切り上げていいよ?って言っちゃったし」「・・・そうですか」


 再び映像をチェックする裏のトップ達。


「しかしよ~?俺様が聞いた話じゃ。日本はもう全体的に弱り切っていて、戦える実力者が限られているって話なんだが?」「?・・・そんな感じには、見えないね~」「(コクリ)むしろ、少しだけやるような奴がチラホラ・・・」


 話を受け、まとめ役の男も手の上に顎を乗せ、思案する。全てが輪郭しか見えないシルエットだが全員の身振り手振りは分かる。


「我々の情報と食い違いがあるのかもしれん・・・。向こうの協力者はこの事を?」「・・・いえ。おそらく把握していないかと・・・。あちらの組織も一枚岩ではもちろんありませんし、協力者に伝えていない事も多くあるのでしょう」


 男は後ろに控えた女性に振り向き確認を取って納得した。


「つまり、こちらの知らない事が・・・結果として今この映像に・・・」「そういう意味では確かに俺達にとって良い情報の宝庫だな」「しかし、あの程度のモンスター共に苦戦する様なら・・・。大した実力も期待出来ないだろう。やっぱ数人ぐらいってとこか」「そういえば他の国は?」


 ずっと日本の映像に気を捕らわれていたトップ達は他の映像を確認する。


「・・・似た様な所だが。・・・コッチはぜ~んぜんダメ。ほとんどワンマン」


 しかし、先に見ていた者が口を挟んで答えた。


「・・・すべてのゲートの映像をキャッチしたわけではないから、なんともな~」「たまたま映像を掴めたモノがワンマンばかりで倒せる強者ばかり・・・」「あっ!・・・くそ。コッチの映像を感知した奴が妨害しやがった」「こっちもおんなじだ。観測手でも配置してんのか?」


 更に他の映像も画面が荒くなり砂嵐になってしまった。


「あ~あ、日本のもダメになっちゃったか~。もうちょっと知りたかったのにー」「ふふふ、焦らないの。まだ映像が残っているので我慢しましょ?」「・・・しかし、他の映像を見て見ると全体的にはモンスター共が勝っているように感じたが・・・?」


 冷静に砂嵐から先ほどの無数になった映像群に戻ったものを見ていた女性が指先を顎に添えて呟いた。


「きっと戦況的に今は押せている所だからじゃねえか?他の所はそうでもない感じだし・・・」


 戦況は一進一退。似た様な状況に陥っている所がほとんどだった。


「どちらも数がある分、まだ戦えているが。このままモンスター共が増え続ければ一気に傾くかもな」「ほほ~。それはそれは楽しい殺戮ショウになりそうな予感」


 トップ達は椅子にもたれ掛かってゆっくりと高みの見物を決め込もうかと思っていた。


「と、そうだった・・・。それで?問題の協力者の方は?」


 まとめ役の男が控えていた女性に振り返り確認を取った事で、今回の集まりを思い出したトップ達。女性は立ち上がって、集まった全員に伝える。


「はい。現在、分かっているだけで主に25人・・・。後々、増えるかもしれませんが。その方達が世界各地で既に動き出しています」「世界中で何をしようって言うのかしら~?」「・・・変な言い方をするかもしれませんが・・・。おそらくは勧誘かと・・・」「はあ~?勧誘?」「ねえ。それってさ~?俺達の存在バラすって事?」「・・・そこまでは何とも・・・。ただ向こうもバカではないでしょう。それとなく宣伝をするのでは・・・」「どうやって?私達は裏で生きているのよ?それこそ私達の所在でも・・・」「・・・」「・・・そこが問題なのです・・・」




「首相!どうかご再考を!今こそ好機なのです!我々が動くべきであって、あの様なおかしな連中にばかり予算をつぎ込むなど」「分かっているが。今の状況を君は理解しているのか?もしここでモンスター共をくい止めねば、被害がどのように」「それこそ我らにお任せください。軍としての力で民衆に安心をアピールできるチャンスです」「・・・しかし」


 ある国では首相と軍のお偉方による話し合いが行われていた。それは事情を理解しても、明らかに専門外な者達にとっては、湯水のように予算を使いまくる迷惑な存在として映ってしまっていた。


「まあまあ、そう熱くならないで。少しヒートアップしすぎています。水でも飲んで少し冷静に」「では、我らの部隊を一部、向こうに送らせていただきます。もしそのモンスター共を殲滅、出来た暁には・・・先ほどの件、よろしくお願いします」「待ってください、まだ話は」


 軍の数人が敬礼をして去って行く。


「・・・君も止めてくれれば」「申し訳ありません首相。彼等の言い分も理解できますので」「しかし君は」「ええ、分かっております。おそらくこちらの被害が大きくなるでしょう」「それを分かって何故?」「そこでご提案があります。引退した身ですので向こうの軍にはあまり口出し出来ませんが・・・。ちょっとした戦力をお貸しいただける知り合いがおりまして・・・」「なに?」


 男は口元をほくそ笑むだけに留め。自分の首相に耳打ちを始めた。


「この国にとっても悪くない話ではありますよ?ただ軍の連中は拒否してしまうかもしれませんが・・・」「・・・あくまで、参考の1つとして聞こう」「分かりました。(ふふふふふ・・・。よし、これで私にも強いパイプが・・・)」


 首相と周囲にいた者達は男の話を黙って聞いていた。そして約半数以上がその提案にすぐに賛成へと傾くのであった。



「このような神聖な祝いの席に参加できた事、皆様に感謝いたします。そしてあちらにいらっしゃる私をおよびいただいた列席者の方々にも」


 ヒュ~~♪パチパチパチパチ・・・。


 とある国の昼間。ここでは現在、地元で行われているお祭りでたくさんの人がひしめき合っていた。大通りにはほとんどの人で埋まり。女性は台に乗って複数も設置されたマイクの前で遠くへ聞かせるためにスピーチをしていた。


「ここ最近の世界で起きる異常事態。最近だと世界中で同時に起きたオーロラ。皆さんの中にも直接目撃された方もたくさんおられるでしょう。中にはニュースを見て不安にされた方もいるでしょう。・・・ですが蓋を開けてみれば、確かに気になる現象ではありましたが。私達がそれで大きく生活を脅かされるという事はありませんでした。今回のこの大切なお祭りも無事、例年通り開催する事が出来た事は大変喜ばしいことです」


 地元の者達にとってはとても大切な事の為に、女性の言葉には甚く共感していた。中には拍手する者達の姿もいた。


「ありがとう。永い歴史の中で皆様が作り上げてきた盛大なお祝いを、この大切なお祭りのひと時を、皆様と一緒に楽しみたいと思います」


 拍手と口笛の嵐が巻き起こる。そしてそこで女性は語りだした。


「あ、それと・・・。それでも、もし皆様の中に何か不安な事があるのでしたら・・・。私の知り合いをご紹介させていただきます。きっと皆さまの不安を取り除いてくれる協力者になって頂けますよ?それでは皆様。良いお祭りを」


 盛大な拍手の中、手を振って台を下りていく女性。そして参列者の席へ。


「ありがとうございます。参加してくれた皆さんもきっと楽しいイベントにしてくれますよ」「ええ、そうなって頂ける事を私も願っています」「ははははは・・・。それで・・・先ほどの話なのですが?」「・・・興味がおありで?」「ええ実は・・・」「私も是非その話を」「いや、それならもう一度。今行われている祝いのダンスの後にでも・・・」「・・・宜しいのでしょうか?」


 列席者に戻った女性を取り囲むように参加者が次々と話しかけてくる。そして持ち掛けられた話に困り、最高責任者の男性の方へと確認を伺う。


「構いませんとも・・・。この祭りは大切な行事。このような催しでの縁もまた大切なモノ。きっとあなたがそれを話される機会もきっと神様が用意してくださった思し召しでしょう」「・・・分かりました。では、後ほど」


 会釈をして微笑む女性の顔はとても自然で優しい笑顔に見えた。本当の貌とは裏腹に・・・。




「やっぱり、ココに来てくれたのは宣伝のためですよね?」「ちょっと直球過ぎないかい?」「いやいや、主演の映画の続編。私も凄く楽しみでしたので・・・。本当はもう少しそこについて掘り下げるべきかと思うのと、別にちょっと気持ちが・・・」「おいおい、そこはMCとしてしっかりと進行してくれよ」「本当ですよ。私がサポートしないといけないじゃないですか」「それが本来のポジションだろ」


 軽快なトーク。生放送の番組でハリウッド達を見に来た観客の笑い声がテレビに伝わるほど入ってくる。とても楽しそうな番組だった。


「あっはははは・・・。でもこの人。いきなりその作品の続投をOKしたのよ?」「それはそうだよ。この話は監督自ら僕に聞いてきたんだよ?君がやるなら続編の脚本作り直すけど?って。そこまでして出てきて欲しいって言ってくれるのなら・・・是非とも出演させてもらいたいさ」


 隣に座る同じく続投でヒロイン役に抜擢された女優の話に間髪入れずに軽快に返すハリウッド俳優。そこには長年の付き合いがある様な雰囲気が見ていた観客にも伝わるくらいの仲の良さだった。


「え~と、今作で第3弾という事なんですけど・・・。監督としてはあまり乗り気じゃなかったとか?」「いや、そんな事はないけど・・・」「監督は別の作品も手掛けるつもりだったの。その時、たまたま映画会社から続編を作らないかと話を持ち掛けられて、急に決まったもんだからスケジュールが大変になって・・・。自分でも作品の続編は作りたかったけど。もう次はないだろうって思ってたから諦めてたのよ」「ああ~・・・確かに。主人公がどうのって・・・。これ以上言ってはネタバレですね」「本当ですよ。それで、今回お2人としてはどんな気持ちで作品に挑まれたのですか?」


 アシスタントのアナウンサーからの質問に腕を組み楽しそうに考えるハリウッドスター達。


「そうだね~・・・。前回、監督は作品の世界観を掘り下げるために内へと向かう方向で話を持って行ったのに対して、今回は全体的に一気に拡げようって話になったんだよ。まあ結果w・・・。僕は楽しかったけど彼女がw」「ホント酷い話よね」「え?何ですか?」「彼女にも肉体的にもっと張ってもらうと急に言い出して。高い所から放り出されたりしたんだ・・・。もちろん安全は確保してるんだけどね?」「私、危険な所は流石にちょっと躊躇ってしまうから、場合によってはスタントの方に手伝ってもらってたのよ。そしたら``君のそのリアリティはCGでは誤魔化せないから行って``って私の腰にハーネスを回し始めたの」「ははははは」「笑い事じゃないわ」「おかげで吹っ切れたじゃないか」「ホントおかしいわよ」「「「はははははは」」」


 その時の光景を見ていたのだろうハリウッド俳優が身振り手振りに表情を乗せて言うものだから、その場にいた者達に笑いが起きた。女優も満更嫌な気分ではなく笑顔でずっと返していたのでいい思い出なんだと皆が勝手に判断していた。


「いや~、私はそういうのは・・・」「あれ?でも他の番組では」「あれは皆さんがやってくれって言うからですよ。それに一応安全は取ってますし」


 そう言っているアシスタントのアナウンサーの女性にスッと手を伸ばしてくるハリウッド女優。


「いらっしゃい。私と同じ世界へ」「いえ、私アナウンサーですから!」「「「ははははは」」」


 終始、番組は笑いが溢れるアットホームな感じに進んでいった。・・・そして、番組のコーナーに送られた手紙をハリウッドスター達が回答していく企画にある話が出てくる。


「・・・テキサス州に住むケイトリンちゃん9才からの質問です」「ありがとう」「どんな質問?」「私は先日、お父さん達に起こされてオーロラを見ました。私はとてもキレイに感じたのですが、世界中ではそうでもないみたいな話があり、クラスの中でも話が割れちゃいました。あのオーロラで不安に感じた人にどうすれば心配ないって伝えることが出来ますか?」「なるほど~」「ふ~ん」


 ハリウッドスター達は何度か頷き。少しだけ考える。


「ああー。確かに話題にはなってますね~」「アナウンサーとしてはどうなのかな?」「え?私ですか?・・・ちょっと難しいコメントですね~」「僕としては、悪い事ではないと思うよ?このケイトリンちゃんのクラスメイトの子は・・・おそらく被害遭われた方の話をネットで知っちゃって共感をしてしまったんだろうね」「私も同意見かな?たぶん異常事態って話になると急にどうしても不安を外に拡散してしまう人は少なからずいるものね」「ほー。お2人は問題なしと・・・。何か理由でも?」「まず言えるのは・・・。この世界で不思議な事は何時だって起こりうる。・・・ただ、その異変が起きた時に自分の中でちゃんとその対策がとれているか。または不安になった時に、これだけはしておこうと決めているものがあるかだね。僕だって急に何か分からないものに襲われれば不安になってしまうよ」「では・・・その対策を?」「もちろんプランとして立ててたりするよ。僕達の仕事は危険と隣り合わせ立ったりするからね?」「(ボソ)主にアクションで」


 ほとんど声に出さず女優がカメラと客に向かって口パクで俳優を見えない位置から指で指し示し説明する。周りからはくすくすと笑い声が・・・。


「だからこの子にもそういう何かを持っていることをお勧めするかな?」「具体的には?」「・・・。僕はある会社にもしもの時は助けてもらうように頼んでいるんだよ」「保険会社・・・とか?」「その様なものだね。まあ、そういうのもあって僕の中での不安はあまりないかな?」「へ~・・・何ですか?」


 何の気なしにMCは聞いてしまう。それに対しいつものスマイルで俳優は口を開こうとした。また女優も知っているのかその顔には明らかな余裕の様なモノがあった。


 その瞬間は偶然なのか。・・・ある種の必然だったのか・・・。ほぼ同じタイミングで語る退役した元軍人。セレモニーに参加した政治家。ハリウッドスター達・・・。世界中でそれは全く同じと言えるものだった。


 語る者達の貌はとても笑顔であり、そしてとても危険だった。


 ・・・・・・ある組織の名を語ろうとした瞬間。


 ガリガリガリ・・・ギギギィ・・・。ガピッ。ギュリイイイイイ――――ン!!


「アアアオウ!」「ホワッ!!」


 出演者の耳に着けられたイヤホンから異音が突然、大きな音で響き、慌てて離した。ハリウッドスター達も会場にいる観客達も全員が突然響いた怪音に耳を塞いでしまう。そして・・・。


 バツン!!


「え?」「なんですか?停電?」


 一瞬の小さな驚きの後、観客達の中でちょっとした騒ぎが発生する。慌ててスタッフが懐中電灯を持って走り出し、忙しなくなってしまった。



 ガガガッ・・・キイイイイイ~~~ン・・・!!


「(これは)」


 同じくセレモニーで再び台に立って話をしている最中だった女性に向けられていたマイク群から奇怪音が鳴り響く。ここでも参加者達が思わず耳を塞いでしまうほどのボリュームだった。そしてすぐさま女性は控えていた秘書やSPに連れられて登板を退出する事になった。



 元軍人では打ち明けるタイミングで突然電話と外からの強いノック音が・・・。せっかくのタイミングを奪われてしまった。


「・・・なに?それは本当か?!」「はい。今、問題のゲートは徐々に少なくなっているそうです。どうやら抑え込むことに成功しつつあるとの報告をウチの組織が・・・」「よくやってくれた。それで大勢を派遣した場所の報告は」「現在、その内と外には隔絶した結界が張られている為連絡が取れません。が、結界が張られているという事は」「・・・よし。それで?」「はっ。外務大臣からの報告と参謀本部からの出撃要請が出ています」「もう少し待て。今はまだその時ではない」「・・・」「他になんだ?」「実は・・・首相夫人から・・・」「・・・しまった。これからの会議についてを検討してもらっているんだった。分かったすぐに向かうと伝えておいてくれ」「はっ」


 首相と言われた男は振り返り、元軍人に謝罪の言葉を述べるとすぐにボディーガードを連れて部屋を出て行くのだった。


「・・・・・・~~~っ!」


 たった1人残った男の盛大にテーブルと叩く音だけが部屋に響き渡った。




「・・・美華?」


 神社の中でも奥にある特殊結界の内側で、スッと立ち上がり片手を上げたままの明らかに顔つきが違う美華に秋夜はつい問いかけてしまった。


「安心してください。この者の体を少しだけお借りしただけです」


 そして帰って来た言葉には明らかな雰囲気の違いを感じた。一瞬、この状況に危機感を抱いてしまう秋夜だが・・・すぐにその意識をどこかへと追いやった。そんな秋夜を安心させるような慈愛に満ちた顔。・・・そこからゆっくりと悲しそうにする顔になる美華。


「ありがとう・・・。そしてごめんなさい。私達が干渉できるのはここまでです」「美華っ!」


 急に力が抜け倒れ込んでしまう所を急いで抱き留めた秋夜はゆっくりと仰向けに寝かせた。しかし、すぐに目を覚ました美華は飛び跳ねる様に起き上がった。


「ぬうおあっ!・・・えっ?ええっ?何?!」「・・・ホッ」「いや、そこでほっとしないで!」


 驚いてキョロキョロ振り返りまくる美華。しかし、そんな美華らしさが戻った秋夜にとっては、先ほどの瞬間に起きた緊張感と焦りに比べれば、どれだけ安心できるかというものであった。


 美華を介して何かが起きた様に。それは世界の巫女(神子)達を介しても同じ現象が起きた。


 世界が何かを止めた瞬間だった。







【十時影 純 (クリス)】15才 人間・・・かな~?(進化)

 レベル 38

 HP 724 MP 813

 STR 356

 VIT 301

 INT 393

 RES 334

 DEX 451

 AGI 428

 LUK 73

『マナ(情報体):レベル 9 』『波鋼:レベル 8 』『質量拡充:レベル 5 』

『魔法:水、風 』

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