18 称号って・・・いい加減?
「あっ、そういえばローナ。
明日からの参加者のほうなんだけど大丈夫なのか?
今日までの人の数からすると・・・」
「そうなのよ。
毎年のことだけど、今年は去年の2倍は来るかもしれないわ」
「・・・ふぅ、毎度思うけどすさまじいね。
参加者は冒険者だけじゃないだろ?」
「そう!
だからね、もしかしたら・・・明日から残業になるかもしれない」
今年のお祭りの参加者への対応にローナはすでに辟易しているようだった。
「ははは、まあ、おかげで街にモンスターの被害がないのだからいいじゃないか」
「モンスターの代わりに、酔った血の気が多い人が暴れるんだから、変わんないわ!」
(確かに、ある意味モンスターだな・・・)
そんなことを思うクリスだった。
「はははははは」
「笑い事じゃないのロッシュ。
・・・んもう。
・・・まあ、その代わり騎士団たちも来てくれるから、大きな問題にはならないけど」
「騎士団?」
「そうよクリス君。
なんたってここは、他国の中継地点。
いろんな人達が集まる場所だから、当然、王都から騎士団が来るのよ。
それに、他国からも騎士団が来るわ。
こんな、大きなイベントだと、自然と人も規模も大きくなってくる。
中には、貴族の方やお忍びで王族の方まで来るのだから、護衛の数も尋常ではないくらいになるんだから」
「はあ~」
「まあ、そのために警備も普段より一段も二段も強化されているから、町で大きな問題は起こらないんだけど。
その代わり、小さないざこざはもはや通例になっているんだけどね・・・」
ロッシュは肩を落とすアクションで苦笑を表現した。
「仕方ないんだけどね・・・」
「どうして?」
「ああ、そっか。
・・・クリス君、中継点のこのアスーティでセンリュウ祭が行われるってことは他国からも観光が来るってことよね?」
「はい・・・さっき言ってましたね」
「当然、それには向こうの国からもお偉いさんが来るってことよね?」
「まあ、そうなりますね。
・・・ああ、そういうことか」
「クリス君、まだ小さいのに賢いのね。
そう。
つまり向こうの貴族や王族も来るってことよ。
だから、自然と安全が保障できるようにしなければならないの。
だから、こちらの国からも騎士団が派遣されるの」
ローナの説明に納得するクリス。
まあ、それも当たり前で、わざわざ遠くからお偉いさんが来て、何か向こう、もしくはこちらから問題が起こる、あるいは巻き込まれたりしたら、外交問題に発展してしまう可能性もある。
下手をすれば、戦争だってあり得るわけだ。
(しかし、そんな中で、こんな大きな町でイベントが行われ、安全保障って・・・。
・・・無理じゃね?)
表情には出さず、心の中で益体のないことを考えてしまうクリス。
大きなイベントに問題は付き物。
そもそも、問題が起きずに終わったらそれこそ、奇跡といっても不思議じゃないかもしれない。
だからこそ、大きな問題に対処する代わりに、些細なものは無視されているのが現状。
だからこそのクリスの意味の届かないツッコミだった。
「それにしても今年は、すごいことになってるね」
「ふふ、そうよ。
なんたって、今年は勇者一行が来ることになってるんだから」
「勇者・・・」
「へぇ~、だから今年は多いのかい」
「そうよ~。
勇者、見たさもあるから当然こんなに人が集まったの」
「あの、どんな人なんですか?」
「?クリス君、勇者を知らないのかい?」
「いえ、勇者の誕生は知っているんですが・・・」
「ああ、ここに来る勇者ね?
なんでも、今年勇者になったばかりの人だそうだわ!」
「勇者になった?」
「そうよ。ここメルファーテ国から遠く離れた国のアロンクリッテ国から国が選んだ勇者だそうだわ」
「へ~」
「勇者になった決め手は何なんだい?」
「さあ?
私も詳しくは知らないけど。
ああ、そうだった。
確かギルドに来た冒険者が言ってたっけ・・・。
アロンクリッテにある凶悪なダンジョンを制覇し生きて帰ってきたらしいわ」
「そういうことか。
国が認めるダンジョンに挑めるだけでもすごいのに攻略し・・・制覇か。
それはすごい冒険者だね」
「・・・国が認めるダンジョンってそんなに危険なんですか?」
「う~ん、ものによるかな。
難易度が別にモンスターだけとは限らないし。
解かないと次に進めないようなギミック的なのだったりするから・・・基準は決められないかな?」
(なるほどねぇ。
つまり、そもそもの場所だったり、ダンジョン内がどういう風になっているかが伝わってない、もしくは、理解ができないっものになっていたりするからか)
「それでも凶悪ってことは・・・」
「うん、おそらくモンスターかそもそも攻略が難しく命の危険が高い、と国が認めたからだね。
そのダンジョンを攻略してしまったのなら、それだけでも一目見たい、という人がたくさん来るだろうね。
しかし、それだけすごいことをしたのに今まで聞かなかったのはなんでかな?」
クリスとロッシュは、世界中から情報を集まる、ギルドという組織に入っているローナに顔を向け、話を振った。
「う~ん、さすがに私も知らないかな。
多分だけど、それを知っている人かアロンクリッテの国が公表するために、情報を伏せていたのかもしれないわね。
で、最近になって情報が入ってきたんじゃないかしら?」
「・・・まあ、それが妥当だね」
「?どういうこと?」
「いいかいクリス君。
凶悪なダンジョンを攻略できる人は・・・誰もが欲しがる。
だって、そんな力があるなら国にとっては力・・・戦力になるからだ。
そんな人を、攻略してすぐに周りに知られてしまえば、他国からも引き入れようとこぞって取り合いになる。
それこそ、下手したら、勇者のために戦争を考える輩だって現れる」
「そんな馬鹿な」
「・・・ふぅん。
バカバカしいって思うだろ?
それでも、そのバカバカしいこと起こした歴史が過去にあったんだよ・・・」
「・・・」
絶句し、ローナに顔を向けると、何度もうなずいてロッシュな話に賛同した。
(そんな・・・バカな・・・)
再度クリスは心の中で同じことを言ってしまった。
「クリス君。
英雄と勇者は別枠だと知っているよね?」
「・・・はい。
英雄は、自身の行動、実力によって。
勇者はその功績も含まれて選ばれますが、大抵は英雄のような強さとは別の枠・・・運命といえるような巡りあわせによって、いずれ勇者になることが多いと」
「・・・そう。
初めから称号などを生まれ持ってくる子とかね。
他にも勇者専用なのではないかと思われるものとか、ね。
勇者とは、覚醒するタイミングこそ違えど・・・必ず、その運命を引き寄せる何かがあるといわれている。
ま、だからこそ、英雄として上り詰めた人から勇者に選ばれた人もいるんだけど・・・」
「う~ん、でも勇者って結構いい加減で決められることもあるじゃない?
それこそ、今回だって、たまたま選ばれたということもあり得るわよ?
だって、勇者って国とか教会とかが決めたりできるんだから」
「うん。
だから僕が言いたいのは、その勇者の中に本物がいる場合についてを考えているんだよ。
もし本物だった場合、それは何かが近々起こるってことだからね。
もちろんすぐではないけど、勇者じゃないと対抗できない最悪だった場合に備えてかもしれない。
本物かどうかは別にしても貴重な戦力なのは変わらない」
「だから、囲い込むために情報を・・・」
「うん・・・おそらくそうだろう」
何とも勇者っていうのは冒険心にあふれる自由のない生き方なのか・・・。
自分のためにはできても、見ず知らずのために命を張り続けなきゃならないというのはクリスには苦しい生き方に見えてしまう、嫌な宿命に思えた。
「ま、勇者という証は今も支持するもの声は強いが、おそらく、それほど悲観するほどじゃないだろう」
「へ?」
クリスの顰めてしまった顔を見てロッシュが補足した。
「今回は国が認めたけど、結構自称、何々という名は割といてね。
勇者を名乗る人も少ないながらもいるんだよ。
まあ、勇者を名乗るからには国が頼む要請に受けなきゃならないこともあったりするから、そうそう名乗りたがらないものだが・・・。
もし名乗ってしまったら、どんな目に合うか・・・。
世間を知っていれば、まず名乗らない」
「勇者の大安売り」
「ふふふ、そのとおりね」
ロッシュの説明に、クリスがつぶやいた言葉を聞いたローナが笑って答えた。
「ま、ともかく、今年来る勇者がどんな人なのか楽しみだよ」
「ええ、そうね」
楽しむ2人とは別に、クリスは少し深刻に考えていた勇者という証のあまりにいい加減なことに呆れていた。
「・・・見つけた。
ココね」
「はい、姫様・・・」
「ラーナ、大丈夫?
少し休憩したほうがいいんじゃない?」
「ううん、サーニャ。
大丈夫だから、早く行きましょ?」
「・・・」
深夜、とある場所
「ここが、かつて残した遺跡ね。
そこに行けば・・・」
「はい、姫様はお認めになられ、他の者から、ちょっかいをかけられなくなります」
「そうすれば、お父様もお母様も、それに国のみんなも・・・」
「そうよ。
誰も私達には簡単に手出しできない」
「では、参りましょう。
ここからはより慎重に進みましょう。
おそらくまだ、罠や仕掛けが残っている可能性も十分に考えられます。
何日掛かるかわかりませんから」
「わかったわ、ダルト。
サーニャも準備はいい?」
「ええ、大丈夫よ」
「・・・それじゃあ、行きましょう」
暗い森の中、自然のできた岩と崖に、不自然にあとから作られた、大きな扉に手をかけた3人の姿が奥へと消えていった。
「うっ、う~ん!」
朝の陽ざしがカーテン隙間から射し、クリスは目を覚まし背伸びをした。
コンコン。
ノックをした後、ローナが部屋に入ってきた。
「あら、クリス君おはよう。
しっかり自分で起きられたのね」
「おはようございますローナさん」
「はい、おはよう。
それじゃあ、着替えが終わったら降りてきてね?
朝の用意はできてるから」
ローナは伝え終わるとすぐにクリスの部屋を出て行ってほかの部屋で寝ている子供たちを起こしに行った。
クリスも着替えて朝食へと向かった。
その後、ローナは朝食を食べるとすぐにギルドに仕事に向かった。
昨日、来客数が増えてくるために残業が増えるだろうと予測され、朝早くから出勤となった。
といっても日の出前からギルドに行って仕事が掲示板に張られるのを待っている、冒険者も割と多くいるので、それを考えると少し遅めの出勤になるらしいが。
それでも、ローナの仕事ぶりにはギルドも頼りにしているくらいだから、このくらいの時間出勤は許されているんだろう。
おそらく、孤児院のことも考慮してるからだろう。
「クリス君。
君はこれからどうするんだい?」
ロッシュに聞かれクリスはとりあえず考える。
「う~ん。
昨日始めてきたから、町を散策してそれからギルドで何かないか調べようかな?」
「だったら、一度、中央広場を見てくるといいよ。
いろんな品物がたくさん見れるからね。
それに、おそらく今年のスタンピードイベントの説明と賞品などが分かるはずだよ?」
「・・・?」
「スタンピードイベントは何も大人だけが参加というわけじゃないんだ。
子供でも、参加できるんだよ?」
「???。
なぜですか?」
「スタンピードは大勢が参加するけど、それはあくまで、本格的な攻略や討伐戦だけ。
それ以外の町の目印を探しても探索遊びとか。
町の中を一周する子供用レースとか、遺跡に行って帰ってくる・・・ある意味肝試しとか。
いろいろあると思うし、一度説明を聞きに行ってみるといいよ」
(目印探しは・・・アドベンチャーで、この町のことをより知ってもらうためかな?
子供用レースはそのままか、外でやったり、大人と混じったらケガするからだろう。
しかし、だったら・・・)
「あの?
・・・遺跡に肝試しは?」
「ん?
ああ、それはね、文字通り町の外に出てある遺跡に行くことなんだよ。
この町の外に行くんだから多少はモンスターだったりが出るんだよ。
あ、でも安心してね。
この遺跡までの道は比較的、幼体モンスターしかいないから。
それに、万が一を兼ねて定期的に一部の冒険者や騎士団が配置して見張ってるし、巡回もするから安全なんだよ。
もちろん、行ってる間の道中は見つからないように隠れているから、どこからモンスターが襲ってくるかわからない。
危険なモンスターは先に排除されているから遺跡に向かったらあとは帰ってくるだけ。
・・・しかし、いつ向かってくるかわからないモンスターに備えながら遺跡に向かうんだから文字通り、度胸が試されるわけだよ」
「どうやって遺跡にたどり着いたってわかるの?」
「・・・ここからは、是非、中央広場で聞いてみてくれ。
お楽しみはそこで」
・・・まあ、それもそうか。
クリスはさっそく、中央広場に向かって孤児院を出て行った。
【クリス】3才
レベル 20
HP 128 MP 73
STR 49
VIT 37
INT 40
RES 34
DEX 56
AGI 43
LUK 32




