181 大誤算でした。・・・やばい
〔あの子供はどうやら自分の住処に帰ったようです〕「場所はっ・・・?!」〔ご安心を既に把握済みです〕「じゃあ、これでっ!」〔はい。ここにいるモンスターは掃討完了です〕「後は?」〔後残り3ヵ所です。そうすれば〕「そのアジトって事か・・・」〔はい。急ぎましょう〕
・・・・・・
「(義姉さん達をサンプルだと・・・)」〔純、冷静に〕
一瞬、純の視界が赤く染まりそうになる。目の前にある相手以外目が入らなくなりそうだった。しかし・・・その瞬間。涙を流している義姉達の姿が思い浮かんだ。ただの復讐心だけに駆られて動いても、自分にとって良いことにはならない。そう直感した純はゆっくりと殺意を引っ込めていく。
「はっ、どうした?怖気づいたか?!」「あんたは倒す。・・・そうしないといけない気がする・・・」「言ってろ、小僧が!」
子供は純に向かって黒い爪を突き刺そうと飛び掛かった。純はすかさず双剣でガード、片方で受け、もう片方で横から子供を切り裂こうとした。
「っ!・・・と~。なかなか反応速度が良いようじゃないか・・・。貴様・・・ただの人間か・・・?」「どういう事?」「お前さんからは魔力というものが・・・まあ、私らの基準でだが。そういうモノをこれといって感じない。先ほどの刺すような威圧は何だったのか気になってな~?」「魔力・・・」〔おそらくマナに対する別の言い方や解釈でしょう。この世界の住人にはマナという情報達を明確に感知、コントロールする術を持ち合わせてはいないでしょうから〕「(そういう事か・・・。でも何で俺のマナが・・・?)」〔そもそも純のマナは濃度が高すぎます。容量も莫大な為、私の方でコントロールして外に漏れないようにしています。純も普段、外に出さない様に気を付けているでしょう?〕「(う、うん)」〔その影響で、向こうからすれば上手く純の持っているマナの総量が量れないのだと思います〕「(つまり?)」〔見た目や微かに感じるナニかから判断するしかない状況に相手は立たされているのです〕「(なるほど)」「無視しないでくれるか、なっ」「っ!」
沈黙を無視と判断されたのか苛立ちを覚え攻撃を仕掛けてくる子供。さらに子供の攻撃は続く。
ガキガキガキガキ・・・・・・。
高速で繰り出されるがそれを上手く弾き、払い、反撃して立ち回る純。・・・しかし。
「(マズい、このままじゃ)」〔純、あちらを・・・!〕「っ!」「戦闘中によそ見とはずいぶん舐めてくれるねーっ・・・!」
一層激しさを増す爪の攻撃。建物がどんどんと罅割れ切り裂かれていく。大きな亀裂が入る度にどこかで落盤の様な音が響く。遥か地下深くにいるという認識を忘れているんじゃないかと疑ってしまう純。
「はっ。申し訳ないけどね。僕はこの程度の地盤では死なないんだよ!っ!」「ぐっ・・・!」
弾き飛ばされ壊れ始めた研究室を滑っていく純。子供との距離は30メートルも離されてしまった。そんな純に遠くから声が掛かる。
「表情に出過ぎなんだよお兄ちゃん。君は戦闘経験に関しては素人なのかな?」「・・・」「プフッ、アッハッハッハッハッハ・・・。黙っちゃダメだよ?それじゃあ認めてるも同じだよぉ」「(だったらどうすればいいんだよ)」「そんなの経験で流すしかないよ。もしくは適当に話をして誤魔化したり」「っ!」「ふふふ。表情に出ているよ?よくそんなのでここまで強くなれたもんだよ。ハッタリを利かせるのも実力の内だよ」〔遊ばれていますね〕「(ぐうぅ)」
何とも言い返せず心の中で、打ちひしがれる純。しかし目線は下げず。戦闘態勢を解くこともなかった。
「(へ~・・・。口上による経験は浅いようだけど。戦闘自体はそれなりに積んでいるのかな?)」
ニヤつく視線で目の前に立つ純を見て、そう評価を下す子供。自分の体の変化を確かめつつ、内から溢れてくる魔力に自身がどこまで戦えるのかを楽しんでいる様子だった。
〔フム・・・。あの力、本来の実力よりも向上しているのでしょうか?興奮しているように感じられます〕
ガラガラと上から重い物が次々落下してくる部屋の中。サポートは相手の仕草や纏っているマナから分析していく。
「(だったら、ここにいたら俺達が危ない)」〔はい。ですから・・・〕「っ!」「(速いっ!)」
純は自ら子供に飛び出していく。純の加速に反応が遅れた子供は纏っている黒い爪を立てに自らを守ろうとするしかなかった。しかし、純の1撃は思った以上に重かった。
「ぐっ、ううっ・・・!(弾かれたっ)」「(ここっ!)」「チイイイィィッ・・・!」
弾かれた体を捻り、無理やり純の攻撃に自らの爪をぶつける子供。しかし、その爪はガラス音を立てて砕け散った。さらにそこへ回転蹴りが入る。
「ぐふぅっ!」
口から自然と酸素と血が出てしまう。そして蹴られた攻撃は凄まじく。遠くへと吹き飛ばされていた。
「ぐっ・・・が・・・ガハアッ!」
何度も転がっていく子供。何とか纏った爪で地面を突き刺し、ギリギリと音を立てて踏み止まる事に成功した。しかし、思った以上のダメージに口から血がボタボタと落ちてしまう。
「(くそ!なんだあいつはっ!)ハアッ・・・ガハッ・・・ハア・・・。ハッ・・・。ここは・・・?!」
少しずつ息が整い出し状況を理解できるようになった時。目の前が見た事の無い霧深い、暗い空間に立っていた事に驚く子供。
「・・・。(どこだ・・・?それにどういう事だ?・・・魔力を感じられな・・・い?)」
子供がいる空間は地球と影の世界の境目の通り道。マナが特定の流れに沿って移動しているが子供が感知できるほどの低いエネルギーではなかった。幽鬼的ではあるがそこには確かに情報体の流れが存在しているが・・・。しかし魔力というモノとの、微妙な性質の違いもあっては子供には読み取れなかった。
「ここは、どこだっ・・・!」
周囲を見回しても何も見通せない暗い空間。正確には霧もあって明かりもあるが、それ以外何もない空虚な空間にだった。だからこそ理解が出来ず、つい口から出てしまった。
「っ!(あのガキはっ!)」
霧深いなか周囲を警戒しながら重心を落とし、いつでも迎撃できるように構え、感覚を研ぎ澄ませて待つ子供。そんな子供の警戒心などを無視する様にゆっくりと霧の奥から歩いて来る足音が響いて来る。
「・・・」
子供は更に鋭く感覚を研ぎ澄ませ。向かってくる方向を見た。すると霧の向こうからシルエットが見え、その姿が徐々にハッキリとしてくる。
「・・・」
純は子供が見える位置まで移動してから停止。先ほどの戦闘違って今は両手に持った双剣は下ろしていた。今はゆっくりと相手を観察する様に見ていた。子供はそんな純の姿にうす気味悪さを感じ、声を出してしまう。
「この空間は貴様が・・・」「・・・」「答えろっ・・・」
言い知れぬ不安からつい怒気を込めてしまう。
「ココは境目」「境目・・・?何を言って・・・っ!」
一瞬気を抜いてしまった子供。そこへ純が急速に懐まで入って来た。咄嗟にガードした子供は再び吹き飛ばされた。あまりの速度に振り抜いた剣が子供にはブレて見えていた。ガード出来たのは永年の経験が成す賜物だった。いや、それ以外では今の純の攻撃を受け止めきれなかった。子供にとっては幸運な事だった。しかし吹き飛ばされた勢いは凄まじく霧を大きく払ってどこかへと飛んで行く。
「ぐうううぅぅぅぅぅぅ・・・!!」
ズザーーーー―――。
必死に踏ん張って攻撃の勢いを殺そうとする子供。ようやく止まったが、少しだけ体が仰け反ってしまう。
「~~っ。ぐあっ!・・・はあ・・・。(今度は何だ?)」
またしても景色が変わり今度は荒れ果てた町の道路に子供は立っていた。突然の侵入者にどこからかひょっこりと覗き込んでくる黒い影の物体。
「(なんだ、あいつらは?それに・・・この場所は・・・どこかで・・・)いや、この気配・・・か?」
自信はないが何か思い当たる節があるのか周囲をゆっくりと見て行く子供。そこへ再び、どこからともなく純が姿を現した。
「(どこから現れた?あ奴の気配なぞ何も感じていなかったぞ)」
警戒を強め黒い塵が爪の形を顕現。更に自身の魔力を高め、纏っていた塵が霧へと変化していく。すると更に形状が変化していく。爪だけではなく周囲の空間から、ひび割れた地面や壊れた建物など風に沿って引き寄せられるように子供に砂塵となって黒い塵が集まりだしていく。
「これは・・・!ククククク・・・。なるほどそういう事か」「?」
形状はどんどんと変わっていく。両手は共にベアクローの様な形へと変化。そして足とも羽とも呼べるような、若干九の字に曲がった形の機械の破片の様なモノが何本も背中に装着され、子供の背の宙で留まっていた。
「君に何の意図があったのかは分からないけど感謝しちゃおうかな?」「?」「ココがどこだかは知らないけど。この気配にはちょっと心当たりがあるんだよ」「!」
子供は更に黒い塵を取り込んでいく。自ら体内に取り込んでいく結果、子供の肌全体が浅黒く変化していく。それに伴い、内包するマナ(魔力)が増大していった。
〔これは、想定外ですね〕「(でも、あそこで戦うよりはマシ)」〔ええそうですね。ここならば・・・純が力を最大限引き出しても地球に被害は起きないでしょう〕「ここはね・・・?」
純が子供を警戒しながら体内マナを練り上げて活性化し始めた頃。変化を終えた子供は大仰に両手を広げ影の世界を主張する。
「僕達・・・。いや、我々が実験で生み出したある存在が作る恨みと悲しみの世界だよ」「・・・」「分からないだろうね。いいだろう。せっかくこんな凄い場所に招待してくれたんだ。もう少し話そうか・・・。ここはある一人の娘・・・。こちらの国でも姫と言われる者だったか?そいつがある男に恋をしてね。まあ、ありきたりな話だが、立場を理由に親から反対されていたそうだよ。まあ、最も好きになった相手はこの国の人物ではない、海外からの移住人。ふふっ。それも・・・僕達が派遣した何も事情を知らない男を宛がったんだけどね」「・・・」〔不愉快です〕「おや?もうわかったのかな?うっふふふふふ。まあ予想が出来るシナリオを我々の方で用意したんだけどね。まさか・・・。ただの派遣が・・・恋に落ちて駆け落ちして逃げようなんて・・・。それじゃあ私達がこの国に時間を掛けて、せっかく足がかりの1つにしようとした計画が台無しじゃないですかっ。・・・だから、まあちょっとした腹いせにね・・・その治めている国を滅ぼしてしまおうと思って・・・」「・・・っ」「おお~こっわ。そこまで睨まないでよお兄ちゃん。昔の話じゃない。だが、どういうワケか結婚が上手くいきかけたから・・・。式場で女の前で家族を殺し、親族を家来を殺していき、最後に旦那になるはずだった男をじわじわ追いこんで殺してやったんだよ。・・・ああ~。あの女の悲しみと恨みの籠った目と声・・・最高だったな~」
徐々に、純に昔の話をしていくうちに次々と思い出されてきたのか。その顔には興奮と紅潮があった。その表情はとても幸せそうだった。だからこそ純とサポートの顔には子供に対する嫌悪しか、もはや湧いては来なかった。
「・・・何が楽しいんだ?」「ん?部下の1人が計画を無視して、我々の秘密をバラそうとした上に、管理者達に付こうとしたんだよ?当然の報いじゃないか。我々は一個人の為に動いているわけではない。それを理解していない無能な下っ端がしゃしゃり出れば、上の僕達が後始末をしなきゃいけないのは当然だろう」〔・・・話になりません〕「殺すほどの事が・・・当然?」「もちろん。・・・世界は我々にとっても味方ではない。もし不興を買えば我々の命まで脅かされるんだ。排除して何が悪い?」「・・・何かしらの誓約とかを立てたりするとか」「ははは、君は甘いね~。そんな口約束を守れるのは、守れる範囲の簡単な事だけだよ。子供だって自分が不利、危険になれば簡単にバラしてしまうのにどこにそんな確実性があるんだ?ええっ?」「・・・」
子供は拍子抜けしたように、気分が沈み。ただ淡々と話を続けた。
「とまあ、こんな話がはるか昔にあってね。どうやらこの次層を創った者はどうやらそのお姫様じゃないかって話だ。このように・・・」
そう言うと子供は片手を上げた。すると引き寄せられるように黒い塵が吸い寄って行く。
「どうやら僕にひどい恨みがあるそうだよ。裏切ったのはアッチだというのにね。まあおかげでその負のエネルギーが僕を強化してくれたらしいけど・・・」「っ」
子供が一振りすると、それだけで純の所まで突風が届いてきた。
「もういいだろう・・・。続きを始めよう・・・」「・・・」
純はゆっくりと腰を落とし双剣を構える。それに呼応する様に戦闘意欲を高めていた子供が放つ魔力で周囲の地面と建物に大きく亀裂が入った。そして・・・どこかのビルが崩壊した音を合図に両者は動き出した。
「ヒヤアアアアアアッ!!」「っ」
奇声の様な高い声を上げて子供のベアクロー振り下ろされる。その勢いは先ほどとは比較にならないほどのマナを秘めていた。しかし純も負けじと抑えていた体内マナを活性化。双剣を下から切り上げ拮抗した。
ドンッ!!・・・・ゴアアアアアアアアアアアアアアアッ・・・・・・!!!!
バキバキと大きくクレーターが2人を中心に出来上がり、その攻撃力とマナ(魔力)同士のぶつかり合いで大きな衝撃波が生まれる。そして近くの建物はその衝撃波に耐えられずガラガラと崩れていった。
「っ~~・・・。フフフフフ、まだまだこんなもんじゃ・・・ないぞっ!ヒイィィィィイイイイヤアアアアアアアアア~~~ッ!!」
バキバキガンギンバコガキン・・・・・・。
超接近戦で斬り結ぶ純と子供。2人のいる場所がどちらかの振り下ろされる攻撃でますます陥没していく。更に地面は割れ、周囲のコンクリートと壁が弾かれたり防いだ時の衝撃波で崩れ、荒れ果てた道路が更地へと化していく。純達の周りの地形だけがますます崩壊し瓦礫の山と化していく。
「イヤアアアッ!!」「ぐっ」「ハアア~~アアッ!!」「んぐうっ!!」〔純っ!〕
ドガアアアアアアアアアン、バキバキバキバキ・・・・・・!!!!
純は子供のベアクローを弾き、懐へ入った所を、羽の様になっていた機械の破片が重なり太いブロックと化して横振りで純を振り払った。視覚から飛び込んできたため反応が遅れた。ガードが間に合わず態勢を崩され、そこへの追い打ちとばかりに黒い塵を霧の渦へと変えた子供がベアクローに纏って突き出した。体内マナの循環と練り上げで貫通は避けることが出来たが体に命中。大きく陥没していた地形の地下の壁を突き破って消えていく。
「はぁ~あ。思ったよりも硬いんだね」
聞こえているわけではないが、子供は痺れた手を振りながら飛んで行った純に向かって言う。ガラガラと崩れて土煙と埃を盛大に上げる地面。貫通していった先だけが遥か遠くまで子供の見える景色を広げていく。脆い事もあり子供が立っている場所はクレーターが大きく深い。そのため周囲に見えるのは凹んだ出来上がったコンクリートだらけであった。どこかから水が流れ、純達が開けてしまった穴に落ちていく。
「だいぶ強くなったな・・・。(ここまでパワーアップしたのは初めてだ。これなら幹部クラスも・・・)」
ベアクローの隙間から手の平を確かめて、内包する魔力と感覚に確かな手応えを感じてニヤつく子供。しかしその時だった。
「っ!ぐううっ。うううううううううううっ!!」
純の方角から斬撃が飛んできた。すぐさま背中に纏っていた機械の破片を盾にして自分を守るが、斬撃は重く、簡単には弾けずにいた。耐える子供。ガリガリと壁の向こうまで追いやられていく。
「ぬあああああー--っ・・・あ゛あ゛っ!」
自分も地下のコンクリートの壁に押し込まれるが、何とか斜め横へと弾き飛ばした。しかし盾にした機械の破片にはヒビが大きく入りばらばらと砕けていく。
「っ・・・!(今の力でもまだ足りないのかっ・・・!・・・ならば)」
子供は砕けた機械の破片と黒い塵・・・。更にはベアクローまでも分解して、体内に強制的に取り込んだ。
「・・・っ~~。はぁぁぁあああ~~~っ・・・!!」
子供の目が黒い眼球に白い瞳孔へと変わっていく、肌はますます黒くなっていく。そして取り込みが完了した子供の片手。服の中の肩かどこかから黒い液体が手に伝って地面に落ちていく。地面に滴った黒い液体は自我を持っているように子供の一振りでうねる様に起き上がった。しなった勢いで地面が大きく切り裂かれ吹き飛んで行く。その威力は凄まじかった。
「アアアッ・・・」「ウギャアア・・・」「イギィィィ・・・」
巻き込まれた影のモンスターはその衝撃波だけで消滅していった。そして消滅したモンスターの黒い煙が子供に吸い込まれていく。うっすらと白い輪っかの様なモノが子供の手に浮かび上がる。
「(ふふふふふ、良い感じだ。なんだここはっ!私を強くしてくれる最高の餌場ではないか!)」
周囲を観察するために子供は一気に空へと躍り出た。勢いが余り、地上まで高さ100メートル以上もある・・・が、そんな事は気にせず物色を始めようとする子供。そして周りにいる影のモンスターがいないかと探そうとした時、体に感じる光に影が射した。ふと目をやると更に上に飛んだ純と煌めく双剣が見える。
「ふんっ」
鞭のようにしなる黒い液体で迎撃する子供。ぶつかった瞬間ガリガリと火花が散って拮抗する。鞭はしなりと子供が捻り上げたその運動で純の双剣を滑っていく。しかし先っぽに近づくほどその速度は増し、力も増大していった。
「ぐっ・・・あああっ!」
無理やり純は振り切った。それによって子供の鞭の攻撃の1撃は避けた。しかし、子供の使う鞭に従来の物理法則は通用していなかった。子供はその場で回転。鞭を繰り出した。空中で上手く態勢が取れない純と違い、子供の鞭はどんな方向からでも同じ威力を持って飛ばすことが出来た。
〔斬撃ですっ〕「ぐうっ!」
何とか振り抜いて1発・・・。そして少し遅れてもう片方で2発目を放った純。鞭を弾いた時に上手く防ぎきれなかったのか、返しの瞬間に掠ってしまったのか額から少し出血していた。双剣を振った瞬間に空中に血が舞った。
「なかなか・・・」
子供は余裕をもって鞭の中に宿る自分の魔力をさらに多く注ぎ込んで攻撃に当てた。
ジュアンッ!!・・・ギリギリギリギイイィィン・・・!!
1撃目の斬撃はあっさりとかき消された。しかし鞭の威力を大幅に減らし。2撃目は拮抗した後、子供を押し込むことに成功した。
「へ~~・・・」
ゆっくりと落下していくなか楽しそうに純を見る子供。しかしすぐに今度は子供から鞭を高速で何度も振っていた。空中に無数の黒く細い物体がたくさんの残像を残すような光景が出現。
〔気を付けて。フォローします〕「っ・・・!」
しっかりとその軌道は見えているが純を覆うように大きな黒い繭が迫ってくる。純は少し息を吐くと体内マナを最大限に。
「・・・!」
そしてサポートの支援で一番近くに届きそうな鞭から弾いて返していく。
ガキ、ガキン・・・ガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキ・・・・・・・・・!!
空中を舞って四方八方から迫る液体の鞭を捌いていく純。その光景を楽しそうに眺めていた子供だった・・・が。純の速度がどんどん上がっていくことで自分の中に違和感と焦りの様なモノが浮かび上がっていく。
「(どうなっている?確かに攻撃は受けているはずだ。なのに速くなっている?)」
大きなクレーターを作り上げた地面に降り立った子供。地面に足がついたことで踏ん張りが利き、鞭の速度と威力を上げていく。
「ハハハハハハハハハハ・・・!!」
後半になるにつれ声を大きくハッキリと出して笑い出す。自身の溢れる魔力を注ぎ込んで更に鞭を細かく分解。手数を増やしていく。
「っ・・・」
一瞬、純の意識がスローモーションになった。相手の手数が急に増えた事を頭が理解したのと同時に一瞬、体が硬直してしまったのだ。
〔純!〕「っ!!(しまっ・・・)」
大きく黒い繭になっていた鞭が更に量を増やし純を完全に覆い隠した。・・・そして急速に集まって絞り出す様に束になっていく。ひねり出す様に回転しながら1本の太く、先っぽが無数に枝葉に分かれた木へと変わった。
「・・・(ニィイ・・・)」
子供は更に手頸を捻ると太い木がスリムになっていく・・・。そして思いっきり振り下ろした。
ボォォォオオオオガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンン・・・・・・!!!!
周囲数百メートルを一気に何もかも無くすほどの衝撃が地面に叩き込まれ、子供のいる範囲の影の世界は本当に何もない更地へと変わってしまった。吹き荒れる暴風が瓦礫など何もかもを薙ぎ払い、隕石が衝突したような跡が残る。そこに未だ大きな土煙を上げるなか子供がポツンと1人、振り下ろした姿勢で止まっていた。そして肥大化させた黒い液体を引っ込めていく。魔力でもって形成されていたモノであるため分解され、溶ける様に消えていく。
「・・・ははは・・・あはははははははははははははははははははははははは・・・・・・!!」
あまりの自分の進化した力に驚き以上に喜びと笑いが込み上げてきた子供。
「・・・いい!いいぞ!これなら私にだって頂上の方へと可能性もっ・・・!」
体を丸め手を前に出した事で子供は初めて気づく。いつの間にかうっすらとしていた腕の白い輪が3本ほどハッキリと浮かび上がっていた。
「・・・」
口角を大きく吊り上げ、再度自分の新たに手に入れた鞭を出してみる。その鞭は更にパワーアップでもしたのか紅く光沢された鞭に変化していた。
「(ここはイイ・・・。どうやって入ったのか分からないが・・・。おそらく脱出は可能だろう)」
この時、子供は有頂天だった。しかし冷静でもあり、直感で脱出は出来ると確信していた。だからこそ欲が出た。
「(ここにはあの小娘達の恨みで作った集合体がまだまだいるだろう。ならば、それを取り込んで私の糧に・・・)クククククックックック・・・。事故とはいえ何たる幸運。(あいつが居てはせっかくの私の進化の邪魔になる所であった)」
同じ部署に配属された部下を何とも思わず、むしろ自分にとっては福音だったとすら思っている子供。そこに何の疑問も挟むわけがなかった。自分にとっての鉱山のカナリアだと思っていた。
「いや、それを感謝するならあの少年にもだな・・・」
寂しく吹く風に揺れる体が何とも心地よいとばかりに純を叩き潰した場所を余裕を持ってみる子供。
「・・・?」
その時だった。突如、大きな斬撃の1閃飛んできた。子供は何の気なしに片手でガードした。地面をガリガリと滑っていく。やがて200メートルほど飛ばされた所で停止する。子供に腕には小さな傷と黒い液体が垂れた。
「なかなかしぶといじゃないか。・・・イイだろう。せめてもの感謝だ。手向けに最期相手してやろう」
子供はゆっくりと純が自分の傍まで来るのを持ってやることにした。
ポタ・・・ポタポタ・・・。
〔純、ココは撤退しましょう〕「はぁ・・・はぁ・・・。それは・・・出来ない。わか・・・ってるだろ」〔・・・〕「はぁ・・・死に、たくは・・・無いけど。あいつをここで放っておくと取り返しがつかない」〔それは分かっております。ですが、今の純の体ではっ・・・!〕「・・・」〔時間・・・。そう、時間です。ほんの少しだけ時間を開けましょう。相手もすぐにはこの場所から脱出は出来なくなるでしょう。その間に傷を回復したら・・・〕「すー・・・ふうー・・・。見えてるんだろ?あれでもそんな事が言えるの?」〔・・・〕
純は頭だけではなく体中も服もボロボロになっていた。ここまで怪我を負ったのは実は久しぶりだった。怪我を負う事や死にかけた事は何度もあるが・・・。ここまでボロボロになったのは中学のある時期だけだった。暴力がエスカレートしていった拍子で不良に何度も何度も殴られて気絶してしまった時以来だ。あの時は流石に階段を盛大に転んで大怪我したと言って親に誤魔化し病院に連れて行ってもらった為にかなりはっきりと覚えている。それ以来、ガードをしっかりして特に顔面への外傷で家族に心配を掛けない様に気を付けていた。不良も流石に骨折などを負わせれば不用意には純に攻撃できなかった。なんだかんだで教師の目があって救われていたのだ。
「・・・」〔純・・・〕
ゆっくりと歩いて行く。幸い待ってくれているらしく。子供の所まで純は急ぐことなく歩いて行った。
「(はぁ・・・今回は運が悪かったな~)」〔関係者というのは予想外でしたね〕「お?開き直ってきたか?」〔ここまでくれば仕方ありません。私は・・・純をサポートするのが務めです。その仕事を放棄してしまえば・・・。私に価値なんてありません〕「はは・・・。そんな事ないよ。ずっと助けてくれてたんだし・・・」〔それはこれからもしていくつもりです〕「・・・ふ。頼んだよ・・・相棒」〔・・・お任せください〕「随分とノロノロ・・・。そこまでして僕を倒したいのかな?」「・・・」「?どうしたの?」「いや・・・。その・・・」「?」「何でコロコロ、一人称が変わってるのか気になって・・・。自分で言うのもなんだけど・・・アンタの口調、なんていうか見た目と年齢に開きがあるから・・・」「・・・ああ。気にしないでくれ。永い事生き続けた弊害みたいなもんだ」「(だったら、なおさらな気が・・・)」「僕の方からも質問していいかい?」「?」「どうして、この次層を知っていたのか。ちょっとそこがやっぱり気になってね」「・・・さあ?」「さあ?」「たまたま入ってしまって見つけてしまったとしか・・・」「・・・探していたわけじゃないのか」「う~ん、当たっていないわけじゃないけど。ホントに偶然としか・・・」「何とも奇妙な話だ。もしかしたら君は僕をここへ連れてくるために必要とされた存在だったのかもね」
子供のそんな言葉に特に何かを答える事無く、純は改めてこの影の空間を見回していた。
「ここは・・・・・・悲しい場所だよ」「そうかい?僕にはある種の楽園に感じるよ」〔とても憎しみを作り出した者の言葉とは思えません〕「それともう1ついいかな?」「・・・どうぞ」「あそこは何だい?」「さあ?・・・ちょっとした特殊エリアとしか・・・」「特殊エリア・・・」「もしかしてアンタらが何かした結果、生み出されたモノとかなんじゃないの?」「ふむ・・・。まあ、ここは我々にとって因縁が深い場所のようだし、可能性はゼロじゃないだろう。うん、ありがとう。参考にさせてもらうよ」「・・・いえ」「元気が無いけど。それで大丈夫かい?」「・・・」「せめて最期ぐらいは華々しく散ってしまった方が気持ち的にも楽になるよ?」「・・・・・・」「ああ。ゴメン。悪気はないんだ。最近イライラする事があってね。ココに来るまでは本当にストレスの連続だったよ」「・・・」「まあ、それも今日で終わりそうだけど・・・」
子供は紅くコーティングされた黒い鞭を手に出現させた。その顔には勝つことに何の疑いの無い絶対の自信を持っていた。
「すぅ~・・・・・・はぁ~・・・・・・」
純は大きく深呼吸。ゆっくりと双剣を構え始めた。
「ありがとう少年・・・。えっと名前は何ていうのかな?」「純・・・」「そう・・・。では、純。君の最期の戦いを始めよう」
両者が準備を整えて戦闘を再開しようとしていた。
・・・しかし、この時。純は全く別の事が頭の中に浮かんでいた。それは・・・。
【十時影 純 (クリス)】15才 人間・・・かな~?(進化)
レベル 13
HP 171 MP 156
STR 89
VIT 79
INT 81
RES 75
DEX 95
AGI 87
LUK 23
『マナ(情報体):レベル 5 』『波鋼:レベル 5 』『質量拡充:レベル 1』
『魔法:水、風 』




