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転と閃のアイデンティティー  作者: あさくら 正篤
181/473

178 もう1つのギリギリ

「っ・・・。なに、あいつら・・・?」「先ほどの1体と明らかに違いますね・・・」


 シュウシュウと煙を上げながらも生き残る異形のモンスター達。澪奈と鏡花は、思った以上に戦闘が長続きする事に焦っていた。


「(この力・・・何時までも持たないんだけど・・・)」「澪奈・・・」


 心配する鏡花。鏡花自身・・・澪奈との付き合いで多少、澪奈が開花させた力の使い方を特訓と共にちょっとは使用可能になっていた。・・・しかし、あまりの霊力を消費の激しさに長時間は使えず、さらには使用切れするとまともに立つのも苦労するという状態になってしまう。2人は日夜、木下達の協力で町を調査しつつ、夜の自由になる時間に特訓していた。その結果、自分の意志で自由に発動は可能となっていた。


「まだ大丈夫よ。・・・それよりも」「(コクリ)・・・気絶した人から離さないと・・・」「はぁ・・・て言っても。・・・この結界・・・そこまで範囲は大きくできないのよね~」「私も重ね合わせて広げましたけど・・・コレが限界ですね。出来るだけ人を巻き込まない場所に誘導しないと」


 巫術で自分の周囲、町の中空に点々と札を張って自身の強化と補助をする2人。


「「・・・」」「「「・・・ブ」」」


 ジリジリと動き詰め寄る澪奈と鏡花に、モンスター達は後退する。しかし逃げようとはしなかった。澪奈達の巫術と霊力による結界で出られないからではなく、何らかの理由があるのか撤退する気配を見せなかった。周囲をキョロキョロと見てはゆっくりと後退していく。その頭には、冷や汗を流している様だった。


「っ~~・・・ボッ!」


 1体がこの状況に業を煮やし、澪奈達に突っ込んでいく。


「っ!」


 それを夏奈を抱えた昂輝が遠く離れた場所から見ていた。しかし昂輝の感覚ではあの巨体が動くスピードには目が追い切れてはいなかった。先ほどから澪奈と鏡花、モンスター達の動きがコマ切れの様に見えていたのだ。


「(一体・・・あの人たちは・・・。っ!)」


 またしても澪奈に向かって走って行くモンスター。しかし、その勢いを乗せた腕の振りかぶりは澪奈の破魔の矢で生み出した光の刀によって斬り飛ばされた。


「ボオオオッ・・・!!」


 斬り飛ばされた腕が空中を舞う。そしてすぐさま澪奈の力によって碧や翠の光に包まれて燃え上がり、煙の様に消えていくモンスターの腕。モンスター自身、斬られた箇所から澪奈の力で燃えてしまっているが急いで残っていた腕の一部を自ら引きちぎり投げ捨てた。


「・・・知性は高いようね」「今までのモンスターと違って、状況判断と行動力が潔いです」


 澪奈と鏡花はそこからすぐに攻め込むことはせず、ジリジリと詰め寄って行った。それは追い込まれた者がどんな行動を取るか不明の為だった。知性がある分、追い込まれた拍子に近くの人間達に危害を及ぼす可能性を考えたからであった。澪奈と鏡花には人質となっている一般市民が、今いる戦場にはたくさん倒れているのである。不用意に突っ込めなかった。


「うっ・・・うう。・・・おにいちゃ・・・ん」「っ!・・・夏奈・・・」


 昂輝は抱えていた夏奈の声を聞き振り向いた。目が覚めたのかと見ると、瞼を少し強く結び、うなされていた。


「夏奈・・・」


 昂輝には妹を抱えてやることしか出来なかった。話しかけても目が覚めない事は分かっていた。それならとっくに道端に倒れている他の誰かが何らかの反応を示した起きてくるはずだったからだ。かといって、光の空間から外に出ようという意識には至らなかった。前回、閉じ込められていた経験から出られないと思っているからだった。実際は澪奈と鏡花の力で上書きされた為に2人の協力があれば出る事は可能だった。しかし澪奈達はモンスターと戦わなければならず、そこまで気を回すことは出来なかった。そもそも2人はサポートタイプで接近による戦闘がそれほど向いていない。巫術、霊力による戦い方でどちらかと言えば魔法タイプ。遠距離タイプであった。この場で澪奈か鏡花、どちらか1人でも欠けてしまえば・・・自分達のみならず倒れている人達の誰かが殺されてしまう可能性は十分にあった。今回、その状況にまだなっていないのは、たまたま慎重に事を運んで追い込むことによって出来上がった軌跡でしかなかった。


「っ・・・。・・・!」


 昂輝は自分の情けなさに臍を噛む思いをしていた時。顔をハッと上げるとある日を思い出していた。休日、自分にとっては気に入らない相手だが見つけてしまい、つい興味本位で追ってしまった。途中で見失い辺りを見回している時に出会ったのだ。・・・澪奈と鏡花を。徐々にその時の情景が思い出され鮮明になっていく。そして目の前・・・。自分に背を向けて、遠くで戦っているその後ろ姿を見て・・・完全に思い出したのだ。


「(あの時の・・・)」


 最初出会った時は仮とはいえ自分の義理の兄と友達だという相手に衝撃を受けていた。多少、見た目が劣っていても何かしらのキッカケや気さえ合えば友達くらいはいても問題ないとは思う。しかし自分の義兄に友達が出来るとは到底思えなかったからだ。なぜなら、本当は友達がいたのかもしれないが、その友達を家に招き入れて遊んだ所を一度も昂輝は見た事がなかった。話しかけてもハッキリという事は少なく。年々その口はたどたどしくなり、挙動不審になる。そしていつの間にか・・・自分とって義兄というモノは不快でしかない存在へと変わっていた。そんな下等に友達という存在がいることを初めて認識してしまった時の衝撃は、思った以上に凄まじかった。だからこそ目の前にいる2人の巫女服を着た女の子の事が記憶の片隅に残っていたのだった。


「(この事を・・・あいつも知って?・・・いや、そんなはずがない。こんな現実があるのか?)」


 自分ですら今まで見た事も聞いたことも無い体験をしている。こんな非現実的な事があるのだって、ついさっき味わったばかりである。昂輝自身も未だにどこかで夢だったのかとすら思える様な状態だ。しかし、先ほどモンスターによって受けたお腹の痛みはそれを否定していた。


「・・・」


 動けないほどではないが、鈍い痛みはずっと続いていた。ジンジンする痛みがこの出来事は現実だと訴えているように感じていた。


「くっ・・・!」「澪奈っ・・・!」「「ボアアっ・・・!」」「邪魔!」「ブギャアアッ」」


 モンスターの攻撃を受けたのか昂輝の近くまで滑ってくるように後退してきた澪奈。幸いガードして明確な1撃を受けたわけではなかったが、膝を突いて刀を地面に刺してしまう。鏡花は澪奈を心配し追いかけるが、追い打ちを掛けようとしたモンスターによって阻まれた。しかし強化された巫術で持って撃退。怪我を負わせ怯ませることに成功し、澪奈の下へと走って来た。


「大丈夫?」「っ・・・ええ。ちょっと油断し過ぎちゃった」「・・・。先ほどからダメージは与えているのに一向に逃げ出しませんね?」「はん・・・。大方、アタシ達なんて敵じゃないって思ってんじゃないかしら?」「あれだけダメージを受けてそれはないと思うけど・・・。それにしてもどうしてでしょうね?」「ただのモンスターじゃないんだし、誰かに指示を受けているんじゃない?」「以前、公園で探知したあの強いモノ・・・?」「かも、しれないわね」


 ようやく少し切れていた息も整ったのか、地面に刺してあった刀に力を立ち上がる澪奈。


「・・・なあ?」「「?」」


 突然、昂輝に話しかけられ2人は振り向いた。モンスターは怪我の為に澪奈と鏡花には不用意に近づかなくなっていた。警戒しているのである。だからこそ2人は油断をし過ぎない程度に警戒しながら昂輝の方を振り向いた。


「あんた等は何者なんだ?」「・・・」「この前、アニキ・・・廃ビル付近で俺と会った事・・・覚えてる?」「廃ビル?」「・・・ああっ。確かあの時の・・・」「知ってるの?鏡花?」「ほら・・・。澪奈が純君を見たって言う廃ビル付近でキョロキョロしていた子ですよ?」「・・・・・・ああっ・・・あ~。確かにそんな人・・・いた様な~・・・」「(ボソ)もしかして覚えてないの?結構カッコいい子なのに・・・」「(ボソ)・・・何となく居たと・・・思う」「(・・・覚えてないのね)」「っていうか鏡花。よく覚えていたわね」「もちろんよ。ちょっとは覚えているもの」「(ちょっとはって言ったわね)」


 鏡花自身もそれほど昂輝の印象は残っていなかった。ルックスの良さが記憶に残っていたようだけどそれだけであった。それでも1度で相手の記憶に留まれるほどには昂輝もイケメンであるという事。


「・・・アンタらはあんな化け物と戦っているのか?」


 昂輝は澪奈達の奥にいるモンスター達を見て質問した。そんな昂輝から顔も体もモンスターの方へと振り返る澪奈。刀を持ち直す。モンスターは警戒して動きを止めた。


「気にしなくていいわよ~。これは私達の仕事なんだから」「・・・そうですね~。一般人のあなたが知る必要のない、外の世界です」


 鏡花も振り返ると扇を持ち直して、扇面(地紙)を広げて構える。


「仕事って・・・」「こういうのは専門家に任せなさい?」「あなたはその子を・・・。妹さんを守ってあげてください」


 昂輝は自分が抱えている夏奈を見下ろす。


「今回はたまたま運が悪かったわね。でも生きているって事は幸いよ?」「この場を逃げ出したいのなら・・・」


 鏡花は一度、扇をゆっくりと外へと振る。すると結界の一部が歪み、人が通る様なトンネルが出来上がる。


「早くそこから立ち去ってください。そのトンネルもあまり長時間空け続けるわけにはいきませんので」「・・・」「あまり長い事空けると結界の外の人が気付いちゃって、もっと大騒ぎになるから・・・。出て行くならサッサとして?」


 そう言うと澪奈はゆっくりとモンスターに向かって行く。そんな後ろに昂輝が声を掛けた。


「なあっ・・・俺は・・・」「無理しなくていいわよ?」「っ!」


 自分の心の中が滅茶苦茶になっていた昂輝。助かる喜びと関わりたくない気持ち。しかし、それとは別に自分でも何か手を貸せることはあるんじゃないかという気持ち。そんな様々な気持ちを感じ取ったのか見透かしたように澪奈は昂輝に告げた。


「お気持ちはありがたいですが・・・。これだけの人数を外へ運ぶのは難しいです」「むしろ、そんな事をされたら、あいつ等が気付いて邪魔をするか外の一般人が気付いてしまってややこしくなっちゃう」「・・・」「ここは自分達の身だけを大切にして、先に逃げてください。そろそろ結界も空け続けるわけにはいかなくなり始めてます」


 昂輝には聞こえていないが、澪奈と鏡花は霊力でその辺りの空気の異変に、戦闘中の現在は多少過敏に反応する。微かに何らかの違和感を感じ始めた通りすがりの市民や住まいの人達が不思議に思い始めていた。


「(こんなのに関わりたくはない)」


 昂輝は夏奈を護るためとはいえ得体のしれない化け物の前に相対するという恐怖を味わった。それは今まで見て見ぬふり、関わりたくはないと避けていた不良達が醸し出す恐怖とは明らかに次元も迫力も違っていた。もし目の敵にされれば。暴力を振るわれれば不良相手でも昂輝はガタガタと震えていたであろう。しかし、そこには暴力という恐怖がほとんどであった。中には醜態を晒すという恐怖も入っていたかもしれない。しかし今回の化け物はそんな次元の話ではなかった。ただの気まぐれで命を決められる恐怖。何をしても無駄だと無理矢理にでも理解させられた恐怖、絶望感。そんな恐怖からすぐにでも逃げ出せるなら、目の前にいる女の子がどうなろうと知った事ではないとも思っていた。しかし、いざ逃げてもいいと言われた時。避難しろと促された時・・・。昂輝の心には自分の不甲斐なさをもう一度、味あわされた様な気分だった。


「・・・俺は、あんな化け物とは戦えない(あんなのとは関わりたくはない)」「当然よ。気にしなくてもいいわ」「でもあんた等は戦うんだろ?(こんなの間違っている・・・)」「もちろんですよ?それが私達がココに来た理由ですから」「・・・はっ。死ぬかもしれないのに?(俺もそうだ・・・)」「死なないわよ。それに誰も死なせる気も無いわ?」「死んでしまったら、これからの人生が楽しめなくなりますしね・・・」「・・・だから・・・」「「?」」


 昂輝はゆっくりと夏奈を抱きかかえて立ち上がり、傍の壁に背中を預ける様にしてそっと置いて澪奈と鏡花に振り返った。


「戦えないけど・・・倒れている人を安全な場所かで避難させるのは手伝わせてほしい」「・・・あんた・・・。人の話を聞いてたの?そんな事をすればアイツ等が」「結界というやつの外に出さなきゃ問題ないんだろ?」「いえ、どうでしょうか?」


 チラッと鏡花がモンスターを見る。先ほどからずっと澪奈達は話続けている。このタイミングに攻め込んで来ない事に不審に思っていた。が、どうやらあのモンスターも何らかの話でもしているのか4体が集まり、片方の手を顔の横のおそらく耳に当たる部分を抑えていたのであった。


「・・・誰かに連絡でしょうか?それとも指示?」「どちらにしても良くはないわね」「あんた等は戦っておいてくれ」「ちょっと・・・」


 昂輝は澪奈と鏡花を置いて、近くで倒れていた子供とその母親を安全な場所まで・・・。結界内の比較的外まで運んで行く。


「もう~・・・」「ふふふ、彼も私達と一緒で、人命を優先しているんでしょう」


 やれやれと思う澪奈。そんな澪奈を止めて鏡花は扇を振って空けていた外へと繋がる結界のトンネルと閉じた。


「彼は彼なりに力になろうとしているのです。私達は・・・」「・・・分かったわ」


 懸命に1人1人と道端から端の安全場所へ運んで行く昂輝を見て、澪奈は意識を切り替えた。


「ちょっとは話し合いで回復したと思うけど・・・。まあ、気持ち程度ね・・・?」「4体を退けるまで持たせられるかどうか・・・」「今は考えていても仕方がないわ」「・・・うん。そうね」


 澪奈達から殺気を感じ取ったのか手を当てて話し合ってでもいた4体の異形モンスターも戦闘態勢に入った。モンスターの体に上がっていた黒い煙もかなり小さくなっていた。どうやらモンスターの傷も多少は修復した様であった。しかし消し飛んだ腕までは治ってはいなかった。


「私が前に」「援護は任せて」「お願い」


 短く話し合うとすぐさま、澪奈からモンスターに向かって行く。澪奈達にとって40メートルほどの距離などそれほどの開きではない。すぐに相手とぶつかり合う距離だった。


「っ!」「ボッ!」


 澪奈の刀が振り下ろされる。そこに1体のモンスターが力を込めたストレートで叩き込んで押しとどめた。


「(ウソでしょ!)」


 表情にはほとんど出さない様にしているが、内心は驚いてしまう澪奈。先ほどまでのダメージが通っていないと判るからだった。モンスターの拳は常人なら大怪我をするレベル。指先や手の甲。その内部の骨や筋肉に大きくめり込み、刺さっている状態だからだ。しかし、そんな状態でも拳を突き出していたモンスターは平然としていた。むしろ少しニヤリと口元が笑っていた。しかし口の大きいモンスターであるためニヤリがかなりはっきりと相手に伝わるほどだった。


「(ダメージが思ったより効いてないっ)」「澪奈っ」「っ!」


 澪奈は大きく後方へと跳んだ。それと入れ替わる様に上から叩き潰す勢いで地面を殴りコンクリートと周囲の壁を一部破壊するほどのパンチが上から降って来た。すぐさま鏡花が補助に入り、札で他のモンスターに放ち攻撃。攻め込もうとした残りの2体のモンスターは、牽制され踏み込めず留まる。その間に更に霊力マナを噴出させた澪奈が刀を振るった。


「はあああああっ!」


 着地と同時にもう一度、一足飛びに飛び掛かり、地面に拳が突き刺さったモンスターに刀を振り下ろす。


「っ」「ボッ!」


 驚くモンスターをフォローする様に、澪奈とぶつかり合ったモンスターが割って入る。しかし霊力を上げた攻撃には流石に、先ほどと同様の攻撃法は通じず。大きく腕を切り裂かれ、そのまま腹部へ。


「ブボウッ」


 深く切り裂かれたモンスターは、胴体ほとんどが別れてしまうほどの傷を負った。さらにそこから大きく碧と碧の火が体を覆うように吹き出し。暴れ出すモンスター。


「ブギャアアア。アアア~~ッ!」


 転げまわるが火は消えず、やがて力尽きた様にバタリと力が抜けてシュウシュウと大きな煙を上げて、光の中、ゴボゴボと気泡を出した肉塊へと変わっていく。


「ボッ!」


 目の前で仲間がまたしても死んでいった事に驚くモンスター。しかし、それ以上の感情があるのか分からない。すぐさま澪奈に攻撃へと転じ拳を振りかぶった。


「やああああっ」


 ガギイイイイイイイィィィ・・・・・・。


 とても刀と拳の音ではないが拮抗する澪奈とモンスター。切り上げた姿勢で止まった澪奈と振り下ろした体勢のモンスター。ビキバキとコンクリートの地面に大きなヒビが入る。そしてその面積は拡がりコンクリートが割れてしまう。


「はああああああっ!」「ブボッ」


 押し返され、大きく後方へと手が仰け反り、懐ががら空きになってしまうモンスター。そこへすかさず、回転して横切りで追撃を仕掛けえる澪奈。


「フッ!」「ボギャアッ!」


 腕を切り落とされ片方の腕で戦っていたモンスターはガードも逃げることも出来ず大きく胸を切り裂かれた。反撃とばかりに澪奈の火で燃えている身体で、再び拳を振るった。


「ぐっ」


 一瞬、油断してしまい。ガードが遅れ、体に少しヒットしてしまった澪奈はゴロゴロと転がってしまう。


「澪奈っ」「っ!」


 鏡花に名前を呼ばれるのとほぼ同時に、手で地面を押して体を空中へ。半回転して足から着地した澪奈。


「大丈夫。ちょっと掠っただけ!」「ホッ・・・」


 胸を撫でおろした鏡花も再び目の前に集中。遠くで動きを止めていたモンスターはそんな鏡花の巫術を腕をクロスにして顔を護り、澪奈と鏡花に向かって突っ込んできた。


「「っ!」」


 澪奈達は2重の意味で驚いていた。鏡花による攻撃を無理矢理、耐えながら突進してきた事。それとほとんど同時に澪奈と鏡花は自らの霊力が急速に衰え、疲労感を急に感じ始めた事を。


「(そんな・・・!)」「(このタイミングで・・・!?)」


 マナの使い過ぎによる限界だった。特訓したとはいえ地球では使う事がほとんどない、寧ろ無意識にごく微量に使う程度のマナを意図的に・・・。体の中を意識的に活性化させ、使用するという芸当をすれば大抵はすぐに動けなくなってしまうものであった。澪奈と鏡花は霊力という解釈を元に少しずつ一般人よりもマナの総量とコントロールを、増やし扱っているに過ぎなかったのだ。縁の薄い世界で使用するのが如何に負担を欠けてしまうのかをこの瞬間に味わってしまうのだった。


「(まずい・・・)」「(澪奈っ・・・)」


 焦りと緊張、疲労で冷や汗等が止まらない。スローモーションでモンスターが自分達の方へ向かってくるのを澪奈達は見ていた。その時だった。


 ズウオンッ・・・。


 ギィンという何かを切り裂いた音が聞こえた。しかし澪奈と鏡花は突然吹いた風に目を閉じてしまった。


「「っ・・・。・・・?」」


 何も向こうから迫ってくる音も気配も感じなくなった2人は不思議に思いゆっくりと目を開けた。モンスターは突っ込んだ姿勢で止まっていた。しかし澪奈達が見た次の瞬間、クロスした腕と体が切断され、ゆっくりと崩れ落ちていくモンスターの姿があった。


 グチャグチャ・・・ドササ。


 なかなか猟奇的に見える光景でモンスターはバラバラになって崩れ落ち、大きく煙を上げている。


「・・・えっ?」「何が・・・?」「・・・一体何が・・・っ。ウプッ・・・」


 昂輝も先ほどまでと違う雰囲気に気付き澪奈達の方を見た瞬間に、バラバラになったモンスターを目撃して少しだけ気分が悪くなった。


 そこへどこからともなく空からシュタッと下りてくる人物が1人。


「いや~。ちょっと遅れちゃったかな?」「え?・・・楓花、さん?」


 そこへ連絡を受けた彰隆が楓花を澪奈達の所へと助っ人に向かうようにと指示を受け、到着した瞬間だった。


「ゴメンね~。到着早々、隠れていた例のモンスターの1体と鉢合わせちゃって、倒すのに少し時間かかっちゃった・・・」「今の・・・楓花さんが・・・?」「?」「さっきの攻撃です」「どゆこと?」


 意気揚々と来て見れば、思ったよりも呆気にとられている澪奈と鏡花の様子に楓花は疑問を浮かべて質問していた。鏡花は丁度、楓花が下りたった場所の後ろを指し示した。釣られるように後ろを振り向きバラバラになった異形モンスターを見た楓花は止まった。そして、再び澪奈達の方へと振り返り・・・。


「どゆこと?」


 再度、同じ質問を返した。




「怪我人は急いで救急車に。その中で治療と行ってくれ」「はい」


 モンスターを倒し終えた澪奈達は簡易的な人払いの結界を張り、木下に連絡。防衛界誓(ぼうえいかいせん)の面々が木下の指揮の下、テキパキと仕事をこなしていた。


「ありがとう楓花。澪奈ちゃん、鏡花ちゃんも良くやった。負傷者はいるが、幸い大怪我をした者は居ない。君達のおかげだ」「あたし。なーんにもしてないんだけど」「そんな事はない例の異形モンスターを倒したんだろう?」「1体だけね。それもこの結界に入ってすぐに隠れて潜んでいた奴よ」「それでも十分だ。澪奈と鏡花が無事だったのは君の助力もある」「そういうわけじゃ、ないんだよね~・・・」「?」


 どう答えたもんかと頭を掻いて悩む楓花。そこへ治療の手伝いをしていた澪奈と鏡花が木下の所まで来る。


「2人とも、ご苦労様。君達も無事でよかったよ」「はい、木下さん」「ふぅ、疲れました」「なかなか大変な戦いだったようだね」「ちょっと油断して・・・」「危うく倒される所でしたよ」「君達と彼女が来てくれたから無事、死者を出さずに済んだ」「ん~・・・その事なんだけどね~・・・」「?」「あたしが到着した時にはほとんど終わっちゃってたのよ」「?・・・どういう事だ?」


 状況が呑み込めない木下は澪奈と鏡花を見た。


「私達も良く分かっていないんですけど・・・」「実は・・・」


 ・・・・・・

 ・・・


「・・・はぁ」


 昂輝は疲れ、夏奈の側でため息を吐きながら周囲で動き回る警察と医者達を他人事のように見ていた。


「・・・」


 目の前で起きた出来事が、事態の収拾に警察達が動いて一気に慌ただしくなったことで、自分の中でやっと、今回関わった事に現実感が押し寄せてくる。未だに非現実感も完全に拭えないわけではないが・・・。それでも・・・何かの為に必死に尽力していたという事に実感を湧いていた。これは夢ではないと・・・。肉体以上に精神が大きく疲弊していた。


「・・・フ」


 目を落とし、ゆっくりと安定した寝息を立てて寝ている妹を見て昂輝は笑い、そっと頭を撫でた。たった数分・・・。モンスターがあらわれてから十数分の出来事だった。それがとても長く・・・。とても自分に人生にとって強く記憶に刻みつけられる内容の濃い瞬間だった。


「(ボソ)・・・助かった・・・」


 昂輝はそんな言葉を無意識に口に出すほど疲れ果てていた。


 ・・・しかし・・・。


 その目は・・・何かを想うその姿は・・・。丸まった背中は・・・ずっと木下に説明している澪奈達を見ていた。




「・・・では何者かによる攻撃・・・か?」「はい。ただ・・・飛んできた時、風が私達に届くまでは何も・・・」「私もです。澪奈より少し離れた所から見ていたのですが・・・。目を開けたら・・・」


 木下は楓花を見る。


「いや~、あたしもカッコ良く登場しすぎたかな?って思ってたら。既に戦闘終わっちゃっててビックリ」


 両手を広げて、肩を落として木下に話す楓花。どうやらウソではないと理解したのか木下は顎に手を添えて考え出す。


「どういうことだ?・・・他に誰かがいたという事だろうが・・・」「私達の探知する範囲には誰も・・・」「そもそも結界の外から来ましたからね~。そうなると初めから結界に気付いていた人じゃないと・・・」「その・・・モンスター達が生み出した結界はどうだった?」「突き破って中に入るのはそれほど難しくは・・・」「ただ・・・最近、練習している力でないとかなり厄介ですね。ましてやそこから私達の様に上書きするのはかなりの霊力を持った人でないと・・・」「茉莉ちゃんでは・・・?」「(フルフル)おそらく無理です」「外部と遮断する結界な上に、ここまで大勢の人を眠らせる特殊なモノなんて初めてです」「確かに・・・。ここまで外部に漏らさず一瞬で作り出せるというのは聞いたことがない。あるとしたらかなり強力な者が自分独自の空間を作る場合のみ・・・。今回、君達の所に出現したのは例のモンスター。そのモンスターがそれほどの結界を作り出す事など・・・」「無理でしょうねー。そう言うのは事前に張らせる何かを持たせていたと考えるのが妥当でしょうね」「遠くから座標指定は?」「強力なモノであるほど、特定の場所で力を溜めて使うか、近くに術者がいないと・・・」「やはり、そうか・・・」


 ふと木下は現場を見回し、そこである事について澪奈達に質問する。


「彼がその術者という可能性は?」


 木下は昂輝を見て問いかける。しかし、それについてはすぐに澪奈と鏡花から首を振る事で否定された。


「彼は一般人です」「とても術者とは思えません。そもそも彼からは霊力というモノがほとんど感じられません。もしこれだけ強力なモノを使用できるのであれば・・・。いくら隠すのが上手くともその波動を多少なりとも、私か澪奈がキャッチしてます」「という事は・・・。本当にただ、巻き込まれた民間人か・・・」「あれ?でも彼って起きていたよね?あたし達以外全員寝てる中・・・?」「それは・・・分かりません。私達が助けに入った時には彼以外誰も起きていませんでしたので」


 澪奈達は昂輝を見る。昂輝は自分が見られている事に気付いていない。その時には周囲を見回して澪奈達の視線には気付かなかった。彼が視線を澪奈達に戻す頃には、木下達は再びお互いに向き合い話し合っていたからだった。


「その結界の中でも動けると子供か・・・」「澪奈ちゃん達が言うように霊力ってのはあの子からあまり感じないんだろ?」「はい・・・。結界は強力ですけど不完全だったのか・・・」「あるいは彼がその力に耐性があったと考えるのが妥当ですね」「たまたまって事か~。・・・ま、犬に噛まれたと思って」「そんな簡単に納得できる事態ではないと思うんですけど・・・」


 そう言って軽く楓花が流そうとした所。黙って昂輝を見ていた木下が動き出した。


「あ、木下さん」「ちょい待ち・・・」「楓花、さん?」「ここは彼に任しましょ?私達はとりあえず念のため、この周囲を巡回」「ええ~っ」「はう~。疲れている所に追い打ちは・・・流石に辛いですよ」「あっはははは・・・。まあ、今回は私が主軸になって立ち回るから、澪奈と鏡花は警戒にあたって」「・・・はぁ」「了解です」


 やれやれと鏡花を見て澪奈は、先を歩いて行く楓花に付いて行く。そんな澪奈の後をトボトボと鏡花も付いて行くのであった。



「・・・ちょっといいかな?」「?・・・あ、はい」「・・・?ああ、私は木下浩太といいます。はい、一応警察手帳」「・・・はあ・・・?」「ちょっと不運なトラブルに当たっちゃったね・・・。今回は、まあ君のおかげもあって大きな怪我人はほとんどいなかったよ」「いや、俺は・・・その・・・」「ㇷ・・・。謙遜することは無い。君の尽力もあって被害を減らせたんだ。誇ってもいい」「・・・」「それでね今回の事なんだが・・・え~っと・・・」「白星昂輝です」「そうか。・・・白星君。今回の事なんだが・・・出来れば黙っていてくれないだろうか。君にとっては辛い出来事だったと思うが・・・」「いえ、構いません。どうせ信じてもらえないと思うので・・・」「・・・」「・・・何か?」「いや、失礼。あっさり受け入れると思ったものでね。てっきりもう少し、どうしてなのか理由を求めて来るもんだとばかり・・・」「それを聞いて答えてくれるのですか?」「答えられる範囲ならば・・・」「・・・」


 昂輝はゆっくりと木下から視線を前へ向き、外を眺めながら質問した。


「俺達が巻き込まれたのは・・・」「たまたま・・・としか言いようがないね。今の所は・・・」「・・・」「私もどうしてこんな大通りのすぐ傍でこんなことを相手が起こしたのか分かっていないからね」「・・・何時からこんな事を?」「?それは・・・戦いの事かい?」


 スッと昂輝は木下の目をジッと見た。木下はその目から真剣な質問をしているんだと悟り、普段ならある程度の情報開示で流して終わらせる所を今回は真剣に答えた。


「正確な年数は不明だ。遥か昔・・・それは紀元前から戦いは始まっているとも言われている」「この国だけじゃないんですか?」「世界中だ。世界中で今なお遥かな昔から現代まで、この戦いは続いている。そしてこれからも・・・」「あの人・・・」「?」「あの女の子達は・・・」「ああ、澪奈や鏡花達の事だね?」「(コクリ)・・・」「彼女達は昔から・・・この世界に蔓延る闇から世界の秩序、平和を守るために裏で戦う組織の家系でね・・・。まあ家柄、この仕事も引き受けているのさ・・・」「死ぬかもしれないのに・・・」「・・・フ」「なにか?」「いや。君くらいの年なら子供じゃないんだからといって世界に蔓延る闇なんてのはバカにすると思ったんだけど・・・」「体験・・・してますから」「そうだったね・・・」「・・・止めさせたりしないんですか?」「それは彼女達が決める事だよ。我々警察側も彼女達には世話になっている。本来なら子供が携わるの領分ではない。もっと将来の事を考えながら楽しい学園生活を歩んでほしいのだが・・・。実情はこの様さ・・・」「・・・」「すまない。我々、政府側が情けないばかりに・・・」「いえ・・・。誰でも・・・。どんなにやっても・・・何も出来なくなって悔しい時はありますから・・・」「・・・」


 木下は今回の戦闘に巻き込まれた昂輝が如何に恐怖に屈服させられ、悔しい思いをしたかをほんの少しだけ理解した。ただの一般人。それも前途有望な未来溢れる少年が、恐怖に打ちひしがれ、何もかもを奪われかけたショックは簡単には拭えないと思った。


「・・・私達の方でちょっとした暗示の様なモノをかけようか?」「暗示?」「催眠術だよ」


 だからこそ、将来の芽を摘ませないために提案を木下は持ち掛ける。


「今回の事はほとんど記憶に残らない様に忘れさせるんだよ。もちろん今回、巻き込まれて救急車に搬送されている人もそうだよ。まあ大怪我しちゃった人は何らかの別の事故を起こしたって記憶を植え付けてすげ替えちゃうんだけどね」「・・・なるほど・・・。理解できない出来事よりも、現実にありそうな事故で納得させて忘れさせる」「呑み込みが早くて助かるよ」「それは夏奈・・・妹にもかけるんですか?」「気絶して眠っているうちなら、結構簡単にかかりやすいからね。上手くその間に忘れてもらうんだよ」「ただの催眠術じゃないんですね」「まあ、そこは・・・裏で私達も暗躍している立場だから・・・」「フ・・・。胡散臭いです」「ははは・・・その通りだね」「・・・」「どうする?」


 木下は昂輝の答えを黙って待つ。事態は上手く収拾しつつある。簡易の人払いの結界と警察の巡回により不用意に、周囲に住んでいる人以外は来ない。住んでいる人もこんな出来事と警察官や救急車が集まっている中なのに、まるで何かあったのが不思議には思う程度で留まり、スマホで撮影などもせずスッと住んでいるマンションへ入って行く。そんなちょっと考えたらおかしな光景ばかりの中。昂輝はゆっくりと閉じていた目を開いて木下を見て答える。






 【十時影 純 (クリス)】15才 人間・・・かな~?(進化)

 レベル 13

 HP 171 MP 156

 STR 89

 VIT 79

 INT 81

 RES 75

 DEX 95

 AGI 87

 LUK 23

『マナ(情報体):レベル 5 』『波鋼:レベル 5 』『質量拡充:レベル 1』

『魔法:水、風 』

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