17 お祭りと誰かの笑い
「お祭り?
それじゃあ、今夜の・・・」
「ごめんね。
・・・今夜というか、当分の間、宿は満席になってるのがほとんどかな?・・・」
「そ、そんなぁ・・・」
落ち込むクリスに、ローナとミュリーも困り顔になってしまった。
「さすがにこんな小さな子を、外に放置するのは・・・」
「うん。
そうなんだけど・・・そうだ!」
「「?」」
「キミ、宿じゃないけど・・・泊まれる場所があるかもしれない」
「ホントですか!?」
「うん、うちのギルドが支援している孤児院だけど・・・・」
「・・・えっ?」
また孤児院かよっ!
クリスは心の中でツッコミを入れていた。
「ああ~、あそこなら確かに大丈夫だと思うよ。
今は十分空きがあったはずだから」
「そー。
だからね?
宿じゃないけど孤児院だったら紹介できるから・・・どうかなボク?」
「(まあ、この際、野宿さえ何とかなればいいか)・・・はい、是非それで!」
「わかったわ。
じゃあ、ここを切り上げるから少し待ってて。
・・・ミュリー、私今日はもう上がるから、あとお願いねー?」
「・・・まだ朝だけど・・・。
ギルド長が許可すると思うからいいか。
わかった、私から言っておくね」
「ありがとう。
少し待っててね。
すぐ用意するから・・・えっと」
「・・?、あ!クリスです」
「そう、クリス君ね。
じゃあ、少し行ってくるねー」
そう言ってローナはカウンターの奥に消えていった。
ひとまずこれで、今夜の泊まれる場所を確保?できたことにクリスは安堵した。
そして、ミュリーに礼を言った。
「じゃあ、行きましょうか?」
ギルドの専用の服から私服に着替えたローナが声をかけてきた。
「あ!はい。
・・・あの、ローナさん。
ありがとうございます」
「ふふふ、いいわよこれくらい。
むしろ、ここで、クリス君を放置するほうが私が気にしちゃうから・・・」
「はあ。
・・・あの、普通は・・・こういう子供とかって、スラムみたいに放置されたりすると思うんですけど、厄介ごとになるって、だから孤児院に入るのだって無理な時もあるって、聞いたことがあるんですが?」
「うん。
それは、たぶん貴族の領地としての力が強い場所には、権力が強いところには・・・たまにあるって私も聞くわ。
でも、ギルドや教会のような宗教としての力がある場所は及ぶところには支援する場所や地域がほとんどで、孤児院に預けられ、一定の年齢まで責任をもって受け持つの」
「大人まで?」
「そういうこと。
さ、じゃあ行きましょうか」
2人はギルドを出てローナの紹介する孤児院に向かった。
「あの、孤児院ってそんなに子供とかたくさん集まったら、危なくないんですか?
人攫いとか・・・」
「うん、そうなの。
だから、教会だけじゃなくギルドも協力することになってるんだよ・・・」
「どうして?」
「それは、``冒険者は夢とロマンを追いかけるもの。
しかし、語り継いだり引き継ぐ後世を担うのはその時代の子供たち、その孫、ひいてはその子孫たちである。
いつの時代の引き継ぐ者たちがいないものには誰もついて来ない``っと言った昔の人がいてね?
それ以来、ギルドは定期的に孤児院を支援するだけでなく管理、保護、または問題が起きたときはギルド員のみならず、冒険者から有志を募って助ける仕組みができたの・・・と、キミに言っても難かったかな?」
「いえ、大丈夫です。
それを言った人はすごかったんですね」
「そうよ、だからか、冒険者の中には・・・私が知ってる範囲でだけど、3割ぐらいは孤児院から冒険者になった子がいるそうだわ。
一種の伝統みたいになってる感じね」
「へ~」
そんな話をしながらローナの案内で孤児院へ歩いて行った。
「あ!ローナおねえちゃんお帰りなさい!」
「おかえり」
「おかえり、ろーらおねえちゃん」
クリスと同じくらいの子がたくさん孤児院の前の庭から駆け寄ってきた。
(人間、獣人、エルフ、リザードマン系かな、こっちは、・・・小人族かな?
身長は人間とほとんど変わらないけど、雰囲気が違うな・・・なんだろ?
マナが違うのかな?・・・こっちはドワーフかな?)
クリスが種族をなんとなくでも見極めているのは体内マナの特訓のおかげで、かすかに種族ごとに違いがあり、性質を感じられているからである・・・が、本人はまだ体内マナの向上により感知してるとは気づいていない。
今回もそれとなしに試してみただけに過ぎなかった。
他にもハーフエルフや羊の角をした子供と、30人くらいはいそうな感じだった。
ステイメッカの軽く2倍以上は子供たちがいた。
「みんな、ただいま。
いい子にしてた?」
「「「「「うん!」」」」
子供たちは元気に答える。
そのすぐ後に近くにいた、おそらく世話係の神父と孤児院の扉から2人のシスターが出てきた。
それと1人、私服姿のエルフの男が出てきた。
「あれ?
ローナ、ずいぶん帰りが早いが今日はどうしたんだ?
忘れ物か?」
「ううん、ロッシュ違うの。
この子が今日泊まる場所がないから、ここの孤児院を紹介したの」
「その子か?」
ロッシュと言われたエルフの男性はクリスを見て、少し間を開けた後、首を傾げる。
「そうクリス君っていうのよ?」
「ここに泊まる・・・保護したのではなくて?」
「そう。
何でもクリス君は世界を見て回りたくて旅をしてるんだって。
すごいでしょ?」
「・・・確かにすごいが、こんな小さな子が旅を?」
「そうよ、さっき私も聞いて驚いたんだけど。
彼、仮冒険者にも登録してるし・・・それにステイメッカの町からここに来たんだって!」
「は!ステイメッカからっ!・・・1人で!」
「そうなのよ。
最初は冗談で、誰かに連れてきてもらったのかとも思ったんだけども自分1人で来たそうだわ」
「・・・、それは・・・すごいな・・」
「でしょ~?」
何やら親しげに話す二人にクリスを含む子供たちは置いてけぼりをくらっている。
驚いていたのは、ローナ達とその話を聞いていた世話をしている神父とシスターの3人の大人達だけだった。
「あの?」
「?、ああ!ごめんね!
まだ紹介してなかったね。
彼はロッシュ。
私の幼馴染で、この孤児院の責任者で自称研究科なの」
「自称は余計だ。
初めまして・・・クリス君だっけ?
ローナが無理やり連れてきてしまったかもしれないけど悪かったね。
彼女は、子供たちが辛い目にあっていると、考えなしに助けようとするから」
「ははは、なんとなくわかります。
その感じ」
「・・・キミは幼いのにずいぶん利口だね?」
「そ、そうですか?」
「うん。
なんていうか、とてもしっかりしてて大きい子を相手にしてるようだ」
「・・・ははは。
そうかなー?
(や、やべー!向こうの町や孤児院ではそこまで何も言われなかったから意識してなかった。
き、気を付けないと)」
内心バクバクしながら、適当に話を流すクリス。
「そうねー。
だから、1人で旅をしても大丈夫だったのかもしれないね?」
「そうかもしれないね」
ローナとロッシュの2人はくすくす笑った。
少し離れたところでは、少し年上の子供から神父たちがにやにや笑っていた。
(もしかして、あの2人・・・)
クリスも周りの反応から何となく察しがついた。
クリスは孤児院に泊めてもらえるようになった。
そしてその夜。
クリスは狭いが専用の個室を借りて、そこに荷物を置き、孤児院全員での食事に呼ばれ夕食に招待された。
夕食は、パンが数種類、盛沢山。
スープにサラダにフルーツと。
個々の食事もステイメッカの孤児院と同じく、周りからの援助を受けられているらしく、食べ物も服もベットのシーツとかも、生活面で困ることはなかった。
(たまたまかもしれないが、昔の地球並、いや現代もか。
ひもじく、生活に困窮することがないって、ほんと素晴らしいな!)
改めて自分の境遇は悪いことばかりじゃなく、たくさんの人に助けられてると実感しクリスは感謝した。
「そういえばクリス君は、どうしてこの町に?」
「え?」
ロッシュが質問してきた。
朝から夜にかけて、色々とやることがあったロッシュは、クリスにここに来た理由を聞きそびれていた。
クリスはローナに案内された専用の個室で荷物整理をして、その後、昼食をいただくと、その流れでローナに連れられ、この町の説明と孤児院の子供たちと遊び&質問の嵐にあっていた。
そのため気づくと夜を迎えていた。
「クリスはね、ギルド長に言われたんだって」
「行くなら、ここが良いって」
「だから来たんだって」
クリスの代わりに子供たちが事情を話す。
「・・・なるほど。
・・・ギルド長が・・・ギルド長!」
ロッシュは驚く。
その驚きで強くテーブルをたたいてしまって、何人かの子供に怒られた。
「いんちょー、ぎょーぎわるいー」
「「わるいー」」
「あ!ご、ごめんっ」
ロッシュがシュンとした。
孤児院の院長も形無しだな。
子供たちに注意されて落ち込む姿につい微笑んでしまうクリスだった。
「・・・でも、ギルド長に言われたって・・・。
クリス君、よっぽどすごかったのね」
「?、何がですか?」
「クリス君。
ギルド長が、このアスーティを君に教えたのはそれだけの力があると踏んだからなんだよ。
じゃないと、ここに、いきなり行くようには言わないよ」
「ど、どういうことですか?」
「あのね?クリス君。
この町から君が居たステイメッカまで、大人でも2週間はかかる距離なの。
まして、君みたいな幼い子がここに来るとなるとよくて3週間、長くて1ヶ月は掛かってしまうの。
だからね、普通は最寄りの村か街によってからここに来るの。
・・・クリス君?
ここに来るまでに、どこかの村に寄った?」
「・・・いえ、道なりにまっすぐに・・・この道にしたら早いく着くとギルド長が・・・」
「・・・たぶん、歩道もされてないような、早馬で緊急時に大きな町に知らせるための道を教えたんだと思うの・・・」
(・・・あの、いい加減やろうー!)
顔には出さないが、内心はどす黒い感情がわきそうになっていたクリス。
少しだけ怒りが心の中で毒を吐いてしまう。
なぜなら、これを知ったときどんな顔をするかで笑っていそうな・・・いや、確実に笑っているステイメッカのギルド長の顔が浮かんだからだ。
「・・・君の反応でわかったよ。
知らされてなかったんだね・・・」
「・・・は、はい・・・。
んぐっ・・・ナ・二・も!」
つい、声に怒りが外に漏れてしまうクリス。
「は、ははは・・まあ、無事ここにたどり着いたんだからよかったじゃないか」
「そ、そうね、よかったわ。
たどり着けて」
ロッシュとローナはクリスに気を使い慰めた。
そんな、ちょっとした衝撃情報を聞きながらも楽しい食事となった。
食事も終わり、まったりとした時間。
クリスは気になっていたことをローナに聞いた。
「あの?
この町でお祭りがあるんですか?」
「?
ああ!センリュウ祭ね!」
「センリュウ祭?
(川柳?、俳句?
いや、そんなわけないか)」
「そうセンリュウ祭。
ここアスーティは他国との中継点でもあり、港からもたくさんの人や物が運ばれる、大きな町なの。
それだけここは、人が多く集まる街なのよ。
それは、この町の近くにいくつものダンジョンや遺跡なんかも眠っていてね。
そのお宝をめぐって日々、ダンジョンに潜る冒険者も数知れず。
そこから、たまにいくつかのアイテムが街に入ってきてね。
それを、お祭りの時に、いくつか持ち手のない商品をめぐってちょっとしたレースをするの」
「レース?」
「そうよ。
それとちょうどこのタイミングに、ダンジョンから異常発生したモンスターによるスタンピードが起こるから、それに合わせて開催されるの」
「へー」
「レースは色々、内容によってルールが変わったりするけど、概ね大体同じになるから、どれだけ多くのモンスターを狩ってこれたか。
どれだけ、モンスターの結晶の数、大きさを手に入れてきたかの2つになるわね」
「はあ」
「今年も、もうすぐスタンピードが発生する時期だから、それに備えて冒険者が遠くからたくさん来てたり、それ見たさに観光客がたくさん来たりするのよ」
「なるほど」
「それに、合わせて行商人も、たくさん来て新商品とかを紹介したり売ったりするの。
そうやって、いろんな国から人が集まってくるから、いつもこの時期は宿が満席になるの」
「あー、そういうことか」
「そっ。
まだ、時期に少し早いけど、先に宿に予約の手紙なり何なりと通達して手配を取っているお客さんも結構いるのよ。
だから、クリス君が来たタイミングは良かったとも言えるし、悪かったとも言えるのよ」
「はー、そうだったのかー」
(なるほど。
そんなすごいお祭りが始まるころに来たわけか・・・。
なんだろう、誰かの作為的なものを感じるのは気のせいか?)
どこかで、とても野性的で豪快な笑いをしてそうな人が浮かぶクリスだった。
【クリス】3才
レベル 20
HP 128 MP 73
STR 49
VIT 37
INT 40
RES 34
DEX 56
AGI 43
LUK 32
「クリス、今頃驚き喜んでいるだろうなー」
「ギルド長。
クリス君に教えた道ってアスーティ以外に村や町ってありましたっけ?」
「ん?そりゃもちろん、そうだろう。
じゃないと、子供の足では早くとも3週間は掛かるからな」
「・・・自分の足では1週間って、おっしゃってましたよね?」
「・・・ああ、言ったぞ?俺の足なら1週間と」
「・・・一般のオトナで2週間ですよ?」
「まあ、それぐらいだな」
「・・・」
「あの坊主は元気にやってるかなあ?」
「・・・・・・・・・」




