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転と閃のアイデンティティー  作者: あさくら 正篤
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176 やったもん勝ちとは言いますが・・・それは見方によりません?

「ははは・・・。案外やるんだね~?」「お褒めに預かり光栄・・・ですけど~」「調子に乗んじゃないわよ!」「おっと」


 攻撃をスルスルと避けながら話しかける子供。そんな子供に上手く躱され続けての上から発言に、翼が腹立たしそうにする。それは來未も少し同じ気持ちだった。だが子供も決してウソを言っているわけではなかった。絶好のタイミングを上手く外されているからだった。隙を突いて攻撃しようにも、一歩踏み込みが足りず、カバーする様にもう1人が入ってくる。そのために、高速での斬り結びが何度もあった。


「・・・何をしてるのかしら?」「(フルフル)」


 一般人の美月と紅百葉には何が起きているのか分からなかった。何かが高速で入れ替わり立ち代わり、動いては、離れていく。そして再度ぶつかり合うの繰り返し。少しだけ止まる瞬間は人の姿を視認できるが、動いている最中のちょっとした反動で遅くなった瞬間のみだった。


「(ふーん。思ったよりは本当にやるようだ。まあ、もう少し力を引き出せば勝てるから問題ないけど・・・)」


 チラッと薄紫の結界を見る。さらに切り裂かれた箇所を見て、考え込む。戦闘を続行しつつも思考は別の事を考えていた。


「(結界の実験は範囲を広げると、弱くなったり薄くなったりする場所がある事か。自動修復っぽい事を話していたけど・・・そうでもないのかな?まあ、今はとにかくいいか。問題は・・・)させないよ?」「ぐうっ!」「ああ~ん、もうっ!」


 翼と來未は戦闘をしつつも、お互いに意識的に場所を誘導させ、美月と紅百葉にこの結界の外へと避難させるつもりだった。しかし、その事に気付いた子供によってすぐに美月達の傍まで戻って来てしまう。


「そこのサンプルを放り出すわけないでしょ?そもそも結界の外に避難させても意味ないと思うんだけどな~」「それはどうでしょうね。こっちにもあんた達が簡単に侵入できない場所に匿うって方法は取れるのよ?」「あなた方と同じで~。協力者はちゃんといますから~」「それって軟禁って事にならない?」「あんたに言われたくないわよ!」「サンプルって言ってる時点で碌でもありませんよね~?」


 翼が大剣を振るうが子供は簡単に剣の腹を殴って逸らす。すぐに反転して回転斬りで返すが、片腕で受け止めた。そしてそのままはじき返すと殴り掛かるが、首に目掛けて横から振るって来た來未の鎌を避けるために上体を反らして回避。滑るように動き前方へ翼の方へと移動。そのまま戻ってくる反動を乗せた拳を翼に叩き込もうとするが、翼は上空へと回避。避けられた子供の拳は深々とコンクリートの地面を大きく抉り粉砕、クレーターを作った。


 現在、学校の校門から少し中へと移動して並木道の横の運動場の近くへと移動していた。いや、正確には移動させられていた。子供のせいで強制的に結界の奥へとじわりじわりと押し込まれているのであった。


 粉塵が巻き上がるクレーターの真ん中で腰に手を当て、大きく凹んだ地面から見上げる様な形で子供は翼達を見た。


「それは違うよ~。ちゃんと僕達は世界の為に動いているんだよ」「はっ、どうだか」「とても信じられませんね~」「彼女達がせっかく自分の意志で別れを告げてこっちに来てくれるところだったのに・・・」「強制でしょ?」「従わないと殺す~とか脅して~」「ありゃ?分かる?」「だから言ってるじゃないですか~?碌な事がないって~」「あんた等のは世界の為じゃなくて自分の為でしょ」「う~ん・・・。(ボソ)一応、本当の事なんだけどな~」


 笑顔になって困った様に頬を掻く子供。



「・・・紅百葉。・・・クラスメイトなのよね?」「(コクリ)転校してきたばかりで・・・それ以上は知らない。話した事・・・ないし」「・・・まあ、こんなビックリ人間がいたら世界中の人が驚きそうよね」


 異変から先ほどまでの戦闘を見た感想として美月と紅百葉が思ったのはそんな他人事の感想だった。あまりにも突拍子もない出来事の連続で若干、麻痺していた美月と紅百葉は、少しだけ冷静に慣れる状態になれた。そして今更ながら驚いてしまっていたのだ。


「まあ君達みたいな一般人には縁の無い事だからね」「「っ!」」


 いつの間に近くまで来ていたのか驚く美月と紅百葉。しかしすぐにその横を鎌が通り過ぎ。それを飛んで回避しながら、ゆっくりと反転して美月達の方を向いて着地した子供。振り抜いた鎌を持ち直しながら少し難しそうな顔になる來未。


「むー。油断も隙もありませんね。そういうストーカー行為はどうかと思いますよ~?」「別にそこまでの行為は取っていないと思うけどな~」「そうやっ、って!自覚ない!もんっ、がっ!危ないんでしょっ!」


 翼が子供に猛追して大剣を振りまくるが、スルスルと避けながら子供は抗議する。


「おいおい。止めてくれよ。僕がそこまで、そこの子達に執着するタイプに見えるかな?」「現に今、がっつりっ、っと、逃がさない様にしてるでしょうが!」「そうですよー。どこが違うのか教えて欲しいでっ・・・すう~っ!」


 子供は、避けては攻撃に転じるがその度に翼と來未が交互に上手くカバーし合い。服を裂き、少しだけ怪我を負わせる程度で確かな攻撃を入れられていなかった。もう少しという所で、別の方向からの攻撃に対応せざるを得なくなってしまっていた。しかし、子供にとっては遊びの様なモノなのかその顔には笑みが零れていた。


「ははっ、やる~。ここまで上手く攻撃を凌いでくるとは思ってもみなかったよ。もう少し早い段階で根を上げると思っていたのに」「はっ。・・・余計なお世話よ」「まだ、やれますよ~?」


 口ではそう言っているが翼と來未の方が上下していた。そろそろ息が上がり、攻撃の精度が落ちてきていた。しかし、強がって見せる。単純に馬鹿にされ続けているのが気に入らないから。

 子供は子供でとっくに気付いていて、手を抜いて楽しんでいた。あと2、3分もこの高速戦闘を続けていれば、いつでも向こうから大きな隙を作ってくれると分かっていたからだった。例え少し呼吸が整った所で、気付かない内に溜まって来た疲労はじわじわと効いてくることを知っているからだった。


「しっかし粘るね~君達。だけど大丈夫?このままだと」「うっさいわねー。コッチはあんたの攻撃をまだ1撃だって受けてないのよ。勝手に勝った気になってんじゃないわよ」「確かにかすり傷ばかりだけど・・・」「それに・・・アンタの方は大したことはないわよね」「?」「この前戦った~。口だけモンスターさんの方が手ごわかった気がします~」「・・・ぁ?」


 一瞬、分からなかった子供。しかしすぐに気付いたのか、先ほどまでの笑みは無くなり。口元は笑っているがその目には殺気の様なモノが混じっていた。


「・・・ああ、なるほど。君達はあのオモチャと戦ったことがあるのか・・・」「趣味の悪いモンスターだったわよ」「まあ、最後には勝ちましたけどね~」「ふーん・・・そう。・・・あんな雑魚のオモチャと、僕は同じ・・・」「同じじゃないわよ。下だって言ってるの」「・・・ふふ。強がりにしてはくだらない冗談だ」「・・・翼」「っ」


 先ほどとは比べ物にならないくらいの濃度の濃いマナが子供から放出される。


「こんな事で怒るのもバカバカしいが・・・。君達みたいなガキが、あまり調子に乗るのもいただけないか・・・。ちょっと教育が必要かな?」「・・・はっ。素が出始めてるんじゃない」「随分と悪趣味な容姿ですね~」「これは仕方なくだよ。長年、生きてると・・・年老いた体では色々と不便だからね」「(ボソ)やっぱり老人だったんじゃない」「(ボソ)まあ、あれだけネットリとした年季の入った魔力は、それなりの年だとは分かっていましたけどね~」「・・・ふん。もういいだろう。コッチも色々とやる事は済んだ。ここらで君達の死体を、後からくる目撃者にプレゼントして、引き上げるとしよう。どちらから来る?」「「・・・」」「そうか・・・。ではこっちからっ」


 そう言って翼達に襲い掛かる子供の速度は、翼達でも姿を捉え切れず。あまりの速度に自分の体が粘土の中にいる様な、鈍重な感覚に襲われる。それは一瞬の竦んでしまった、筋肉の収縮による所も大きく、翼達クラスになれば、その一瞬が致命的な遅さを生む。


「「っ・・・」」


 目ではしっかりと追えているが、それはあくまで子供が立っていた場所と、今、自分達に届きそうな所が残像の線が見えているだけだ。


「(死・・・)」


 一瞬、翼の中にそんな言葉が過ぎる。しかしそんな事は訪れなかった。突然、高速で向かって来た子供を横から殴り飛ばすような物体が飛んできたからだった。


「ぇ」


 ドガアアアアアアンンン・・・!!


 運動場へ飛んで行く子供。そして翼達のすぐ横を通り抜け、地面を滑る止まったものを見た時、翼と來未の心には安堵の色が出た。しかし本人達は決して認めない。


「大丈夫か?お前達」


 特殊な警棒を持って現れた所属会社の社長、芽木白彰隆がゆっくりと立ち上がり。肩に警棒を乗せて振り返る。そのどこかゆるくだらしなさそうな雰囲気を纏わせながら、口元の笑みを見せるその姿が翼と來未を安心させていた。


「お、遅いわよ!何してたの!」「そうですよ~!社長なんだったら社員を大切にするべきです!」「お前ら・・・。自分からノリノリで勝手に・・・。はぁ、まあいいや。それよりも・・・まあ、ケガはしているけど無事なんだな?」


 服が少し破け、微かに血が滲み出ていたが。2人の目から諦めの色は見えなかった事に安心する彰隆。


「ちょっと、どこ見てるのよ変態!」「セクハラですよ~?楓花さんに訴えますよ~?」「ちょっ、助けてもらっておいてその言い草はないんじゃない!?」


 破れた箇所を手で隠し、怒る翼と來未。その顔は少し赤くなっている。


「っと、そんな事より・・・。どうなってんだこれは?」


 彰隆は学校中を囲む大きな薄紫の膜を見ながら聞く。


「知らないわよ。さっきアンタが吹き飛ばしたあいつがしたんじゃない?」「?」


 翼の指を指す方向に振り返る。運動場は土が抉れ、さらに砂埃を上げた向こう側で口元から、ちょっと垂れた血を手で拭ってこちらを見ている子供を見つけた。


「ありゃ~。思ったよりも頑丈過ぎない?アレ」「ちょっと手強いわよ?手を抜かないで頂戴?」「(いや。結構、強めに殴ったんだけど・・・)」


 翼達の見えない所で若干冷や汗を掻く彰隆。


「社長がいるなら、私は紅百葉さん達の護衛に付いた方がいいでしょうね~」「ん?」


 來未の言葉に釣られて振り返った時、自分達の少し離れた所に立つ美月と紅百葉を見つけ。彰隆は止まってしまった。


「・・・?彰隆」「どうしました~?」「・・・・・・イイ」「「は?」」


 その顔はもはや、翼達に眼中がないのか、ずっと美月と紅百葉を見ていた。


「(あっちの女の子を庇っているように見えるのはお姉さんか・・・。明るく、優しそうでとても綺麗なお姉さんだ。私服だけど・・・あ、もしかして成人なのかな?それだったらお近づきになりたい。もう1人の子はまだ学生の妹さんか・・・。物静かな感じがしてとても可憐で、それがまた良い。どっちも既に美人なのに、更にこれ以上、美しくなるのか・・・是非ともお近づきになりたい!・・・ん?ああの2人は確か・・・)いでっ!」


 彰隆は突然、足に強烈な痛みを感じしゃがみ込んだ。


「なにっ?!・・・った~~」


 蹴られた膝辺りを擦りながら、蹴って来た翼を見る。翼の横には來未も並ぶように立っていた。


「・・・なに?」


 無言で腕を組んで見降ろす翼と、両手を前に下ろして笑顔で見下ろす來未。見上げる彰隆の視線からは若干目の辺りに影が差していて、怒っているようにも見えた。彰隆は何か凄みの様なモノを感じて顔色を伺うように聞いてしまう。


「別に・・・ただ」「ただ・・・そう分かり易く鼻の下を伸ばされますとー・・・こう」「いや、ちょっと待って。俺は何が起きたのか、彼女達が無事なのかも確認しただけだよ」「どうだか・・・。それにしては随分としっかりと凝視していたように見えたけど?」「社長が女にだらしないのは知っていますが・・・それにしたって」「いや、ホントちょっと待ってよ!」


 必死に両手を翼達に出してジェスチャー混じりに弁解を要求する彰隆。


「・・・姉さん。あの人は古野宮さん達の知り合いなのかな?」「う~ん、たぶんそうなんじゃない?何か必死に話し合っている様だけど・・・」「ケンカしているように見えるけど」「・・・とりあえずこのままここで待っていましょ?紅百葉のクラスメイトの邪魔にならない様に」「・・・うん」


 美月と紅百葉は不用意に今いる場所から動くと却って、周りに危険があると思い。事の成り行きを見守るのだった。・・・また、違う意味で遠くから見ている者が1人。


「(血を出したのなんて何十年ぶりだ?油断したな。・・・しかし、何者だ?私の動きに付いて来られた。・・・あの警棒・・・少し変わっているが確か日本の特殊警察組織の武器だったな。確か・・・防衛界誓なんて陳腐な名前だったか?)」


 遠くの方で騒いでいる3人の声を聞きながら、子供は自分を吹き飛ばした新たな侵入者を観察していた。そしてゆっくりと彰隆達の方へと歩いて行く。わざとらしい拍手をしながら。その音に気付いた彰隆、翼、來未は言い合いを止めて子供の方へと振り向く。


「いや~、なかなかいい一撃だったよ。それに、ちょっと痛かったよ」「((ボソ)ちょっとですか)そりゃどうも。俺的には出来ればあんたとは戦いたくないんだけど・・・」「ちょっと何言ってるのよ!」


 翼が少し焦って驚いた声を上げるが、彰隆はそれを無視して子供を観察する。視線を外さず、ちょっと余裕を見せる様に口角を吊り上げて。


「できれば・・・。ここで退場してくんない?」「・・・」


 口調こそ軽いものの、決して油断はしていなかった。先ほど殴った時に感じた感触。そして吹き飛ばした後に、平然と立っている姿。そして近くまで来て、相対した瞬間。初めから見た目通りの子供ではない事は分かっていたが、こうして観察する事でそれは確信へと変わっていた。明らかに子供ではない。自分よりも明らかに経験を積んでいる、重く殺気の籠った膜の様なモノに覆われた何か。とんでもない化け物なんじゃないかと感じていた。


「こういう仕事しててなんだけど。アンタみたいな化け物を出来ればあまり戦いたくないんだよね~」「彰隆!」「社長!」「どういう理由があって、こんな事してんのか知りませんけど・・・。もう帰ってくれません?」「・・・」「もう十分、騒ぎは起こしたでしょう?ここらで、度量の大きさをみせ」「君達は・・・」「ん?」


 黙って聞いていた子供は先ほどまでの雰囲気から一変して、まるで大人の様な雰囲気を醸し出す。その見た目とは裏腹に、その立ち振る舞いは堂に入っていた。


「君達はこの世界をどう思っている?」「どうって・・・また偉くスケールの大きくて、漠然な・・・」「私はね・・・この世界はオモチャ箱だと思っているよ。強大な何かにとって、都合よく生み出されてくるオモチャ箱」「・・・」「僕達は遊ぶモノ達にとっての駒の1つでしかないんだよ。どこかで暗躍して企業を裏から操るなんて簡単。本当にそれを望むモノが力を貸せば・・・世界は如何様にも変えられる・・・楽しいゲーム・・・」「・・・それは怖いな」「誰も気付かない内に、賽は投げられ、それは新たな変化としてもたらされる。自然災害すらもその一部として・・・」「・・・」「そんな世界にいて、僕達は生きているのか・・・生かされているだけなのか・・・。君達はどう思う」「・・・。ああ、つまりなんだ?お前は世界の救済とかしてるとでも言いたいのか?」「救済か・・・。当たらずしも遠からずって所か・・・」


 子供は何がおかしいのか鼻で笑って首を振った。そんな姿に彰隆は真剣に聞いているのかいないのか、耳の穴をほじりながら答える。


「お前達、支配組織側のやっている事は・・・結局、自分達のための都合のいい訳だろう?そんなののどこに世界の為なんて言葉が出てくるんだか・・・」「貢献して世界がもっと生きやすく。それによって我々は生き延びられる。その努力をして何がいけない?」「犠牲の間違いだろ?我々と言っても誰にとってだ?努力の方向性が違うんじゃねえか?」「ふふふ。間違ってはいないさ。我々は選択をしなければいけない事の連続。ならば・・・今後も我々は存続するための努力、貢献は惜しまないつもりだ。私もその1人であり続けたいだけだよ」「・・・話になんなかったか・・・」「ふう・・・残念だ。君とはそこまで悪くない関係も築けそうだった気がするんだけどな~」「買いかぶり過ぎですよ」「そうかね?」「ええ」


 彰隆は最後の言葉を言い切った瞬間には子供に攻撃を仕掛けていた。子供は片手で受け止めると反対の手で殴り掛かる。彰隆もすぐに反応し、間合いの外へ。そして再び接近。上手く子供との身長差を活かしてヒット&アウェイの様に動きながら攻撃を仕掛けていく。


 ガンガンガン、ギン・・・。ガン・・・ガガガガガガガガガガガガ・・・・・・!!


 超接近型のラッシュの様に付かず離れずで戦う。


「へ~。君があの娘達に戦闘方法を教えたのかな?戦い方が似ている」「違うけど・・・まあ、似た様なもんかもな?」


 入れ替わり立ち代わり、動くその姿に翼と來未はちょっと悔しそうだった。


「あいつ・・・何であんな強くなってんのよ」「この前。楓花さんと修行のしなおしとか何とか言って取れていかれましたからね~」「アレ、デートじゃなかったの!?」「そんな事は1ミリも無いって社長は言ってたけど。うーん、怪しかったのですがー・・・。あの様子だと本当のようですね~」「へ~、あの彰隆が~・・・」「可愛い系でも美人さんでもイケると思ったチャンスには飛び込むタイプだと思ってたんですけど・・・」「ちょっと意外だわ」「ちょっと君達。聞こえてるんですけど!」


 戦いながらも翼達の声をしっかりと聞いていた彰隆。一旦、距離を離したことで振り返り、抗議する。


「俺は大雑把な奴はイヤなの。寝込みに刀を振り抜いて襲ってくるような危険生物こっちから願い下げだ!」「・・・今の話、楓花さんに言っておくからね~?」「ああ!どうぞお好きに!」「(ボソ)かなり本気の様ですよ~?」「(ボソ)ゴールデンウイークに何があったんだか・・・」「(ボソ)きっと、あまりに最近だらしなかったから少し厳しめに、鍛え直したのがいけなかったんでしょうね~」「(ボソ)それって結局。彰隆の自業自得じゃない」「(ボソ)まあそうですけど~。本人にとっては納得がいかないみたいですよ~」「(ボソ)はぁーっ、子供ー・・・。木下さん達が仕事を振ってくれなければ経営はもっと苦しいものだったって佳胡さんが言ってたのに」「(ボソ)ねー?」「ソコ!ヒソヒソ話でも、お兄さんへの悪口って事は何となくわかるからね?!」


 警棒をぶんぶんと翼達に向けて振りながら抗議する彰隆に、小声での話は止めて単刀直入で質問した。


「じゃあ、楓花さんは何とも思わないって事?」「ああ、そうだ。あいつは仕事上のパートナーみたいなもんだ」「あんなに~。美人でスタイルも良くて~。ちゃんと面倒も見てくれる人でも~?」「そ・・・・・・そうだよ」「何で間があったのよ」「それにどっちかって言うと・・・そういうのは・・・」「・・・」「あぶなっ!おい、今マジで振り下ろしてきただろ」「何の事?」「いや明らかに、あぶねっ!・・・おい、來未。何でお前も攻撃してくるんだよ!そういうのはアッチにしてくれ」


 彰隆は少し離れた所で立つ子供を指し示して怒っていた。しかし翼と來未にはそんな事、関係なかった。なぜなら一瞬、彰隆が言い含めた時、チラッと視線を向けた先は翼達より離れた後ろで、立って事の成り行きを見守っていた2人の女の子。美月と紅百葉を見ていたからだった。


「いくら何でも身内から犯罪者を出すわけにはいかないでしょ?」「そういうのは~。あちらの子供の姿をしたストーカーで十分ですよ~?」「俺を殺したら、お前が犯罪者に・・・。って言うか、あいつストーカーなのか!」


 違う衝撃に勢いよく振り返る彰隆。


「勘違いしないでいただきたい。僕が求めているのはこの結界内でも動けている一般人だからだよ」「?」


 彰隆は、そうなの?っと翼達に振り向いて確認を取るが彼女達も分からないためフルフルと首を振った。


「この結界はね・・・。外との空間を断絶するための・・・まあ、実験の様なモノなんだよ」「おいおい、それって重要機密に入ってるんじゃねえのか?」「構わないさ。どうせ君達が知った所ですぐに死ぬんだし問題ないよ」「あ、勝てる事は確定なのね」「もちろん・・・。それで、この結界なんだけど、まあちょっと特殊な力・・・霊力って言うよりは魔力って言うのに近いのかな?そういうのを使ってどこまでの範囲を空間内に閉じ込めるのか、またここで起きる事はどの程度、外と中、両方に影響を及ぼすのかを実験したかったんだよ」「ふ~ん・・・。で?効果は?」「この学校と隣の大学分くらいは一瞬で覆う事が簡単になったよ。それも外や中とが干渉できない様にするくらいには・・・」「その割には私達は入って来れたわよ?」「そこは・・・まあ、実験段階だし。改善点として報告すればいいかな?」「・・・白星さん達を狙う理由は・・・?」「白星?・・・ああ、サンプルの事を言っているのかな?彼女達はこの結界内で2人だけが起きていた存在だからだよ」「起きていた?」「ああ、そうか。君達は見ていないのか。この結界内で起きているのはココにいる者達だけだよ。後はぐっすりと眠っているよ」「・・・もしかして・・・彼女、白星さん達は起きていたから狙われたって事?」「ふふふ・・・まあ、有り体に言えば・・・」「それって、もし彼女達の寝ていたら・・・」「まあ、放置していたか・・・。僕の気分次第だったけど・・・全員連れ去って実験台にするつもりだったかな?」


 その顔からはとても楽しそうな笑顔が溢れていた。


「何が世界の為だ。結局、自分の欲望丸出しじゃねえか」「僕達の為になるんだからいいじゃん?」「私達も含める様な言い方は止めて、虫唾が走る」「気持ち悪いです~」


 子供の言葉に嫌悪感を露わにする翼と体を抱いてブルブルと震える來未。彰隆も口にこそ出さなかったが2人の意見には同意だった。


「やっぱ、アンタとは合わなかったようだな?」「う~ん、残念」


 肩を落とし分かり易いオーバーアクションで表現する子供。しかし、その顔は何処までも澄ましたような余裕を見せていた。


「じゃあ、死合おうか?」


 子供は彰隆達に向かって飛び掛かって来た。


 ・・・・・・

 ・・・


「はあ・・・ああ・・・。いや、ホント辛い・・・」「はあ・・・はあ・・・」「ハア・・・ハア~」


 彰隆、翼、來未の3人が戦闘を開始して5分。・・・ボロボロだった。常人の比じゃない高速での応酬。短時間で息が上がってしまうとか、そういうレベルはとっくに超えていた。しばらく横になって安静にしていなくてはならないくらいの疲労とケガだった。もちろん致命傷こそ避けてはいるが、何度も攻撃を受け体はボロボロだった。致命傷を避けられたのは3人掛かりだったという事だけ。もし誰か1人欠けていたら、とっくに殺されていた。

 校舎は彰隆達の戦闘場所から離れていたために建物は無事だったが、運動場、校門の壁、校舎へ伸びる並木道もボロボロだった。そんな中1人。服は所々破け、血を鼻や口から少し出しているがまだ余裕をもって言ったいる者が1人。


「・・・ここまで動いたのは久しぶりだ・・・。ありがとう。・・・でも、もういいかな?」「はあ・・・っああ。冗談・・・。まだまだやれるって」「ええ、まだよ。(ボソ)あと少し・・・もう少しなんだから」「はい~。ちょっと疲れちゃいましたけど~。まだ戦えます~。もう少しなんですよ~」「無理する必要はない。諦めてくれれば君達を苦しませるようにはしない」「か・・・ってに、殺さないで欲しいんだけど・・・」「決した以上。潔しは恥じゃない」「ふざけ・・・ないでよ~?・・・(あと少し・・・。もう少しなのよ。あと少しでなんか掴めそうなのに・・・)」「足搔くことも~・・・。時としてはー・・・。大事です~」


 口では子供の話に返しているが翼と來未は自分の中にある何かに気付き、それが何なのかを探そうとしていた。彰隆はそんな翼達が限界が近いと判断し、一歩、前へと歩いた。


「君が最初かな・・・?」「だから・・・勝手に決めないでくれる?」



 そんな光景を遠くで見ていた美月と紅百葉はお互いの未来を想い、自然とお互いを支えていた手に力が籠る。


「・・・姉さん」「・・・最悪の時は・・・純を・・・お願い。お父さんやお母さんがいれば・・・昂輝と夏奈は大丈夫だから」「・・・」


 紅百葉は否定したいが何も出来ない。ただ姉の覚悟を持った瞳を・・・悲し気に見ることしか出来なかった。



「それじゃあ・・・楽しかったよ?」「っ!」


 飛び出す子供に彰隆は残っている力を振り絞って構える。そんな中、翼と來未は下を向いて目を瞑っていた。


「(何か・・・何かあるはずなのよ!だってさっきから掴めそうなのよ!)」「(掴めそうなのに見えません~。・・・腹が立っちゃいますよ~・・・)」


 そして、僅か数手の打ち合いの後、彰隆は子供の攻撃を防ぐ損ね。お腹を大きく蹴りつけられ美月達の側にまで転がってしまった。


「(・・・まだ、生きているけど・・・。まあそっちはいいか)っで君達は・・・。それって諦めてくれたのかな?」「「・・・」」「おーい」「「・・・」」「・・・ま、いっか」


 鼻で一息吐いた子供は気を取り直し翼達の前へ。どんどんと近づいて行くが翼達は顔を上げない。軽やかな足音が止まった。翼達の前に着いたからだった。


「それじゃあ・・・ねっ」


 振り上げた子供の小さな手のチョップが翼の首に向かって振り下ろされる。


「(何か・・・)」「(何か・・・)」


 その時、翼と來未の意識は同時に同じところへと行き着いた。


「「(あの時どうやって・・・!)」」


 その瞬間だった。翼と來未の瞑っているはずの視界に光が飛び込んだ。そして思い出すのは廃ビルの・・・澪奈が何か特殊な力を得て、異形モンスターを倒した所だった。






 【十時影 純 (クリス)】15才 人間・・・かな~?(進化)

 レベル 13

 HP 171 MP 156

 STR 89

 VIT 79

 INT 81

 RES 75

 DEX 95

 AGI 87

 LUK 23

『マナ(情報体):レベル 5 』『波鋼:レベル 5 』『質量拡充:レベル 1』

『魔法:水、風 』

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