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転と閃のアイデンティティー  作者: あさくら 正篤
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174 守りたい者の為の願い

「こんな所で何してるの?」


 紅百葉は自然と目の子供に近寄ろうとしたが、急に凄く嫌な感じがして足を止めた。そんな紅百葉を興味深そうに観察しながら子供は特に気にした様子もなく話し始める。


「ちょっとした実験かな?」「・・・実験?」「そう。・・・まあ、性能のテストなんだけどね・・・。う~ん・・・。これは成功でいいのかな?」


 紅百葉の質問に平然と返しながら、周囲を見回す子供。目の前のその異様な子供に危機感を感じた紅百葉はゆっくりと後退していく。そんな紅百葉を楽しそうに見ながら、ゆっくりと近づいて来る子供。


「これは・・・。たまたまどこか組織関係者に出会った・・・と考えていいのかな?ねえ、どう思う?おねえさん(・・・・・)?」「っ!」「あれ?追いかけっこ?」


 体に走った悪寒からすぐさま踵を返し逃げる紅百葉。どんどんと子供との距離は離れていく。しかし背中から感じる悪寒が・・・。へばりつく様な嫌な予感が、一向に安心感を紅百葉に与えてはくれなかった。むしろ、ますます強くなっている様な気さえする。


 誰かに助けを求めようにも、通る廊下や外には倒れた生徒と教師しかいない。どうすればいいのか分からなくなる。


「ちょっと、置いてかないでよ」「っ!」


 一瞬、驚いて表紙に足が竦んでしまい、バランスを崩して前に倒れ込んでしまった。そんな紅百葉の倒れ込むのと入れ違いに何かが通り抜け、廊下の向こうの壁に激突し大きな衝撃と爆発音を生んだ。


「っ~・・・!」「(ありゃ?あの子には当てるつもりはなかったのに・・・調整を失敗しちゃったな)・・・まあ、いいか。実際には当たってないし」


 しゃがんだ姿勢になったのが良かったのか、壁の破片を紅百葉の体には直接は飛んでは来なかった。そして紅百葉の体を包み込むほど範囲の大きな煙を上げた。咄嗟に立ち上がると同時に紅百葉はその煙の中へと向かって行く。そこから外へ出て逃げようとしたのだった。


「ゲホッ・・・ゲホッ・・・。ホントに力加減ミスっちゃったな~。っていうかこういうのってもっとキレイに整備するもんじゃないの?何でこんなに粉塵が巻き上がるんだよ。前が見えないじゃないか」


 子供は相変わらずゆっくりと歩き、自身で壊して巻き上がった煙の中へと手を振りながら進んだ。


「(あの子は・・・?・・・へえ、意外に行動力があるね)」


 煙の中から紅百葉を探すが辺りにいない事が判り、その口元の口角を楽しそうに吊り上げた。そして廊下を見る。紅百葉がいないことを確認すると開けた壁の向こうを見て、ゆっくりと歩を進めた。



「ハッ・・・ハア・・・ハア・・・ハアッ・・・」


 紅百葉は穴の開いた壁から外へ出て一目散に運動場を横切り、校門の方へ。誰かに助けてもらうにも学校の外へ出ないとどうすることも出来ないと思ったからだった。頭の中には今起きている現象について疑問がたくさん出てくる。しかし答えなんてものは分からない。だから考えるのは止めてとにかく外を目指した。


「(・・・遠い)」


 全力で走っている。しかし、こんなに校門の外までが、これほど遠いと感じた事はなかった。現在、命の危険に晒される状況の中では・・・この綺麗な並木道が先の見えないトンネルのようにも思えてくる。そんな恐怖、不安とも戦いながら紅百葉は走っていた。


 そして校門が目の前に・・・。開け放たれた格子の先には薄い紫の膜がシッカリと空から地面まで覆いつくしていた。しかし紅百葉にはそれがどういう事か分からない。とにかく出口に向かって走るだけだった。


「っ、ああっ!」


 ドサ―・・・。


 まるでゴムに体当たりしたような感触が伝わり、学校側へとはじき返されてしまう紅百葉。地面を転がってしまい擦り傷を作ってしまう。


「っ・・・な・・・なに・・・?」


 立ち上がった紅百葉は手を膜に伸ばす。するとぶよぶよと分厚い感触が伝わってきて、それ以上外には伸ばせなかった。


「なにこれ?・・・なにこれ?!」


 焦る紅百葉は必死に膜のどこかに穴が無いか手探りで探す。


「・・・っ。あっははははは・・・いくら探しても無いよ?出口なんか・・・」「っ!」


 肩を跳ね上げ驚いて振り向く紅百葉。そんな紅百葉を楽しそうに見ながら歩いて来る子供。


「・・・お姉さんは凄い行動力があるんだね~。見た目と違いちょっと意外だったよ。・・・まあ。ここからはどうやったって逃げられないんだけどね~」「・・・っ」


 意地になっても逃げる何かが無いかを考えて探すが、それと同時に逃げ場がないという事もどこかで理解してしまった。それは相手が得体のしれない子供だからだけではなく。その絶対の自信をもって言う発言にあるからだった。


「・・・あなたは何?何で?」「・・・凡庸な質問だね~」「っ」


 一瞬、トーンが下がり紅百葉に見せた子供のその表情は、とても冷たく冷酷な目をしていた。そこに一ミリも優しさなどはなく。むしろ紅百葉に落胆したような表情をしていた。とても先ほどの年相応の柔らかい笑顔もなければ、佇まいでも無かった。


「・・・今のが本気の質問なんだったら。お前は、我々の耳にも入らないくらいの末端組織の存在か、ただの一般人って事になる。正直・・・組織の関係者なら生け捕りにしようとも考えていたんだけど・・・。お前はどっちだ?」「っ・・・」


 紅百葉は相手が何を言っているのか分からなかった。ただここで、本当にただの一般人だと答えたら殺されるだろうという直感は感じていた。だから何も言えなかった。


「・・・そうか。・・・まあ、どっちでもいいや」


 急に先ほどまでの柔らかいの雰囲気に子供に戻ったが、その態度から紅百葉は助からないと悟る。


「・・・っ」


 ドサ・・・。


 力が抜けて、地面に座り込んでしまった紅百葉。目にはいつの間にか涙を浮かべていた。


「あ~あ、泣かせちゃった。まあ気にしないで?そんなのすぐに無くなっちゃうから」「(・・・イヤ)」


 頭の中に走馬灯が駆け巡る。小さい時の自分。家族と仲良く暮らしていた時。親戚に迫害され、孤独になった純を姉と一緒に助けようと手を伸ばした記憶。それから色々と紆余曲折はあっても徐々に今の家族、友達、生活の形を築き上げ・・・。純とこれからも楽しい生活をしていくつもりだった。そんな過去と未来がない交ぜなっていく。


「(死にたくない・・・)」


 ゆっくりと歩いてくる子供。その距離がどんどんと近づいて来る度に、家族の顔が次々と現れては消えていく。


「(死にたくない・・・)」


 空間が・・・視界が歪んでいく。それでも記憶の中の思い出が甦ってくる。家族の笑顔が次々と現れては消える。そして・・・1人の少年の姿が出てくる。


「っ・・・。んぐっ・・・(純・・・!)」


 自分が守ってあげようと決めた少年。自分が誰かの代わりになってでも面倒を見ようとした少年。そんな大切な人の姿がどんどんと遠ざかって行く。


「っ・・・」


 紅百葉の首がガクンと落ち、俯いてしまった。


「ありゃ?もう観念したのかな?う~ん・・・貴重なサンプルかもしれないけど・・・ここまで大規模での初実験で失敗の方がマズいんだよね~。・・・うん、仕方ない」


 頭を掻いて困っていた子供は、自分の中で自己完結したのか。紅百葉の目の前まで歩み寄っていく。そして目の前に来た時、ゆっくりと手を紅百葉に伸ばそうとした。


「じゃあ・・・バイバイ」「っ!」


 紅百葉がきつく目を瞑って時だった。


「ウチの妹に何してるの!!」「え?」「っ・・・」


 驚いたように振り返る子供。その子供に目掛けてカバンが飛んでくる。


「って!」


 子供は投げられたカバンを顔で受けてしまいよろけてしまった。その隙を逃さず、紅百葉の前で立ち止まって背を向け、子供との間に立ちはだかる美月がいた。


「ねえ・・・さん」「ゴメンね紅百葉。紅百葉が外に飛び出していくのが見えたのにココに来るのが遅れちゃって」「ううっ、う・・・うう゛ん。そんなのはいいの。お姉ちゃんこそ逃げて・・・お願い」「ダメよ!妹がピンチの時に見捨てられるわけないでしょう」「おねえ・・・ちゃん」


 涙を溜めながらも美月を見上げる紅百葉。美月は姉として妹を、家族を守るために立ちはだかったが・・・その手はぶるぶると震えていた。それは直感の様なものかもしれなかったが、目の前の子供が異様なのはすぐに分かった。そんな相手に紅百葉は必死に生き延びようと頑張っていた。そんな妹を見捨てるなんて美月には出来なかった。


「(怖い・・・紅百葉はこんなのから逃げていたの?)・・・っ!(ダメよ!私はお姉ちゃん。ここでしっかり気を張ってなくちゃ・・・。紅百葉を守れない・・・)」


 逃げ出したい気持ちは紅百葉も美月も一緒だった。しかし、そんな事が許されないのも分かっていた。だからこそ、震える体に活を入れてでも必死に立っていた美月。そんな美月を珍しそうに見る子供。目を大きく開け、楽しそうな顔に変わる。


「へぇ~・・・。お姉ちゃんって事は、姉妹って事だよね?!・・・どういうことなのかな?この結界の中でも平気で動ける姉妹ってどういうことなのかな?・・・ああ、どうしよう?悩むな~。持ち帰った方がいいのかな~?」


 1人悩まし気にくねくねと動いて考え込む子供。そしてフと美月の服装に気付き止まった。


「あれ?おねえさん、この学校の生徒じゃないよね?どうやってこの結界に入って来たの?」「結界?この紫の薄気味悪いモノの事を言ってるの?」「薄気味悪いは心外だな~。これでも結構、性能は良いって話だし・・・。僕はこの色。結構気に入ってるんだけど」「・・・。隣の大学まで覆っていたわよ。だから入るとはそういうのじゃないわ」「ああ。なるほど・・・。円形って言うよりも一定範囲を囲む結界に変化していたのか。これは・・・色々と課題が増えそうな話だねー」「・・・」「そんな睨まないでよ。お姉さん達にとっても悪い話じゃない提案をしようと思って・・・」「・・・提案?」「そ。お姉さん達が僕に従って大人しく付いて来るなら、この結界はお終い。サッサと解いて解放するよ」「・・・」「嘘じゃないよ?まあ無理やり連れ去っていくって考えもあるし・・・。もし、拒否するなら殺しちゃうって事でもあるから。実質、選択肢は1つしかないんだけどね。出来れば・・・自分から付いて来るという事にしてほしいんだけど・・・」


 その言葉に黙って何かを考える美月。そして1つの提案をした。


「安直な発想で申し訳ないんだけど・・・私1人だけを連れて行くので手をうって。それなら従うから」「お姉ちゃん!」「う~ん。出来れば2人共欲しいんだけど・・・」「提案を持ち掛けてきたのはソッチよ?拒否権がないって言うなら、多少の譲歩は欲しいわよね~?」


 自分達にそんな事が言える立場にはない。それは美月も分かっている。しかし、それでも紅百葉を守れる選択が取れるのならば、無茶な行為でも、やる価値はあった。


「どう?」「・・・やるね~、お姉さん。本当ならお姉さん達にそんな権利は無いけど、2人のこれまでの行動力に免じて、それで許してあげるよ」「ダメ!お姉ちゃん!」


 子供が許可を取った瞬間。紅百葉が美月の体を掴み止めた。


「紅百葉、離して。・・・この事はお母さん達に黙ってるの。純にも・・・」「ダメ!」「・・・お願い紅百葉。・・・紅百葉まで死んでほしくないの」「それは私だって・・・」


 振り返った美月はしゃがみ込んで紅百葉と同じ目線になってを説得し、必死に別れを告げて、自分から離れさせようとした。


「ぐっ・・・ううっ。・・・こんなのはイヤ」「お願い・・・わがままを・・・言わないで」


 どうしようもないと現実。それでも感情がそれを強く拒否してしまう。自然と2人の瞳に涙が浮かび上がる。


「ああー。そういうのもういいから早くしてくれない?待ってたらいつまでたっても続きそうだし」


 聞き飽きたのか、子供は催促を告げる。それを聞いた美月は涙ながらも笑顔になって紅百葉を見た。そして両手で顔を掴み、おでこをくっ付けて優しく話しかける。


「(ボソ)純の事・・・。お願いね」「・・・おねえちゃん・・・」「(ボソ)私はもうあの子の側にはいられない。だから・・・。だか、ら・・・。っ!だから、その分のあなたがあの子をっ・・・」


 震える手には、そんな姉から妹への最後の願いが込められていた。同じく震える手で上から重ねるようにして掴む妹。


「・・・よし。もういいよね?それじゃあ行こうか?」「ああっ!」「お姉ちゃん!」


 強引に引きはがして連れ去ろうとする子供。引きはがされた事でスルリと美月と紅百葉はお互いの手が離れてしまった。引っ張り上げ連れ去られる姉を、手を伸ばし掴もうとする妹。


「それじゃあ、さよならw」


 楽しそうに離れて飛び立とうとした時だった。


「勝手にどっか行こうとしてんじゃないわよ!」「!」


 ガギイィィン!


 紫の結界を切り裂き、無理やり学校に侵入してきた者がいた。


「独りよがりな子供って~不愉快です~」「!!」


 更に切り裂かれた穴から飛び込んで来たもう1人がそのまま子供に攻撃を仕掛けてきた。


「ぐっ・・・ッチ!」


 それは一瞬の油断だった。この結界に気付いた人物。結界に干渉した事。さらに結界を切り裂いて侵入してくるという状況に驚き、一瞬だけ無防備になってしまった。その瞬間に後から入って来たもう1人の人物に対する反応が遅れ、美月を掴んでいた腕を斬り付けられた。そのため掴んでいた手を離してしまうが、侵入者から距離を離すことを優先した。結果、美月は解放される。侵入者の2人はすぐさま美月と紅百葉を護るように前に立って武器を構えた。


「お姉ちゃん」「大丈夫よ、紅百葉」「・・・また、随分と気持ち悪い結界を張ってくれたわね~。おかげで気付くのが遅れたわよ」「危ない所でした~」「・・・古野宮さんと・・・蓮奏さん?」「そうよ?怪我は・・・してるけど。大丈夫なの白星さん?」「大きなケガではありませんが~。随分とひどい目に遭ったようですね~。・・・でも、とにかく無事でよかったです~」「紅百葉、知り合い?」「・・・最近、転校してきたばかりのクラスメイト」「最近って・・・随分と変わった時期に・・・」「まあ、コッチにも事情があるのよ」「翼ちゃん~。今はそう言うのは後でお願いします~」「っと、そうだったわね」「・・・」


 ムスッとした顔をして美月、紅百葉の前に助けに現れた翼と來未を見て不機嫌になる子供。


「その武器・・・特殊な何かが仕込んでいるのかな?・・・おかげで腕がケガを負ってしまったよ」「そう?それは災難ね~。でも、そんなの気にしなくてもいいわよ?これからもっと傷だらけになっちゃうんだから」「ボクを見ても平然としているって事は・・・それなりの力はあるって事だよね?一体どこの組織かな?」「う~ん・・・。難しい質問ですね~。少なくとも~世界を支配しようとは思ってはおりませんが~」「・・・いや。それで十分」「あたし達があんたが敵って事だけ覚えていればいいじゃない」


 そう言うと美月と紅百葉を安全な場所まで避難させ、武器を子供に向ける翼と來未。そんな2人を黙って見ている子供だった。


「・・・なかなか強気なお姉ちゃんたちだな~。・・・でも、いいのかな?・・・2人で」「はっ。・・・まあ、前回の事もあるし気を付けるけど・・・。やってみないと分かんないんじゃない?」「今回はこちらも色々と怒られちゃいましたからね~。対策は取らせてもらってますよ~?」「・・・」「それじゃあ、始めましょうか?」


 武器を持った2人の気配が変わった。子供もそれを感じ取り、腰を落とし戦闘態勢に入るのだった。






 【十時影 純 (クリス)】15才 人間・・・かな~?(進化)

 レベル 13

 HP 171 MP 156

 STR 89

 VIT 79

 INT 81

 RES 75

 DEX 95

 AGI 87

 LUK 23

『マナ(情報体):レベル 5 』『波鋼:レベル 5 』『総量拡大:レベル 10 MAX → 質量拡充:レベル 1』

『魔法:水、風 』

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