172 その火は何のために・・・
切り裂かれた結界と海。その間には深い溝が出来上がり、特殊エリアとして構成された空間は純の攻撃で大きく分断された。そこへ自らも上昇して純に向かって攻撃のタイミングを図っていた一本角のイルカ型モンスターはその大きく開いてしまった溝に向かって飛び込む形で空中に投げ出されてしまった。純の攻撃に反応し回避行動を取ろうとするがスピードが乗り過ぎてしまい急反転は出来なかった。
「・・・フッ!」
純はそのタイミングを逃さなかった。サポートとの繋がりで、しっかりとマナの気配を感知し位置は把握していた。そして、絶好のタイミングと判断してもう一度、双剣を振り抜いたのだった。
ズウオンンンッッ!!
体内マナを循環。濃度の上げ、更には魔法の風と水と併用して双剣に纏わせて飛ばした純の攻撃はイルカ型モンスターの体を斜めに真っ二つに両断した。
〔咄嗟とはいえ、上手くいきましたね〕
サポートは魔法で形を纏わせた剣圧を見て、その威力に満足していた。
「(だけど・・・この威力。使い方を誤るととんでもないことになるぞ)」〔その辺りは要調整ですね。私の方でもある程度はコントロールできますので、任せてください〕
純がすぐに剣を構え直し、次の相手の出方を探るために備えているが・・・。騎士はそんな純よりも両断された相棒を見ていた。
「ブオオ・・・オ・・・」
微かな振動と弱弱しい太く低い鳴き声。その声を上げたイルカ型のモンスターはゆっくりと重力に逆らうように・・・。その体はシュウシュウと黒い霧を上げて空中へと霧散しながら深く暗い溝の穴に落ちていく。そんな光景を騎士は固まって見ていた。
「・・・」
イルカ型は騎士に目を合わせた後、ゆっくりと閉じていく。そして完全に体の力を投げ出したのだった。斬られた先からどんどんと黒い霧は空へと立ち上っていく。
・・・しかし。その一部が騎士の方へと向かって伸びていった。
〔これは・・・〕「な、なに?」
どうすればいいのか判断に困ってしまう純。黒い霧は騎士に伸びて周囲を囲み騎士の姿を隠していく。
〔いけません。純、攻撃を〕「えっ。・・・っ!」
純は一瞬、思考が停止してしまったがすぐさま立て直し剣圧を飛ばした。そんな剣圧が騎士に向かってどんどんと大きく範囲を広げて伸びていく。しかし騎士を覆っていた黒い霧に到達しようとした瞬間。霧の中からボンっと霧を細く引き延ばしながら空中へと飛び上がった物体があった。純の剣圧が溜まっていた霧を吹き飛ばして消し去った後をしっかりと足首まで水に浸かっている結界の足場に着地する霧。細く伸びた霧が晴れた時、そこには以前の騎士とは違う姿があった。
〔・・・こちらが、本来の姿でしょうか〕
サポートが言う通り、先ほどまではイルカ型のモンスターと連携し戦う、動き安めのスタイルだった。鎧は来ていたがゴツゴツしていなくて、フォルム的にはまだ水の中の抵抗力を考えてスマートな感じだった。しかし今回は全く違った。足首にまで届きそうな黒いマント。しかし、その端はボロボロの様な少し先をして黒い霧をゆらゆらと揺らめかせていた。鎧も以前とは違い肩なども大きく補強された様に盛り上がっている。全体的により硬く、体を大きく見せる様な姿をしていた。株ともより流線的に流れる様に綺麗になり、天辺の黒い紐がさらさらと髪のように風に揺られ流れている。足ものと全体的に強化された形を取り、全体的にパワーアップしたとハッキリわかる姿をしていた。
「・・・」
そして何より特徴的なのは、その剣にあった。片方は自分の身長をも超える3メートル以上はありそうな大剣を片手で持ち、もう片方ではその半分以下の1メートル弱の剣を逆手に持っていた。その姿は奇しくも純の武器と同じく、双剣の様で少し似通った状態だった。
〔偶然・・・?・・・いえ、意図的かもしれませんね〕「(うおお~・・・カッコいい・・・)」〔純・・・。今は戦闘中なのですよ?もう少し緊張感を持ってください〕
無意識に、あまりに騎士のその立ち姿が様になっていたために感動してしまった純へサポートが注意してしまったのも仕方が無かった。相手は戦闘態勢に入って行く中、感心して構えを解いてしまえば元も子もないのである。
〔どれだけの能力が向上したのかは分かりません。気を付けてください〕「(え?お前でも分からないの?!)」〔多少、読むことは出来ますが・・・。現在も上昇中。ゆっくりとではありますが、まだまだマナの容量が増えていっております。どこまで成長するのかは不明です〕「(それって・・・ヤバくない?)」〔ですから気を付けてくださいと〕「・・・」
内心冷や汗が止まらない純はシレっと更に体内マナを上昇させ、自らの力を高めていく。そんな純を見据えて腰を落とし大剣と剣を構える騎士。大剣はチリチリと剣が燃え上がっているように半透明に赤い火が見える。そしてもう片方も紫にゆらゆらと剣と燃え上がらせていた。
「・・・」〔・・・戦闘中〕「おっと」
つい関心してしまい、再度注意を受ける純。そんな純を静かに見据えた騎士は更にグッと腰を落とした次の瞬間、まるでニトロによる爆発のように一気に加速して斬りかかって来た。
「っ!・・・」
純はサポートに注意されたこともあって警戒していたために、加速してきた騎士の姿を気配だけでなく目でもしっかりと追って対応。斬りかかって来た大剣を双剣で受けるとすぐに流して相手の態勢を崩し、そのすぐ横。斜め下から滑るように反撃に転じた。しかし、騎士もそれに対応し、体を軽く飛び跳ねもう片方で掴んでいた片手剣で無理やり、純の上から目掛けて回転斬りを加えようとする。
ガキン!
純も反応し、片方の双剣で対応。しかし回転と体重の乗った騎士の攻撃で押し飛ばされ、結界の足場をズルズルと滑っていく。何とか踏み止まった時、騎士との距離は5メートル以上も離されていた。そして逆に状態を仰け反らされて態勢が崩された純。その瞬間を逃す騎士ではなく、着地と同時に大剣を持ち直すと同時に跳んできて斬り払ってくる。振り抜かれたその瞬間を目撃した純は体内マナを循環加速。すぐに対応して全力でガードに転じて、自ら足を浮かせた。
ガゴオオオンッ!!
「ぃっ!!」
重い一撃を受けて純は更に今度は大きく跳ねる様に吹き飛ばされた。何度もバウンドを繰り返しながらも何とか体を捻り、足で踏ん張って止まると同時に騎士を見据えて今度は自ら走って行った。
「(ここで、引き離されると危険だ)」〔同感です〕
サポートも同様、騎士が何をしてくるか不明な事に直感的に危険を感じ接近戦に持ち込むことに同意する。騎士もそんな純を身構えて待つことなく攻めに掛かった。
ガギン、ガコガコギィン!
幾度も斬り結ぶ剣とそこに光る煌めきと火花。重い大剣を軽々と振り回し、独特の舞のように回転と足運びを交えて斬りかかる攻撃に純は翻弄され、必死にその対応に追われていた。純自身も斬りかかるが、どうしても双剣では距離が足りず攻撃範囲が届かない事が多い。詰めようとするが、その距離が届いた時にはすぐに引き離される。片手剣でも純が持つ双剣よりは長い。それに離されたところへ更に大剣で斬りかかられ、純はどうしても一定以上の距離を詰められず、攻めあぐねている始末。その結果、一撃一撃の入れられる回数が圧倒的に少なく、ほとんどが防御と回避に専念させられていた。しかし純はこれ以上、騎士に距離を離されるわけにはいかないと必死に食らい付いていた。
ゴガンッ!!ゴ・・・ガガガガガガガガガ・・・・・・。
まるで独楽の様な回転による連撃。大剣と片手剣の距離感を上手く使い、絶妙に純に距離感を掴ませず踏み込みを許さない追い打ちを掛ける騎士。そんな攻撃の合間を縫うように純は騎士との身長の差を活かして、下から下から潜り込んでいく前へと詰め、果敢に攻めていった。
それもそのはず、純達の直感は正しかった。何度も斬り結ぶ中で距離、大きめに離されることが多々あった。その時には騎士の持つ大剣と片手剣に燃えていた赤と紫の火が水の張った結界の地面を走る様に一直線に飛んできたからだった。すぐさま避けて攻めに掛かったが、純の横を通り過ぎた火は遥か遠く数百メートルは地面を走って行ったのだろうゴウゴウと燃え広がり続いていた。そして純が騎士に攻めてかかる間もしばらくは燃え続けていたのだった。その結果、純が戦闘続行できる範囲は極端に限定される始末になってしまった。
〔私達も先ほどの海を割った様な攻撃をすればっ・・・!〕「(向こうの方が飛ばすまでのインターバルは短い。コッチが一撃を出すよりも先に向こうが直接か関節で攻めてくる方が速いよ!)」〔ではこちらも〕「(離せば、向こうの方が有利だよ)」〔バリエーションは向こうの方が豊富ですか・・・〕
そんな会話を合間に脳内で交わしながらも純は行動を止めなかった。ここで止まれば向こうがより有利になると思ったからだった。戦闘中に常に冷静でいるのは、どちらも余裕をもって動ける範囲に限られる。高速で動き、更にはその状況に臨機応変に対応せざるを得ない現状でそんな都合の良い時間を相手が与えてくれるはずもなかった。だが、ここで純もサポートも気付いていない事があった。
それは騎士の感情だった。
ボスモンスターと言えど騎士にも相棒を持っていた事がある為、そこらのモンスターよりは感情という理性が僅かながら多く備わっていることだった。友を失った悲しみと怒り。それをもたらした目の前の憎っくき相手。怒りというエネルギーと憎しみが、騎士の感情を更に燃え上がらせ、純を倒そうと突き動かしていた。兜の中の表情から感情までは読み取れなかった純達。それもそのはずで対応に追われて、そんな状態ではなかった。サポートも予期せぬ強敵と純が上昇させ続けている体内マナの調整、周りのマナの流れを読み解き、純とリンク。次の対応と・・・そこまで意識を割けなかった。サポートは別に機械ではない。純の魂に起因した特殊スキル。そのため純の感情、思想にどうしても引っ張られる。また、似た思考に陥ってしまう時だってある。今回はその結果・・・騎士の心の中で起きている感情までは読み解けなかった。
そんな状況の中、徐々に変化が訪れる。
騎士も果敢に攻めているが・・・。どうしても決定打に足り得ない事に少なからずの苛立ちがあった。さらには自身も気付かないズレがある事にまで思い至らなかった。
しかし、その結果は純による順応力の高さによって表れ始めた。純は知らず知らずのうちに、サポートの協力もあって騎士の攻撃に対しての反応、ガード、回避に磨きが掛かってきていた。攻撃の仕方や工夫にも、その効果が顕れ始めていた。
学んでいったのである。
その結果、本人達ですら気付かぬうちに攻撃の回数が増えていき、ガード、回避する回数そのものが減り始めていた。足運びから攻撃までの一連の流れにどんどんとスムーズになっていく。一番初めにその違和感を気付いたのは騎士だった。一時は感情のままに動いてしまっていたが、感情ばかりに左右されることなく冷静になり、歴戦の騎士としての戦い方で相手をねじ伏せるつもりであった。しかし、ココに来て形勢がどんどんと逆転していることに焦り始めていることに、騎士自身少なからずの驚きを感じていた。攻撃をすれば軽く払いのけられるか最小限で回避する場面が何度も出てきた。その度に、次の攻撃の合間を縫って滑らかに伸びてくる純の双剣の攻撃に、騎士自らが回避行動を取らざるを得ない状況が増えてくる。そして・・・、騎士自身が純との接近戦を嫌がり意図して離れ、間合の外から攻撃しようとスタイルを変えにきていた。その事実にハタと気付き、改めて冷静になった事で騎士には余裕が少しずつ無くなって来ていた。更に騎士は忘れていた。感情や苛立ちなどで見落としてしまっていた当たり前を・・・。純は騎士から明確な攻撃を1発も受けていない事に。
「・・・っ」
そこに気付いた瞬間。すぐさま純から離れ、的確な間合から攻撃しなければと判断した騎士は無理やり力技で大剣を振り払った。
「っ!」
然しもの純も、巨体から繰り出した風圧には耐えられず距離を離されてしまう。何とか双剣で顔を防ぎながら態勢を立て直したが、騎士との間には20メートル以上も出来てしまった。
「(まずい!)」〔待ってください、純〕
制止を掛けられた純は、若干前のめりになりそうになった体を戻して、騎士を見たままサポートに聞く。
「(何かあるの?じゃなかったらこの距離はマズいんだけど・・・?)」〔確かに火を向けられればこちらにも被害は出るかもしれませんが・・・〕「(なにっ?)」〔考えてください。確かに脅威な技ではありますが、わざわざ私達を引き離すような行為を取った事に〕「・・・」
そう言われた純は少しだけ戦闘の為に落としていた重心を戻し、改めて騎士を観察する。騎士はそんな純などお構いなしに大剣と剣を振るい、純目掛けて地面に赤と紫の火が走らせる。純は軽く避けながら、ゆっくりと次の騎士の動作を見ながら観察を続ける。
「(火走りは地面はずっと通った道を燃やす様に飛んでくるが、空中はそのまま飛翔系になるのか・・・。しかし・・・何だろう?・・・こう、動きの効率が悪い様な・・・?)」〔それは純がこの短時間であの騎士の動きとスピード、武器同士の間合いの取り方が少しずつ体で身に付いてきたからです。だから、不用意に純を近づけさせれば危険と判断して、純が簡単に攻め込ませられない様に・・・。または攻め込んできた所を武器の長さを活かして確実に仕留める方法に戦い方を変えてきたのでしょう〕「(あ~、そういうことか・・・。コッチは結構、向こうの動きに対応するので必死だったから気付いてなかった)」〔体内マナをコントロールする事に努めたのが功を奏したようですね〕「(いや、作戦ってほどでもないんだけど)」〔どちらにしてもこれでスキル``波鋼``も結果的には多少上達したようですし、結果オーライでしょう。それに純自身は気付いてはいないでしょうがあの騎士との戦闘で体捌きが上手くなってきていますよ?〕「えっ、本当に!?」
戦闘中なのにも関わらず、思わず普通に声を上げて喜んでしまった純。しかし、そんな状態でもキッチリ騎士の火走りなどの遠距離攻撃は余裕をもって回避を続けていた。いや、寧ろその動きすらも上達してきていた。何度も繰り返し同じ攻撃を放ってきたために純は騎士の予備動作を見極めてきているのであった。
〔これなら、必要な量を必要な範囲にのみ、攻撃を出すことも飛ばすことも夢ではなくなるでしょう。咄嗟の思い付きとはいえ先ほど我々も飛ばしていた飛翔技も制限や固定化などが可能になるでしょう〕「おお~・・・。(いや~助かるよ。あんなのガンガン飛ばしてたら・・・。せっかく身を護るために付けてきた力で苦しむ羽目になる所だったよ)」〔別に学校とかを破壊したいわけではありませんしね〕「(・・・まあ、昔は本気でそんな事を考えた時期もあったけど・・・)」〔とりあえずはこれである程度、純が更なるレベルアップを遂げても私の方で調整がスムーズに運ぶでしょう〕「(ほ・・・。助かる)」〔だからと言って、身体能力がかなり強化されているのです。うっかりでミスはしないでくださいね〕「(わわ・・・分かってるよ)」〔・・・〕「(あ、信じてないな?)」〔体育の時、短距離走で躓いて転んでいなかったら・・・今頃どうなっていた事か・・・〕「・・・」
やれやれと首を振って頭を抱えていそうな雰囲気を感じ取って、純は何も言い返せなかった。
〔と・・・、そんな場合ではありませんでしたね〕
サポートも純同様、急成長を遂げてきたために戦闘中でも余裕を持てるようになり、つい別の話題に思考が飛んでしまっていた。
「~っ。・・・・・・。・・・!」
そんな中、騎士は純に遠距離では無理と分かっていながらも攻撃を繰り返し続けていた。僅かに1発も当たらない純に思う所はあったが、急にその動きが止まった。そして、ゆっくりと大剣を引き絞り、肩より上の頭の横まで持ち上げて剣を純に向けて止まる。剣先を下げてその中間あたりでクロスする様にもう一方の手で持っていた剣を上に重ね合わせた。そして重心を下げ、タメを作る動作に入る。ゆらゆらと燃え上がっていた大剣と剣の火が大きく燃え上がる。それに反応する様に何度も飛ばし続け、燃え続けていた地面の火が呼応する様に大きく燃え上がる。
「っ!あっつ」
水の足場の結界なぞ関係ないとばかりに高く火の壁が立ち上がる。赤と紫の炎で閉じ込められた純。その熱は風の魔法で体の周りに膜を張っているにも関わらず純の肌にその熱さが届いていた。
〔水の魔法も併せて重ね掛けして、もう一度膜を張りましょう〕「ああ、頼む」
純は魔法の発動をイメージする。そのイメージに沿ってマナをサポートが使用。純の肌一枚外側に薄い2重の膜を張った。
〔唱えるというよりもイメージとマナ使用量、濃度によって効果が変わるなんて・・・純にとってはなかなか使い勝手の良い魔法を得ましたね?〕「(出来ればもっと分かりやすい方が楽だったんだけどね)」〔誰かの前で長々と呪文を唱えるおつもりですか?・・・なかなかシュールな印象を持たれますが〕「・・・(確かに)」
冷静になって想像した純は、これはこれで良かったのかもと思い始めていた。そして気を取り直して目の前の騎士と決着をつけるために双剣を逆手に持ち替えて構えた。
「・・・!」
純が動きを止めるまで微動だにしなかった騎士は、純が構えた瞬間、跳び出した。どうやら体にうっすらと火を纏い、更に跳び出す瞬間、足元に纏っていた火を爆発させ、一気に純に向かって加速してくる。騎士も純が体に纏わせた膜を模倣して、自分の戦いに応用しようと判断した様だった。
「っ!」
ギンガン!・・・ギキン!
ぶつかり合った瞬間には数手だけ打ち合い、そして火の壁の中へと消えていく騎士。視界を遮り、どこから仕掛けてくるか判らない様にして、幾重にも閉ざされた火の壁から跳び出してくる。出来るだけ長く近接戦を取らず、上手く自分の戦いやすいポジションをキープしながらも純を追い込むつもりの様である。
キンガアァーン・・・ガキン!キキキキィン!
どんどんと加速していく攻撃、火の壁の中から更に純に向かって直線の線が何度も走ってくる。それは騎士自身もあれば、火走りだったりする。どんどんとただの火が光の線へと変わるくらい加速していく。しかし、そんな中でも純は冷静に相手の攻撃を対処、僅かにだが攻撃が入り始めていた。
〔純の目だけ、行動範囲だけを塞いでも意味はありませんよ〕
聞こえているはずもないがサポートはつい騎士に向かってそんな言葉を出してしまうほど。騎士の戦術にあまり意味を成していなかった。なぜなら大量のマナを保持し、さらにはどんどんと膨れ上がらせ、明確な敵意、殺意を向けて純に向かえば・・・。少しでも流れを感じ取り予測できればサポートにはどうという事はなかったのだ。そしてサポートとリンクしている純にも多少ながらその次の動作がマナを介して分かってしまう事実。結果、後は間合いをいかに詰め、相手の攻撃を払いのけて懐に大きな一撃を与えるかになる。そして・・・その瞬間は唐突に訪れた。
「っ」
純はまたしても火の壁の向こうから火走りと飛翔の同時攻撃。更にはその後を純に向かって自ら跳び出してくる3連撃を繰り出そうとしている動作を、マナで加速する脳と肉体でサポート経由で感知。純もこの戦闘の最中で身に付けた飛翔。風や水など魔法を纏わせた剣圧を飛ばす飛翔技で火走りと相打ちを狙う。壁から純に向かって飛び出してきた瞬間に騎士と純の技がぶつかり合った。大きな衝撃が周囲の壁と一瞬にして吹き払う。完全に消えたわけではないがこれにより一気に視界が開けた。そして続けざまに飛んできた騎士の飛翔技を更に調整した、こちらも飛翔技でぶつけ今度は相殺した。しかし高温の火に衝突した為、周囲が一気に水蒸気で膨れ上がり視界が霧で覆われる様な状態になる。超高温のスチーム状態だが膜を張っている純にはもちろん効かない。
「!」
いきなり視界が水蒸気で見えなくなり、今度は騎士の方が驚いていた。しかし飛翔技を出した時にはすぐさま加速して飛び出したために急には止まれず、水蒸気の中へと飛び込んでしまった。しかし瞬時に、切り替えた騎士はこのまま純に向かって襲い掛かる事にする。
「!」「・・・」
微かに揺れる水蒸気の中から小さな影を発見した騎士は、迷わず大剣を突き出し攻撃する。しかし純も騎士が来た事に気付き、双剣でガードして逸らす。地面に着地と同時に反転して騎士はもう片手の剣で純の斬り払う。純はこれをしゃがんで回避、そのまま懐へ。しかし騎士はそれを予測していたのか袈裟切りのように大剣で振り切っていた。純は更に斜め下へ大剣を双剣で下から上に押し上げる様に斬り払う。
「・・・!」
驚くのは一瞬。しかし騎士はそのままの勢いを乗せて回転。纏っていた火をより強く燃え上がらせ、純に叩き込んだ。
ボアアっ!ガアアアアアアアアアアンンンンンン・・・・・・!!!!
少し飛び跳ねた上から叩きつける様な騎士の攻撃を純は双剣をクロスして受け止める。大きな火の爆発が純達を中心に一瞬、大きく拡がる。水の足場の結界に大きなヒビが入る・・・が何とか足場が砕ける事は無かった。
「・・・っ」
受けきった純は自ら回転して滑るように騎士の懐へ。騎士もすぐさま反応し、剣を引き戻し純に突きを繰り出す。と同時に大剣を剣の突きの反動を利用し引き戻して斬り払いに入った。純は騎士の剣の突きを払い更に懐へ、続けざまに繰り出された大剣を、半回転して騎士に背を向ける様な形で更にガードした。そしてそのまま逆手に持った双剣の1本を回転の勢いを乗せて騎士に攻撃を仕掛ける。
・・・
「っ・・・!」
先ほどまでの大きな音が一気に静まり返り。水蒸気に覆われる中、制止する2人。静寂に包まれる・・・。少しして、わなわなと微かに震えるモノが1本の剣を・・・。そしてその後に大きな大剣を結界の足場に落とした。少しずつ晴れてくる中、攻撃を繰り出すために前に屈んだ姿勢。その胸辺りに深々と刺さる1本の双剣。純と騎士はその状態で止まっていた。
「・・・」
ゆっくりと双剣を引き抜かれると。ゆっくりと膝から崩れ落ちる様に座ってしまった騎士。たった一撃・・・。しかし、純の濃度を濃くした重い一撃は、騎士の体内マナを一気に吹き飛ばし、勝負をつける致命的な一撃だった。
〔終わりです〕
サポートが言うように、純は理解し、ゆっくりと双剣を腰の後ろの異次元の空間に仕舞った。水蒸気が晴れて視界がクリアになってくると空から白い光が結界の周囲に降り注いできた。特殊エリアの攻略が完了したのである。
「・・・」
シュウシュウ黒い煙を上げる騎士はゆっくりと空いた胸の穴に触れる。するとそこからコロコロと小さな何かが転がって来た。騎士は目の前に転がった物・・・。指輪を取ろうと手を伸ばすが、膝が突いた場所からではとても届かなかった。その手がとても悲しそうに見える光景に、純は取って渡してあげようと歩み寄る。しかしそれよりも速く、空へと霧散して消えていってしまった。
「・・・。よほど大切な指輪なんだろうな」
拾い上げた指輪は飾り気のないシンプルなモノだった。
〔・・・。結婚指輪、でしょうか?〕
純達がジッと指輪を見ている時、スッと指輪が純の指から溶けていくように消えていった。
〔これも、何かのアイテムなのでしょう〕「(この世界・・・。なんかとても悲しい世界のようだね。殺伐としているとかそういうのではなく)」〔誰かの想いが積もった世界なのかもしれませんね〕「・・・。こんな場所にいったい何が・・・?」
純は周囲の景色を見て、そしてこれまで見たきた影の世界を見て、どうしてこんな世界が作り出されたのかを聞きたくなってしまった。しかしサポートにはその答えが判るはずもなく。黙っているしかなかった。
頭の中に電子音が鳴った。純のレベルがアップする報せだけが、悲しく吹く風の中で頭の中に響いたのだった。
【十時影 純 (クリス)】15才 人間・・・かな~?(進化)
レベル 7 → ?
HP 57 → ? MP 48 → ?
STR 30 → ?
VIT 27 → ?
INT 22 → ?
RES 26 → ?
DEX 32 → ?
AGI 33 → ?
LUK 10 → ?
『マナ(情報体):レベル 2 → ? 』『波鋼:レベル 2 → ? 』『総量拡大:レベル 9 → ? 』
『魔法: 水、風 』




