16 旅は前途多難?
孤児院のみなさん、ステイメッカの町のみなさんいかがお過ごしでしょうか?
現在、僕は傷だらけで瀕死になっているはずの手負いの狼種の獣になぜか追われています。
町を旅立って3日、休息のために近くの川で水の補給をしようと立ち寄った時。
突然、森の向こうから弱弱しいマナが動く気配を感じ、警戒していたら思ったよりでかい狼が2匹現われました。
全長およそ2メートルはあるオオカミが2匹。
たとえ、手負いでも危険だと感じた時には、なぜか必死になってこちらに襲い掛かろうと猛ダッシュで迫ってくる狼に全力で逃げようという状況に。
(なぜこうなった?
・・・っていうか、狼なら鼻が利くだろう!
どうして、荷物の中にある食糧より先にこっちに向かって必死に追いかけ続ける!?)
考えても詮のないこと。
現状が変わることなんてないが、それでも、文句を言いたくて仕方ないクリスだった。
そろそろ、走るのに疲れてくるころ。
精神的にも疲れ、理不尽な出来事にクリスは怒りがふつふつと湧いてきた。
「・・・はぁはぁ、っ!
いい加減にしろよ!
このっ!」
あまりの理不尽にさすがに我慢の限界を迎え、振り向きざまに逃げる途中で拾った小石を固いゴムで包み、引き絞って、スリングショットで近くの狼から狙った。
あまりの意表と向こうも余裕がなく反撃はないと思ったのか、猛スピードで飛んできた石に回避ができず、目から貫通して頭に抜けた。
そして一匹の狼が慣性に従い滑るようにクリスのほうに倒れこんだ。
もう一匹は、その仲間の狼をすり抜け、そのまま嚙みつこうと飛び掛かった。
クリスはとっさに体内のマナをできる限り引き上げ腕でガードをする。
「うっ!っく!」
乗ってくる勢いで背中から強く地面に倒れ、狼の歯が腕に食い込んでいた。
幸いマナを引き上げる練習の成果で多少身体強化もどきは出来ていて、狼の牙が肉に突き刺さることはなかった。
しかし、体重、体格、力は基本、図体のでかい向こうが上。
そのため、狼の頭の振り回しにクリスは腕ごと翻弄され振り回されていた。
それでも、機を伺っていたクリスは、若干スローモーションに入っている中で手に持ったスリングショットを引き絞り、狼の顔面に反動で帰ったゴムを当て、大きく退かせた。
「キャンッ!」
一瞬のスキを逃すつもりもなく、ふんぞり返り、体勢が崩れたところをすかさず手に持った、解体用のナイフで首に突き刺し、力いっぱい首の周りのなぞる形で引いた。
「!・・・・ガッ・・・。
・・・・ア・・・」
ドサッ!
距離を取ろうとした結果、狼がナイフの力を助け、首を半分ほどまで切り裂いた。
そして多量出血により、間もなく死亡した。
「・・・はぁー。
・・・・ふぅ、助かった~」
クリスはやっと戦闘態勢を解いた。
レベルが上がりました。
何かの合図お知らせるような音。
ピコン、なのかポーンなのか。
レベルアップの合図は非常にあいまいだった。
この旅の間も何度も聞いた音。
「どうも、この音?というか知らせだけは、以前のバグのままなんだよなぁ」
クリスのステータスが転生時、とても安定せず、表記がぐちゃぐちゃだった頃のまま現在も、クリスのステータスのどこかはおそらくエラーが発生しているのだろう。
レベルが上がりました。
何回かこの音を聞いた後やっと収まった。
この旅でクリスも幾分か強くなったと実感する。
「っと、川に戻らないと。
荷物が・・・」
(最近、声を出す独り言が多くなっている様な・・・)
そんなことを考えながらクリスは来た道を帰っていった。
その時忘れず、討伐した狼のドロップした素材の毛皮と牙、結晶、骨を拾って帰った。
「・・・こんなにドロップするなんて珍しい」
この世界のモンスターは倒すと確率で素材やアイテム類を落とす。
死体は放置してもそのうち勝手に溶けるように消えていくらしい。
しかもどういう原理かしたい丸まるが残ることはほとんどなく、採取しようと死骸に刃を立てたり、行動を起こすと勝手に分解、確率でアイテムとして素材を落とす仕組みになっている。
何でこんな、現実感が薄れる仕様?みたいになっているのかはいまだ不明らしい。
飛び散った血も、また襲われ喰われた冒険者も、一部はどこかに消えるらしい。
その中で、特殊な性質なのか、加護のようなものなのか、冒険者カードだけは、モンスターの体内に入っても消えることなく、その場に残るらしい。
(まあ、いまはとにかく川に戻るのが先か)
ドロップ量の多さを気にせずクリスは落ちた素材類を持ち川に向かった。
幸い、逃げたときに少し荷物が散乱した程度で済んでいた。
ほっとし、改めて手に入れた素材を荷物のリュックに入れ、水を補給し。
次の町、アスーティに向かって再び歩き出した。
さらに2日後、真ん中に十字に川が流れ4つに分割する形にキレイな円形をした街を発見した。
「・・っ!!
あれが、ひょっとしてアスーティか!?」
目を輝かせ、自然と声が大きくなりながらクリスは町の全体を見渡した。
その町は、円形といっても、港町のようでクリスの見る方角からして東側には何十隻もの様々な船が並ぶ港とくっついた造船所があった。
「港町の様相もしてるのか・・・。
すげー。
っていうかギルド長``何が1週間で着くだろう``だ。
身体強化でたまに走ったりとかしたけど、それを使わないと2週間は最低でもかかる距離だったぞ」
ここにいないギルド長に悪態をつきながらクリスはアスーティの町に向かって歩き出した。
ここまでの道のりが計5日で済んだのはクリスの普段のレベル上げや体内マナの特訓など、地味な努力の成果に他ならなかった。
「お、なんだ?坊主?
どこから来たんだ?」
アスーティの門番に聞かれ、「ステイメッカの町から来ました」と、答えた。
「・・・は?。
え?・・・ステイメッカの町から?
坊主一人で?」
「はい!」
予想外な回答に理解が追い付かない兵士。
それに気づいたもう一人の兵士が近づき聞いてくる。
「おい、どうした?
入るために待っている民衆がいるんだぞ、早く入れる手続きをしろよ」
「いや、この坊主がステイメッカから来たって・・・」
「は?何言ってるんだ?
ほらさっさと手続きしろって」
「あ、いやでもよ」
手続きに絞っていると感じ始めた、街に入ろうとする人たちが困った顔をしだした。
「なあ、早くしてくれないか?」
「そうよ、こっちは早く入って商品の用意をしなくちゃいけないんだから」
「あのー、まだなんですかー?」
と口々に言われるため、他にも門の奥から兵士が数人、助っ人として手助けに入り手続きをこなそうと動き始めた。
クリスたちが着いたの割と朝方で人が大勢並ぶ時間帯だったため、人でごった返していた。
所謂、通勤ラッシュの時間だったのだ。
当然入る者もいれば、これからどこか別の町に出発したり、冒険者が仕事に出かける時間になる。
冒険者はもっと朝早くから動くこともあるが、一般人にとっては丁度、この朝の時間が最も仕事の準備で忙しくなるところだった。
「ほら、早く手続して。
・・・坊主?
何か証明できるものはないか?」
一瞬、クリスを見て、少しだけ固まった後、確認の身分証みたいなものがないか聞いてきた。
「・・・証明?
これじゃ、ダメですか?」
クリスは右手首に巻いたリストタグのような白い色のアクセサリーを兵士に見せた。
「・・・一応冒険者登録はしてるんだね。
わかった通っていいよ」
確認を取った兵士がクリスを通す許可を出した。
「は?冒険者?
あんな子供が?」
「仮だが、一応正式に登録されていた。
お前も見たろう?
手首の冒険者カードを」
「・・・いやそうだけど。
だってよぅ・・あの子供、ステイメッカから一人で来たんだっていうんだぜ?」
「は?何言ってんだお前?
ステイメッカなんてここからどれくらい距離あると思ってるんだ。
大人でも2週間はかかる距離だぞ?
子供の足でだったら最悪1ヶ月はかかるぞ」
そんな話が兵士たちの間で交わされていたがクリスはとっくに町に入ってしまったため、そんな会話を知ることはなかった。
「ほぁ~。
すげ~」
クリスは周りの建物や人の多さ、いろんな種族が行きかう様を見て目移りしていた。
完全におのぼりさん状態だった。
「・・・あっ。
こんなことしてる場合じゃなかった。
宿探さないと」
ステイメッカの孤児院のように無償で泊めてくれる、世話をしてくれるわけじゃない。
クリスはそれを思い出し、まずは宿を探すようにと魔法店のレイシーさんの使い魔のミミから教わった異世界旅行の歩き方を思い出した。
「まずは、冒険者ギルドとかの受付の人に聞いたりして場所を聞くのが一番だって言ってたっけ?」
冒険者は仮登録者~一流冒険者まで千差万別。
そのためギルドではそんな冒険者の住まいの簡単な紹介、サポートをしている。
どんな人、生活事情があるかは人によって違いすぎるためギルド側でサポートしているそうだ。
当然、中には、なっていないマナー違反もいるがそんな者たちは大抵が悲惨な末路となっているそうだが、今はどうでもいい。
とにかく、そんなわけで早速、ギルドを近くの人に尋ね、直行した。
ちなみに補足としてリストタグのような冒険者カードが、なぜカードだかは単純にその名残らしい。
いちいち、変更する度、名前が変わりそれを世界中のギルドに浸透させるのにはどうしてもずいぶんな時間がかかり面倒なんだそうだ。
そのため、形は違うが冒険者カードとして現在も呼ばれている。
「すいませ~ん」
「は~い。
いらっしゃいま・・・・せ?」
少しカウンターの高い受付のせいで、クリスも受付係もお互いの姿が見えなかった。
「・・・?
あ!」
身を乗り出し、クリスを見て受付のお姉さんが驚いた。
「あのー?」
「い、いらっしゃいボク。
どうしたのかな?
ひょっとして迷子かな?」
驚いたことをなかったようにしようと誤魔化し、若干、焦ったように笑顔でいてくるお姉さん。
「はい。
あの、この近くに安めの宿とか、泊まれる場所はありませんか?」
「・・・・ひょっとして。
ボク・・ひとり?」
「?はい、そうですけど」
「え?
あのーほんとに君一人なの?」
「?・・・はい。
そうですけど・・・あの、何か?」
目の前の獣人、猫耳の獣人族のお姉さんは、耳をピコピコと動かし、困ったような顔をした。
「う~ん、困ったな~」
「どうしたのよ?ミュリー」
「あ!ローナ助けて、この子が宿を探してるっていうの」
「?紹介してあげればいいじゃ・・・な・・い」
ローナと言われた人間の受付のお姉さんがクリスを見て固まった。
「あのー?
宿を紹介してもらえないでしょうか、できれば高くない場所を・・・」
しかし、新たに受付に来たお姉さんも固まった。
(だから何なんだろう、俺が聞くたびに固まるのは。
そんなに子供が一人でいるのはおかしいことなのか?
・・・いや、まあ、普通はそんなことをする子供のほうが珍しいか。
でも、この世界は異世界、元居た地球より生活ができないホームレスのような、スラムで生活する子供がたくさんいたって普通だろう。
なぜ固まる?
・・・まさかそれともあれか、この容姿のことで固まっているのか?
確かにこの世界の人は全体的に美形率が地球よりも高いとは思うが、それも程度も問題であって、どうしようもないほど今のクリスの顔は絶望的ではないと思うが・・・)
不安が募ってくる。
この沈黙がクリスには得体のしれない拷問に感じていた。
「ああ!ごめんなさい、ボク」
やっとのこと、不安になりどこか悲しそうにしたクリスを見てローナが謝った。
「キミみたいに小さい子供が宿を探しに来ること事態が珍しくて、それに見た感じボク、旅をしてるのかな?」
「はい。
ステイメッカから来ました」
「ステイっ!!」
「?」
ミュリーが驚きの声を上げて固まったところ、ガタンと何かが横からぶつけられた衝撃で正気を戻した。
そしてローナがチラッとミュリーを見ると、ミュリーは耳を下げしょんぼりした。
「ごめんなさい」
「・・・、こほん。
ステイメッカからわざわざアスーティまで来たの?」
「はい!歩いて!」
「あるい・・≪キッ!≫・・ごめんなさい」
「そう・・・随分と遠くから来たのね」
「はい・・それで宿のほうなんですけど・・・」
「ごめんなさい・・・今はもうすぐ行われるお祭りでどこも泊まれる場所がないの?」
「・・・えっ?」
【クリス】3才
レベル 12 → 20
HP 56 → 128 MP 39 → 73
STR 20 → 49
VIT 15 → 37
INT 12 → 40
RES 13 → 34
DEX 22 → 56
AGI 18 → 43
LUK 14 → 32




