165 翻弄される男達
少し前に遡る。
「なるほどね~。まあ、分からなくはないか・・・」「あの子達には、いい経験になるんじゃない?別に本当に嫌い合っているわけじゃないんだし」「あれは、ある種の張り合いみたいなモノですしね。お互いの役割や立場を理解しての。・・・いえ、それを抜きにしたライバル・・・の様なモノでしょうか?」「なんだかんだでお互い、危なくなったら放っては置けないタイプではないでしょう」「いいね~、青春って感じで・・・。そんな甘酸っぱい青春。俺も味わいたいよ」「止めろ。お前が絡むと彼女達が怪我されてしまいそうだ」「酷くない?」「木下さんの言う通りです。彼女達の人生を汚さないでください」「岡部ちゃんも酷いな~」
ココ、芽木白探偵事務所では、社長の芽木白彰隆。そこに所属する園喜美楓花と朱佐紀佳胡が居た。
そして彰隆と向かい合うようにして話し合っているのは防衛界誓第4支部の木下浩太と岡部優香だった。
「とまあ多少、本音も交えた冗談はさておき・・・」「どこが本音だったのか、俺は聞きたいな~、佳胡ちゃん」
彰隆の言葉を無視して、木下達に話を続ける佳胡。
「楓花さんと社長からは、話を聞いております。思った以上に厄介な者達がこの東京にはいるようですね」「(コクリ)・・・。まあ、正確に言えば。現段階で確認された中で、ウチと協力をしてくれている澪奈ちゃんと鏡花ちゃんのおかげではあるけどね」「(お?ちょっと雰囲気変えた?少し前は張り詰めていた様だったけど・・・)」「今回も、彼女達のおかげで分かった事ばかりだったからね。こっちとしては頭の下がる思いだよ」「私はその現場には居合わせていませんので、分かりませんが・・・。木下さんの話では現れたモンスターでも、彰隆さんや楓花さんが対処しないと厄介な相手だったとか?」「私も話を聞いた限りはその様な印象を感じました。ただ・・・姿をこの目で見ていないのでなんとも・・・」
岡部と佳胡の2人は、木下達3人が言うのだから冗談ではないというのは分かってはいるが・・・いまいち、その強さのほどが判ってはいなかった。強力だとしても彰隆、楓花のどちらか1人が居れば。強敵を倒すくらいはやってのけると信じているからだった。実際、今回もそれぞれが1体ずつ相手して退けているのもあって、そこまでの脅威に感じていなかった。
「まあ、なんというかデカい図体をした・・・近接型モンスターだよ。反応速度は良かったが。それさえ気を付けてれば問題ない相手って感じかな?」「おや?その割には怪我をしていた様な・・・w」「あれは、転んで擦りむいたの。敵の攻撃でケガしたわけじゃないから」「う~♪。子供みたいな言いわけ~♪」「はっ・・・。言ってなさい」
からかう楓花をシッシとあしらう彰隆。
「今回は近接タイプだったが。今後、違うタイプが現れるとも限らない。一応、そういう事も兼ねて彼女達にも。多少、こちらとのコネがある学園に転校してもらったんだよ。一時的に、という建前だが・・・。今後も彰隆達の事務所と星天珠、ウチの組織は出来れば協力関係でいたいからな」「何とも打算的な、お役所の匂いがプンプンする話だな?」「俺個人としては普通に仲良くありたいって思うんだけどな」「は~あ。だから雁字搦めな規律順守の職場はイヤなんだよな~」「ふふ・・・どこかの誰かさんはすぐに止めてしまいましたからね~?」「それは言わないでよ岡部ちゃ~ん」「ふふ・・・知りません」
木下の話に辟易する彰隆をからかう岡部。この事務所ならではのアットホームに感じる空間に木下も岡部も仕事場以上にリラックスしているようで、話す口調は気持ち軽くも聞こえた。重々しい空気を嫌う場面も多い彰隆の影響もあるかもしれなかった。っと、そこへ手を上げて佳胡が質問を投げかけた。
「1つ聞きたいことが。どうして翼さんと來未さんを澪奈さんと鏡花さんの所へ?人数を考えて割り振るのであれば芳守君を向かわせるべきでは?茉莉さんの所に1人ってのはどうも・・・」「ああ、それね」
椅子の背もたれに凭れていた彰隆は、勢いを付けた反動で起き上がり、前のめりに佳胡に説明する。
「それは状況を判断して上手く立ち回る行動性を考えてだよ。澪奈ちゃんはちょっと勝気な性格の所もあるけど、状況を考えて浩太に連絡を取ってりして助けを読んだりするだろう。鏡花ちゃんもその辺りは心配していない。2人共、人命を優先して動く様に考えて訓練されているのもあるからね。・・・問題はウチの翼と來未だよ」「・・・ああ~」「わかった?」「はい・・・」「え?翼ちゃんは何となくわかりますけど・・・。來未ちゃんも?」
察しがついた佳胡とは違い、そこまで面識はあっても戦闘においての行動パターンまでは知らない岡部は、つい聞いてしまう。彰隆に変わって、楓花が説明する。
「翼は優香ちゃんの言う通りで・・・。まあ、分かると思うけど。來未は・・・翼というペアといると結構、羽目を外しやすい子なのよ。普段ちょっとおっとりとしたマイペースな印象を持たれるけど・・・。あの子も翼と一緒で結構、戦える状況になると進んで攻撃に出ちゃうタイプなのよ」「い、意外です」
目を見開き、初耳だと驚く岡部。そして楓花の話を聞いて思い出し頭を抱えてしまう彰隆。
「あの時は焦った・・・。まあ多少は仕方ないにしても・・・。まさか、たかだかちょっと絡んできたからって中坊共を半殺しのような目に遭わせ、病院送りにするとは思わなかった」「女を性欲の道具にしようと思っていた品性のない子供です。少々世間の常識を教えるには良い薬になったでしょう」「だからって。その結果、下手したら慰謝料や何やらでこの事務所が無くなるかもしれなかったんだぞ?やるならもっと穏便にしてくれよ。木下がすぐに俺に連絡してくれなかったらもっと危なかったんだぞ?」「まあ、正確には請求書になりかけた書類の見せられるまでは。ヤレヤレ、と囃し立ててたけどね」
彰隆の心情など無視。当然の報いと切り捨てる佳胡とその時の状況を教える楓花。その時の翼達の行動、そして彰隆達の状況がありありと想像できて苦笑するしか岡部にはなかった。しかし、内心ではそんな連中は有罪だと同意している岡部だった。もちろん口には出さないが・・・。そして目線を上に上げていた彰隆は岡部に視線を戻し、話を続けた。
「っとまあ、そういう事もあって。不用意に1人しかいない茉莉ちゃんの所にはウチのトラブルメーカーは行かせられないワケ」「ふふ。(ボソ)あの子達が聞いたら、あんたが言うなって怒るでしょうね」「(ボソ)ええ。いつも、厄介で面倒な事を増やすのは社長ですからね」「聞こえてますけど~?」
そっぽ向く楓花と佳胡。彰隆は1つため息を零しつつ、気を取り直して岡部に説明を続けた。
「それに、一応、オールラウンダー的に戦える茉莉ちゃん、澪奈ちゃん、鏡花ちゃん達だけど。本職は巫女で、守護や護衛が支援が主で戦闘に特化したタイプの子は・・・あまり彼女達の組織にはいないからね~」「そこも含めて、我々が傍である程度の援護と護衛を兼ねた交流がなされているんだよ」「あっ・・・そっか」
木下の言葉で、防衛界誓第がどうして彼女達、星天珠と懇意にしているかを岡部は警察でも特殊組織になるこの防衛界誓に入った時に受けた説明を思い出していた。
「当然、美華ちゃんは最重要人物だよ?日本でも有数の未来を予知、予言、神託を受ける巫女の最高位。彼女ほどの重要人物は日本の中では両手の数に入るくらいしかいない。しかし・・・。それは日本という括りだけではなく、世界にとってもという意味でもある。そこを除いても星天珠の巫女達は美華ちゃんに次ぐ力を覚醒しうる可能性を秘めた。我々、守護者にとっては世界の大切な護りての要になる子達なんだよ。だからこそ、私達は彼女達の組織とは今後も未来永劫、協力関係で居続けなければならない」「・・・はい。我々は支配者ではない。守護者である」
木下の説明で目がキリっと変わり、就任した時に受けた説明の最後の台詞を思い出していた。それを聞いて木下は黙って頷いた。そして彰隆は再度、話を続ける。
「まあ他にも、ウチの芳守なら茉莉ちゃんを護衛しながら、強敵の対処、避難等。その辺りは上手くやってのけるからね。茉莉ちゃんもしっかりしてるし、あの2人なら問題ないって事」「そういう事だったんですか~」「そう。そして翼と來未は、澪奈ちゃんと鏡花ちゃんという2人が居る事で、護衛しなくてはならないから無茶は出来ない。いわばストッパーの様な役割でもあるわけ」「そこへ私達の様にこの世界の裏の事情を知っている面々がいる達が学校に協力して貰って転校をさせたってワケ」「へー・・・。結構私達の様に世界を知っている人がいるんだ~」
色んな所に協力者がいた事に改めて感心する岡部。
「美華ちゃんの様に特別な力を持った者は世界中にいるおかげで、長い歴史。世間に知れ渡ることは無かったんだよ。まあだからといって、全く知られないわけじゃない。代々継いだ家系や悲惨な事故や事件に巻き込まれ知った子や、自らコッチの世界に入った奴なんかもいる。結構、協力者はいっぱいいるんだぜ?」「は~・・・」
感心して口が開いてしまう岡部。そこへ楓花が。
「まあ・・・。世界を我が物にっ、て事でやりたい放題する組織もごまんといるんだけどね」「・・・はぁ」
今度は落ち込むようなため息を込めて反応を返す。
「詰まる所・・・。私達のやる事は変わらないって事ですね」「結局は、そういう事」
両手を広げ、手のひらを外へ向けてオーバーリアクションで肩を上げてから下げる彰隆。しかし、なにかを吹っ切った様に下がってしまった頭を上げてやる気を見せる岡部。
「だったら・・・。それが無くなるまで私は頑張るだけです」「おお。頑張れよ~岡部ちゃん」
他人事の様にいう彰隆。しかしそんな彰隆の反応など無視して小さくガッツポーズを取って自身にやる気の活を入れる。
「まあ、今回は確認と今後の対策も兼ねたものの報告だったわけだ。それじゃあ、俺達は署に帰るとするよ。これから色々としなくてはならん事もあるしな」
そういって木下が立ち上がると事務所を後にしていく。岡部も同じく立ち上がって、頭を下げて木下の後を付いて行くのだった。
「大変だね~」「あんたはもっと大変になるかもしれないよ~?」
他人事の様に暢気に言った彰隆を、含み笑いを込めながら見る楓花。何の事か?と一瞬考えた後。すぐに思い出し焦りだす。佳胡も察しが付いたので、言うだけ行って事務所を後にしようとした。
「それでは・・・。私は少しの間、自由な休暇をいただきますね?何か面白いお土産話を聞かせてください。それじゃ」「あっ、ちょっ、待ってよ佳胡ちゃん!」
彰隆の声を無視して出て行った。
「それじゃあ、あんたも明日には出発するから、今日はサッサと営業を畳んで、荷物の準備をしなよ?・・・ああ、因みに・・・」
事務所を扉を開けて、出て行く前に振り返り、釘を刺していく。
「逃げたら、ウチの師匠達を連れてあんたを攫いに行くから・・・。そのつもりで」
怖い言葉を言い残して、今度こそ楓花は去って行った。
「・・・ヤベー。世界どうのこうの以前に。その前に俺が死にそう」
頭を抱えて下を向き、しばらくそうしているのだった。
4月の終わりから5月の初頭は日本にとっては、お休みのラッシュ。そして飲食店やスーパーなど店舗側にとってはお客をたくさん招き入れる、まさに書き入れ時。商戦である。人でごった返し、場所によっては渋滞すら発生する。わざわざこの時期のために仕事の有休を取って多く連休にする人もいる。
そして現在。そんなたくさん人々が行き交う大型ショッピングセンターで純はたくさんの荷物を抱えてへとへとになっていた。
「ハア・・・ハア・・・。ね・・・姉さん達・・・。まだ買うの?」「まだまだよ純」「あと、ココとココとココ。行ってない場所がある。・・・あ、姉さんココ?」「?、ああ!ココも捨てがたいわね~、どうしよう~」
とても楽しそうな純の義姉の美月と紅百葉。そんな2人に付き合わされる純。純が疲れているのは精神的な疲労からだった。今の純の身体能力なら両手に多少持たされた荷物程度ではここまで疲労困憊はしない。理由は単純、コミュ障からの人込み酔いである。
異世界に渡り、そこで様々な人に触れ合い。高校生活が入ってからは仲良く話せる友達も出来た純だが・・・。長いことボッチ学生生活が続いていた弊害か、必要でない理由で、これほど人で溢れかえる様な大きなショッピングセンターにはまず来ない。そのため、忘れていた拒否反応と呼べる拒絶感が出てきてしまい、予想を上回るスピードで純の精神は蝕んでいた。
「(どうして、ココに来てしまったのか・・・)」
何度、自問自答を繰り返しても、決まった答えしか返ってはこない。
〔それは2人が楽しみにしていたからです〕
サポートが純に変わりハッキリと答えた。
・・・それは遡る事数日前。ゴールデンウイークが始まる休みの前の日になる。
「ねえ、純。ゴールデンウイークに何か予定はあるの?」
美月は皆が食べ終えた食事の食器を洗いながら、テレビを見ていた純に聞いた。
「え?いや、特に無いけど・・・。(本当は、影の世界を早めに攻略するため、探索しようかなって思ってたけど)」「友達は?・・・」
一緒にバラエティー番組を見ていた紅百葉が純の方へ顔を向けて聞いてきた。
「ああ。皆、予定があるんだって」
純はそう言いながら思い出していた。
「そういえば、皆はこの休みどうするの?」「俺。健介や勉と新聞部のために資料を集めなきゃならないんだ」「まあ、資料と言っても僕達でテーマは決めていいからブラブラする様なものなんだけどね~」「オレ達も、なんだかんだであの部活が気に入ってきちゃったんだよな」
笹本を見て、2人して笑い合う。
「だろ?結構自由にしつつも、ちょっとのつもりが探してみれば何か作ってしまいたくなる感じ。たぶん、あの部活だからかもしれないけど、前いた中学じゃ味わえなかったな~」「それって部長達とかも入ってない?」「ち、ちちち違うって!」「そこまでキョドらなくても」「キョドってねえって!」
3人は3人で楽しそうにしていたために、ちょっと羨ましくなる純だった。
「(俺も何か入ればよかったかな?)」〔今から入っても問題ありませんよ?・・・しかし、拘束力というか。そういった縛りの様なものが発生しそうな部活は避けた方がいいでしょう〕「(だよね~)」
純達にとっては・・・まだ何か分からないが。自分達・・・。ひいては家族や知り合った人達を守るための力が急務とも考えており。部活に入っても常に、そちらに顔を出せる時が少ないのではないかと考えてしまうからだった。
〔まあ、新しい人と知り合い、仲良くなったりと。コミュニケーション力を高めるには良い所なのですが・・・〕「(・・・)」〔なかなかハードルは高そうですね。・・・克服したと思っていたのですが〕「(人間・・・そう簡単にはいかないって)」
そして純はクラスメイトの女子達と仲良く話し、その子達が部活に行くからと去って行き、自分達もそろそろと帰宅しようとカバンに教科書を入れていた澪奈と鏡花達の方へと向いた。それに釣られる様に要達も振り向いた。
「ねえ?澪奈ちゃん、鏡花ちゃん」「ん?なに?」「はい?」
笹森はフランクに2人に呼び掛けた。
この3週間足らずの間に皆、他人行儀だった所から名前で呼び合うくらいにはフレンドリーな関係を気付けるようになっていた。なんだかんだで要と澪奈の2人がキッカケとしては強かった。
2人はもともと性格や趣味はもちろん違えど、他人行儀で会話し続けるのは難しい性格だったようで。せっかく仲良くなってきたのに、どこか壁を感じる空間がどうしても好きになれなかったようだった。特にその傾向が強かったのは澪奈だった。
口調こそフランクでもどこか他人行儀に話す要に気を使って、澪奈から降って来たのが理由だった。
「澪奈でいいわよ?もうそこまで知らない仲ってわけじゃないし」「えっ、あ、いや、その・・・いきなり名前ってのは・・・その・・・」「ふふふ、なんか十時影君・・・純君みたいな反応をしますね」「気を付けます」「あれ、今、馬鹿にされてない?」「そんな事ないぞ」
澪奈と急に距離が縮まった感じに顔を赤らめる要に笑う康太と勉。澪奈の言葉を勘違いしているわけではないが、そう受け取っている節もあるからだった。もちろん澪奈にそんな意識はこれっぽっちも無かった。ただ単純に、友達としてもっと自然でいたかったからだった。
そんな事があっての今である。
要はゴールデンウイークの予定を澪奈達に聞いてみた。
「俺達、部活があって。それの資料集めとかでゴールデンウイークの時色々と回るんだけど・・・。もし、都合が良かったらさあ。皆で1日だけでもどっかに行かねえかなって思って」「う~ん、アタシ達。家の事もあってちょっと・・・」「ええ。私と澪奈は一緒なんですけど・・・要さん達とは・・・たぶん難しいかもしれません。ごめんなさい」「ああっ、いやいいよ!聞いてみただけだから。?、そういえば2人共・・・神社関係の仕事をしてるんだっけ?」「んーまあ、お手伝い・・・みたいなもの?」「実家の関係ですからね~。バイトとはちょっと違うんですよ~」「へー。そういうもんなんだー」「大変だね~」「そんな事ないわよ?」「慣れてしまえば、普通ですし」「そういうもんか」
納得した要達は誘いを諦めた。しかし、そこでふと思い出し気になった事を質問した。
「あっ。2人に聞きたいことがあるんだけど?」「なに?」「はい?」「つい最近、転校してきた先輩の古野宮翼と蓮奏來未って先輩、知ってる?」
その名前を聞いた瞬間、ピクっと反応したが要達は気付かない。
「それがどうしたの?」「要君、転校生がいるってよく知っていますね~」「いや、これでも新聞部だし情報通としては、身近なこういう情報は大切じゃない」「(本当は、先輩に同じクラスの人がいて聞いた情報なんだけどね)」「(結構、可愛いこと系と美人系って話だったし。・・・男としてはちょっと気になるよね)」「その転校生がどうしたの?」「ああ。前にその先輩達と澪奈ちゃん、鏡花ちゃんが一緒にいたって先輩から聞いたから、知り合いなのかなって・・・」
その話を聞いた澪奈と鏡花はお互いを見て、何とも黙った。これはどういう反応なのか要達は待った。しかし、そこで鏡花が急に笑って要の方を見る。
「ふふふ。もしかして、その先輩と知り合いなら、紹介してほしいって事ですか?」「ほほ~。あわよくばお近づきに慣れるって魂胆なのかな~?要君は・・・」
ズイッと澪奈は要の顔を近くまで持っていき下から、上を見上げる様な体勢わざととった。半眼になった目と口角が上がって笑っている口元を見ればからかっているのは容易に分かる。しかし、急に顔が近くまで寄って来られた要は顔を赤らめて必死にそっぽを向き、慌てて言い訳をする。
「い、いいいや、そこまでやましい気持ちがあって聞いたわけじゃないんだ!(イイ匂い)。もし、知り合いだったらちょっとだけ新聞部のネタの参考として聞いてみたいなって。(顔が近い!ああ・・・ヤバイ!)」「って事は、お近づきになる事は否定しないんですね?」
悪ノリして鏡花も要の傍まで寄って行く。
「やましいって・・・要君はいったい何を考えていたのかな~?」
更に追い打ちを掛ける様に澪奈が詰め寄る事で、要はあわあわと慌てふためき、マトモに会話が出来る状況ではなくなった。学年でもランクがとても高く、それでいてとても気さくな2人の可愛い子達に囲まれては、要にどうしようもなかった。
いくら仲良くなったといっても、それは友達のレベル。もう少し正確に言えばクラスメイトから友達として近づいた程度で、親密になるにはまだまだ先の道のりは長いものだった。そんな光景を傍で見ていた純は思う。
「(ありゃあダメだな)」
まるで自分を見ているようだと純は思った。義姉に詰め寄られどうする事も出来なくなる自分と同じ光景がまさにそこにはあった。勝ち目などない。そう言われているようなモノだった。
〔経験者は語りますね~〕「(あの状態から悲しい顔をされたら・・・)」〔純は本当に美月と紅百葉に弱いですね~〕
サポートもこれまでの経験で純の行動パターンも思考も分かっている。いや、それ以上に。純の魂の一部であるため、その時の心情も分かってしまうのだった。
「(ボソ)うらやましい」「(ボソ)純に続いて要もか」
その光景を指を加えて見ている様な健介と勉がそこにはいた。
ある程度、からかうのに満足した澪奈と鏡花は要から離れて、ハッキリと言った。
「2年生の先輩の転校生だったら、廊下で合った時に道案内を頼まれちゃったからしただけだよ」「たまたま擦れ違った時に、場所が分からないから教えてあげたんですよ」「ああ、そうなんだ!・・・そっか、たまたま」「そ、たまたまなの」「ええ偶然に」「そ、そっか・・・。じゃあ仕方ないか」
少しばかり強調された様な口調に、気付く素振りすらない要達。しかし・・・純は以前、自分のステータスボートにあるクエストで澪奈達と翼達が知り合いであることは陰から見ていたので知っていた。だからこそ、分かる。あからさまなまでの惚けっぷりを。しかし、関わるわけにもいかないので黙っていることにした。
「って事があって」「ふ~ん。つまり予定はないのね?」「フリー・・・。という事は、私達とお出掛け」「え?」「いいわね~!ちょうど私も、どこかに行こうかなって思ってたのよ」「私も」「という事で純」「・・・」「「買い物に行こう」くわよ」
こうハッキリと義姉達に言われては、もはや決定事項の様なもの。純に拒否権は無いも同然であった。
【十時影 純 (クリス)】15才 人間・・・かな~?(進化)
レベル 5
HP 25 MP 22
STR 17
VIT 14
INT 12
RES 13
DEX 18
AGI 21
LUK 5
『マナ(情報体):レベル 1 』『波鋼:レベル 1 』『総量拡大:レベル 8 』
『魔法: 水、風 』




