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転と閃のアイデンティティー  作者: あさくら 正篤
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159 ホラー系に触手のようなモノは付き物なのか?その辺りがちょっと気になります。

「ウウウ・・・」


 見下ろすその目の瞳孔は赤く、爪には妙に脈動する様に不規則に動いているように純には見えた。


「(・・・あの爪って、別の生き物とか?)」

〔?、そんなはずはないでしょう。

 ほら、ふざけてないで集中してください〕


 純がそう思ってしまうのも仕方がなかった。

 体が元々デカいのはもちろんとして、烏の仮面のモンスターやそのモンスターが生み出した魔法のマナ、同じく横に巨大に並び重なって置かれていたガラスケースの中の緑色の溶液などをエネルギーに変換して吸収する事によって、元々鋭かった爪がよりごつごつと分厚くも危険性が増した大きな爪へと進化を果たしていたからだった。

 それも片方では両手の爪が、だ。

 そして爪には脈動する様に血管の様に赤い線が走っていて、赤い爪がより赤くなっていた。


「ウガアアアア!」


 その巨体からは想像できないほど滑らかに動きだし、たった数歩で純の所まで迫って来た。

 そして下から打ち上げる様に長い爪で振り上げる。


「あぶなっ」


 あの巨体からすれば、とてもこんな狭い所で暴れて言い広さではなかった。

 純が回避したその後、爪の後を追うように地面に切り裂いた爪の軌道を火が走っていく。


「やっぱ、あの爪オカシイじゃん!」

〔ふむ・・・付与効果でしょうか?〕

「今、そういう話じゃないでしょう!」


 純は何をしてくるか判らない巨大モンスターから距離を開けようと離れるが、いくら素早い純でも巨大すぎるモンスター相手では狭いフィールド内じゃ、行動範囲が狭まってしまう。


 しかし、モンスターもそうなのではと共感を持っているのではと思えるくらいの、狭いフィールド内での暴れぶりと攻撃性、さらに四方八方へと避けて逃げ回っていた純を追いかけ回したおかげ、と言うべきか周囲の壁やガラスケース、柱になっている者までが無茶苦茶に壊され幾分か広い戦闘フィールドへと無理やり変わっていた。


〔無茶苦茶ですが・・・これで、私達にも戦いやすい範囲は取れたのではないでしょうか?〕

「(はぁ・・・。マナを練る時に少しくらい待ってくれても良いんじゃないかって思ってたけど。

 結果オーライか)」

〔元々スムーズに練る練習や実践はしてきましたけど。

 ここまで大きくて、結果狭い範囲での戦闘と言うのは想定外でしたね〕

「それに、なんだかんだ言って全力を出して戦う事って、そう無かったし」

〔ああ~。そういえば、そうでしたね。

 コッチに帰って来てからは、マナを使っての実践もほとんどここ数日の事でしたから。

 進化した器で本気になるのは、今回が初めてですね〕

「(さて・・・どこまでやれるか)」

〔調整の方はお任せを〕


 巨大モンスターが散々暴れまわってくれたおかげで土煙や埃等、純が身を隠すには十分な遮蔽物と状況が出来上がっていた。

 モンスターにとっては純の様に小さな存在を見つけるのは難しい状況になったが。


「おりゃ!」

「ブオッ!」


 モンスターは純の攻撃で足を蹴り飛ばされ強制的に膝を突かされる。

 しかし、反撃とばかりに無理やり片腕を振り払い、純を切り裂こうとする。

 無理やりな振り払いのために、腕だけの勢いの為、立っていた時よりもスピードは乗りきれず純にあっさりと回避されてしまう。

 だが、その威力、スピードによっての破壊力は凄まじく、壁を大きく切り裂き、爪痕を壁に作ったのは一瞬。その後すぐに薙ぎ払った風圧で壁が吹き飛んでしまった。


「(マズい)」


 流石に、ここまで大規模な破壊にはこの建物がただでは済まないと焦りだす純。

 しかし、そんな予感とは別にこのモンスターを倒す成りしないとマズいため逃げるわけにもいかず攻撃にあたる。


「・・・フン!」


 モンスターが純を視認して拳を上から振り下ろしにかかった所へすり抜け、モンスターの腕を擦れ抜け滑るように躱し、顔へ接近、気合いを入れた蹴りを叩きこんだ。


「どうだ!」


 純の蹴りをまともに受けたモンスターは大きく、自分が倒れていた巨大ガラスケースの方へと吹き飛んで行く。

 強制的に浮かび上がった状態でそのまま軽く半回転しそうなまま壁の向こうへと消えていった。


〔・・・出力36%ほどですね〕

「はあ?いや、これでも前よりはかなり出しているつもりなんだけど」

〔でしたらマナの練り方をもう一度、見直す必要があるのと。

 あと純の身体能力では影の世界でですが桜稲森(おうとうもり)駅の様に一帯を更地に変えてしまう事が容易だという事が証明されたわけですね。

 このままですと、純がもはや核兵器に匹敵するのも時間の問題です〕

「・・・分かってはいたけど、俺は何処まで進化すれば普通の生活を手に入れられるのか・・・」


 ゴゴゴゴゴ、ドコ、ドシン、バラバラバラバラ。


〔純、この先・・・あのモンスターが飛んで行った方角へと向かってください。

 この場所は崩れます〕

「おわわわ・・・生き埋めなんて御免だぞ」


 慌てて、上から落ちてくる瓦礫を避けながらサポートの指示で大きく開けた壁穴の向こうへと走っていく純。


〔飛んでください〕

「っ」


 瓦礫が山の様に積まれ、更には落ちてくる破片群の中、サポートの言葉を信じ、前へと飛び出す純。


「・・・おわわわわわわわ~~~っ!」


 しかし、壁の向こうへは、人間が横3人分のくらいの幅の真っ黒な下り階段が途中で途切れていて、そこから先の階段は無くなっていた。

 ある程度の高さくらいならと思っていた純はそのまま空洞になっている穴へと落ちていく。


 ・・・ダーン!


「・・・ビ・・・ビビったぁ~・・・」


 大きく床に罅割れを起こしながらも数十メートル下の地面へと無事着地を成功し安堵する。


〔純なら問題ないかと〕

「いや、その前に事前に足場が途中で途切れてるなら言ってよ」


 若干、体に伝わる振動でビリビリしながらも平気だったため、事も無げに言うサポート。

 そんなサポートに痺れながらも一言もう物申したい純だった。


「・・・モンスターは・・・?」

〔生きてはいますが、思ったよりも純の攻撃と落下ダメージが効いているようですね〕


 純の体での人間サイズで言えば先ほどの4倍以上は在ろうかという広さの空洞に来ていた。

 そして巨大モンスターは、純達から見て奥の壁の近くでうつ伏せになって倒れ込んでいた。

 微かに動く姿と呼吸に合わせて上下する背中から死んでない事は純も分かった。


「・・・何だ?ココ?」


 そして改めて周囲を見回す。

 地盤沈下か何かで無理やり巨大なビルの中を破壊したように歪な形の円形にくりぬかれた地形がそこにはあった。

 上を見上げ、周りを見ればコンクリートのような床に無数の柱が不規則に残っており、荒廃した場所とも言える。さらには若干、円形の形を取っているためさながらコロシアムのようにも見える。


 しかしそこで1つの疑問が浮かんだ。


「?、どうしてこんなに明るいんだ?」

〔純、天井を〕

「・・・光が射している?

 あれ?確か、このエリアって薄雲って暗かったはずなのに」


 純達が影の世界でも特殊なエリアへと道を通った時、この場所一帯は鬱蒼とした暗い森だった。

 空も曇って常に薄紫の様に暗い場所だった。

 だが、いま遥か上空から純達がいる深い底にまで明るい光がどういう原理か届いていた。

 そのために周囲を見回すことが出来ていたのだ。


〔この明るさは・・・特殊エリアの周りを囲っていた光りみたいですね。

 どうやら、その輝きがこの辺りを照らしているようです〕

「は~・・・見やすいのはありがたいけど・・・どうしてなのか・・・」

〔それは分かりませんね〕


 調べて簡単に解決できない問題である以上サポートは詮索する気が無いようだった。

 それ以上にまだ戦闘が終わっていない事の方が重要だと判断したようでもあった。


「ウ、ウウウ・・・」


 やっと起き上がるまでに回復したのかゆっくりと頭を振り立ち上がる巨大モンスター。


〔・・・倒れている間にトドメを刺しておくべきでしたね〕

「なかなか酷い事を言う」

〔向こうから仕掛けた戦闘です。卑怯も何もないでしょう〕

「そりゃそうだけど」


 立ち上がった巨大モンスターは、怒り心頭とでもいうように体のいたる所の血管が浮き上がっていた。・・・そして。


「ゥゥゥウウオオオオオオオオオオオオ・・・!!」


 雄叫びを上げると、背骨、肩甲骨の真ん中あたりが裂け、そこからブシュブシュと異様な音を出しニュルニュルと複数の触手が生えてくる。

 更に、体に足のつま先から頭の天辺、そして(かかと)までオレンジの太いライン線が2本入り、お腹にも四角くオレンジの線が囲っていた。

 そして鋭い爪は常時、火が付き、燃えていた。


〔最終形態・・・のようなモノでしょうか?〕

「あの触手は何だろう?」

〔・・・ふふ、何かシステンビオーネでツェーゲン達が作ってしまったという特殊モンスターを思い出しますね〕

「・・・。改良したものに触手ってのは定番なのか?」


 一応、パワーアップした目の前のモンスターに警戒しつつもどこか暢気に見える純達。

 しかし、そんな事などお構いなしにモンスターは叫び声を一声発し、ダッシュ。


〔ふむ、先ほどよりは能力が若干向上したようですよ?〕


 何本もの触手による遠距離からの攻撃を加えながら、自らも近づき爪で切り上げ攻撃を加える。

 純はその全てを難なく避けて、隙を伺いながら、今度は敢えて、一定の距離を保ち、付かず離れずを状態に身を置いた。


〔どうやらあの炎、自分の体には効かないようですね。

 自身で切り裂いてしまっている触手を特に、気にしていないようです。・・・無尽蔵ですね〕


 サポートの言う通り、自分の生み出した触手ごと切り裂いているのだが切り裂かれたモノは炎上し周囲にボトボトと落ち、火のエリアへと変えていく。

 そして、残っている部分からまた再生し、新たな触手が生まれていく。


「(こっちは受けて、向こうは効かない。

 ゲームみたいに、何ともご都合主義な仕様なんだ)」


 少し相手側にハンディがあるこの状況に気持ち辟易(へきえき)しそうになる純。


〔文句言っても仕方ありません。

 とりあえず、現在出している出力を純なりで構いません。もっと出していきましょう〕


 サポートは現在、純が上げているマナの循環率を上げる様に促す。

 そこには``無理な部分は自分に任せろ``と言外に言って純の無意識に抑え込んでいる力を使わせようという意図があった。必ず調整し、高いパフォーマンスを維持して見せるというサポート自身の意気込みも含まれていた。


「・・・頼んだぞ、相棒」

〔了解〕


 お互いの気持ちが確認取れた瞬間、純は避けるばかりだった行動を止め自ら仕掛けていく。

 縫うように迫りくる触手を避け、それを目の端で何とか追った、巨大モンスターが炎を纏った鋭い爪で純を正面から捉え切り裂こうとする。


「っ」


 そこへ純は真っ向勝負と、自分の感覚でどんどん体内マナの力を引きだし殴りにかかった。


 ドバギイイイインンン!!


「ギャアアアア」


 痛みかそれとも受けた衝撃に反応して叫んだのか大きく数歩、後退するモンスター。


 純の一撃は爪をぶつかった所から吹き飛ばしていき、爪の生えた指先から手の裏の肉片と皮を抉って根元から骨の一部までを粉々に粉砕してしまった。当然、爪の根元から言った結果、指先を失い手の平だけになってしまう。ゲームで演出するにはR指定が入りそうな、ちょっと(はばか)られるグロテスクなモノになってしまった。


「(あれ?思ったよりまだ力が出せるような?・・・)」

〔現在で数%上昇といった所です〕

「(怯んでいるうちに片づける)」


 純はすぐに意識を目の前に切り替え、モンスターに追い打ちを掛ける。

 怯んでしまったモンスターも純の動きに反応しようと残ったもう片方の爪で切り裂こうとしたが、能力が更に向上中の純に全く追いつけず、手を振り上げた時には、左膝を蹴り飛ばされ、骨を砕かれた。

 そして、バランスを崩してしまい倒れるモンスターよりも先に地面に下り立った純に前のめりになった所を顎をアッパーカットする様に打ち上げ空中へと浮かされる。


 巨人にとっては十数メートル。自分の身長よりも少し高めに地面から足が離れる程度だが、巨人の体を打ち上げた純の力がこれだけでは終わるわけもなく。

 純はモンスターよりも更に上空へ、倍以上の高さにまで飛んで行き方向転換。

 真下にいるモンスター目掛けて空中とマナを使って無理やり蹴るようにして加速。

 純自身は無意識にやっていたが、そんな行動を可能に出来るように出力調整を行いながらサポートが純の思いを理解しフォローしていた。


「・・・」

「ガアアアアアア!!」


 モンスターは吼えると爪に纏う炎がより大きくうねりを上げ、激しく燃え上がる。

 失った片手分を残った手に集めているように燃え、片手がほとんど火に包まれる。

 そして、純目掛けて自分が地面に叩きつけられるのなんか爪を極大化。腕にまで纏った火と同じく伸ばしていき、純へ攻撃を仕掛ける。

 純は体内マナを自分の体の周囲数センチに高圧縮させるように高速の循環と硬質化を促し加速。

 モンスターの爪と接触する瞬間まで、硬質化の中でも右手により濃度の濃いマナを集め固めていき手を引き絞る。そして触れ合う瞬間、一気に拳を繰り出した。


 ブウワッ!・・・ズガアアアアアアアアアンンン!!!!!!


 爪を伸ばし攻撃したモンスターの体ごとほとんどの部位が一瞬で消失。

 硬く重く固められた空気の圧縮が入った人間の拳は巨大モンスターの体を吹き飛ばし、地面を大きく歪ませた。

 その破壊力は凄まじく、周囲の円形に留まっていた地形の形があっさりと変わっていく。

 いや、寧ろ爆心地が中心だった事でより円形のコロシアムの範囲が無理やり拡げられたようでもあった。しかし、その影響で何とか保ち支えていた柱群や床も瓦礫の山と化してしまった。


「・・・ふう」


 上半身のほんの一部を残し落ちているモンスターの側を降り立った純はゆっくりと息を吐いてリラックスする。


〔お疲れ様です。

 先ほどの純の力でおよそ半分を越えた所でしょう〕

「・・・思ったよりも周囲の被害は相変わらずだけど、以前よりは小さい感じ?」

〔いえ。ここは特殊空間。本来の世界よりも頑丈に作られている考えた方がいいでしょう。

 そうでなければ純同様、あのモンスターは自身が眠っていた部屋で暴れた際、あっさりと周囲が吹き飛んでいないとおかしいからです〕

「・・・分かるの?」

〔システンビーネで付けた力。そして帰還後、影の世界で純が駅で戦ったデータから参照すれば自ずとそう考えるのが普通でしょう。さらに進化した身でこの程度の規模とは考えにくいです〕

「・・・」


 改めて周囲を見回し、それじゃあどうしたもんかと次の事を考え出す純。


〔これだけの破壊力になりますと周囲への被害だけが大きくなりがちですね。

 先ほど最後に使ったマナの方法。

 以前、クレフーテの町の側、チタのダンジョンの最後のイレギュラーモンスターを倒した時の一撃も似たようね方法を取っていましたね〕

「?・・・ああ。あれか。・・・確か練り方を高速で圧縮する様な方法だっけ?

 ほとんど偶然だったけど」

〔前回よりはスムーズに発動したようですが?〕

「・・・よくわからん」


 純も一応、戦闘時考えて戦うようにしているが、危機迫ると常に冷静に戦えるワケではない。

 寧ろ、死が身近に迫った事で高く深い集中力が研ぎ澄まされ発揮されているだけに過ぎないからだ。


〔・・・もしかするとスキルに何か意味があるかもしれませんね。

 前回はある程度の調整と慣らしで使っていましたが、改めてじっくりと調べていませんでした〕

「・・・波鋼か・・・身体強化の上位版ってイメージしかなかったな~。いや、それは強靭か」

〔何にせよ、魔法を習得していたのもありましたし調べてみましょう〕

「わかった」


 今後の方針を決めていくなか、ピクリとも反応しなかった巨大モンスターの残骸が急に白い霧となって空へと消えていく。そして空へと残骸全てが消えた時、一際大きな輝きが放たれた。


「ッ」


 少し目を細めて空を見上げる純だが・・・その後、特に変わった変化は訪れなかった。


「・・・とりあえずは勝ったという事でいいのかな?」

〔このエリアはクリアと言った所でしょうか。

 残るは3つ、ですね〕

「はあ~、なかなか大変だ」


 両手を組んで上に、体を伸ばし、戦闘が完全に終了したことを喜ぶ。

 すると懐かしの電子音のようなものが頭の中に聞こえる。


【レベルがアップしました】


「お、久しぶり」

〔と言う事は今回の戦いは純自身の経験値に値したということですね〕

「化け物になるのはもちろんいやだけど、今後の為に必要なら、是非成長はしていきたいよ」


 純は帰るために周囲を見回しどこから脱出できるかを探し出す。

 その時、再び円形の闘技場のようだった建物の一部がガラガラと崩れる音がして振り返った。


「?・・・あそこは」


 瓦礫の山になっても何とか純を閉じ込める様に囲まれていた周囲の建物に1つの亀裂の様に通れそうな通路が出来上がっているのを発見した。


〔ココにいても仕方ありませんので、行ってみましょう〕


 サポートに同意し、周囲が明るい事もあり、軽やかに歩いていく純。

 裂け目は純が通るには十分な広さ。突然、横の壁が壊れて崩れて来そうな心配もなさそうな安定した見た目に見えた。

 純はさっそくその中を通り、奥へ奥へと進んでいく。進む先から光が射している為に出口は近いと判断できる。光を宛てに進み続け、そして出口へと出た純。


「・・・?」


 亀裂の先には壁のほとんど失ったような横に広い部屋の一角に出た。

 どうやら、白い光とは別に夕日が射していたために明るかったようだった。

 そして、目の前、真ん中に白く古びた長方形の箱が置かれていた。その見た目は分かり易いくらい宝箱と言ってしまえるほど主張できるモノだった。


〔・・・もしかして。純、鍵を〕

「カギ?・・・あ〕


 純は洋館の執務室で見つけた鍵を思い出した。


「これって、それなのか?」

〔試してみる価値はあるかと〕


 純は少しだけ考えた後、頷き、宝箱の鍵穴に鍵を差し込んだ。ガチリという音と共に鍵はボロボロと砂の様に崩れて消え去る。


「・・・」


 純はゆっくりと上蓋を持ちあげていく。ある程度した所で蓋が勝手に開いていき、これもまた消えていく。そして中に入っている物を調べる純。


「・・・短剣?いや、2本あるし、双剣か」


 蒼く、いやもっと涼やかな水色に近い流麗な双剣が宝箱には納められていた。

 よく見ると少し透けて見える所が水とも空ともどことなく似ていた。

 デザインこそシンプルだが、一目見ただけで純は割と気に入った。

 純が2本の短剣を取ると、宝箱はスーッと薄れていき、やがて完全に消え去ってしまった。


〔``双晶 メリフィエラ``ですか〕

「・・・うん。良いんじゃないか?」


 両手に持って、軽く振ったり、クルクルと手首のスナップを使って回してみたりして感触を確かめる純。そんな純が微かに出していたマナに呼応する様にメリフィエラも反応を返す様に微かに輝きを放つ。


〔どうやら、純を持つ主として認めたようですね〕


 サポートがそう言ったように、剣の部分がどんどんと水色の透明度を増していき、柄の部分が蒼にへと変化していった。


「マナによって色彩が少し変化するのか」

〔切れ味とか、何か変化があるかもしれませんね〕

「すごい拾い物をしてしまったな。まあこれって窃盗のようなモンだけど」

〔本当の持ち主がいるようには思えませんし、戦利品として貰っていきましょう〕

「・・・まあ、今回はありがたく。いただきます」


 とりあえず頭を下げて、礼を言っておく純。


「よし、それじゃあ帰ろうか」

〔はい。どうやら壁の向こうのこの穴から出て少し進んだ先に出口となる特殊エリアの境目の流れがあります。そこへ向かってください。そしてそこから、来た道を帰れば・・・〕

「元の世界に帰れるってわけか。・・・は~、ホント、ちょっとした探索が思ったよりも長い道のりになっちゃった」

〔お疲れ様です純。・・・あ、ただし。家に帰るまでが今回の調査ですからね?〕

「はいはい」


 純は夕日が差し込む、大きく開いた壁の穴の外へと飛び出していくのだった。






 【十時影 純 (クリス)】15才 人間・・・かな~?(進化)

 レベル 1 → ?

 HP 1 → ? MP 1 → ?

 STR 1 → ?

 VIT 1 → ?

 INT 1 → ?

 RES 1 → ?

 DEX 1 → ?

 AGI 1 → ?

 LUK 1 → ?

『マナ(情報体):レベル 1 』『波鋼:レベル 1 』『総量拡大:レベル 8 』

『魔法: 水、風 』

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