157 ギミックはほどほどが大事・・・。これ大切。
振り向いたナニかの口はかなり人間と同じく普通の口をしていた。
それが余計にリアルな感じで、ホラー要素を高めていた。
「(これもマリオネットなのか?!)」
〔そのはずです〕
自然と1歩、2歩と距離を開ける純。
黒・・・よりも藍色に近い色をした目の前のマリオネットは、引きちぎった肉のようなモノを口へと運び、グチグチと咀嚼しながらユラリと立ち上がり。
ゆっくりと・・・純の方へと歩いていく。
ドジュ~~~・・・。
倒れていたナニかは焦げて溶けて様な音と煙を吹き出しながら消えていく。
タシュ・・・パシャ・・・。
水たまりのようなモノが出来上がった上をゆっくりと、体を右へ左へ傾けながら近づいて来る藍色のマリオネット。
〔・・・確かに。
純の言う通り、なかなかのホラーですね〕
「いまさら!!」
そんなツッコミを口にして出してしまう純。
その時。
「キィィィエエエエエエエエエエエエエエ!!」
天井を見上げ、甲高い声を上げて叫ぶマリオネット。
そして純に向かって飛び掛かって来た。
「っ」
すぐさま横へと飛んで避ける純。
すれ違うように純がいた場所へと着地した特殊なマリオネットは、すぐさま方向を転換して殴り掛かってくるように腕を振り上げる。
ただの振り払いのような攻撃だが、その威力は馬鹿に出来なかった。
「(速い)」
ドガアアアアンンン・・・!
パラパラと積もった埃やチリなどが舞う。
黙々と浮き上がった埃でマリオネットの姿が一瞬隠れるほどの舞い上がる勢いだった。
純が距離を開けて、斜め後方に回避した瞬間、通り過ぎた攻撃で執務室兼部屋だった空間にぽっかりと大きな穴が開いた。
「キィィィ・・・ウウウ~」
避けた純の方へゆっくりと振り向く藍色のマリオネット。
その時だった。
「「「ウウウ・・・・・・」」」
ズザ・・・ズザ・・・。
どこから現れたのか暗闇から5体ものマリオネットが登場した。
目の前にいる藍色の特殊なマリオネットと違い、こちらは普通の灰色や茶色のマネキンのような色。
それが純達の方へと近づいて来る。
「これって・・・さっきの」
〔どうやら叫んだのは、呼び寄せるために行った行動のようですね〕
「・・・」
純は体内のマナの循環を活性化させ戦闘モードへと切り替える。
「ウヤアアウウ!!」
藍色のマリオネットが、純の態度に反応したのか、すぐさま飛び掛かって来た。
それに対し、すぐに横へとすれ違いざまに蹴りを繰り出し壁へと叩きつける純。
更に、5体のマリオネットに自ら飛び込んでいき攻撃を仕掛けていく。
バキ、グシャ、パキン、ゴキン・・・。
ガラガラガラカラカラ。
動かぬガラクタとなっていくマリオネットのモンスター達。
バコン!
「キイィィアアア!」
「っ!」
5体全てを排除した時、壁の向こうへと吹き飛んでいた藍色のマリオネットが執務室へと戻って来た。
そのまま、純へと攻撃と仕掛けてくる。
しかし、マナを活性化させ、戦闘態勢になっていた純は冷静に対処する。
これまでの戦闘経験が少しずつ成長させた証だろう。
マナを僅かに腕に多めに流し、飛び掛かって来たマリオネットの顔面に突き出す。
バゴン!
威力の乗った拳は、藍色のマリオネットの頭を吹き飛ばし、その奥の壁に円形の穴を作った。
頭を失ったマリオネットはダランと手を垂らし、崩れ落ちる。
「・・・ふぅ」
サポートとの連携で周囲に敵が残っていない事を確認して、張り詰めた緊張を解いた。
〔お疲れ様です。これで周囲に敵はいないので、探索を再開できますね〕
「・・・結局、何だったんだ?コレ」
藍色のマリオネットだったモノがシュウシュウと煙を上げながら溶けていく様を見る。
〔・・・まあ、分かり易く言えば強化種でしょうね。
ここまでに戦ったマリオネットモンスターで苦戦する様な者なら、勝つことは難しかったでしょう。
しかし、純ほどの力があれば、然程の違いはないでしょう〕
「うーん、それはどうだろう・・・?
いや、今回はビックリしたのが大きかったけど」
〔しかし、動きは見えたのでしょう?〕
「え?・・・ああ、まあ、うん」
純は自覚していなかったようだが、本来の人間の身体能力からすれば・・・特殊マリオネットの動きはほとんど残像を見ているような動きにしか捉える事の出来ないほどのスピードだ。
しかし、昇華した純には普通の速度のレベルにしか見えていなかった。
それは、戦闘時の把握能力が格段に加速し、純自身の体に対応できる脳へと加速しているからに過ぎなかった。
いや、この場合は脳の処理速度に体が追い付こうとしているのもあるかもしれない。
〔とにかく、今ぐらいの相手であれば苦戦もせずに探索が続けられますね〕
サポートは話を切り上げて、次の行動へと純を誘導する。
「・・・って、言っても・・・」
ほんのちょっと力を解放しただけなのだが・・・周囲が思った以上に散乱しているのを見て、何から手をつければいいのか困惑する純。
マリオネット達が暴れていることもあり、散乱した中から何かめぼしいモノが無いかと探すのは気持ち的に下がってしまうものがある。
〔・・・確かに少々、やり過ぎましたかね~。
っと、見てください。
部屋の奥・・・大きな机の奥の下の方にナニか落ちていますよ?〕
「?」
サポートの言葉に仕事机として使われていたであろう机の下に転がっている大きめの箱のようなモノを純も発見する。
「なんだろう?
・・・金庫?」
近づき、サポートのフォローで明るくしてもらっている視界で見ると・・・そこには金庫が1つ転がっていた。
正方形の小さな金庫。
何か重要書類や、一部のお金を収納するぐらいしか出来ない箱。
純ぐらいの身体機能なら片手で簡単に盗んで持ち帰ってしまえるぐらいの重さ、大きさしかないくらいだった。
「・・・?」
純がしゃがみ込んでよく見ると・・・一部が先ほどの戦闘の影響なのか、それとも随分前からそうなのか取っ手の部分が壊れ、蓋が少し開いて、腐食したような穴が開いていた。
〔ずいぶん古い金庫のようですね〕
「何か入っているのかな?」
純は若干開いていた蓋に手を掛け、錆び付き少し硬くなった蓋を力技で無理やり開けた。
中に入っていたのは・・・何処かへ通じるカギと青いロウソクが1本だった。
「・・・これで、まだ入れなかった所に行けるって事ね」
〔青いロウソクの方は・・・。
あそこでしょう〕
「どこ?」
〔この屋敷の食堂です〕
「・・・ああ~」
〔カギの方は何処が開くのか分かりませんが・・・食堂の方は1本だけ掛けていたはずですよ?〕
「・・・とりあえずは、分かっている方から片づけていくか」
純もサポート同様、金庫にわざわざロウソクを1本だけ納められていて、確かに一ヶ所だけ食堂で欠けている所があるとなれば・・・そこに差せ込めという事は分かる。
ただでさえ、青いロウソクが並ぶ部屋がそこにしか無かった為にすぐに純も思い出す。
執務室ではこれ以上、何か分かり易いモノが落ちていたりする感じがしないと判断した純達はさっそく食堂へと戻って来た。
「・・・相変わらず、妙に殺風景に感じる」
〔まあここは食事をするのがメインの場所ですからね~。
純のような一般の家庭にある様なテレビとかが置いてあるわけでもありませんし・・・。
なによりボロボロですからね〕
「絵は飾ってあるけど・・・花瓶とかは無いんだよな~」
〔長テーブルには、おそらくその成れの果てであろう残骸の一部が残っていますけど・・・〕
「・・・本当はもっと装飾されてたのかな?」
〔そうでしょうね・・・。
いえ、ここはもしかしたら、影の世界。
元々このような作りだったのかもしれません〕
「ますますわからん。
何だってこんな世界があるのか・・・」
〔今は何とも言えません。
とりあえず手に入れたロウソクを〕
サポートの指示で、目の前に意識を切り替え、欠けた壁の燭台に差し込む。
ガチリ。
ロウソクを差し込んだにしては似つかわしくない感触と音がした。
・・・そして。
ゴーン、ゴーン、ゴーン。
古時計が鐘を鳴らし始める。
純が少しびっくりしつつも古時計の方を見ると、下部分の振り子の見えるガラスケースが開き、何かが落ちてきた。
「・・・エンブレム?」
時計に近づき落ちてきたエンブレムを拾い上げる。
それはワシの絵にヘビが巻き付いたような絵柄の白いエンブレムだった。
「・・・これが必要って事なのはわかるけど・・・何処で使うんだ?」
〔探していくしかありませんね〕
純もそりゃそうかと思っていた時。
ガタン・・・。
どこかから大きな物音が食堂まで届いてきた。
〔あの方角は、玄関ですね〕
純は再び玄関ホールへと戻って来た。
そこにある階段の中央、左右に分かれて2階へ上がる中間地点の壁に鉄の扉が出現していたのだった。
「・・・分かり易い事で」
鉄の扉の前に来た純は扉の真ん中に円の窪んだ穴を見てすぐに気付いた。
〔随分と安直な気がしますが・・・〕
「まあ、ここをもし普段から使っているとするならば・・・いちいち手順を複雑にしすぎると却って効率が悪いからだろうね」
〔・・・それもそうですね〕
当たり前だがこんな場所を好き好んで使う人なんかは限られている。
そんな中で何かを秘密裏に生成していたとしても、あまりに手順をたくさん踏んでしまっては、仕事に差し支えて仕方ないと思うのが普通だろう。
そういう意味では、影の世界の洋館でも、純とその辺りの認識に違いは無かったのかもしれない。
純はさっそく手に入れたエンブレムを差し込んで、鉄の施錠されたカギが開いた音を聞き、扉を開ける。
〔随分、落ち着いてきましたね?〕
サポートは純の洋館に入った時ほどの怯えぶりが無くなっていることに少し感心していた。
「う~ん、なんだかんだでここに来てからそこそこ経っているから感覚が麻痺してきたのかも」
〔まあ、大抵の事は私が察知できますし。
本来、純くらいの強さの人がビクビクしすぎるのも舐められて不要な争いに巻き込まれそうなのでどうかと思っていたのです。
いっそこれを機に克服していきましょう〕
「無茶苦茶な事言ってるよ」
サポートのちょっと能天気に聞こえる言葉を聞きながら純は鉄の扉の先の下り階段を下りていくのだった。
暗くて見え辛いはずなのに、純は明かりとなる物を全く持たず下りていく。
「本当はロウソクとか懐中電灯か持って下りていく所なんだろうな」
〔私がいれば多少の暗さなど問題ありません〕
「助かるよ」
サポートによるマナを使った力のおかげで比較的、奥まで暗い中でも見る事が出来る。
これも純が少しだけ恐怖を和らげる要因になっていたりする。
・・・しかし。
だからといって、暗さがなくなったわけではないため、見えない所は見えないため気持ち警戒しながら下りていく純。
「随分長いな」
〔・・・普通に考えたら建物の10階にあたりそうな深さになりますね〕
横に詰めれば人が行き来できるほどの狭さの1本道をひたすら下っていく純。
どこまで下りるのかと思っていると奥の方から明かりが見えてきた。
明かりが射しこむ場所へ向かって階段を下りきり、ちょっとだけ伸びる通路を歩いて目の前の部屋へ入ると・・・。
部屋は下から緑色の光で輝きライトアップされている部屋だった。
そこには壊れた大きなガラスケースが何列も並んでいる。
中には部屋の明かりと同じく緑色をした液体が残ったガラスケースもチラホラ見える。
〔・・・何かの実験の後のようですね〕
「パソコンとか置いていたらいよいよと思ったけど・・・」
〔どうしました?〕
「いや、何でもない」
純は昔のホラーゲームの中にそんな場所があったため、それを予想していたが実際には何か死霊のようなモノと少し古びた机もチラホラ落ちているくらいだった。
「?、いやでも・・・。
それだとこのガラスケースと床だけ妙に時代が・・・」
純は足元の網目状になっている鉄の床と巨大なガラスケースだけがこの洋館の中でも妙に近代チックな事に違和感を覚える。
〔わざわざ、ここに運んで何かの実験をしたという事でしょうか?〕
「さあ~?
・・・溶液なのか分からないけど、それは残っているのに、悪臭と言うのはほとんどしない。
だけど、ここを最近訪れた人はいなかったっぽいし」
散ったガラスケースの欠片が、部屋の奥の隅っこに微かに溜まった埃などを見るとココと訪れたのは純が久しぶりな気がした。
〔・・・〕
「?、どうかした?」
サポートからマナに微かな揺らぎのようなモノを感じ問いかける。
〔このさらに奥にナニかいるようですね〕
サポートは明るい部屋の中でも更に奥。
100メートル以上先にある大きな扉から何かの気配を感じ警戒に入った。
「・・・戦わなくて済むなら助かるんだけど」
〔・・・難しいでしょうね。
ここに洋館入った時には何も感じませんでした。
おそらく私達がこの部屋に入った事で向こうも気付いたのかもしれません〕
「・・・起こしてしまったって事?」
〔おそらく〕
純は少しだけ考える。
この洋館の持ち主かどうかは分からないが、向こうにとって純は不法侵入者である。
怒られる様な行為を取っているのはこちらである以上、出て行けというのであれば大人しく出て行くしかない。
しかし、サポートとのリンクから伝わる気配からこちらを敵として認識しているような殺意の籠ったマナの流れを感じる純。
それに呼応する様に純が下りてきた通路と通じる部屋の扉が下からせり上がって純を閉じ込めてしまった。
〔逃がす気はないそうです〕
「侵入者はコッチだけど・・・戦うしかないか」
奥の大扉に近づくにつれ、扉の先から伝わる殺意と気迫の籠ったマナが大きくなっていくのを純は感じていた。
目の前の扉は優に10メートルはくだらない高さもある大きな扉だった。
それは純が目の前まで近づいた時、純を招く様に勝手に開いていく。
プシュ、シュー―――。
中から大きな音を上げて純の方へと白い煙が勢いよく出てくる。
部屋の奥は純がいる部屋との明るさのギャップか妙に暗く見え、大きな何かが純の方を向いているという輪郭だけがハッキリと捉えることが出来た。
「(来いってか)」
〔・・・参りましょう〕
純は招かれた客として堂々と真ん中を歩いて大きな部屋へと入っていくのだった。
【十時影 純 (クリス)】15才 人間・・・かな~?(進化)
レベル 1
HP 1 MP 1
STR 1
VIT 1
INT 1
RES 1
DEX 1
AGI 1
LUK 1
『マナ(情報体):レベル 1 』『波鋼:レベル 1 』『総量拡大:レベル 8 』
『魔法: 水、風 』
久しぶりの執筆で色々と忘れてます。
直しながら気長にリハビリ。




