15 外への冒険と旅路
翌日の朝、ご飯を頂き、すぐに出発となった。
孤児院の前には、シスター長率いるシスター4人と神父1人。
さらに、孤児院の子供たちである。
モルドはクリスの行動を黙って受け入れ旅立つのを見送りに来てくれた。
ロークは最初寂しそうにしたが、モルドとミィナの説得で納得してくれた。
そして、ミィナは見送りの先頭に立ち、元気いっぱいの笑顔で見送ってくれるらしい。
アーシュはギルド長の特訓の影響で昨日の夕方からずっと今もダウン中。
よほど、厳しいものだったそうで眠るというか気絶しているらしい。
口から魂が抜けるとはまさにあのことかも。
ということで、見送りなし。
まあ、アーシュの場合、素直に見送ってくれるかは疑わしい。
「じゃあ、行ってきます。
今まで、お世話になりました。
ありがとうございます」
荷物を持ち、お世話になったシスターたちの挨拶する。
「あなたの無事な旅を祈っています。
また帰ってきたくなったら、いつでも帰ってきてください」
「はい。
シスター長」
「クリス、ここは僕が守るから、君は君の生き方で頑張るんだ」
「うん。
わかったよ、モルド兄ちゃん」
「クリス、あまり無理はしちゃだめだよ?
アーシュみたいに危険なことはしないように」
「大丈夫だよローク。
アーシュみたいに、さすがに無策には突っ込めないよ」
「ふふふ、それもそうだね」
「クリス、ちゃんと帰ってくるのよ?
約束したからね」
「うん。
できるだけ、そうするよミィナ」
みんな思い思いに別れの挨拶をしてくれる。
この世界にきて約2ヶ月。
転生前は家族とさえそんなに会話がたくさん生まれることがなくなって久しく、またこんなに自分のことを気にかけてくれる人であふれることなんて、何年ぶりになるのかクリスはとても眩しく見えた。
転生前は家族とも話すことを自分から減らしてしまったから、こんなにも暖かい気持ちのする晴れやかな気持ちをすっかり忘れていた。
そんなこの町に、孤児院に感謝の思いでいっぱいだった。
(ありがとう)
ただその一言に尽きた。
「それじゃあ、これ以上話すと長くなりそうだから行ってくるね?」
「・・・いつでも帰ってくるのよ!」
「無理はするなよ」
「元気でね」
うん。
とミィナ達に返事を返し町に向かって歩き出した。
「行ってきま~す!」
孤児院に顔を向け手を振りながら町に向かった。
孤児院のみんなも手を振り見送った。
「行っちゃったね」
「うん」
「さびしくないの?ミィナ」
「うん!
だって、もし帰ってこなかったら、私がクリスを探すから!」
「え!?そうなの?」
「約束したから」
「・・・うん。
もし帰ってこなかったら僕もクリスを探すの手伝うよミィナ」
「・・・そうね、ローク!
もし帰ってこなかったら私たちで探し出して無理やり連れて帰りましょ!」
「・・・・クリスが帰って来なかったら、大変なことになるなぁ・・・」
ミィナとロークの言葉を聞いたモルドがこの先の未来に一抹の不安を覚えてしまったことをクリスは知る由もなかった。
「おや、クリス君。
・・・とうとう行くのかい?」
「よう!坊主。
町を出るのか?」
門の前にはいつもの兵士のおじさんとギルド長がいた。
「うん、今日から遠くに行くから早めに出ようかと思って」
「そうか・・・少し寂しくなるねぇ」
「・・・ま、お前なら結構くたばらずに生き残ってそうだし大丈夫だな」
「・・・ギルド長?」
ギルド長のあまりな言い方に、後ろに控えていた美人受付のエルフのお姉さんが笑顔ながらも何か黒いものが見えそうな雰囲気で釘を刺した。
「・・やっ!別に悪気があって言ったわけじゃ・・・」
「そうだとしても。
こんな幼い子供が旅に出るのですよ?
本来なら我々ギルドも止めるべきところだと思うのですが・・・それをギルド長自ら薦めるとは」
「・・・いや、悪かったって。
それに、ギルドが勝手に決めていいことじゃない。
それこそ、職権乱用なっちまう。
子供であってもどう生きるかは自分で決めるべきだ」
「そうかもしれませんが。
・・・しかしこんな小さな子供を」
「なんだ?
ヤケに突っかかるじゃないか?
お前、もしかしてこの小僧に・・」
瞬間、鋭いにらみがギルド長に向かい、ギルド長と兵士のおじさんは片口をひくひくし青い顔をしてたじろいだ。
クリスからは見えないがこの瞬間、力関係をハッキリと認識する。
怒らせてはいけない人だということをクリスも感じ取った。
(とても優しくてキレイな人だったからわからなかったけど。
怒らせるも命が危ないかも)
クリスのお姉さんに恐怖していた。
「・・・こほん。
とにかく、私たちはクリス君をギルド長の``勝手``があったかもしれませんがここに来た以上、クリス君には渡しておかなければならないものがあります」
「・・・?」
なんだろう?
「ああ!
そうだった、そうだった。
すっかり忘れてた。
ほれ、坊主受け取りな」
ギルド長が言った後、控えていたお姉さんが手首に巻く小さなアクセサリーを渡してきた。
(なんだろうこれ?
なんかコンパクトにした専用のリストタグ?みたいだ)
「クリス君。
これは冒険者カードです」
「はい?
カード?」
(いや、どう見てもリストタグ見えるけど)
「昔は、カードがあったんだが、それだと紛失したら再発行するのが面倒でな。
その点、この手首とか首にかけるアクセサリー型の冒険者カードは紛失してもすぐに替えがきくから楽なんだよ」
「?どういうこと?」
「クリス君。
この冒険者カードはその人の功績によって色が変化するカードなのですよ。
たとえ、なくしてまた新しいカードを渡してもすぐにその冒険者のランク別の色に変わる仕組みなのです。
また、その冒険者の能力、ステータスなんかも記録されるのです」
「へ~」
「ま、いちいち持ち歩くのもなんだが、以前のカードだと専用に作り直し発効までが時間がかかる。
おまけに、荷物の中に入れて、盗まれたり、落としたりしたら、その度に発行してたら面倒くさくて仕方ねぇ。
再発行の度に手続きは面倒だが、手続きには罰金があるから、ギルドにとっては小さな金策にはなるんだが・・・まあ、結局、冒険者にとってもギルドにとっても面倒なんで昔のカードは廃止されたんだ」
「ふ~ん」
クリスは感心していた。
(なかなかファンタジー感のある所だな。
まあ、昔から疑問の部分もあったけど、なぜカードなのか?と思っていた。
それも、何かを区別するためには便利だったんだろう。
冒険者内のランク別みたいに。
しかし、ここにきて、若干地球のような様相に変化した部分をやはり独自の文明の進化をしていると改めて実感した)
「はい、クリス君。
じゃあ、この冒険者カードを手首か首に着けてみて」
そういってお姉さんが灰色のタグを着けるよう促した。
言われるまま生身になった右手首に着けると、灰色から白にタグが変わった。
「はぁ・・・これがカード」
「ええ、そうよ。
はい、これでクリス君も仮冒険者に登録されたわ」
「え?これだけ?」
「ええ、そうよ。
これで、クリス君のステータスとかをギルドで調べたり出来るようになったわ。
といっても、あくまで本人がギルドで調べるだけなんだけど」
「・・・・アーシュがこんなの着けてるの見たことないけど。
モルド兄ちゃんは時々、着けているのを見たような気がする」
「ああ、あいつは、俺と同じでそれを着けた功績に興味がないからな。
どうせ、モンスターを討伐した数による実績のほうを優先してるんだろう」
「でもあいつ英雄に憧れていたような・・・」
「別にそれも今じゃなくてゆくゆくはってことだろ」
「あ~言ってたな、そんなこと」
「アーシュ君らしいですね」
ギルド長は笑い、お姉さんは呆れていた。
そこにずっと黙っていた兵士のおじさんが話を振ってくる。
「ともかく、これでクリス君は晴れて冒険者の仲間入りということかな?」
「仮、ですけどもそうですね」
「じゃあこれで、ここを出て行ってもいいんですか?」
なんだかんだ、門の前で立ち往生していたため、すれ違う人が奇異の目をずっと向けていた。
「はい、そうです。
・・・クリス君、決して無茶だけはしないでくださいね?
約束ですよ?」
「がはははっ!
おいおい、この坊主にそんなの無理に決まってるだろ?
無鉄砲ではないと思うが、結構バカはやると思うぜ?」
「・・・(キッ)」
「おっと」
お姉さんのにらみに明後日の方を見るギルド長。
いつもこの調子だと、お姉さんの苦労がしのばれるなぁ。
そう思うクリスだった。
「無事を祈ってるよクリス君」
「あまり、無茶な冒険はしないでくださいね」
「まあ、元気でやれよ。
と、それと。
もし、この町から次に行きたい場所が決まってなかったらアスーティに向かうといい。
そこはこの町と大きさは変わらないが、なんといっても他国との中継点なってるからな。
ここみたいに周囲がだだっ広いところとは違う集まる人数、種族の数、品物なんかも全然違う」
「・・・わかった。
アスーティの町だね」
「ああ。
まあここからだと・・・・お前の足だと、1週間かそこらだな」
「わかりました。
それじゃあ行ってきます。
ありがとうギルド長。
おじさん、おねえさんお世話になりました」
「・・・ああ、行っておいで」
「クリス君!元気でねー!」
3人に見送られながらステイメッカの町を出ていく、次なる町、アスーティに向けて。
「・・・クリス君」
「・・・なんだお前。
さっきも思ったがあの坊主を気にしすぎじゃないか?」
「それはそうです。
いつもいつも、精一杯、生きているあんな小さな子供に何もしてあげられないなんて・・・」
「・・・お前、クレアみたいなこと言うな」
「彼女はみんなにとっても大切な方だったんです。
とても愛されていたんです。
どこかの放浪ギルド長と違って」
「おい」
「・・・あの子の無事を願ってます。
クレアさんもきっと」
「・・・」
「さて、俺の足で1週間とギルド長が言ってたけど。
果たして本当かな?
普段アーシュのやられ具合を見てると、その辺りはかなり自分基準な気がする」
歩いてしばらくすると両脇に木が並んでいる数が多くなってくる砂利道をクリスは歩いていた。
最初の転生時、遭難したころと違って準備はしているそのため食料や野宿対策はしっかりと備えていた。
多少の不安があるとすればモンスターの奇襲くらいだった。
リンスラのような幼体のモンスターならさすがに数の多さによるが対処はできる。
問題は、成体以上。
今だ出会ったこともないし戦ったこともないというのがちょっと不安だった。
「ま、なるようにしかならないか」
考えることをあきらめた。
(無駄に考えすぎて精神的に追いやられていては始まったばかりの旅がすぐにUターンに代わってしまう。
過去の経験からどうしてもネガティブ思考になってしまう。
そんなことを考えてはせっかくの冒険が楽しめなくなる)
そう結論を出しクリスは今から行く道に思いをはせ冒険を始めたのだった
ザザザザ
ガサガサガサガサガサ
とある森の奥で誰かが走っている。
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ」
「頑張って!
あと少しだから」
「ここを越えれば、あとは下るだけです」
続いて走ってくる獣の音が数匹。
「伏せて!」
「「ッ!」」
一人の叫びに反応した、獣が一斉に飛びかかった。
「スパルド!!」
叫んだものは剣を横なぎにすると、光の一閃と後を追うように獣に向かってジグザグに走る黄色い軌跡がほとんどの獣を仕留めた。
ダメージを大きく受け、それでも生き残った2匹の獣は不利を感じ取り逃げていった。
「ご無事ですか!」
「ええ。
私は大丈夫」
「はあ・・・はぁ・・大丈夫」
獣=モンスターを退け、荒い呼吸を整える3人は少しだけ歩き、森の中でも開けた安全な場所を見つけ、そこで休息をとっていた。
「おそらく、もう少し先に目的の遺跡があるはずです」
「・・・そこにいけば」
「はい。
我々の目的のものがきっとあるはずです」
「・・・そう」
「頑張りましょ?
ここまで来たんだもの。
きっとあるわ」
「・・・・はい。
そう・・・よね」
深刻そうな会話が森の奥の一角で行われていた。
【クリス】3才
レベル 12
HP 56 MP 39
STR 20
VIT 15
INT 12
RES 13
DEX 22
AGI 18
LUK 14
ステイメッカの町の話はこれにて一旦終了になります。
もしかしたら、今後ちょくちょくと思い出したときに登場するかもしれません。
次はアスーティの町あたりが舞台になるかも・・・。




