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転と閃のアイデンティティー  作者: あさくら 正篤
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14 それぞれの変化と道

 あれから3週間、いまだクレアの失った悲しみが残る中、それでも人々は、孤児院のシスターや子供たちはその事実を受け入れつつあった。


 あの騒動でクレアを失ったため、急遽、新たな人員が入ってきた。

 神父が1人とシスターが1人だ。

 神父は最近なったばかりの新人らしい、そのため、シスターの指導の下、鍛えられていくそうだ。

 シスターのほうは元冒険者の人で、もともと孤児だった事と、個人的な事情で現在はシスターとなっているそうだ。

 元冒険者でそれなりの強さだとギルド長がお墨付きをつけるくらい。

 そんなギルド長の勧めでこの孤児院に努めることになったそうだ。


 テラーゼ暦527年 7月


 この世界の日数の数え方は地球と変わらないそうだ、そこはややこしくなくて助かる。

 このステイメッカは日本と季節の迎え方が同じらしく現在、夏に入ったあたり。

 この異世界は地球より文明は遅いが魔法もあるためかそれを補う部分があったりする、お風呂にしろトイレにしろ、多少地域によって違うそうだが、地球の使い方と同じことを魔法の応用でマナの結晶を使って生活の一部にしているらしい。

 だから、所ところにパイプが通っていたりする。


 この3週間で、孤児院の子供たちに変化があった。

 モルドは最初こそ自信を責める雰囲気か見られたが、現在は徐々に立ち直り、元冒険者の指導の下、どんどんと技術を磨き、さらに、攻撃系だけでなく簡単な回復魔法を使えるように特訓中。

 どうやら、そのシスターに何かを言われたらしい。


 ミィナも最初こそ落ち込んでいたが、何日か経った後、少しずつ以前の明るい調子を戻し始めた。

 おてんばな部分も徐々に復活したが、変化した部分もある。

 自分より年下の子供たちの面倒を見る回数が増えていったこと。

 また、シスターの仕事のすすんでお手伝いをよくすることもあった。

 彼女なりに、子供たちの世話をしている。


 ロークはミィナの世話などの手伝いをするが、より魔導書などを読んでいた。

 そして進んで、シスターの手伝いに魔法の応用も使いながら、自身の魔法の特訓もよく始めている風景を目撃する。

 魔法で何かの役に立とうと頑張っていた。


 一番変わったのはアーシュだった。

 たまに、モルドの手伝いもするが、以前のような無鉄砲に突っ込む姿勢が格段に減ったそうだ。

 まだ、子供なので無茶な場面も見られるが、決してモルドの足を引っ張るようなヘマをしないようギルド長にお願いして指導を受けているそうだ。

 何かを気に入ったらしいギルド長はアーシュを弟子にする勢いで技術を教えている。

 いや、もはや弟子といってもいいくらいだ。

 しかし、どうやらギルド長、世界に何人か弟子がいるらしく、かなり世界中でもギルド長とその弟子は名が知れ渡っているそうだ。

 そのため、弟子志願者は割といて、中には名声欲しさだけとかもいるため面倒なんだそうだ。

 だから、断っていることや門前払いがいる中でアーシュは気に入ったそうで、一泊二日でどこかに行っているそうだ。

 この3週間で4回はやっている。

 なぜか行く度にボロボロになってギルド長に担がれて帰ってくるが、次の日には筋肉痛にひーひー言いながらもピンピンしている。

 ・・・・これが若さか・・・まあ、俺も今も昔も若いけど。


 と、それとアーシュもシスターたちの手伝いに荷物運びや整理の手伝いを決行するようになった。

 追記なのは、今までクレアさんやシスター長に言われなきゃ決して手伝わず、逃げていることが多かったからだそうだ。



 そして、俺も、いまだ引きずっているし後悔が強く残るが、やろうと決めていたことを実行に移そうと思う。


 あの時、地震に強く残り後悔したのは``自分は狙われず助かった``と心の底で一番安堵し、そのあとに押し寄せる後悔とクレアの笑顔のお願いに自分の心の弱さと醜さを垣間見てしまったからだ。

 否定したところで、出てしまった事実は消えない、自分の本質。


 それと意識したときクレアのお願いは自分にはまだ無理だと思った。

 見た目でいえば3才。

 だけど、地球にいたころの年齢で考えれば15才。

 少し実でも自分の行動にもっと自覚的にならなければいけない年齢になってくる。

 異世界であるこの世界では、もう大人の仲間入りを果たす年齢だろう。


(まあ、見た目でいって、俺がやろうとする行動は無茶の一言でNGを食らうだろう。

 でも、これをやらないといけないような気がする。

 この理由に明確なものはない。

 しいて言えば、転生してすぐの生き延びるためにとった選択のように。

 そうしなければならないと思う)


 そう。

 これはただの直感。


 しかし、どこか核心に迫るところがあった。


 だからこそ、言う必要があると思った。


 シスター長と元々孤児の子供たちの世話を担当していたシスターが病院から帰ってきた。

 シスター長とクレアの代わりに仕事を手伝ったシスターの姿が見えてきた。


 そこで、クリスは自分が外の世界に旅に出ることを告げるつもりだ。


 無謀だといわれるだろう。

 だから最初は黙って出ていくことも考えた。


 これは、自分勝手なわがままだ。

 それでも、旅に出ると決めた。


 アーシュを担いだギルド長も帰ってきた。

 おそらく5回目の泊りがけの特訓をしてきたところなのだろう。


 夕日が射す、少し小高い丘にある孤児院の前で俺は話した。


「明日、この町を出ようと思ってる」

「・・・どういうことかしら?

 クリス君?」

「前から決めてたことなんだ。

 ただこんなタイミングで黙って行くと迷惑になると思ってたから、急なんだけど、今話そうと思った」

「ダメです。

 あなたはまだ幼い。

 そんな子供が外に行って無事でいるはずがありません」

「・・・分かってる。

 ・・・だけど、もう決めたことだから。

 勝手ですが、明日旅立とうと思います」

「・・・どうしてそんなことを」

「・・・はっきりとした理由があるわけではありません。

 ただ、今じゃないといけない。

 そんな気がするんです。

 このままここにいて過ごすのもいいのですが。

 今じゃないと駄目な気がするんです。

 ・・・ごめんなさい、シスター長」

「・・・そんな、あいまいな理由では・・・あなたを送り出すことはできません」

「・・・いいんじゃないか?

 シスター長」

「!、ギルド長!何を言うんです!」

「・・・・こいつは、自分のするべきことが見えている目だ。

 ・・まだ、覚悟が弱い感じだが・・・意志を持った目だ。

 ここで、引き留めるのはかえって坊主の足を引っ張り止めちまうことになる」

「しかし!

 彼はまだ子供です。

 まだこんなに幼い子供を外に放り出すなど・・・・」

「シスター長の言うことはもっともだ。

 じゃあ、坊主、お前が外でも多少生きていけるかどうか証明できるか?」


 少し挑発チックに笑みを浮かべながらクリスに試そうとしている。

 クリスは無言で孤児院の横の倉庫に行き、そこから、この世界の通貨、アイテム、簡易食糧、地図、生活に必要とする衣類などの最低限必要なものが入ったリュックを持って出てきた。


「・・・いつの間にそんな準備を」

「狩りをしに外に行った時、モンスターを討伐して、落とした素材を売ったり、交換して、外で生きるための準備をしてきた」

「・・・・ほう」


 興味深そうに、クリスを見るギルド長。

 シスター長たちは唖然としていた。


「しかし・・・用意だけでは外で生きるなんて・・・」


 それでも、心配なシスター長は食い下がる。


「一応外で生きるのに必要なことはパドさんやレイシーさん、ミミに教えてもらった」

「・・・あの人たちは・・・なんてことをこの子に・・・」

「・・・行かせてやれ、ミリアーゼ」

「・・・バルク。

 あなたは・・」

「ここまで、用意もして整えてきたんなら後は、実際にやってみて、そこから学んでいくもんだからな外に出て生きる、冒険っていうのは。

 もし、危なくなったりしたらこいつなら自分で正しい判断をするだろう。

 アーシュと違って、小っちぇのにしっかりしてるじゃねえか。

 足りない分はその場で生きてさえいれば知識になる。

 身を持った実戦経験が一番、なんてこともあるんだ」

「・・・・はぁ、わかりました」

「シスター長、よろしいのですか?

 この子はまだこんなに」

「かまいません。

 この子がここまで自分の考えで決めたのなら・・・」


 横にいるシスターがクリスを想って引き留めようとするが、シスター長はギルド長、バルクの。

 そして、クリスの決めた硬い意志に折れ、受け入れた。


「・・・クリス。

 もし、危ないと感じたり、どうしようもなかったら、またこの孤児院に帰ってきなさい。

 あなたもこの孤児院に住む、私たちの大事な家族なのですから」

「・・・・クリス君、絶対無茶しちゃだめよ?」

「・・・はい!」


 2人のシスターの温かい言葉にクリスは再度自分の心の覚悟と意思を持って返事を返した。


「・・・ふ~。

 まったく、アーシュにも少しは坊主のような覚悟を持ってほしいもんだぜ」



 その夜、ギルド長も交えた少し豪華な食事にみんなが喜び、にぎやかな夜になった。


 その夜、ボロボロになった教会の祭壇にクリスはいた。



「・・・ねえ、クリス。

 本当にここを出るの?」


 以前からいつかここを出て世界を旅するといったクリスの言葉をミィナは覚えていたようだ。

 そして、今日の食事の豪華さから何かを察したのかクリスに聞いてきた。


「・・・うん・・・。

 明日、ここを出ていくよ」

「・・・そうなんだ・・・」


 顔をうつ向かせ表情の窺えないミィナにクリスは黙って見ているしかなかった。


「・・・あのね。

 私、少しずつシスターのお手伝いして、料理も簡単なものが出来るようになってきたんだよ?」

「・・・うん」

「お勉強はちょっと退屈だけど私もシスターみたいにみんなを助けられる様に頑張ってるんだ」

「・・・うん」

「そんでね、いつか私も、クリスみたいに世界を見てみたいなって・・・そう思ってるんだ・・」

「・・・・うん」

「・・・どうして、そんなすぐに行こうとするの?」

「・・・」

「ねえ?」

「・・・ごめん」

「・・・」

「前から決めてたんだ」

「・・・」

「こんな時に出るのもどうかなって思ってたけど、今じゃないといけないから」

「・・・・どうして?」

「・・・ここで、俺だけが何もしてなかったから・・・っていうのもあるかな」

「そんなことない」

「いや、本当だって・・・」

「そんなことない!

 クリスはみんなを想ってた!

 ホントは一番、こわいのもつらいのも・・・泣きたいのも・・・ずっと我慢して、みんなのことを想ってた!」

「・・・」


 ミィナは涙を流しながらクリスに言った。

 クリスを想い泣きながら言った。


「・・・・・・ありがとう」

「っうっく・・・クリス?」

「・・・ミィナが俺のこと考えてくれて」

「・・ひっ・・っく・・当たり前でしょ。

 家族なん・・・だから」


 両手で涙をぬぐいながら話すミィナにクリスは近づいて頭を優しく撫でた。


「でも、本当に何もできなかったんだ」

「・・・ぞんなごと・・・」

「本当なんだ・・・ミィナ。

 俺はあの時、クレアさんが戦って、死ぬまで、ただ``俺が死ぬことだけが嫌``だってそんなことを考えてたんだ」

「・・・っく・・・す・・・」


 目をぬぐい、鼻をすすりながらもクリスの話を聞くミィナ。


「俺は関係ない、なんで俺が巻き込まれなきゃならないんだ。

 そんなのどこか向こうでやってくれ。

 俺を巻き込むなよ。

 ・・・そんなことばかり考えていたんだ」

「・・・」

「あそこでクレアさんと戦ってた男が俺に興味がなくなったとき、本当は心の中で喜んだんだ。

 あ、やったー俺は生き残れるって。

 クレアさんが必死に俺を守ろうとしているときにそんなことを想ってたんだ」

「・・・」

「だから、クレアさんが死んじゃったとき。

 俺は、自分の本当の気持ちが少しだけ見えた気がするんだ」

「・・・ほんとうの・・きもち?」

「うん。

 俺は、本当に危険がせまったら自分を一番に考える。

 たとえミィナが危険になっても、俺が危なかったら、おそらく助けずに逃げると思うんだ」

「・・・」

「そんな奴が、お墓の前でみんなが悲しんでいるところに行くなんでおかしいと思うんだ。

 ・・・見殺しにして。

 自分は助かったなんて喜んでる奴なんて・・・。

 もし、今度も同じことがあったとき俺はここにいてもみんなのためにならないと思うんだ」

「・・・」

「それもあって・・かな。

 俺は、明日この町を出て旅をしようと思ったんだ」

「・・・」


 どこまで、ミィナが理解したかはわからない。


「・・・どうして、そんな話をするの?」

「・・・ミィナには、話しておいたほうがいいかなって。

 そんな気がしたから」


 ただ、その時の幼い少女の情に流されただけかもしれない。


「ミィナにだけは、俺がどんな奴か知ってほしいって思ったから」

「・・・・そう・・・なんだ」


 クリス撫でてた手をすり抜け横を向いたためクリスにはミィナの様子は見えなかった。


「・・・・うん。

 わかった。

 じゃあ、いつかは帰ってくるのね?」


 自分の中で何かを解決して吹っ切れたミィナがクリスに聞いてくる。


「え?」

「え、じゃなくて、ちゃんと帰ってくるのよね?」

「え!?

 いや、それはわかんないけど」

「・・・ちゃんとこの孤児院に帰ってきてよね。

 もしくは、たまに、顔を出しに帰ってきなさい。

 もし帰ってくるのが遅かったら、私も大きくなったら、冒険者になって、クリスを探しに世界を旅するから」

「・・・・」


 ミィナのその瞳には先ほどの不安のあった瞳とは違う、自信にあふれたまっすぐな瞳になっていた。

 いつものミィナに戻ったようだ。


「・・・できるだけ頑張ってみるよ」

「そこは約束して!

 そうじゃないと、本当に冒険者になって探しに行くから」

「・・・わかった。

 善処します」

「だからそこは約束してって。

 ・・・んもう、なんかごまかしている気がするのよね・・・クリス」


 鋭い。

 こういう部分は本当にミィナの直感は怖いところがある。


「・・・んまあ、クリスらしいったらクリスらしいか」

「・・・」

「じゃあ、今度会ったとき私がどんなにすごくなってるかクリスに自慢してあげるわ」

「・・・うん。

 楽しみにしてるよ」


 2人はボロボロになった教会を話しながら出て行った。



 そこを、月明かりに照らされ、暖かな優しい小さな光が一つ現れ、ゆっくりと上昇して消えていった。







【クリス】3才

 レベル 12

 HP 56 MP 39

 STR 20

 VIT 15

 INT 12

 RES 13

 DEX 22

 AGI 18

 LUK 14

思ったよりストーリー進まないもんだなと感じますがどうか長い目で楽しんでいただけると幸いです。

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[気になる点] 3歳で独り立ちはちょっと……。
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