第3章 朱き花嫁
パチ・・・パチチ・・・・・・バチン!
真っ暗な広場、河川敷で宙に突然、チリチリと火花が散った。
バチチ・・・ジ・・・・・・バキン!
すると宙の次元がまるでガラスが割れる瞬間の様な亀裂が走り・・・空間がズレた。
バリィン・・・。
空間が突然割れて、渦巻く空間から1人の少年が飛び出してきた・・・。
「・・・ここは・・・?」
月明りがほとんど照らされていないのかほとんど真っ暗で周りが見えない。
〔どうやら、戻って来られたようですねクリス・・・。
いえ、こちらでは``純``、でしたね・・・〕
周囲を見回して、今いる場所を理解しようとする純。
「・・・川の音がすぐそこでするから・・・河川敷かな?」
〔待ってください?
今、連結でマナから周りを目から入る光量以外・・・視覚以外で把握できるように調整しますね〕
そう言ってサポートとのスキルでも恩恵を使って純は周りを改めて見回す。
「・・・おお~・・・。
量自体は少ない気がするけど・・・地球でもやっぱりマナは存在するんだな・・・」
〔まあ、言ってしまえば存在エネルギーですからね。
宇宙すべてに存在する以上は全く見えないなんてことは無いと思いますよ?〕
純はハッキリと周囲の景色をマナによる目で今いる場所を知ることが出来た。
そして、綺麗に様々な色で輝いている景色につい見とれてしまった・・・。
「綺麗だな・・・」
それが本心から出てしまった感想だった。
〔はい・・・。
どうやら純が進化。
器を昇華させたことで、この様なちょっとしたことも出来るようになったそうですね〕
「・・・ライトいらず。
結構便利・・・」
〔それで純、この場所は分かりましたけど・・・正確には何処なのでしょうか?〕
「あ・・・そうか」
純は坂を上って現在いる場所を確かめる。
「・・・ここって・・・確か・・・工場近くの河川敷だったっけ?」
〔・・・その様ですね。
あそこに見えるのが・・・以前クエストで戦場になった工場でしょう・・・〕
純もその方角を見て納得した。
「・・・あそこからシステンビオーネに飛んだと思うんだけど・・・。
帰ってくる場所が少しズレたのかな?」
〔無茶な場所でもなく、誰もいないのなら。
誤差の範囲・・・という括りなのでしょうか?〕
サポートのこの転移についてはよくわかってはいなかった。
「まあ・・・潜入して来た時よりも楽に帰れそうだから助かったけどね」
純もその辺りは気にしても仕方ないと切り替えた。
「それじゃあ・・・帰りますか・・・」
〔今、何時なのでしょうか?〕
「あ・・・前は転移するって分かってたから、スマホ置いてきたんだった。
・・・それほど経ってないよね?
もし、本当は何週間、何ヶ月とか経っていたらシャレになんないんだけど・・・」
みるみる憂鬱な気持ちになりそうな純。
〔その辺りは・・・おそらく、それほど経っていないかと。
前回、地球へ純が帰って来た時も精々2,3時間ぐらいだったと思いますので・・・〕
「あの時初めて出会ったのに、よくそんな事が分かるな?」
〔あのような転移や死の瞬間は・・・一種の、最後の輝きを見せたりするものですから。
断片的な情報でも入って来る優先度は高かったのでしょう〕
「・・・嫌だな~、そんな最後を見るの・・・」
純はしみじみとそんな感想を抱いてしまった。
〔とにかく家に帰りましょう。
鍵は持っているのですよね、純?〕
「あ・・・良かった、転移する前と同じだ・・・」
純はポケットに入っていた鍵と、改めて気付いた自分の服装から・・・十時影 純としてココに来ていた時のままの状態に安堵した。
〔それでは帰りましょう。
念のために・・・帰る場所は純の本当の家ですからね?
白星家ではありませんよ?〕
「うん・・・それは大丈夫だよ」
〔あと・・・4月に入ったらお姉さん達が住みこむの事もお忘れなく〕
「・・・・・・忘れてた・・・」
純は首をガックリと落とし失念していた。
〔純・・・義理とはいえ、あなたにとって大事な家族ですよ?〕
「うん・・・。
ただ・・・本当に住むつもりなのか」
〔あの時の真剣な表情・・・忘れていませんよね?〕
「・・・そうですね・・・」
ほとんど、有無を言わせない様な凄味を乗せて、詰め寄って来た印象が強く心に残っている純。
そして、その勢いに押し負けた自分がいた事を思いだした。
「それじゃあ・・・サッサと帰らないと」
〔今の内に、早めに帰るよう心掛けておかないと、心配されて注意されそうですね。
いつまで外へ出掛けていたのか聞かれそうです〕
「・・・」
純は、ありありとそのイメージが湧きそうになって、そそくさと河川敷を退散するのだった。
時刻は深夜、というよりも朝と人によっては切り替わりそうな意識になる・・・4時を過ぎたあたりだった。
そんななか、人通りもない街灯と自販機だけが灯りを照らす中を純は足音をサポートの力を頼りこそすように走って自宅まで帰ってきていた。
そして鍵を開け、家の中へと入った。
カチ・・・。
スイッチを押して、電気を付けた後、椅子に座って一息ついた。
「ふう・・・走って帰って来たけど・・・案外早く着けるようになったな?」
〔まあ、純が本気で走ればこのぐらいの距離なら数分もあればつけると思いますけどね。
いえ、下手すると数十秒かもしれませんが・・・〕
「その過程でたくさんの人に迷惑を掛けてたら元も子もないよ」
〔そうですね・・・〕
純は手洗いうがいを済ませ、サッサと自分の部屋へと向かった。
「・・・改めて見ると・・・小さい場所だったんだな。
昔はもっと広い部屋に思っていたけど・・・」
〔帰って来たのは数日ですし。
その前は随分と期間が開いていましたからね・・・ノスタルジックになっているんでしょう〕
「・・・そうかもしれないな。
とりあえず今日はもう寝よう。
今後の事は寝てからに」
〔分かりました。
おやすみなさい・・・純〕
「うん・・・お休み」
電気を消し、布団に入ってすぐに眠ってしまった行く純だった。
翌朝・・・というにはとっくに、日がかなり登っていた。
昼過ぎに純はボサボサになった頭のままゆっくりと1階へと下りていく。
「・・・う、ふあ~あ・・・」
〔クリスだった時もそうでしたけど・・・。
純は朝が苦手なのですか?〕
「んん・・・苦手って言うか・・・しっかり寝ないと朝起きれないんだよ・・・」
〔ああ・・・。
普段11時くらいには眠るようにしていましたね〕
「そうしないと7時には起き上がって来れないからね・・・。
もう習慣の様なものだったんだけど・・・」
〔冒険者として、夜遅くまで動いたり。
急に早朝に出発したりと・・・時間間隔の狂う生活していましたからね~〕
「もう一度、ここでの生活のリズムに直しておかないと・・・」
純は洗面所へと向かい鏡を見た。
「・・・」
改めて自分の姿を見る。
「以前とそんなに変わっていないように見えるけど?」
〔前回のは変わり過ぎましたからね~。
たった数時間で20キロも体重が落ちるなんて普通ありえませんから・・・。
どうやら今回は分かり易い体重変動は控えたのかもしれませんよ?
容姿の方は・・・〕
「(ああ・・・いいよ、そういうの)」
純は顔を洗いタオルで吹いた後、歯磨きに掛かった。
〔気になりませんか?〕
「・・・フッ」
鼻で笑った。
「(気にしたってしょうがないよ。
俺の容姿が不細工なのは変わりないんだから・・・)」
見慣れ、聞き慣れ、言われ慣れてしまった為に、姿が変わっても容姿・・・顔については期待していない純だった。
「(どうせ気持ち悪がられて、避けられたりするのがオチだよ・・・。
無意味に気にしすぎて傷つくよりは・・・もうそんなのはどうでもいいって切り離すべきだと思うんだよね~・・・)」
〔達観というか・・・諦めの境地ですね・・・〕
そこまで純が自分の事を見限っていては、流石のサポートもどう答えていいか困ってしまった。
〔う~ん・・・。
しかし純・・・あなたが思ってるほど、別に容姿がそこまで醜くは・・・むしろ以前よりもどこか・・・〕
「(いいよ、そんな持ち上げなくて)」
歯磨きを終えた純はすぐさま台所へと向かった。
「・・・まあ、料理が全くできない・・・てワケじゃあないと思うし・・・これぐらいなら」
純は冷蔵庫から卵を取り出し、目玉焼きを作り、パンをトーストで焼いて、朝食という名の昼食にした。
「・・・うん、これくらいは問題なしか・・・」
〔一応、私の方もサポートとしてのお手伝いはしますので・・・大抵の料理はカバーできるかと思います〕
「ありがとう・・・助かるよ・・・」
〔ええ、そりゃあ・・・。
まさかほとんどカップラーメンや冷凍食品で生活する事になるかもと・・・。
転移する前の、たった数日の1人暮らしで思い知らされるとは思いませんでしたからね・・・〕
「・・・まあ、調理実習で学校で行われた時に・・・ほとんど1人で、先生と作らされたようなもんだし」
〔理由は・・・大体想像がつきます〕
「ははは・・・」
暗い空気になる台所。
「病原菌が移るから嫌だって・・・誰も班を組んでくれなかったからな・・・特に中学は・・・」
〔小学校では違ったのですか?〕
「まあ・・・数人だけ優しくしてくれた人もいたし・・・。
その時は友達も・・・いたからな・・・」
〔・・・〕
純はその話を切り上げる様にテレビを点けた。
「・・・どうやら今日は、俺達が転移した日の昼らしいな。
サポートの言う通り、あそこにいた時から数時間しか経ってなかったか・・・良かった~」
〔・・・しかし、昼だからでしょうね。
バラエティー番組ばかりですね〕
「・・・ホント、お前の存在がもっと異世界チックなら納得なんだけど・・・ここまで地球の生活になじんだ言葉ばかりが飛んでくると・・・スマホの音声機械だな」
〔誰が感情を持たない機械ですか!
純・・・いくらあなたでもそれは聞き捨てなりませんよ、訂正してください〕
「ははは、悪かったって。
・・・しかし、本当に人と話してる感じになるな・・・」
〔まあ、概ね間違ってはいませんよ。
一応純の魂に則して、純が作り出した存在ですから・・・。
純自身が感情を持たない機械なら、この様な事にはなりませんし〕
「・・・それもそっか・・・」
純は1つのバラエティー番組を眺めながら、残っている食事を済ませた。
〔それで・・・どうされますか?
おそらく後、二週間足らずでお姉さん達がココへ引っ越してくることになりますが・・・〕
「う~ん。
ここって・・・あっちよりも1ランクくらい、いや・・・下手したら2ランクくらい狭い場所なんだけどな~。
あっちと違って個室も、10畳以上の部屋ってそうあるわけでも無いのに・・・」
〔そもそもクリスの部屋は・・・以前よりかは、ちょっと広くなった印象を受けましたけど・・・?〕
「ああ、それは居候の身だったし。
・・・親戚達に嫌われてたから・・・狭い場所でもいいって言って、あの部屋にしてもらったんだよ」
〔では、あそこは本来なんだったのですか?〕
「う~~ん・・・確か・・・服だったか、仕事用の書類置き場、的な所だったんじゃなかったかな~?
流石に昔、聞いただけだからよく覚えていないけど・・・」
純はサポートの質問に腕を組んで宙を見ながら思い出しながら喋っていた。
〔普通は・・・部屋の広さってどれくらいなのでしょうか?〕
「さあ?・・・。
ここって、割と裕福な人も大勢住んでいる場所だから家が大きかったり、マンションとかアパートもしっかりしていたりするから・・・。
一般の住まいよりかは多少大きいらしいよ?」
〔・・・純の家系ってお金持ちなんですか?〕
「親戚は結構、有名企業とか入ったり、事業が成功しているそうだよ。
まあ、所謂・・・上流階級に入ってしまう部類になるんじゃないかな?」
〔それじゃあ純も・・・〕
「俺ん家?
ああ、それはなかったと思う。
家自体は何かを成功させたからだと思うけど・・・後は家系の関係してる可能性は・・・無くはないけど・・・。
ウチは・・・親がその上流階級ならではの考え方や価値観が合わなかったようなんだよ。
たぶん・・・親戚関係の問題だろうけど・・・。
だから親戚からも嫌われてたから、縁を自分で切っていたんだと思うよ?」
〔・・・複雑な事情のようですね・・・。
なるほど・・・価値観、ですか・・・〕
「だから家自体は、ココの周辺の家とはそこまで差はないけど・・・。
改めてそう聞かれると・・・確かに、少しは裕福な暮らしをもしかしたらしていたのかもしれない・・・たぶん・・・」
〔その辺りは情報は・・・そうか、ほとんど止まっていた様なものですね〕
サポートは親を失い、居候の身。
そのため友達を呼んで遊ぶことも出来ず、大きくなるにつれ孤立していく状態では得られる情報などたかが知れていると気付いた。
「まあ、テレビとかネットから知って何となくは分かってるんだけど・・・。
そこまでして外の情報を必要以上に集めようとは思ってなかったし」
〔不用意な発言でしたね。
申し訳ありません〕
「気にしなくていいよ・・・。
そうか・・・改めて考えると・・・ちょっと広い方なのか・・・」
ぐるりと自分の家を改めて見回す純。
「まあ姉さん達が来ても、父さん達の部屋以外にも部屋はあるんだし・・・問題ないか」
〔部屋が狭いって文句を言って帰ったりとかは?〕
クリスとしてシステンビオーネにいた時、宿の問題で文句をつけて出て行った人を見た事があった。
サポートはその事を指摘していた。
「それで出て行くなら、それはその時だよ」
〔・・・そうですね。
それに・・・あの姉達なら・・・。
下手したら時々、純と一緒の部屋で寝ても構わないなんてことを言うかもしれないですね〕
「流石に今はそんな事ないけど・・・。
昔は何度かあったな~。
寝ようと部屋に入ったら俺のベッドで寝ていたりとか・・・」
〔・・・〕
「まあ、昔の事だし」
〔純・・・それはフラグです〕
「え?」
冗談のつもりで振った話から、あながちそんな事が起きかねないと、気付かされるサポートだった。
【十時影 純 (クリス)】15才 人間・・・かな~?(進化)
レベル 1
HP 1 MP 1
STR 1
VIT 1
INT 1
RES 1
DEX 1
AGI 1
LUK 1
NEW『マナ(情報体):レベル 1 』 NEW『波鋼:レベル 1 』『総量拡大:レベル 8 』
NEW『魔法: 水、風 』




