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転と閃のアイデンティティー  作者: あさくら 正篤
146/473

144 もう一度、再会するまで・・・

「おい、あいつ等って・・・」

「ああ。今回も偉い人数だ」

「そうまでしてココを早く踏破して、別の場所へ行きたいのかね~?」

「それだったら、別にこっちを後回しにする手だってあるんじゃねえか?」

「バカ。おそらく何か賭けでもして引くに引けなくなったんだろうぜ?」

「ははは、その答えについて賭けをするってのはどうだ?」

「おっ、いいね~」

「じゃあ俺は、あの別嬪さん達が交換対象として賭けてしまったに1000」

「おいおい、随分気前が良いじゃねえか?」

「ちっと塔の中で戦ったモンスターが落としたドロップアイテムがレアもんだったんでよ~。

 思った以上に稼いでしまったぜ・・・」

「だったら、アタシはあの渋いおじ様が早く踏破できるか勝負に乗った方に500」

「それだったら私も、あのクールで物静かな感じの子に・・・」

「それじゃあ、私は・・・全く関係なくただ塔の頂上を目指しているって事に賭けるっす」


 ドササッ。


 小さな金銀の入った袋を1つ賭けをしていた者達の前に置く若い女。


「おいおいスゲー賭けじゃねえか!!」

「おもしれ―!!

 俺も乗るぞ!」

「あたしも乗るわよ~」

「僕も!!」

「ワタシも!!」


 あれよあれよと賭けのために金額を発表され、どこからか現れた仕切り屋がレート紹介し始める。


「にゃっははははは・・・これでかなり儲けられる・・・あで!!」

「何をやっている・・・」


 槍の柄で頭を叩かれ、若干涙目になりながら振り返る。


「いや、ちょっとした賭けをしてただけじゃないっすか」

「事情を知ってて賭けていたら、それはもはや八百長だろうが・・・」


 呆れた男が女の首を掴んで引きずってその場を去って行く。


「あっ、ちょっと待ってくださいっす。

 せっかくの賭けが~」

「諦めろ。

 そんなくだらない事してないで、俺達も行くぞ?」

「え?もう入れるんすか?」

「僕達の雇い主の騎士達だぞ?

 その辺りは融通してくれる」

「な~んだ~。

 てっきり、もっと時間が掛かるもんだとばかり思ってたっす」

「っていうか、いい加減自分の足で歩け」

「イデ・・・酷いっすよ~。

 乙女の柔肌を何だと思ってるっすか!」

「乙女と自分で言うな。

 大体、貴様ももうあと数年もすれば乙女なんて年齢」

「それ以上、言ったら容赦しないっすよ?」


 キラリ光る銀色の輝きが男の首もの近くにあった。


「・・・だったら、サッサと来い」

「乙女の年齢はとても重要機密が高いっす。

 その当たり・・・もう少し学びなさいっす・・・」

「・・・分かった、分かったから、そのダガーをどけろ」


 ダガーを懐にしまう女。


「年齢が気になるのは分かるが・・・僕達は一般の常識から少し離れてしまっている事を忘れるなよ?」

「えっ?どういう事っすか?」


 どうやら本当に分かっていない女に呆れて首を振ってから説明してあげる。


「いいか、僕達は城で化け物と戦ったんだよ。

 その結果、気絶した。

 これがどういう意味か分かるか?」

「それは、急激にレベルが上がったからっすよね?」

「それだけじゃない。

 そもそも僕達と戦った冒険者ですら、気分を悪くした者と気絶した者が出たんだぞ?」

「それぐらいわかってるっすよ。

 私らの味わったんすから・・・だから、どういう事っすか?」

「はあ・・・。

 それだけ高ランクの冒険者が倒れる様な相手に生き延び、勝利して経験値を得る事がどういう事か忘れたのか?」

「?・・・それって、レベルが上がるだけじゃないんっすか?」

「・・・僕達はボスと同じ、自らの限界を突破したんだよ」

「え?限界を突破した?」

「そうだ・・・。

 それも急速にレベルが上がってな。

 だから器である魂が急激な変化に耐えられず気絶したんだよ」

「・・・あれって、そういう事だったんっすかあ・・・」

「本当に分かっていなかったのか・・・。

 一応、会議でその話も出ていたはずだぞ・・・」

「い~や~・・・あまりに長い話だったので、途中からシェイミ―と話し込んでたっす」

「はあ・・・そんな事だろうと思ったよ」


 そんな話し合いをしている間に同行者たちの下までたどり着く。


「イルミナ、遅いわよ?

 どうしたの?」

「そうよ~。

 皆、待ってたんですから~」


 ノイシュ、トリシュに注意されるイルミナ。


「いや~、ごめんっす。

 ちょっと知り合いとばったりであっt」

「こいつは向こうで僕達がどういう集団かで賭けをしていた」

「「・・・」」


 嘘をあっさりを切り捨て、真実を述べるエレイズ。

 その言葉を聞いた2人の冷たい視線がイルミナを刺した。


「あ・・・あははははははは・・・・・・ごめんなさいっす」


 他の冒険者達とは違い、参加するクリス達にはもはやピクニックに近い感じになりつつあった。

 その結果、油断をするわけでは無いが、気持ちに緩みが生じていた。


「ふあ~ああ・・・お兄さんも賭ければ良かった」

「じゃあ、アタシはあんたがボコボコにされて草むらに放り捨てられている方に賭けようかな~?」

「ウフフフ・・・じゃあ、その仕事・・・ワタクシが引き受けちゃおうかしら~?」

「・・・手伝う」

「ちょ、ちょっと待ってよ。

 冗談、冗談なんだから~・・・。

 あ~もう怖いな~」


 シャーリィ、クラル、サックの言葉に冷や汗ダラダラで必死に宥めようとするヤハト。

 内心、心臓のバクバクだった。


「(・・・あれ、本当にやりそうだよな?)」

「(ええ・・・ウチのフェリルとメルムあたりが以外にも起こしそうです)」

「(フェリルは確実だろう)」

「(ウチのチャルルもありそうだ)」

「(そちらもですか?)」

「(ああ。

 カレンも案外、油断ならねえ)」

「(冒険者をしている以上、女性陣ってのは一般の方よりも我が強いのでしょうか?)」

「(あり得るな。

 そもそも、女だてらにこの仕事で生きていく以上は、どこか芯が強い女が自然と上に行くにつれ出てきちまうもんなんだろうぜ?)」

「(女性より男性の方が弱いっていう話も聞きますからね~)」

「(案外当たってるかもよ?

 あれを見てるとな・・・)」


 ロイド、カイル、トウジロウがシャーリィ達やノイシュ達を見てどこか納得の表情を浮かべる。


「・・・何か言いましたか?」


 メルムが笑顔で3人の前に割って入る。


「えっ?あ、いや何も言ってねえよ。

 なあ?(ってもういねえ!)」


 ロイドがメルムに返事を返した時にはカイルとトウジロウは去っていた。


「(・・・なかなか、カオスな一団に見える)」

〔前回も似た印象抱きましたね~。

 種族の問題ではなく、おそらくクリスが知り合ったメンバーがこんなに集まっている状況がそんな印象を持たせるのでしょう〕

「・・・ああ、確かに」

「?どうしたの?」

「ううん、何でもないです」


 イスカがクリスの言葉に即座に反応したが、クリスが流したことで、首を傾げるだけだった。


「入る許可は貰ってきましたので・・・行きましょうか?」


 テスが戻ってきたことで全員が塔へと入って行った。



「あれ?そういえばクリス君、武器は?」


 ヘレンがクリスがリュック以外のめぼしいモノを持っていないことに気付いた。


「前回、あのモンスターと戦った時に壊れちゃって。

 まあ、今回はただ登るだけですし問題ないかな~っと・・・」

「そういや少年。

 あの武器は何処で手に入れた物なんだ?」


 ボールドが珍しく進んでクリスに話しかけた。


「え?・・・あ~、たまたま遺跡の中から手に入れた物なんで・・・正直、使える武器だなってくらいしか・・・」

「そうか・・・」

「あの武器に何かあるんですか?」

「?・・・そうか知らずに使っていたから分からなかったのか・・・。

 俺も詳しくは分からんが・・・あれはアーティファクトの一種だろう」

「えっ!そんな貴重なものだったんですか!」


 話を聞いていたケイトから驚きの声が上がる。


「見た目は、そこらの町や村にある安物のショートソードに見えるだろうが・・・内包している圧力。

 マナを受け入れる器があそこまで大きい代物はそうそうお目に掛かれんぞ?」

「は~・・・てっきり普通の剣だと思ってました~」


 テトもケイトと同じく分かっていなかったようだ。


 トウジロウも会話に入って説明する。


「考えても見ろ。

 坊主のマナに耐えられる武器なんてそうそうあるもんじゃねえぞ?

 俺達の武器だってそれぞれ使いやすさとは別に、俺達のマナの性質に合わせて職人にカスタマイズされている。

 中には・・・俺の刀のようにマナを学習、成長させるように作られているものもある」

「へ~・・・そんなものがあるんだ~・・・」

「何だ坊主。刀に興味でもあるのか?」

「はい、もちろん」


 ハッキリと言い切ったクリスに、得意げに笑うトウジロウ。


「(やっぱ日本人だからかな?

 刀ってのを見ると憧れちゃったりするんだよね~・・・)」


 キラキラした目で刀を見るクリス。


「ははは、俺の武器に興味を持つとは~。

 随分いい趣味してんじゃねえか~・・・。

 お前にも刀を1本進呈してやるのも吝かじゃねえが・・・生憎、渡せるものがねえんだワリいな」

「いえ、大丈夫です。

 今度、また武器を手に入れようと思った時にでも・・・その刀の様なのを1本持っておきたいなって思っただけなので・・・」

「・・・」


 イスカはチラッと自身のハルバードを見た・・・そして。


「こういう武器も悪くないよ?」


 クリスに薦めた。


「え?」

「いや、流石にそれは坊主の体には合わねえよ。

 重心の位置とはもズレるだろうし」

「私・・・これを持ったの7才くらい・・・」

「・・・余程、あんたに向いていたんじゃねえのか?

 そうじゃなきゃ普通はもっと扱いやすいモノを親や誰かから貰うだろう」

「・・・確かに・・・」


 ボールドのトウジロウの言葉にイスカのハルバードまじまじと見て答えた。


「普通は・・・嬢ちゃんなら・・・小さい頃にああいうのを物を渡されるはずだぞ?」

「確かに・・・これは私の師匠からプレゼントされましたよ?」


 トウジロウがテスを指差してイスカに話す。

 話を聞いていたテスもすぐに返事を返す。


「私も小さい頃から父に教えられこの細剣が向いていると師匠と共に・・・」

「まあ、それが普通だろうな。

 あまり個人の情報を聞くのはマナー違反だが・・・イスカ。

 あんたにその武器種を渡した奴は、相当あんたとの相性から考えて選んだんじゃねえのか?」

「・・・そう・・・なのかな?」

「あんたが首を傾げてどうする」

「投げやりに渡された様な気もするから・・・」

「なんだそりゃ」

「・・・さあ?」


 よくわかっていないらしいイスカに対し、トウジロウ達では、もちろん答えなんてわかりようが無かった。


「「・・・・・・」」

「あの・・・君達、お兄さんの刀を見ないでくれると嬉しいんだけど・・・」

「・・・どうして見てるのか分かって、おっしゃっていますよね?」

「そうじゃなきゃ、ヤハト様がすぐに刀を指し示すとは思えません」

「ちょっと君達も、それはそれで酷いんじゃない!?」


 黙ってヤハトが持つ刀を見るシャーリィとクラル。

 そして、その気持ちに少し同意しているノイシュとトリシュ。


「どこからか奪って来た武器であろう。

 だったら渡したって問題ないではないか」

「あるよ!

 これ奪った物じゃなくて、譲り受けた物なの。

 一応コレ、お兄さんにとっては結構大事な物なんだよ・・・!?」

「「ふ~~ん」」

「信じてないなお前ら!」


「・・・もはやピクニックっすね」

「ハイキングの間違いではないのか?」

「それ、ほとんど同じ意味っす」


「・・・のんびり・・・」

「一応ココ・・・ダンジョンなんだけどね」

「大勢で動いているのではぐれない様にしてください・・・!」


「・・・あれは何だ?

 引率者か?何かか?」

「ほとんど保護者ね。

 まとまりのない子供を何とかまとめて動かそうとしている感じ・・・」

「ああ・・・何でしょうか・・・。

 涙が出てしまいます」

「同じく」


「・・・なかなかすごい集団になってしまわれましたな」


 ベーデルが総じて思った感想だった。



 そんな和気藹々としたままクリス達は頂上へと辿り着いた。


「うう~~・・・さぶっ!」


 今日の風を少し寒いと感じるロイド。


「まあ、そんな恰好ですからね~」

「強気な格好とかワイルドさとか言っていますが・・・単純に薄着の様な格好ですからね~」

「もう少し服はしっかりと選ばれた方が良いと思うぞ?」

「うるせー!

 俺がこの格好が良いって思って来てるんだから良いんだよ」


 メルム、カイル、デッィクからのコメントに逆ギレして不貞腐れるロイド。


「・・・は。

 あいつも、もっとこの景色を楽しんだら良いのに・・・」

「何度見てもキレイですね~」

「う~~~んっ。

 とー・・・は~・・・良い空気」

「何度見ても心が癒されます」

「本当よね~。

 洗われていくよう~」

「・・・こういう景色も悪くないっすね~」

「・・・うん・・・」

「たまには、こういう景色をみてのんびりしたいものね~」


 数が増えても女性陣は塔の頂上からの景色を楽しみ。


「ふむ・・・悪くはありませんが・・・今はそこまで重要な事ではないでしょう?」

「ああ。先ずはコッチの方が先決だしな・・・」

「見たければ何度でも見に来れるでしょうし」

「今の僕達なら、そこまで時間もかかりそうではありませんしね」


 男性陣の方はドライだった。


〔普通はこういうのは男性女性共に混ざってしまうものなのですが・・・。

 本当にこのメンバーはハッキリと別れますね~?〕

「(ははは・・・。

 それじゃあ俺達は・・・)」

〔はい・・・クエストボードに書かれていた女性を救い出しましょう〕


 クリスは1人、頂上の中央へと歩んでいく。


「「「・・・」」」


 それを黙って見守っていたテス達がクリスに続く様に歩いていく。


 バチ・・・バチチッ・・・。


 今までと少し違う現象が発生するが。


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・・。


 異空間が出来上がり神殿の様な扉が現われ、独りでに開いていく。


「・・・」


 クリスは黙って扉の奥へと入って行く。


 続く様にイスカ、テス、トウジロウ、ボールド、ツェーゲンと次々と扉に入って行った。

 外の景色を楽しんでいた女性陣も後を続く様に入って行く。


 暗い空間。


 その中に薄く光りを発し輝く大きな水晶。

 その水晶の中にツェーゲン、ヤハト、サック、クラル、シャーリィの恩師、育ての親が入っていた。


「す~・・・は~・・・」


 心なしか緊張するクリス。


「・・・大丈夫」

「不安になる必要はないよ。

 安心して?」


 イスカ、テスがクリスの方に手を乗せ勇気付ける。


「・・・君がそこまで心配しなくてもいい。

 ここまでしてくれたんだ。

 ダメなら、俺達で何とか探すだけだ」

「ああ。お兄さんに任せてくれ」

「・・・うん」

「・・・まあ、ヤハトの事は任せると不安だけど「なにぃ!」。

 今はここまでやってくれたんだしこれ以上の贅沢は我が儘よ」

「そうね~。

 ヤハトの事は気にしなくていいわよ~?「だから、何で俺の信頼がそこまで低いんだよ!」

 シャーリィの言う通り、これは私達の我が儘。

 あなたは気楽にやってみてちょうだいな~・・・」


 ツェーゲン達もクリスの行動を責めたりしないと安心させる。

 ここで成功すれば御の字、失敗ならまた次の手を探せばいいという気持ちでいる様子だった。


「・・・ありがとうございます」

「礼を言うのはこちらだ」


 ツェーゲンの言葉に仲間達が頷いた。


「・・・それじゃあ」


 クリスは水晶の方へ向き直り、首に下げたペンダントを取り出した。


「・・・」


 そして水晶の前へと掲げる・・・すると。


 ファン・・・ファン・・・ファファン。


 ペンダントが水晶に呼応するように輝くだし波紋を生む。


 そしてクリスの手を離れて勝手に水晶の方へと飛んで行く。


 ペンダントは輝きを放ちながら、その光は一層強くなる。


「「「!・・・」」」


 光りでペンダントの形が見えなくなるほど輝き全員が眩しさに、手で影を作り、先の水晶とペンダントを細めながらも見つめる。


 ・・・リィン・・・リィ~ン・・・。


 やがて、どこかから聞こえる涼やかな音と共に目の前に一凛の花が優しい光を放ちながら水晶の前に現れた。


「(あれが・・・)」

〔はい・・・。

 私達が持っていた救命と花のペンダントの中身・・・``レミテス``です〕


 レミテスが水晶に溶け込むように中心部、女性の前まで入って行く。


 そして花が持つ様々な色の光が女性の体へと粒子となって流れ込んでいく・・・。


 その瞬間、クリスは不思議な現象を味わう。


「っ!」


 先ほどまでの暗い景色ではなく、白く広い空間にいた。


「っ!・・・えっ!」


 その空間はどこか霧が濃く、そして何もなかった。

 そして、そんな空間にクリス以外には誰もいなかった。


「どうなって・・・」


「ごめんなさい・・・」


 そこへ突然目の前に女性の声がして振り返ると、半透明な姿から徐々にクッキリしたものへと変化していき目の前で顕現し緩やかに宙から地面へと降り立った。


「私のせいで・・・あの子達だけではなく・・・あなた方までご迷惑をお掛けしてしまって・・・」


 その女性は水晶の中にいた人で間違いなかった。


 しかし、その女性の表情はどこかもの悲しそうであった。


「だけど・・・私にはココを抜け出すことも・・・解放されることもありません」

「どうして?」

〔クリス!〕

「!」


 すると足元から黒い草が生えて女性を絡め取り、拘束する。


「あなた方が外した拘束の呪縛は外へと漏れ出した、ほんの一部。

 残念ながら未だに私はこの呪縛から解放されていないのです」

「だったら」

「いいのです。

 ・・・もうこれ以上・・・あの子達の迷惑になりたくは・・・ないのです・・・」

「・・・どういうことですか・・・?!」

「あの子達は・・・本当はとても心の優しい良い子達。

 それを・・・私のせいで人生を台無しにしてしまった。

 もう・・・これ以上・・・私のせいで大切な時間を・・・復讐のために使わないでほしい」

「・・・知っているんですね?」


 女性は力なく頷き、涙を流した。


「以前・・・何度かこの空間に訪れた者達の中に・・・彼らの事を話してくれた人がいました。

 その人は・・・私を封印した人・・・」


 その言葉にクリスの脳裏に可能性の1つにあの老人が出てきた。

 可能性の1つとして謎過ぎる存在。

 それでいて、宝石について詳しそうな人物がその老人しかいなかったからであった。


「・・・変な笑い方をしたおじいさんですか・・・?」


 つい確認を込めて聞いてしまうクリス。


「っ・・・知って、いるんですね・・・!」

「(やっぱり・・・)」

〔予想はしていましたけど、つくづく面倒な事ばかりしてくれますね~・・・〕


 クリス同様、サポートも辟易した気持ちでいた。


「知っているのなら分かるはずです。

 言動こそ、読めない人ですが・・・その実力は確か。

 この呪縛も彼が作り出し、水晶の中に私を封印したのです」

「・・・どうしてそんな事を?」

「それは・・・私に・・・天使、神としての力が宿っているからです」

〔ここで来ましたか・・・。

 可能性としては考えてはいましたが・・・実在するとは・・・〕

「(えっ!

 今までそれを前提に俺と話してなかったの?)」

〔いるとしても次元・・・クリスと違い、別の高次の存在ならば・・・と考えておりました。

 時折、世界に干渉する事は可能だとしても、本人自ら現れて何かをする・・・とは、あくまで予想の範疇を越えませんでしたので。

 しかし・・・彼女がその天使か神の力を宿しているのなら・・・それを狙ったあの者達も・・・)」

「神とやら関係の存在って考えるのが・・・普通か・・・」

〔そうです〕


 クリスは女性を見て改めて実在する存在を理解できたが・・・それまでだった。


「今はそれどころじゃない」


 クリスは草を掻きむしって、女性へと近づいていく。


「ダメ!不用意に触っては・・・!」


 以前、半覚醒の様に意識が合った時、マイクが黒い草に触った瞬間、マナを吸収された事を知っていた女性は焦りクリスを止めようとする。


 しかし・・・。


「えっ?」


 クリスは自身にも迫りくる草を引きちぎって振り払い、女性の前へと近づいていく。


「どうして・・・?」

「?・・・どうして・・・と言われましても・・・」


 クリスは何の気なしに近くにあったクリスに引っ付こうとする草に触れる。


 しかし、草はクリスが触るとすぐに分解されるように溶けて消えていく。


 それはクリスが払いのけ女性に近づくにつれ、草にも意志があるかの様にクリスから避けていった。

 結果、クリスの周囲から勝手に草が道を広げていく。


「・・・」


 女性を離すまいとクリスが接近した最初は強く締め付けていた力も、近づいていくにつれ徐々に弱まっていき・・・最後には草が震える様にスルスルと女性から離れていった。


 何が起きたのか分からないクリスと女性を放置したまま黒い草が少しずつクリス達から離れていく。

 いつの間にか女性は呪縛から解放されていた。


「・・・いったい・・・どういう・・・」

「・・・さあ?」


 困惑する2人。


〔・・・なるほど・・・〕


 しかし、クリス専用の力であるサポートは何かを理解したようだった。


「何か分かったの?」

「?」


 クリスはつい口に出しサポートに聞いてしまう。

 しかし、サポートの声が聞こえない女性は疑問符を浮かべるだけだった。


〔おそらく、クリスのマナに耐えられなかったのでしょう。

 この呪縛の草は確かにこの女性を封印するのに十分な力を備えていますが・・・。

 単純な話ですが、マナの質も濃度も異なり、桁違いのクリスを捉える事は出来なかったようです。

 寧ろクリスのマナを吸ってしまって自己破壊してしまったのです。

 自らの性質が仇となったようですね〕

「つまり・・・自爆?」

〔この場合、自滅でも構いませんよ?

 ほら・・・見てください〕


 サポートに促されるように周囲を見回すと・・・。


 いつの間にか黒い草が勝手に粒子となって消えていく。

 そして深い霧に包まれた白い空間も晴れていく。


 そこはミカルズの塔の頂上の様に足元に雲の絨毯が出来上がっている不思議な場所だった。

 そして夕日の陽ざしが雲を黄金の様に照らしている。


 そんな空間にクリスと女性は立っていた。


「・・・これは・・・!」


 驚く女性。

 それは捕らえられた長い年月の中で見た事もない景色だったのだろう。

 深い霧の中を、黒い草に縛られ長く、この場所に留まっていたのだから、今見える景色は久々に見た新しい景色だったのだろう。


「・・・どうやら、あなたを縛っていた草は・・・その・・・自滅・・・したようです・・・よ?」


 とりあえず事実だけを述べるクリス。

 どうしてこうなったのかはサポートに聞いて分かったけど・・・それをそのまま言っても、その後どうすればいいのか分からないからだった。


「・・・」

「と、とにかくこれで解放されたのですから、早くここから出ましょう。

 どこかに出口がないか探さないと・・・!」


 そそくさとこのいたたまれない気持ちから逃げ出す様にクリスは出口をなる場所を探し始める。


「・・・そう・・・あの時、封印の扉を開いたのはあなただったのね?」

「・・・はい?」


 少し離れた位置にいたので女性の声がハッキリと聞こえなかったクリス。


「いえ、何でもないわ」


 しかし、女性はそれについてを言及する気が無いのか、それだけを言ってクリスと同じく出口を探す。


 そうしている時。


 夕日から射した光が一段と強くなったと思いクリスと女性が射して光の場所を見るとそこには蜘蛛で出来たトンネルの様な空間が作られていた。


「・・・これって・・・」

「ええ、おそらく出口」

「だったら後はココを通って帰るだけですね。

 行きましょう」


 クリスが歩く・・・しかし、女性はその場から動かなかった。

 不思議に思ったクリスが振り向く。


「・・・」


 女性は震える手を両手で抱える様に抱きしめながらクリスに笑う。


「・・・ふふ。

 情けないですね・・・。

 ココを通って行けば・・・あの子達に会える。

 そのはずなのに・・・怖くなってしまったのかしら・・・」


 笑っている・・・しかし、その姿はとても儚げで今にも消えてしまいそうな印象をクリスに抱かせた。


「(・・・これは・・・)」

〔クリス・・・おそらく彼女は・・・死んでいます〕

「えっ!それってどういう!?」

〔水晶に封印される形で肉体はあの状態のまま、時が止まっていたようですが・・・。

 長い間、あの黒い草に吸収され続けた結果・・・彼女の魂は既に失っているのです〕

「いや、だって今目の前に!」

〔クリス・・・。

 ここはおそらく、封印された空間と死んだ者がいる世界の狭間。

 つまり死後の世界へと向かう通り道の1つに我々はいるのです〕


 クリスは改めて周囲を見渡す。

 確かにあの世と関連しそうな・・・人が連想しそうな空間ではある。


「だけど!」


 それはあくまで連想。

 必ずしも本当ではないとクリスは思いたかった。


 それに・・・。


「せっかくここまで来たのに!

 あの人達は必死になって頑張っていたのに・・・!」


 それは解放され、再び目を覚ました自分の育ての親と楽しい生活を取り戻せると夢見ていた彼らに、現実という無慈悲な仕打ちを突きつけ諦めさせなければならない事だった。


「そんな事は・・・!

 ・・・そんな事は・・・」

〔クリス・・・彼女を見てください〕


 女性は涙を流しながらも笑ってクリスを見ていた。


〔彼女も無意識にでも反応していたのです。

 自分にはもう・・・戻れない事だと・・・〕


 そのサポートの言葉を追従する様に彼女が答える。


「・・・ごめんね・・・やっぱり、私・・・ダメみたい。

 あの子達に伝えて・・・短い付き合いだったけど・・・本当に幸せだったよって・・・」


 涙を流していたが瞳から更にどんどんと大粒の涙を流す女性。

 辛い気持ちに耐えられなくなり、膝を屈し、地面に顔を伏せ大泣きしてしまった彼女。


「ごめん・・・。

 ごめん・・・ねえ・・・ううう。

 うううううう~~~・・・・・・」


 クリスはそんな女性に何も出来ない悔しさで強く噛みしめ、拳から血が出そうくらい強く握りしめた。


 そんな時・・・ふと人差し指に光る指輪が目に飛び込んできた。


 まるで自分の存在を証明するかのように・・・。


「・・・そうか!!」







 【クリス】5才 人間(変化)

 レベル 301

 HP 13672 MP 14983

 STR 4429

 VIT 4318

 INT 4197

 RES 4265

 DEX 4351

 AGI 4512

 LUK 1457

『マナ性質:レベル MAX 10 』『強靭:レベル MAX 10 』『総量拡大:レベル 5 』

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