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転と閃のアイデンティティー  作者: あさくら 正篤
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139 もたらす変化の行く末

「フー・・・フ~・・・!」


 何度も数えきれないぐらい接近してぶつかり合ったが、ダメージを負っていくのは自分だけだと分かっているナニか。


 しかし、どうしようとも状況が変えられず焦っていた時。


 不意に相手が剣を納め、見た事も無い小さな武器に切り替えた。


「・・・・・・」


 肩で息をしていたナニかはゆっくりと空中から子供を見下ろし、その光景を黙って観察した。


 激しく戦い合っていた戦闘から、僅かに生まれた緩やかな時間。


「・・・うー・・・」


 取り乱していた気持ちが落ち着き、呼吸も安定してくるナニか。


「っ!」


 そして、刃の長い剣をもう1本取り出し、二刀流に構える。


「・・・!」


 子供も自分に向けて拾った石に小さな武器を宛がい構える。


「・・・ヒ」


 それを見た瞬間。

 少しだけナニかは笑った。


(どういうワケか知らないが、奴の武器は使えなくなったのかもしれない。

 あのような小さくて変わった物でしか戦えないのなら・・・)


 羽を一気に広げると体ごと斜面に体勢を変えた。


(私の・・・勝ちだ・・・!)


「・・・グアアアアアッ」


 ナニかは子供に向かって高速移動で接近、襲い掛かった。



〔クリス、来ますよ!〕

「(・・・来い!)」



 しっかりと相手を捉え、照準を宛てる。

 いつでも撃てる状態で待機する。


「(あの高速移動だと避けられる可能性がある・・・だったら)」

「・・・っ!」


 クリスに剣が届く距離になった瞬間。

 ナニかは今まで以上に力を込めて斬り払った。


 クリスはギリギリまで待った。

 剣が体に触れる瞬間まで・・・。

 そして・・・その瞬間。


「・・・!」


 ナニかは驚く。


 剣が触れるより、ほんの少し早くクリスは後ろに倒れ込む。

 ・・・と、同時に石をナニかの体目掛けて放った。


(・・・ぐうっ!)


 ナニかは必死に、飛んできた石がぶつかるその瞬間まで体を逸らし、何とか回避行動を取った。

 態勢が悪くても、無理やり回避を優先した。


 その結果・・・。


「ぐううっ!」


 ナニかの払った剣が地面に深々と地面を切り裂かれた痕を作っていく。

 ナニかは肩を少し抉り取られ、通過していく石を回避し地面に転がるように何とか着地した。


 しかし、咄嗟の判断とは言え何とか回避には成功したのである。


「フー・・・フー・・・」


 体には発汗作用など働いていないが・・・ナニかは見えない冷や汗を掻いていた。

 そして・・・ゆっくりと自分の肩の抉られた箇所を見た。


(・・・危険だ・・・。

 あと少し反応が遅れていたらもっと大きなダメージを受けていた・・・。

 が・・・だが、しかし・・・)


 そこでナニかは気付いた。


(ダメージを受けると言っても・・・見た目ほど大きな影響はないな。

 さっきの武器と違って、危険はかなり少なくなった・・・。

 これなら・・・)


 どんどんと口元が大きく裂けていき口角がつり上がっていく。


(奴を・・・殺せる!)


 歯を大きく見せるほどにニヤつき、目も笑っていた。


 先ほどまでの焦りが嘘のように・・・``勝てる``という自信がナニかに活力を与えていた。


 そんな気力が回復していくナニかと違ってクリスは・・・。


「(う~ん・・・どうも石にマナが十分に乗らない気がする・・・)」


 倒れた体を起こし立ち上がったが、首を傾げたい気持ちだった。


〔クリスの肉体的な問題。

 器によるマナの問題ではないと思われます〕

「(そうだよね~?

 成長したのに、逆にマナが乗らないなんてのはさっきまでなかったわけだし・・・)」

〔とすれば・・・考えられるのは・・・・・・石ですね〕


 クリスも同様の考えに辿り着き、地面に転がる石を1つ拾った。


「(ココの地形の問題なのかな?

 石自体が脆くなっているとか・・・)」

〔その可能性もありそうですが・・・。

 一番の原因は・・・やはり、あちらにあるでしょうね〕

「あちら?・・・っ!」


 クリスが目線を戻すとナニかが急接近して斬りかかる所だった。


「(あっぶな!)」

〔よそ見をし過ぎましたねー・・・。

 油断しすぎですよ、クリス?〕

「(それっ!俺っ、だけの・・・問、題、じゃっ・・・な、い、よね!)

(チッ・・・素早い!)

〔・・・その点は私も反省しておきましょう〕

「そういえばっ・・・。

 いい・・って、もんだ・・・いっ、じゃ・・ない!

 ・・・って、しつこい!」

「んがぼっ!」



 何度も何度も休まずに斬りかかるナニか。

 地面には、あちこちに伸びる何度も切り裂かれた痕が出来上がっていくが、クリスには一撃を与えられていなかった。


 しかし、話が出来ないクリスは苛立ち、避けた時に生まれた一瞬の隙を突いて、前のめりになったナニかの顔面を蹴り、遠くへと追いやった。


 吹き飛ばされ何十メートルもバウンドをして転がっていくナニか。


 クリスとの間には100メートル以上も距離が開いた。


「・・・う~ん・・・こっちの方が確実な気もしなくはないんだけど・・・」

〔それは難しいかもしれませんね〕

「え?どうして?」

〔そもそもクリスは相手を素手で殺すという事に抵抗がありますよね?

 まあ、相手によるのかもしれませんが・・・。

 イジメられていた時の影響か・・・それともクリス自身の性格の問題か・・・。

 一思いに一気に倒す傾向がありますね。

 いたぶってイジメることは私も好きではありませんし、その点は構いません。

 この世界に来た頃、2度目の進化の調整にレッサ―モンティを討伐した時は・・・彼らには申し訳ない事をしました・・・〕

「あっ・・・うん」


 どんどん死んでいく瞳。

 それでも逃げられない絶望。

 早く殺してくれた方が楽だと言わんばかりの自棄。


 その数々を思い出し。

 クリスはイジメっ子の様に楽しんで相手をいたぶった覚えはないが、心境的には似た様なものだったのだろうと改めて思う。


 その時を思い出し、再び反省を気持ちが出てくるクリス。


〔・・・まあ、そういった事もありましたが・・・。

 クリスも私も、相手をイジメる事に快楽を覚えているわけではありません。

 そんな中で殴り合いで相手を殺す、というのは剣で戦う以上に・・・地球育ちのクリスにとっては現実感がより近いモノになるかもしれませんね・・・〕

「(確かに・・・。

 今までなんだかんだで武器を使って倒すことがほとんどだったような気がする・・・)」

〔そういう意味では・・・私達はまだ、どこか他人事のような考え方が染みついていて、自分で起こした行動とは認知出来ていない部分があったのでしょうね〕


 サポートの言葉にクリスは腕を組んで、今までの事を思い出し納得した。


「・・・そうか・・・。

 俺はこの世界で生活するうちに、どこかでゲーム感覚が強くなっていたのかもしれない・・・」

〔いずれは素手での勝負による殺し合い、なんてことも起きそうですからね。

 映画のようなフィクションではない、本当の殴り合いが・・・。

 どうしますか?・・・今の内に、それも早めに経験しておくのも手ですが・・・?〕

「物騒な質問だが・・・考えておくよ」


 クリスは遠くで立ち上がったナニかを見る。


 遠くでよくは見えないがナニかの放つマナに微かに青い線のようなモノが時折見える。


「・・・宝石の影響かな・・・?」


 真剣な眼差しでナニかが放つマナを見て、クリスはサポートに問いかける。


〔おそらく。

 私達が持ってきたペンダントに入っている宝石と、盗まれた宝石の力を集めて生み出された存在なのでしょう。

 まだまだ使えていない力が眠っていると考える方が自然ですね。

 このままですと、徐々に進化を続けていき、止めるのが困難になって行きます〕

「でも・・・素手にしても・・・この石にしても・・・」


 拾った石を見て悩む。


〔その点ですが・・・奴のあの成長していく姿。

 それと同時に色んなマナが集まっていく所から考えると・・・。

 おそらく、この辺りのマナも吸収しているのだと考えられますね〕

「地面から吸い上げているのか?」

〔いえ、周囲全てでしょう。

 範囲は非常に狭いでしょうが、かなり吸収していますね。

 その補填で、この荒野の地面に残っているマナが全体を均一に保たせるべくマナを薄く拡げているのではないかと考えられます。

 この石が脆いのも、奴の吸収により極端に材質自体が弱くなってしまった結果かと・・・。

 いえ、もしかしたら・・・マナのない本来の石の硬さに戻っただけとも考えられますが〕

「こっちからしたら、いよいよ素手の勝負に挑まなければならない状況になったワケか・・・。

 剣も使えるが・・・」

〔あまり過信はしない方が・・・〕

「だよな~・・・」


「・・・ぐぅぅうううおおおおおおおおおおおおおっ!!」


 突然叫んだナニか。

 距離があるためにそれほどクリスの所には届いては来ない。


 しかし、巻き起こした竜巻のような砂塵の混ざった大きな風はクリスの所まで届いてきた。


〔クリス。

 素手にしてもスリングショットにしても時間があまり多くは残されていません〕

「分かってる・・・だから・・・」


 クリスは地球から持ってきたビー玉を1つ取り出した。


「これで・・・倒す」

〔・・・世界に渡った影響もあると期待しましょう。

 おそらく普通のビー玉よりはクリスのマナを乗せても多少は耐えてくれるはずです〕

「そんなにビー玉が残っているわけでも無いし・・・。

 どこまでやれるか・・・」


 ビー玉をスリングショットのゴムに宛がう。


「一か八かだ・・・!」


 クリスはゴムを引いた。



(あの生物のおかげか・・・。

 私の中の何かがどんどんと力を解放させようとあふれ出してくる。

 予想以上だ・・・。

 これほどの相手と早く出会ったのは幸運かもしれない・・・)


 そんな喜びを味わっていた時に、ふと疑問が浮かんだ。


(?・・・なぜ、私は幸運なのだ・・・?

 早く力を付けなければいけない理由でもあるのか・・・?)


 答えのない疑問。

 自分が何者であり、何故この場所に生まれたのか理解していないのだから・・・。

 その疑問に対する明確な答えなんてものを持ち合わせる者は居なかった。


 だからナニかは・・・。


(いや、違う・・・!

 奴に勝つためには・・・あの化け物を殺すためには必要な力なんだ!)


 首を振って前方にいるクリスに目的を絞った。

 今、その疑問に答えを見つけ出すなら、それ以外なかったからだった。


「・・・っ!」


 ナニかは一気に飛んでクリスに向かった。


 成長するにつれて格段に強くなっていくナニか。

 飛翔速度がどんどんと速くなっていく。

 ナニかは自分の成長した体に振り回されることも戸惑う事も無く、十分に力を使いこなしていた。


「っ・・・」


 ビュウン!!


 クリスが放ったビー玉。

 それをナニかはしっかりと見据えて避けた。


 予想以上に速く動いたナニかにクリスは少し驚き早めに撃ってしまったのだ。


「(はやっ!)」

「があっ!」


 高速で切り裂こうと振り抜いてきた剣を飛んで回避するクリス。


 避けられたナニかは、不自然な軌道修正で方向を転換。

 再びクリスへと襲い掛かる。


〔マナを使った飛行でしょう。

 慣性による自然の法則では起こりえない軌道です〕

「(まだだ!)」


 カクカクと動く変幻自在な飛び方に翻弄されるクリスだが、何とか照準を合わせ、両者の攻撃がぶつかる。


 斬り払いの剣が、飛んできたビー玉とぶつかり、激しい力場を作り出す。

 せめぎ合う両者の攻撃が均衡を保っていた。


 しかし両者の攻撃で地面は大きく抉られ地形がどんどん変わり果てていく。



 その余波は遠く離れた玉座の間まで風が届くほどだった。


「・・・何なんっすか、あれ!」

「これが・・・本当に人の戦いか・・・?!」


 イルミナとエレイズは今までで見た事も無かった現象を目の当たりにしていた。


「・・・特別な極大魔法なら・・・もっと凄いのがあるけど・・・」

「たった1人の人間がこれだけの事をしてのける例はほとんどないわ・・・!」


 プリムの言葉にケイトが突風に顔の前に手で壁を作りながら答える。


「あああああっ・・・あわわわわわ・・・。

 む・・・無茶苦茶です~・・・!」


 テトはがくがくと震えながら尻餅を付きそうにしながらその光景を見ていた。


「・・・(勝てよ、坊主?

 このまま終わらせちゃあ、お前さんの様に追いつけなくなっちまう)」


 口元をニヤつかせてその景色を黙って見るトウジロウ。


「クリス兄ちゃん・・・」

「大丈夫よキルシュ。

 クリスなら勝つわ・・・」


 不安そうな弟を元気づける姉、シェイミ―。


「うん・・・大丈夫・・・」

「あの子なら大丈夫です」


 イスカ、テスも同じ答えでキルシュを元気付ける。




 バギンッ!


「っ!」


 クリスは咄嗟に大きく飛んで回避行動に出た。

 拮抗していた攻防もビー玉が砕けてしまったからだ。


 そして、クリスが飛んだその下を、見えない大きな剣圧が飛んで行き。

 吹き荒れていた台風のような風を切り裂き遠くへと消えていった。


「があっ!」


 しかし、ナニかも無事では済まなかったのか大きく、砕けたビー玉の威力によって弾き飛ばされていた。


「(相打ち!)」

〔いえ・・・〕


 クリスが後方へと大きく飛んで着地したのと同時に・・・。


「・・・」


 弾かれて飛んでいたナニかも空中姿勢を立て直していた。


 そして・・・。


「ガアアアアアアッ!」


 叫ぶナニか。

 すると、体に覆っていたマナが消え、その全てが背中の翼へと集まっていく。

 そして、集まった羽には9つの宝石を入りどったカラフルな羽へと変わった。


 赤、青、黄、緑、橙、紫、灰、白、黒。


 それぞれの原色が翼に集まったような状態だった。


 更に。


 ・・・サアー・・・。


 ゆっくりと浮かび上がるように滅紫の額に黒と白のデザインが浮き出てきた。


「(何かの文字か?)」

〔分かりません・・・ですが・・・〕


 ナニかがゆっくりと下降してくる所をクリスとサポート見ていた。


(勝てる・・・!

 これこそが私の力!

 今のこの力なら・・・私は・・・奴を殺せる!!)


 クリスを見て絶対の自信に満ち溢れていき、勝ち誇るナニか。


(何故なら私は・・・世界に産声を上げる者。

 私の存在が・・・世界に変化を齎すモノだからだ!)


 思い出したのか、ナニかは先ほどのビー玉とのせめぎ合いで掛けた剣をマナへといったん戻し収納する。

 そして、再び出現させたときには・・・。


 その剣は微かに、七色に輝かせる色を纏う綺麗な長剣へと変化していた。


「がああっはっはっはっはっはっはっは・・・・・・」


 高らかに笑う、世界に変化を齎すモノ。


〔どうやら・・・最終進化を遂げさせてしまったようです〕

「その様だな・・・」


 サポートの言葉に、クリスも何となくだが理解できた。


「・・・それでも。

 やることは変わらない」

〔はい。

 あちらもこれ以上の変化はないでしょう。

 ここからは・・・〕

「〔どっちが勝つか!〕!」


 クリスとサポートの気持ちが重なった。







 【クリス】5才 人間(変化)

 レベル 273 

 HP 10254 MP 10689

 STR 3271

 VIT 3114

 INT 3037

 RES 3122

 DEX 3205

 AGI 3479

 LUK 1062

『マナ性質:レベル 8 』『強靭:レベル 7 』『総量拡大:レベル 3 』

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