132 奔走する者と、成長する者
メイドは倒した存在などすぐに忘れて使命の為に動いていた。
「あなた方は・・・」
「グルルル・・・ァァアアア・・・」
それは、身体か赤と白に染まった変な巨人。
仮面は縦長で口部分で割れ、口から湯気を出している。
メイドを仮面から見る目は血走っていた。
「(この召喚は・・・流れ、性質、特徴・・・あの方の系譜の者でしょうか?
・・・しかし、今はそこまで関係は・・・・・・ありますね・・・)
念のために言いましょう。
どきなさい。あなた方と戦う事は出来れば避けたい」
しかし、巨人達は理解できていないのかゆっくりとメイドの方へと振り向く。
「はぁ・・・。
やれやれですね・・・」
首を振り分かり易いリアクションを取るメイド。
しかし、巨人達には分からない。
「グルルルル・・・ブアアア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ!」
1体が動くと、それに続けとばかりに動きメイドに襲い掛かった。
「失礼しました」
メイドは巨人達を舞うようにすり抜け、去り際にそう言い残した。
そして振り返ることなく、そのまま町へと走り去って行った。
「ア゛ア゛ア゛・・・・・・」
止まった瞬間、巨人達の体がバラバラになって寸断されていた。
町へと走りテス、イスカ、トウジロウ達の町のモンスター討伐メンバーが残した生き残りを処理する。
もちろん、小太り老人が作り出した人形も町に残っていた物はすべて処分した。
ポタ・・・ポタ・・・ポタ・・・・・・。
メイドの周りには特に人の死体の山が気付かれていた。
生き残ったエレイズ、イルミナのボスの太った男の配下が1人だけ町にいたメイドを狙って襲い掛かり、これも処断。
「さて・・・面倒な手順ではありますが・・・あの方の希望・・・。
もう一度戻ると・・・っ!
これは・・・どうなさいましたか?」
突然、何かに反応しメイドは耳に手を当てる。
そして、持っていた剣をしまい、居住まいを正した。
両手を前で組み、城をスッと見ながら、口を動かした。
「はい・・・・・・ええ。
今、指示された者の1人とその配下、並びに邪魔なモノを排除している所です。
現在再び城に戻る・・・え?
・・・宜しいのでございますか?
はい・・・。
はい、分かりました。
あなた様の望みならば・・・。
はい。このまますぐに帰還いたします」
メイドはどこかへと歩き始める。
そして風に流され消えていくように突然消え去った・・・。
〔・・・てください・・・〕
「・・・」
〔・・・起きてください〕
「・・・」
〔・・・クリス、起きてください!〕
「んが・・・へ?・・・あれ?」
ガタタッと上に被さっている木材などを揺らし、サポートの声に驚いて起きるクリス。
「・・・あれ?今って・・・う・・・」
急に動き出そうとして、少し気分が悪くなる。
〔まだ、レベルアップの反動が残っているようですね。
無理もありません〕
「・・・どういう事?」
〔肉体と・・・それ以上に精神的に色々とダメージと疲労がピークに達していたのでしょう。
隠れていた状態でクリスはそのまま気絶する様に眠ってしまったのです」
「・・・あのメイドは?」
〔分かりません。
ここを去った後、誰かと戦闘したようですが・・・。
その戦闘が終わると続けて町へと向かいモンスター達と私達を襲って来た襲撃者と争ったのだと思われます。
・・・その後、どこかへと消え去り、消息を絶たれました〕
「・・・随分、ここから分かるようになったんだね?」
〔ええ。といってもあのメイドが特徴的なマナを有していたから目立った、というのが本音です。
あれほどの存在に出会ったのは初めてです〕
クリスは木材をどかし、下敷きになった所から這い出してきた。
「すう・・・・・・ふ~~~う・・・・・・。
うん、なんかさっきよりは気分も落ち着いてきた」
〔まだ完全に体が回復しきったわけではないので注意してください?〕
「分かった。
・・・しかし・・・さっきの話だけど。
よくここから離れていても何があったのか分かるな・・・?」
素直に感心するクリスがサポートに聞いた。
〔あの者との戦闘のおかげというべきなのか・・・以前よりもある程度は見える様になりましたよ?
・・・しかし、人の細かな識別までは難しいですが・・・〕
「それでも十分凄いんじゃないか?
確か二度目に来た時はもっと範囲は狭く、マナだけでは識別は出来なかったよね?」
〔ええ、音なども含めた空間把握を使っていましたから。
しかし、今回はメイド自体がある種、台風の目のような存在でした。
他とは違う・・・どこか、我々に近い性質を持った者でしたから・・・〕
その言葉を受けてクリスは腕を組んで考える。
「それって・・・転生者とか・・・?」
〔そこまでは。
ただ・・・この世界に生きる者達とは明らかに纏う性質が違っていました。
これはクリスがあのメイドと戦い、急激に能力をアップさせてくれたおかげでしょう。
この場を去った後の出来事を僅かばかりでも探ることが出来ました〕
その言葉を聞いてクリスは真剣な顔になった。
「何が分かった?」
〔はい。・・・まずは先ほどのメイドですが、町へ向かいモンスターを殲滅させた後にこちらに向かう素振りの気配を感知しましたが、何らかの理由で断念。
どこかへと消え去り、今はメイドの気配を探れません。
隠れて動いてる素振りを見せていなかったことを推察し、戦線を離脱したと思われます。
続いて、我々の現在の状況ですが・・・かなりの数がこの城の遥か下にいると思われます〕
「地下?」
クリスは足元を見る。
〔はい。
おそらくシェイミ―とキルシュが地下にいると踏んだのでしょう。
そして現在、何者かの、複数の気配が地下から地上へ・・・そして玉座へと向かわれました〕
「まさか・・・」
〔はい・・・どちらかが連れ去られたのだと予想されます。
欲していた存在から考えて・・・・・・キルシュ〕
「まずいっ、助けに行かないと!」
クリスが急いで動こうとした時。
「あれ・・・?」
ドテ・・・。
上手く足に力が入らず四つん這いになった。
〔現在もクリスは緊急回復中の様なものです。
それに体がレベルアップに合わせて、調整中なのも含まれていると考えられます〕
「そ・・・そんな・・・。
今は早く助けに行きたいのに・・・」
クリスは先ほどの立っていた時とは思えないほどノロノロした動きで倉庫の部屋を出ようとしている。
〔もう少し、待ってください。
現在も私の方で早くクリスの体になじむように調整している所なのです。
こんなに急速に成長すること自体が本来なら起こりえない状況。
身代わりの指輪のおかげで生き延び、その都度、何度か死んだために・・・死んだ経験も、成長のための経験値として換算されたんだと思われます〕
「・・・」
〔逸る気持ちはわかりますが、ここは抑えて。
クリスを起こしたのは現状を早く知ってもらう為。
そして・・・すぐに戦闘に復帰してもらう為です〕
サポートに、そう説明された時クリスは、ゆっくりと呼吸をした。
「分かった・・・もうすぐなんだな?」
〔はい・・・あと少しお待ちください〕
今までお世話になった相棒の言葉を信じているクリスにとっては疑う方がおかしいと判断したからだ。
「俺の方はどうしたらいい?」
〔体のチェックを未だ成長中の為。
どの程度違和感があるのかを教えていただければ、後でそこを重点に調整します。
それまではもう少しお休みください〕
どうやるのかは分からないが情報の一種の集合体であるサポートなら可能なのかとクリスは勝手に考え、それ以上は聞かなかった。
「分かった」
〔安心して下さい。
現在、攫われた・・・おそらくキルシュを追って皆が玉座に向かっております。
仲間を信じましょう〕
元気づけるサポート。
「・・・ありがとう」
クリスはその後、傍の壁に体を預け、もう一度だけ仮眠を取った。
〔調整が完了次第、起こします。
それまではゆっくりと休んでください〕
「・・・う・・・ん・・・」
思っていた以上に疲労が残っているクリスは、すぐに夢の世界へと旅立った。
「・・・ちょっと・・・あのおじいちゃん、どこに行ったのよ?」
「おそらく玉座でしょう。
この城の最上階付近。
そこに向かったんじゃないかな?」
「クレフーテの時といい・・・どうしてキルシュを・・・」
「・・・何か企んでる」
プリムと一緒に呼び出した召喚獣の背に乗りながら、シェイミ―が見えなくなったキルシュと小太り老人を探して走り回る。
そして現在、シェイミ―、テス、プリムとヘレンの4人が組み。
他のメンバーも小太り老人と謎の巨人がどこか別の場所に移動した可能性を考慮し、それぞれ手分けして探しながら玉座へと向かっていた。
途中で再会したイスカとトウジロウ達にはゾッドに説明をお願いし、テス達は4人で行動を取っていた。
そんな中、プリムから出た言葉に皆が反応する。
「よくない事は確かとして・・・宝石も関係がありそうね」
「わざわざシェイミーちゃんが渡したって言う宝石の事で、クリス君を目の敵の様にして奪い取らせようとするくらいだしね」
「あれはウチの家の家宝・・・何だけど・・・」
「ただの家宝以上の意味がある・・・だから、ツェーゲン達も宝石を欲しがった。
・・・あの吸血鬼は自分が滅びる寸前でも・・・宝石を狙った・・・」
「・・・シェイミーちゃん。
何か知らない?」
振られたシェイミ―だが・・・。
「・・・ううん、何も。・・・ただ・・・大事な物だって・・・。
家を継ぐものか長男長女に渡される物だって・・・お父様とお母様が・・・」
宝石を渡された時を思い出し、当時を振り返るがそれ以上何かを言われた記憶が無かったシェイミ―は暗い顔をする。
「・・・大丈夫。
キルシュ君はきっと無事よ。
わざわざ攫うって事は必要だから生かしておいたの。
そうでなければ、あの場で攫うなんて手間を取る必要はないから」
「うん。・・・今ならすぐに追いつく」
「焦ってはダメだ。
お姉ちゃんなら、弟の無事を信じ、会った時彼を安心させてあげるんだ」
3人に励まされたシェイミ―。
それぞれの顔に不安はない。
今は一刻も早く追いつき助ける。
ただ、それだけを考え動く、その者達の表情を見たシェイミ―は自分自身も強い意志を持とうと改めて思い、前を向いた。
そして・・・。
「うん!絶対に弟を助ける!」
強く誓った。
「はひ~~~ぃ・・・助かりましたぞ。
まさか、あそこまで食い下がって来るとは予想外でしたぞ・・・」
「なかなか苦戦されているようですな」
「笑い事ではありませんぞ。
危うく、私が主に強くお叱りを受ける所でしたぞ・・・」
小太り老人は玉座の前で何やらマナを溜めこんでジッとしていた元帝国の国王。
ゲネイスト・メル・バルに逃げ帰ってすぐに話しかけた。
巨人に捕まり、すすり泣くキルシュ。
「うう・・・おねえちゃ~ん・・・っく」
「・・・本当にあのような子供が必要なのでしょうか?」
「ああ!それはこちらの問題ですのでお気になさらず。
あなたの目的の更なる強制進化については・・・マナの質と量を見る感じ・・・順調そうですな~?」
「ええ。
宝石の力がここまで凄いとは予想外です」
「ふむ・・・流石は突破者、という事でしょうか?
あの劣等吸血鬼は、たった1つの宝石も満足に吸収できずに他の宝石を求めてしまっていましたからね~」
「宝石の中には色々な思念が混ざっております。
その中から自分にとって相性が良さそうなモノばかりを抽出し吸収したのでしょうな。
だから後半になるにつれ、手に入る量が減って、他の物に目移りしてしまったのでしょう」
「にゅっほほほほほほ・・・よくわかりましたな~?
その通りですぞ。
流石は元国王」
「ありがとうございます。
他にも・・・この宝石・・・面白いですね。
それぞれの宝石にも入っている思念は似た様なものですが、少しずつ特色といえばよいのか・・・好みの様なモノがございますな」
それを聞いた老人がますます楽しそうにする。
「にゅぷぷぷぷぷ・・・。
あなたは本当に優秀ですね。
それは長い年月の間にため込んだ性質が、その宝石に特色を与えたモノでしょうな。
例えば赤い宝石などは恐怖の中に怒りと血の色や匂いを強く残し馴染んでしまった結果でしょうな。
・・・まあ、持ち手がどのような方かによっては全く違う性質に変わってしまわれるでしょう。
おそらく・・・緑の宝石はそうでしょう。
代々家宝として引き継ぎ、伝統と誠実さを重んじた家柄が持ってしまい、長く・・・その空気に溶け込んでしまった。
おそらく、あなたとは相性が悪いでしょうな」
「・・・私は宝石の中の特色まであれこれ選り好みはいたしませんよ。
・・・全てを吸収し我が力に変えるのみです・・・」
「・・・・・・にゅぷぷ・・・良い表情です」
迷いの無い黒く濁った瞳。
そこにはどこまでも突き進むと決めた者の果てしなく深く暗い意志が宿っていた。
「・・・あのガキは近くに来ているはずです。
この城、もしくは町にいれば・・・儀式は始められる・・・。
覚悟はよろしいですか?」
「ええ・・・始めてください」
「(ニィ)・・・良い返事です・・・」
とても嬉しそうに喜ぶ老人だった。
【クリス】5才 人間(変化) 成長中 途中経過
レベル 148 → ?
HP 5467 → ? MP 6729 → ?
STR 1082 → ?
VIT 1013 → ?
INT 1000 → ?
RES 1243 → ?
DEX 1033 → ?
AGI 1355 → ?
LUK 397 → ?
『マナ性質:レベル 5 → ? 』『強靭:レベル 5 → ? 』『総量増加:レベルMAX 10 → ? 』変化中?




