131 1つの可能性
テス達がシェイミ―達と会う少し前・・・。
まだ町から城へと向かっている最中。
「・・・ほお?
こんな所に、どこのメイドだ?」
「・・・」
太った男は大広間で3階の奥でクリスを待っていた。
そこへ、正面の扉から入ってきた人物に疑問を持ち声を掛けた。
「・・・ここは戦時中だ。
メイドがいつまでもいる所ではないぞ・・・」
「申し訳ありません。
少々、用事がございまして・・・」
「(佇まいは本当にどこかのメイドだな・・・。
しかし、入ってくるまで気付かんかったぞ・・・。
先ほど遠くで感じた振動は・・・もしやこやつの仕業なのか?)」
男はメイドを凝視するが、とても美人なメイドであることくらい。
それだけでも好事家なら何としてでも欲しがる見た目をしているが・・・。
それ以外は何処にでもいる平凡なメイドに見えた。
「・・・まあ、よいか」
男はメイドを観察していたが、途中で切り上げた。
「ここに何の用で来たのか知らんが・・・今はお前の相手をする気はないのでな。
すまんがここを出で行くか、余所をあたってくれ」
「・・・つかぬ事をお尋ねします」
「ん?なんだ?」
「誰かをお待ちなので・・・?」
「ああ、ガキだ。
ちいせえガキだが・・・これが強くてな・・・。
そいつなら必ずここへやって来る。
そいつを待ってるのよ・・・」
男の言葉を聞いたメイドが、はて?っと綺麗な顎に指を当て考える。
そして・・・。
「それはこのぐらいの小さな子供でしょうか?」
メイドは腰辺りを手で往復させ、身長を聞いた。
「ん?・・・まあ、そんくらいだろうぜ。
何せあんときは戦闘中だったからな・・・。
そこまで気が回ってなかったから、おそらくとしか言えねえが」
「ふむ・・・それでしたら私の方で排除しましたよ?」
「・・・なに?」
「あなたが探していた子供かは分かりませんが、この城に侵入し、何か金目の物でも探していたのでしょうね。
空き巣かもしれませんが・・・このような状況でも生きていくために侵入して大胆にも城へ潜り込んだのでしょう・・・」
「空き巣?」
一瞬、クリスの事が脳裏を過った男だったが、男の中のクリスのイメージとは印象が違う事によってその考えはすぐに切り捨てられた。
「俺の求めているガキとはどうやら違うようだが・・・このご時世にだが、大胆なガキもいたもんだ。
・・・それにしても物騒なメイドだな。
その空き巣のガキを排除とは・・・」
「仕方がありません。
たまたまそこに居合わせた不運を呪ってください」
「何とも冷てえ話だ。
・・・とにかく、俺が再戦したいガキはその空き巣じゃねえ」
「そうですか」
話がそこで終了し、一瞬の間が空く。
「・・・あ~・・・スマンがこの場所に用がねえなら、出て行ってくれると助かるんだが・・・」
「いえ、用ならありますよ?」
男が困った顔で手を振り横を向いた時、メイドからそんな言葉が返ってきた。
「あん・・・どういうことだ?」
「あなたを排除するのも仕事の中に入っているのです」
「・・・はっ、これを殺したいのか?」
「はい・・・」
メイドは手を前で組んで、至極真面目に答える。
男は黙って、メイドの顔を見たが・・・やはり、途中で視線を外し手を振った。
「・・・はっ、止めだ止めだ。
どっか行け。
今の俺はお前と戦う気はねえ」
「・・・そういうワケには参りません」
「あん?」
男がメイドの方へ顔を振り向こうとした瞬間。
「ぐうっ!」
・・・ドガアアアアアアアンンン・・・・・・・・・!
男は壁に叩きこまれ、突き刺さるように止まっていた。
「あなたにその気が無くても。
私にはその使命があります」
吹き飛び、尻餅を付いている男に告げるメイド。
「・・・ぬう゛んっ!!」
ボガアアン・・・。
「ふう・・・とんでもねえな。
危うく今の一撃だけで死にかけた・・・」
嵌った個所を力づくで砕き、出てきた男。
ボタタ・・・ボタ・・・。
口と鼻から血を流しながら、落ちた斧を拾って担ぐ。
「・・・先ほどの子供よりも反応が良さそうですね。
今の一撃で完全に始末で来たと思ったのですが・・・」
メイドは特に騎士した様子も無く、剣を1本、どこからか取り出し構える。
「(・・・うああ・・・。
今の一撃はヤバかったな・・・。
正直、鍛え直してなきゃ死んでいた所だぞ)」
何が起きたのか男自身も気付いてはいなかった。
ただ、長年の経験から体が勝手に反応し、ダメージを無意識に和らげる動作を取ったに過ぎなかった。
「やはり、経験の差というのでしょうか。
あなたは長く生きていらっしゃるようですね。
体が勝手に反応した・・・そんな印象を受けました」
「(チッ・・・分かってやがる)」
男の先ほどの反応からメイドは推測を立てた。
その読みは当たり、男は口元は笑っているが、内心は冷や汗を掻いていた。
「しかし・・・今の瞬間の反応だけを見たら・・・ですが。
・・・もし、それが最高速度だとおっしゃるのなら、早々に諦めることをお勧めします。
無意味に足搔くと却って苦しくなりますから」
「はんっ、言ってくれる・・・」
男は腰を落とし構える。
「・・・少々訂正がございました」
「何だ?」
「先ほど出会った空き巣の子供は後半になるにつれ成長してきた印象を受けました。
まあ・・・多少はマシな動きをしていましたね」
「マジかよ。
そんなガキが奴以外にもいるのか。
はぁ・・・世界を周ってきたつもりだったが見落としてばっかだ・・・」
男は自分の不甲斐なさを正直に吐露した。
男にとっては限界突破が知らず知らずのうちに、自惚れを作り固めてしまっていたと、今更ながらに気付かされていた。
「さあて、どうしたもんか・・・」
忘れていた、元英雄である前に冒険者だった気持ちが湧き上がって来ていた。
``もう一度、世界を見て周りてえ``。
心からその気持ちが湧き上がるくらいに・・・。
「・・・どうも、やる気を与えてしまったようですね」
メイドは自分の言葉に男の心に火を点けてしまった事を感じとった。
しかし、すぐにどうでもいいと捨て去った。
「では・・・始めますよ?」
「・・・おうさ」
男が間合いを詰める様にジリジリと前へ。
「・・・」
メイドはそんな事はお構いなしと普段通りに歩く。
「・・・ふん!」
ガキンッ!
振るった斧が腕ごと反対方向、後ろへと弾かれる。
「ぬうん!」
ガキン、ガイン、ガキーキキキ・・・ゴカン。
弾かれた勢いに乗せて回転斬り。
それを弾かれては斜め上からの振り下ろし。
逸らされては更に回転へと、弾かれる度にその力の流れに出来るだけ逆らわず回転して速度を上げていく。
「ぬううううん!」
「・・・」
ガインガキンゴガンガキンゴキン・・・・・・・・・・・・・・。
音がどんどんと次の音に被さるように聞こえてくるほどの速度で次々に攻撃を加えていく男。
しかし、メイドは平然とした態度で来る攻撃を逸らしながら前へと進む。
結果、姿は男の方がハッキリと見えなくなるほど加速し、メイドは腕だけがその速度に合わせブレていた。
メイドがどんどんと前へ進む。
男は少しずつ後ろへと追いやられていく。
コマのように回転速度を上げて攻撃する速度にメイドがただ逸らし自ら回転速度を速めていく。
その展開もすぐに終わった。
「・・・ぬううあああああああっ!」
マナを乗せた振り下ろしをメイドがわざと受け止めた。
ズウウウウガアアアアアアアーーーーーーーーーー・・・・・・・・・・・・・・!
性質、密度の濃いマナで高めた斧の振り下ろしにより大広間を揺るがし大穴を開けた。
流石の威力に、特殊障壁の防御が耐えられず、1階まで男はメイドと共に落ちてしまう。
「・・・ふ」
「ぬがっ!!」
空中で力が削がれた瞬間、メイドが剣を振り払う。
その力だけで男は吹き飛ばされ1階と2階の間の床の瓦礫に叩きこまれ・・・そして頭から砕けバラバラになった地面に落ちた。
「・・・力任せに見えて、ちゃんと私との力量からタイミングを図っていましたね。
流石です」
「・・・うう・・・・・・うぐううう~・・・はあ・・・はあ・・・よく、言う・・・」
「いえ、ちゃんと褒めているつもりですよ?
おそらく2回以上は自分の限界を突破なされて器を強く、より大きく成長なさっているのでしょう。
そこまで出来た者は世界で見れば案外ざらにいらっしゃいますが・・・それでも、ここまで実力を伸ばせるものは意外と少ないものなのですよ」
「はあ・・・ざら何だったら・・・あぁ・・・少なくねえだろ」
「そうでもありません。
自らの限界を超えて力を付けてしまうと・・・今度は、退屈だなんだと、サボってしまわれる方が多くて・・・結果、力を上手くコントロールできないまま死んでいく者なので・・・」
「・・・」
男は今、メイドが言ったことがそのまま自分のことを指しているのでは、と思うくらい内心ではその言葉に驚いていた。
「どうやら、あなたは違うようですね。
自らの力に溺れず切磋琢磨なされている。
使命でなければ是非、スカウトを掛けたかったのですから・・・勿体ないと言わざるを得ません」
メイドは首を振り嘆いた。
「はは・・・そいつぁ、お門違いだな~?」
「?」
「俺も・・・あんたがさっき言った、サボるといった例に漏れなかった1人なんだよ」
「・・・・・・意外ですね」
メイドは初めて目が僅かに開き、男と対面して以来、初めて見せる表情をする。
「・・・強さを求めても、上には上がいちまう。
だがそうだと言っても、更に強くなれるほどの相手もそうそう会わねえ・・・その結果、どうなるか・・・。
あんたに分かるか・・・?」
メイドに向ける顔は何とも言えない複雑な顔をしていた。
「腐っちまうんだよ。
それぞれの国のお抱えや代表が相手してくれるんなら面白えが・・・そう都合よく出会えるわけじゃねえんだよ。
だからちょいとだます形で待ち受けて・・・仕掛けて見たが・・・・・・はあ・・・とんだ大外れだった」
「・・・」
「今はどうか知らねえが、昔はもっと馬鹿みたいに勇者や英雄と囃し立てられる奴らばかりが腐るほどいた。
本当に・・・耳にしねえくらいに腐るほど・・・。
だが・・・国は分かっちゃいなかった。
本当の強者というものの存在を・・・本当の、人というものの可能性を・・・」
「だけどあなたは英雄でいらした」
「元だ・・・。
その事を忘れるな」
指を指して指摘する男。
「申し訳ございません」
メイドは両手を前に頭を下げた。
「・・・調子が狂うな。
英雄なんつうのは誰かが、その功績を讃えて付けたものだ。
そこに価値なんてものは無い。
・・・これぽっちもな」
「何が言いたいのでしょうか?」
とうとうメイドが男の言いたいことに焦れったいと痺れを切らし、質問した。
「つまり俺は・・・どっかのお抱えの絶賛売り出し中の将来、国中で注目を集める有望株を己の欲望で戦い、再起不能にして、腐っちまったくだらねえ野郎だという事だ」
「・・・では指名手配されていたと・・・」
「お抱えの国ではな・・・だが他の所、当時のギルドは穏便に済ませるために俺をその国から国外追放という事で丸く収めやがった。
もちろんライセンスは剥奪だがな」
「・・・手にあまり放置したと・・・」
「まあ・・・そんな所だ。
そして・・・気付けば戦う事がどうでもよくなって、酒を飲んでダラッとすれば・・・。
何と不思議なこんな下らねえ男の出来上がりってワケよ」
皮肉を込めて笑い話す男。
その姿は何とも哀愁を漂わせる。
「・・・世界に飽きましたか?
嫌気がさしましたか?」
しかし、そんな事などお構いなしのメイドが男に問いかける。
男は腕を組んで破壊した天井を見て考える。
「うーん・・・さあーてな。
今は少しわからん。
今更だが、あの部下達との生活も何だかんだと楽しかったのかもしれん。
それに・・・」
自分の常識を打ち破り、挑んできた子供を思う。
「今が案外楽しくなってきた所でな・・・」
「(ああ・・・またですか・・・)」
メイドは首を振る。
「また、私は余計な事を聞いてしまいました」
「・・・ふふふふふうあっはっはっはっはっ・・・。
ああ感謝するぞ?
こんなに楽しい戦いは久しぶりだ・・・」
男は斧を構え、第2ラウンドを開始しようとしていた。
「はあ・・・・・・今回の使命。
ここに来てからというもの、調子がおかしいです。
思うように進みません」
「はは・・・それが、人生っつうもんだろ・・・!」
メイドは剣をゆっくりと構える。
「これも仕事ですので・・・死んでください」
「無茶な注文だ!」
男からメイドに果敢に攻める。
先ほどの逸らし方からメイドの癖を呼んだ男は敢えて、その勢いに乗るのではなく、今度は自分から剣がぶつかる瞬間に軌道をずらし、攻撃を入れようと試みる。
「?」
ガキン・・・。
弾き返すがメイドは男の行動に違和感を覚えた。
しかし、それもすぐにそんな意識も片隅に追いやり放置する。
「(もう少しか・・・あの小僧は、ド素人だった。
そのため戦い方が素直で読みやすい為に俺も簡単に対応できたがこの女には通用しない。
だが・・・素直だった分、読みやすかった分・・・途中で予測を越えた動きをするととんでもなかった。
無意識に刻まれた、戦い方の癖や読み方はそうそうすぐには変えられんぞ?)・・・おらよっ!」
「っ」
ガン、キン・・・ガンガン、キン・・・ギイン・・・・・・。
先ほどまでと違いメイドの方が徐々に後ろへと引かせられる。
時折、避けないと受けてしまう攻撃が飛んでくると、メイドは分かり易く男から距離を離す。
男は即興で使う戦い方で上手く操れずにメイドの攻撃をかわし切れず、切り傷を増やしていく。
しかし、それでも戦法を変えなかった。
「・・・っ!」
「んぐっ」
ガアギィ~~ン・・・・・・。
一際大きな音がした後、男の斧の上部分が切断された。
咄嗟にガードした男の腕と胸に横一文字に切り傷が出来上がり僅かに出血する。
ズザーーーー―――――ッ・・・・・・。
メイドの振り抜いたもう1本の剣で男は弾き飛ばされていた。
「ぐう・・・二刀流だったのか・・・」
「・・・」
メイドは振り抜いた姿勢。
残心からゆっくりと元の立ち姿へと戻る。
「あなたがここまで出来るとは思いませんでした。
私こそ、あなたを過小評価していたことをお詫び申し上げます」
「・・・(さて・・・そろそろやべぇな)」
男は肩で息をしている。
出血も止まることなくどんどん出続けていた。
念のために持っておいた回復アイテムを使っているが傷が満足に塞がらない。
閉じきらない傷口から出血する。
「・・・その武器・・・何か、特殊な効果でもあるのか・・・?」
試しに聞いてみた男。
「・・・さあ?
そんなものは無いはずです。
ただ、少し硬めに作ったただの剣のはずです・・・」
まさか、すんなりと帰って来るとは思わなかった男はそのまま続けて言った。
「ただの剣がどうして回復アイテムを使ったのに傷を完全に塞けずに出来るんだ?」
「・・・ああ、それは情報量の問題ですね」
「情報量?」
「あなた方で言う所の・・・・・・まあ、マナの質の問題です」
よくわからない答えに困った男に親切に教えるメイド。
「マナの性質、密度、濃度。
言い方は色々あるでしょうが、そういった情報量があなたの持つ斧と私が持つ剣では全く違うのですよ」
「・・・ゴールドやミスリル、クリスタルの様なモノか・・・」
「ええ。
そう捉えて下さって結構です。
つまり・・・その質の高い物で攻撃されれば・・・」
「同等・・・あるいはそれ以上の物でないとあまり効果は期待できない・・・か」
「その通りです」
その時、ふとメイドは思い出す。
「・・・あの子供が持っていたショートソードはかなり情報量が多く、密度がありましたね・・・。
いったい、どこで手に入れたのでしょうか?」
「あ?」
「いえ、こちらの話です」
メイドは気にしないでと首を振ってから男を見た。
「もうそろそろ終わりにしたいのですが・・・質問はあおりでしょうか?」
「・・・まあ、色々とあんたから聞きてぇ情報は山ほどありそうだが・・・」
「あまり多くても困ります。
それに・・・この話し合いで、少しは休憩が取れたのではありませんか?」
「はっ・・・バレてたか・・・」
メイドはスッと半身で立って片方の剣を前に、もう片方を後ろで同じく剣を縦に構えて止まった。
「・・・いよいよ決着ってわけか・・・」
「あなた以外にも向かわなくてはならない所がありますので・・・」
太った男とメイドが止まる。
両者、動かないまま数秒・・・。
カタン・・・。
どこかの破片が落ちた音が聞こえた瞬間、男は最大限のマナで折れ斧に注ぎ込み攻撃を仕掛ける。
「・・・」
メイドは男の斧が自分に接触する手前でやっと動いた。
キイン・・・・・・。
先ほどまでとは違いとても綺麗な音が響く。
メイドは遥か男の奥で振り抜いた姿勢からゆっくりと戻る所だった。
「・・・これで、まずは1つ・・・」
男が崩れ落ちる。
崩れ落ちた男の体は持っていた斧ごと真っ二つにされていた。
男は何も理解できなかった。
ただ、自分が敗北し、今死ぬんだという瞬間を、スローモーションで周りのと共に景色を眺めていた。
何故なら、男にはメイドが動いた瞬間が全く見えていなかった。
いや、もっと正確に言えば、動いた瞬間を認識できなかった。
消えたと理解する事も無く決着がついてしまっていた。
男の瞳からどんどん光りが消えていく。
「・・・少しだけ力を出しました。
最期の瞬間はどうだったでしょうか?」
「・・・」
男は目を一点。
何かを言った後、更にこちらを向いて何かを言うメイド。
振り返り、ロングスカートを翻したメイドがゆっくりと男に向かって姿勢を正し礼をする姿だった。
【クリス】5才 人間(変化)
レベル ?
HP ? MP ?
STR ?
VIT ?
INT ?
RES ?
DEX ?
AGI ?
LUK ?
『マナ性質:レベル ? 』『強靭:レベル ? 』『総量増加:レベル ? 』




