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転と閃のアイデンティティー  作者: あさくら 正篤
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130 最終局面への一歩

「にょほほほほほ・・・なかなかやりますね~」

「・・・」


 ボールドは出来るだけ表情で相手に悟らせない様に努めるが、これと言ってダメージを与えられず、かといって向こうから攻撃をほとんどしてこない小太り老人にどうしたらよいか悩んでしまう。


 そして、その老人の余裕な態度で帰って来る言葉に精神的にもすり減らし、眉間に深いしわが刻まれていた。


「はああああっ!」

「・・・シッ!」


 ドガンッ、ザンッ!!

 ボアアアアアアアアアアッ・・・・・・!


 クラル、ヤハトが攻撃を仕掛け、骸骨と赤ん坊の片腕を切り落とす。

 更にシャーリィが魔法で追い打ちを掛ける・・・が。


「ィィィィイイイイギャアアアアアアアアアアアッ・・・・・・!」

「伏せろ!」


 骸骨と赤ん坊が繋がった異形の存在は鳴き叫ぶと、もう片方の腕で振り払う。

 ツェーゲンが咄嗟に指示を出し、上手く躱せたが・・・その時には、切断した腕、焼かれ、爆発で壊された箇所がみるみると回復していく。


「っ~~~、さっきからしつこいわ~・・・!」

「焦るなよクラル。

 よく見ろ、回復自体は徐々に遅くなっている」

「ああ、もう少しだ。

 そうすれば回復が出来なくなる」

「つまり・・・それまで魔法を叩きこめば・・・いいんでしょ!」


 シャーリィが追撃とばかりに何度も魔法を巨大な異形種に放つ。


「にょほほほほほ・・・頑張りますね~」

「・・・ふん!」

「にゅわっ・・・いたっ!

 へ?・・・ああっ!・・・血・・・血が出ましたよ~~!!」


 よそ見をした隙にボールドの大剣が迫り、上手く躱したつもりがどうやら避け切れなかったようだった。


「ぬぐぐぐぐ・・・よくも・・・この私に・・・」

「ふん。

 油断する貴様の問題だろう・・・」

「ぬぐっ!・・・・・・んぬぬぬぬ・・・・・・」


 図星を突かれ、悔しがる小太り老人。

 しかし、ボールドは油断をしない。


 こんなふざけた雰囲気の老人だが、感情のままに動かずどこかボールドの話を聞けるくらいの余裕があったからだ。

 つまり、それは未だ相手に対して甘く見るだけの実力と余裕があると、ボールドは思っていた。

 だから果敢に攻めてはいるが決して、踏み込み過ぎない様にして時間を稼いでいた。


「(自身の限界を突破すると世界が変わるというが・・・確かにな・・・。

 以前なら、この辺りで既に負けて、殺されていただろう。

 あの吸血鬼ならそうしていたはずだ・・・)」


 ボールドは古城で戦ったデルトを元に、今、目の前にいる老人を比べて見る。


「(実力なら・・・こいつの方が格上・・・今の俺でもまず勝てん・・・。

 だが・・・向こうから攻めてくる素振りが全くない・・・。

 何かを待っているのか?)」


 老人の不審な行動に、そんな考えがよぎる。


「(ん~~~、にゅぐぐぐぐ~・・・。

 これは予想外です。

 私の作った人形の相手をしている者共は、想定内・・・だが。

 まさか・・・この男も、突破者とは・・・)」


 小太り老人は確かにまともに戦えばボールドに勝つであろう。

 しかし、ボールドが突破者だったのが問題だった。


 勝てるが、万が一こちらが不覚を取れば計画は中断する事になりかねない。


 突破者の実力には落差がある。

 特に、もともと優れている者、素質があった者が急激に突破する事でたった1回で、相手よりも格ではなく・・・次元の違いを見せつける事もある。


 逆にそれまで何も素質が芽生えていなかった者もそれに該当する。

 何らかの理由で発現しなかった者、制限が掛けられた者などだ。


 稀にいるこの手の発現が上手くいかない、なかなか伸びない者ほど爆発した瞬間の勢いは果てしなく、小太り老人の予想を軽々超える可能性を秘めていた。



 トウジロウ、イスカ、テスやボールド等が才能に恵まれた秀才の部類。

 フェリル、プリム、シャーリィの様に幼いころからその才覚がすぐに顕れる天才タイプ。

 他にも非凡な才能を持っている者などがいたりする。


 逆に全く才能が無いと判定されやすい人物が・・・クリスである。


 そもそもクリスは地球、十時影 純としての魂がクリスと名付けた少年の肉体に宿った為、そもそも部外者の扱いだったからだ。

 この世界の住民ですらなかった。

 しかし魂だけが行き渡ってしまったが為に・・・マナという未知の性質に関わる事になった。


 概念自体は理解したが・・・住民ではないために、肉体があってもその素養に順応した魂に変化したのかすら怪しかった。

 幸い、魂と肉体にあるマナという情報の一部を吸収する事だけは成功した全くイレギュラーな存在である。


 どこかで死んだ者の人格を引き継いだ魂による転生でもなければ、転移でもない。

 どちらとも言えるし言えない、凄く中途半端になってしまったのが・・・クリスである。


 クリスの成長、器の進化には色々な理由が絡み合い成り立っている。


 その結果、本来ではありえないスピードで昇華・・・変化を遂げていた。


 ただ・・・足搔いて生きる。


 それをしてきただけだが・・・それがクリスをここまで進化させたと言える。


 あらゆるものに可能性がある。

 しかし、その可能性に気付ける者、考えつく者。

 そして・・・どうなるか分からなくても飛び込んでいける者が・・・結果、他よりも別の次元に立つ。

 ただ、それだけだった。



 その事をずっと前から知っている小太り老人は不用意に攻めに転じることが出来なかった。

 ボールド自身がまだ全力を出していなかったのも理解の1つだった。


 結果、訪れる答えは・・・膠着状態になる事だった。


 その結果はボールドにとって好ましい結果にはなったが・・・。


「にゅぐっ!!」


 飛び上がり、ボールドの攻撃を回避した・・・と、思った瞬間。

 突如、体に激痛が走る。


「な・・・なんですとーーー!?」


 下半身が氷漬けにされた自分に驚く老人。


「でやああああっ!」

「ぬぐっ」


 両手でクロスガードする老人。

 そこへ剣が振り下ろされ、老人はその威力に下半身の氷を砕かれながらも勢いが削がれず、奥の壁まで吹き飛んで行った。


「にょぐぇっ!」


 体を回転させながら壁に叩きつけられ、壁を破壊しガラガラと落ちてきた破片の下敷きになる。


「すみません遅れました」

「はう~・・・何とか間に・・・あ・・・うえええっ!

 なんですかー!これは~?!」


 氷を張って束縛したテスがボールドの下へと駆けつけた。

 ケイトは老人を吹き飛ばした後、その場で立ち止まり、飛ばした老人を警戒し剣を立てて身構える。

 テトは入ってくるなり初めて見た骸骨と赤ん坊の複合体の異形種の人形に驚いていた。


「・・・デカい・・・」

「こんな地下に随分おっきいモンスターがいるもんだね」


 プリム、ヘレンは逆に冷静に30メートルはある人形を見て、そんな感想を述べた。


「暢気な事を言ってないで加勢しますよ?」


 ゾッドはそういうと、全員に補助魔法を掛けた。


「助かる」

「感謝する」

「助っ人が来たぞクラル、一旦下がるぞ」

「ふう・・・疲れますわ~・・・」

「助かった~・・・そっちはもういいの?」

「うん・・・ココに来るまでにモンスターと変な生き物は倒した」

「変な生き物?」

「人の姿をとった成れの果て・・・」

「ああ・・・あれね・・・」


 シャーリィはプリムの言葉に納得した後、再びマナを集め魔法を形成させる。


「すまない助かった」

「今は協力している仲だ、気にしないでほしい。

 それよりも・・・あれは何だ?」


 ヘレンがツェーゲンに聞きたくなる状況だった。


「あいつが生み出したものだ。

 どういう原理かは知らんが召喚し、暗闇から呼び出した」

「・・・あの爺さん。

 何を考えているんだろう?」

「分からんが、今はこいつを倒すのが先決だ。

 ダメージを与え、回復力はかなり失わせたはずだ」

「と、言う事でもう少しなんだお姉さん達。

 すまないが手伝ってくれないか?」


 ヤハトがヘレン、プリムを見て頼んだ。


「・・・もとよりそのつもり」

「あの変な爺さんはテス達に任せて、こっちを叩きます」


 頷いたツェーゲンは再び、異形種を見て、自分から懐へと飛び込んだ。

 ヘレンが矢で牽制し、プリムが魔法と召喚獣で攻撃してツェーゲンの行く道を作った。



「・・・ボールドさん・・・あたしが攻撃した人って・・・?」

「あいつが・・・以前、テス達が戦ったと言われる奴だろう・・・」

「ええ・・・。

 あの時は、直接戦ったわけではありませんが・・・。

ボールドさん、あなたのその警戒から察すると・・・相当、お強いって事でしょうか?」

「強い・・・そもそも奴が俺にほとんど攻めてこなかったから、今がある。

 もし攻撃に転じていたら・・・殺られていた可能性の方が高い」

「そ・・・そんな大げさな~・・・」


 笑おうとするテトだが、あまりのボールドの真剣さに笑うに笑えなかった。


 ゴゴゴゴゴゴゴ・・・。


 微かに揺れる振動。


「・・・んんぬぐぐぐぐぐ・・・」


 振動と共にパラパラと砕けた壁に破片が落ちてくる。


「にゅぐああああああああっ・・・!!」


 大きな壁の破片を無理やり押し上げ吹き飛ばして、老人で這い上がった。


「ん~~~っ・・・にゅ~~~、許しませんよ~・・・!

 ここまで私の邪魔をしくさって~~。

 ゴミカスの分際で~~~っ・・・」


 相当苛立ちが募ってきたのか血管が浮き上がり茹蛸の様に顔を真っ赤にさせる老人。


「お・・・お前達、覚悟をあばばばばばばばばばばば」


 瓦礫を無理やりどけて動こうとした瞬間。

 頭から大量の水をぶっかけられる。


「その赤い頭、少し冷やしてあげる」


 そう言って現れたのは女の子だった。


「・・・シェイミーちゃん!

 ・・・キルシュ君も!

 良かった~、無事で・・・!」


 得意げに腰に手を当てたシェイミ―とその傍にいるキルシュを見たテスが駆け寄り抱きしめた。


「・・・ごめんね、守れなくて・・・」

「大丈夫よ・・・それに・・・イルミナがあのおじいちゃんから守ってくれてたし」

「うん。

 だから大丈夫だよテスお姉ちゃん」


 離して、2人の顔を見た後、テスはイルミナと呼ばれた女の方を見た。


「いや~・・・まさか、ウチのエレイズを助けてもらうとは・・・ありがとうございますっす」

「お前は僕の保護者ではない」


 横にいたエレイズがツッコミを入れた。

 笑いながら頭を掻くイルミナ。

 その後ろをサック、ベーデル、ノイシュ、トリシュが集まった。


「遅れて申し訳ありません。

 探すのに少々手こずりました」

「隠し扉の中に監禁されていると思ったのですが・・・」

「まさか、別方向の普通の部屋に匿われているとは思いませんでした」

「捕虜ではあったけどボスから客人扱いしろって言われていたものっすから」

「おかげでトラップ用のモンスターとか、階段で戦った変なヒトとかと無駄に戦う羽目になりましたよ」

「なっはははは・・・それは・・・あの目つきがたまにいやらしいおじいさんに言ってくださいっす」


 そう言って指を指すイルミナ。


「にょほっ?!

 わ、私は別にそんな幼女趣味というわけではないつもりですよ・・・!?」

「つもり・・・ね」

「っという事は~。

 いやらしい目で見ているって事は否定しないって事ですよね~?」

「にょあっ!・・・し、しまった・・・!

 ち、違いますよ?!

 私はこれでも紳士で通してきているのです。

 あっ、その目信じていませんね?!

 これは罠です!

 私を不当に扱う罠ですぞーーーっ!」


 喋れば、喋るほど慌てふためき、動きが細かく激しく動いて講義する小太り老人。

 しかし、そこへ少し頭が冷えてきたことで目の前の人質に気付いた。


「・・・ああーーーーっ!!

 なんで人質が解放されているのですか!

 もしや・・・う、裏切ったのですかー!?」

「ふ、いまごろ・・・」


 鼻で笑い、低く冷めたトーンで返される老人。


「・・・今の反応・・・凄く傷つきましたぞ・・・」


 オーバーリアクションで首と肩を落とし地面を見る。


「・・・本当に手ごわいのですか?」

「・・・」

「あんな反応をされますと~・・・」

「・・・」

「なかなか惨めな姿にしか映りませんね~・・・」


 ケイト、テト、テスの言葉に眉間に刻まれる皺が深くなっていくボールド。


「・・・だから反応に困るのだ・・・。

 実力は確かだろうが、終始アレなのでな・・・」

「アレ・・・!」


 ガーン、と衝撃を受けた様な反応を示し、地面にしゃがみ込む老人。


「ますます落ち込みましたっすね~」

「よくわからん爺さんだ」

「・・・少々、同情してしまいそうです」

「ベーデルがあんなだと私はイヤなんだけど?」

「そうですね~・・・。

 ベーデルがあの様な振る舞いを見せると・・・少しだけですが、私から離れてほしいですね」

「そ・・・そんなに・・・!」


 とうとう、半泣きの様な顔になり、転がった石を指先で触っていじけだした。


「ちょっと~・・・遊んでないでサッサと片づけてよー・・・。

 コッチはもうそろそろ終わるわよ?」


 シャーリィがテス達に告げる通り、ヘレン、プリム、ゾッドが参戦したことにより戦力が大幅に強化されほとんど決着がつきかけていた。


「ぬあっ?わ・・・私の人形が・・・。

 あれ?このままだと私が主様に怒られる?

 ・・・ぬほーーーっ!!

 そ、そんな許されませんぞー・・・!」


 落ち込んでいた老人が急に立ち上がりはじけた。


「ぬぬぬ・・・こうなったら・・・」


 老人が何かをしようと呪文を唱えだした時。


 バゴーーーーン!!


 天井が壊れ、3体の巨大人型が落ちてきた。


「にゅ?・・・あっ、あれは・・・」

「くう・・・なに?」


 大きく四角いブロック片が色んな所にドコンドコンっと落ちてくる。

 その危険から避難しようとテス達が移動をしていた時に同時に現れた存在に驚き、注目してしまう。


「(ぬ・・・チャ~ンス・・・)」


 小太り老人は落ちてくる破片と砂埃に紛れ、こっそりとボールド達の視界から隠れる・・・そして。


「え?」


 空中に急に持ち上げられたキルシュ。

 小太り老人がサッとキルシュだけを攫い、巨人の1体の腕に座った。


「にょほほほほ・・・この子供だけは逃がしませんよ~。

 それではー・・・さいなら~~~・・・」


 老人とキルシュを乗せた巨人はその場でジャンプ。

 上へと飛んで消えて行った。


「そんなこと、っ!」


 テスが動く前に巨人の1体が前を立ちふさがり牽制。

 もう1体もボールドの前に立ち止まり行く手を阻んだ。


 小太り老人の声だけが遠くの方から木霊していた。


「んんんんんんんなあああああああああああああああ・・・・・・」


 現れた巨人に呼応するかのように大きく鳴く老人が生み出した異形種。


 異形種は自分の体内にあるマナを放出し小さな魔法弾を辺り一帯に乱射。


「回避!」


 誰かの叫びと同時に全員が回避行動に出る。


 テスが傍にいるシェイミ―を連れて避難した。


 ドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガ・・・・・・・。


 大きさもバラバラで無茶苦茶に発射された魔法弾が着弾すると大きな衝撃と破壊音を上げて煙を生み出し周囲一帯を曇らせた。


 ズガアアアアアアアアアン・・・・・・。


 大きな振動が視界が見えなくなった煙の向こうから響いてきた。



「・・・・・・」

「・・・・・・キルシュ。

 キルシュ!」


 煙が晴れ、巨人もいなくなった所、シェイミ―が天井、暗闇の向こうへと顔を向け走る。

 そして何も先が見えない天井を見て、立ち止まった。


 視界が晴れたそこには地面へと吸い込まれるように消えていく異業種がいるだけだった。


「先ほどの者達もいない・・・」

「上に逃げたんでしょうか~?」

「追いかけましょう、シェイミ―ちゃん」

「・・・うん!」


 テスがシェイミ―を連れて走る。


「俺達も追いかけるぞ」


 ツェーゲンの言葉に全員がテス達の後を追いかけた。






 【クリス】5才 人間(変化)

 レベル ?

 HP ? MP ?

 STR  ?

 VIT  ?

 INT  ?

 RES  ?

 DEX  ?

 AGI  ?

 LUK  ?

『マナ性質:レベル ? 』『強靭:レベル ? 』『総量増加:レベル ? 』

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