128 異常者達と足搔く意志
「おやおや?
その顔、どこかで見覚えが・・・」
首を傾け、手をおでこへ。
遠くを見る様に小太り老人がツェーゲン達を楽しそうに見ていた。
「ああ。思い出しました。
いつぞやの私達の為に宝石集めに苦労してくださった者達ではありませんか・・・。
その節はどうも、ご苦労様でした。
おかげさまで楽して宝石が集まりましたよ・・・。
にゅっ・・・にゅふふふふふふふぐぐぐぐぐ・・・・」
「・・・あの笑い方・・・すっごくムカつくんだけど」
「ワタクシもですわ~。
ええ、本当に・・・。
今すぐあの口を縫い付けたいくらい」
シャーリィ、クラルが額に筋を立てたくなりそうだった。
「アタシもです。
あの笑い・・・すごく癇に障ります」
「ええ、そうね。
人を小馬鹿にするあの態度、いただけません」
トリシュ、ノイシュも老人の言動は気に入らなかったようだった。
そして、シャーリィ、クラル同様、前へ進み老人に挑もうと構える。
「内の女性陣が時々怖い件について、お前達はどう思う?」
「「・・・」」
ツェーゲン、サックは目を閉じ黙して語らず。
ベーデルは他人事の様に笑顔でやんわりと避けた。
そんな話をしている中、ボールドは小太り老人を観察していた。
「お前達・・・戦闘の準備をしておけ・・・」
「?初めからそのつもりだけど?」
シャーリィがすぐに返したが、ボールドの言いたいことはそういう事ではないと、ツェーゲンは気付いた。
ボールドは黙って背中に背負った大剣を取り出す。
「あの男がどうした・・・?」
「あいつのマナ・・・深く・・・暗い・・・のか?
分からんが・・・とにかくマナの質が・・・密度が濃い」
「分かるのか・・・?」
「俺も最初は気付かなかった。
ここに来て、あの男を目にするまで・・・」
ボールドは自然と握る大剣に力が籠った。
それを見たツェーゲンは少し後ろに下がり、小さな声で仲間に告げた。
「・・・ベーデル、サック。
ノイシュ、トリシュを連れて周囲を探ってくれ、子供達がいたらすぐに助け出しこの場を逃げろ」
「・・・ツェーゲン?」
ツェーゲンもマナを引き上げ、ゆっくりと自身の影から剣を取り出した。
「ヤハト、すまんが奴との間合いが上手く離れ隙が出来た時、シャーリィとクラルを連れて逃げろ」
「・・・その役はお兄さんの方が良いと思うんだけど・・・」
「単独で逃げるだけなら俺の方が向いている。
すまんが俺では2人を連れて無事に脱出させられるかわからん」
「・・・相当ヤバい相手ってわけね・・・」
ツェーゲンとボールドにだけ聞こえる声でヤハトが答えた。
「・・・あの老人は危険だ」
ボールドが静かに集中し体内マナを高めていく。
そこへ・・・。
「おっと、怖い顔ですね~。
寄ってたかって皆さんで弱い者いじめをしようと言うのですか?
それなら私にも考えがあります」
老人は頭と体を左右に大きく揺らしながらボールド達に向けて告げた後、両手の指先を合わせ、マナをその中で集める。
そして、何やらその集まっていくマナを見ながら唸った後。
「にゅぐぐぐぐ・・・・・・にょほ~~~~!!」
両手を上げ万歳する。
すると手のひらに集めたマナが宙へ舞い、破裂した。
弾けたマナは雨の様に降り注がれた。
すると、突如、足元に四角い真っ暗な空洞が出来上がりそこから数式が外へと這い出てくる。
出てきた数式は上空へと上がって行き・・・消滅した。
ゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・・。
突然地響きを上げると空洞から手が出てくる。
大きな骸骨の手と、赤ん坊の様な手がボールド達が立つ、地面にヒビをつけながら体を空洞から這い上がってこようとしていた。
「な・・・何なのよ・・・」
「・・・召喚?・・・でも違う」
シャーリィは驚き、サックは這い出てきた存在に違和感を覚える。
「いや~、私もあの特殊モンスターを参考に作れないかと思い。
ちょっと試行錯誤しまして・・・。
あ、そういえば。あの特殊モンスターもあなた方の作ったモノでしたね。
いやはや、あなた方には助かってばかりですな~・・・にゅふ、にゅふ・・・にゅふふふふふふ」
口元の前を両手で隠し、傍から見るとわざとらしく見える仕草で笑う老人。
這い出てきた上半身。
それは骸骨の姿と子供の姿が半分に混ざり合っていた存在だった。
目元は赤ん坊の様に細く、中は紫に輝いていた。
腕は赤ん坊の腕が2本に骸骨の両手が2本。
赤ん坊の背後に鳥の様な骸骨がくっついている様な姿だった。
「にゅふふふふふ・・・。
どうです、可愛いでしょ?
まだ試作段階も良い所ですが・・・あなた方には丁度良い実験サンプルとして戦っていただきましょうか?」
そう言って老人が脇へと移動しながらボールド達に説明する。
この異形な存在・・・この部屋の扉以上の大きさで、約30メートルはくだらない巨大な存在だったからだ。
「んんんんなああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
ただ泣いただけで、体全身にビリビリと感じる振動だった。
両手を抑えていてなおその声は大きく、全員が身動きを取れなかった。
「・・・これを倒すのか・・・」
ヤハトは半笑いになりながらも刀を抜いた。
「サック、ベーデル!」
ツェーゲンに名前を呼ばれ2人は自分のするべき事を思い出す。
「ノイシュ、トリシュ、この辺りに子供がいないかサック達と探せ!
今すぐだ!」
「は・・・はい!」
「分かりました」
トリシュとノイシュは指示を受けるとすぐさまサック達を行動を開始した。
部屋は広く、周囲に今の場所からでは暗くて見えにくいが通路がいくつもあった。
「僕とトリシュはコッチ。
ベーデルとノイシュはあっちをお願い!」
「分かりました」
「了解です」
それぞれが迅速に動く。
「おっと、そうはさせませ、にょはーっ!」
「お前の相手は俺がする。
すまんが時間は稼がせてもらうぞ?」
ボールドが老人の前に立つ。
「にゅ・・・ぐぐぐぐ・・・。
せっかくの実験体が勝手な行動をするんじゃないよ!」
「悪いが・・・あんたの小芝居に付き合うつもりはない」
「にゅほー!・・・問答無用ですか・・・面倒ですね~。
いやホントに・・・面倒だ・・・」
体内マナが溢れだす老人。
そこには先ほどのふざけた雰囲気は無く、今にも殺さんとする威圧をボールドに浴びせていた。
「・・・長くは持たんぞ!」
「分かった!
・・・という事だ、お前達・・・この異物を、サッサと排除するぞ・・・」
「当然」
「そうこなくっちゃ」
「ま、やるだけやってみますか・・・」
ツェーゲン達は異常な存在の赤ん坊と骸骨に向けて戦闘態勢に入った。
「?・・・地震?、!いや違う」
特殊なこの空間が感知を遅らせたが、しっかりと発信の現地を探るとすぐに分かった。
〔クリス、これは・・・〕
「(うん・・・誰かが戦ってる)」
〔私達も向かいましょうか?〕
「(そうするべきか・・・)」
現在、クリスは王城の2階に来ていた。
その少し眺めの廊下で現在、ボールド達が戦い始めたばかりのマナを感知したのであった。
「(・・・今はシェイミ―とキルシュの救出が優先。
どこにいるか分からないから、誰かが戦っている地下にいるのか・・・)」
〔おそらく、クリスと同じくシェイミ―とキルシュを救出に来たツェーゲン達の誰かでしょう。
この城を中心に何か特殊な結界を張っていますね。
ただの障壁ではなく・・・かなり特殊です。
っ!・・・クリス!〕
「?・・・っ!」
廊下をまっすぐな廊下を進んだ先、曲がり角から何者かの気配を感知し、クリスは止まった。
「・・・?
こんな所に子供・・・?
ここにどの様な御用でしょうか?」
そこにはメイドさんがいた。
クラシカルな衣装を着たメイドさん。
とても美人なメイドさんで、とてもよく目立ちそうな存在だった。
しかし、そんな人なのに、周りに空気、雰囲気に溶け込み存在感を薄れさせるような印象を抱かせる矛盾を孕んでいた。
クリス達は、そんなメイドに危険信号を発し、警戒を最大限に強めていた。
「(・・・気付かなかった。
あの曲がり角の近くまで音も気配も何も分からなかった。
いったい、どこから、どうやって・・・!?)」
〔私の感知に引っ掛かりませんでした。
あの者・・・今までの存在とは全く違う・・・。
クリス、気を引き締めてください〕
半歩だけ下がり腰を無意識に落とし警戒するクリス。
「?・・・聞こえなかったのかしら?
あなたはココへはどういうご用向きでしょうか?
ここは帝国の首都です。
そして、今はモンスター達が占拠しもはや無人に近いはず。
まさか・・・あなた、空き巣という事は・・・」
「え?あ、違う。
ああ、いや、違います。
ちょっと友達を探してて・・・ここにいると思って・・・」
「お友達・・・ですか・・・失礼ですが、ここは城です。
本来このような場所、しかもこのような状況の時にお友達がまさかこのお城にいるとは・・・考えにくいのですが・・・」
「・・・その・・・」
その時、遠くの方で爆発音と巨大な火や氷が上空へと上がっていく。
それを窓の外から向かいの廊下と壁越しに上空へと上がるのを見たクリスとメイド。
「・・・ああ。そうですか・・・」
「?」
何かを得心したメイドはクリスに顔を向けた。
その表情は先ほど以上に能面で、まるで小さなゴミを見ているかのようだった。
「・・・申し訳ありません。
理由はどうあれ、ここに来たあなたの不運を呪ってください」
綺麗にゆっくりとした所作で頭を下げるメイド。
そして、ゆっくりと上体を戻し、クリスを見た瞬間。
〔クリス!〕
「(え?)」
ほんの少し油断したのかもしれない。
クリスが警戒し、半身になって下がり剣を少しだけ取り出していたのが幸運だったのか・・・。
ガキッ、バアアーー、ドオオオーーーーン・・・・・・!」
剣にあたりクリス窓のある廊下の壁を貫通し、そのまま3階の曲がり角の廊下にまで壁を開け、吹き飛ばされていた。
「・・・ゴホッ!・・・」
ビチャチャッ・・・。
何が起きたかもわからずクリスはその場で壁に凭れていた背を離そうと動かし、口から込み上げた血を吐き出した。
「ゴホッ・・・オホッ・・・。
(なっ・・・何が・・・?)」
頭があまりの衝撃で何が起きたのか理解できていなかった。
いつの間にか自分は吹き飛ばされ壁に叩きつけられていたからだった。
〔クリス、しっかり。
今は逃げてください!〕
サポートが必死にクリスに今の現状を理解させ、行動を促すよう指示する。
「・・・?
確かに殺したと思ったのですが・・・?」
「っ!・・・」
バッと首を曲がり角へ。
そこには先ほど出会った階段を上り廊下を通って歩いてきたメイドがゆっくりと姿を現した。
クリスを確実に始末で来たと思っていたのに予想外なのかメイドはメイドは角から姿を出した所で止まり、ジッとクリスを観察する。
「・・・あなたは何者?」
メイドは首を微かに傾げてクリスに質問する・・・が。
「まあ、構いませんか。
もう一度・・・今度は確実に始末するだけですね」
そういうと、どこから現れたのか両手に1本ずつ剣を持ち出す。
剣を下に下げたままゆっくりとクリスに向かって歩いてきた。
〔クリス、マナを最大限に!
剣を構えて!〕
「・・・っ」
得体のしれない恐怖。
クリスはメイドから何も感じない。
マナすらほとんど何も・・・。
階段で先に気付けたのはたまたまだと思えるくらい目の前のメイドからは何も感じなかった。
クリスは少しだけ震える気持ち、体にムチ打ち、無理やり剣を構える。
「・・・安心してください。
その震えもすぐに無くなります。
死んでしまえば・・・」
言い終わった瞬間、メイドが一瞬で消えた。
〔クリス!〕
「っ!があっ!」
「・・・おや?
おかしいですね?・・・」
クリスを通り過ぎる際に斬り付けて止まったメイド。
しかし、振り返って見たものが予想と違い、疑問に思って不思議そうにクリスを見るメイド。
クリスは咄嗟にガードした為に剣がメイドの攻撃で壁に飛ばされ地面を転がった。
そして、首元を抑えるクリス。
クリスはサポートに呼ばれた瞬間、無意識に新たに手に入れたスキル``連結``で、拾う情報を増やし集めた。
高まった集中力で攻撃が・・・迫り当たる瞬間に感じる微かなに違和感を覚え、目の前のマナと何かのブレを見た気がして、咄嗟に剣でガードしたのだった。
しかし、メイドの力はクリスを遥かに超えて強く、最大限に上げた体内マナによる身体強化をもあっさりと突き崩した。
結果、剣が吹き飛ばされたのだった。
と、同時にブレの1つが首に迫って来ていた気がした。
一瞬、痛みが走るが・・・首には何も斬られた痕が無かった。
「・・・胴体は、その剣でガードしたようですが・・・首が飛んでいないのは・・・どういう事でしょう?」
「(あの時、なんか来たって思ったのはやっぱりっ!」
〔・・・身代わりの指輪の効果のおかげですね。
しかし、そう何度も効果があるとは思えません。
あちらもまだそのアクセサリーのおかげとは気付いていません。
今の内にどうにかしてこの場を撤退しなくては・・・〕
「(・・・でも、どうする?
あの人から逃げられるとは思えないぞ)」
クリスはメイドを見ながら、傍に落ちた自分のショートソードを拾う。
そして、構えジリジリとメイドから後退しようとするクリス。
〔先ほどの発言。
まだこちらを侮ってあちらが真剣には取り合っていません。
今が逃げるチャンスでしょう〕
クリスもサポートの言葉をすぐに理解し、逃げる一択に絞っていた。
【レベルがアップしました】
微かに聞こえる電子音の様な知らせと感覚上送られてきた情報。
しかし、今はその音もやけに小さく聞こえた。
「・・・不思議・・・。
・・・あなたは死なないのですか?」
「っ!」
またも急に高速で動き出した瞬間が見えず消える。
ガキッ・・・ギン、ガキガキガキ・・・・キィ~~ン・・・カラララっ・・・。
クリスがガードしか出来ず、迫りくる微かな残像の影の様なモノを頼りに、サポートの協力のもと勘で防いでいた。
何度も斬り付けられ、目でもマナによる気配でも全く終えず、気付いたら、何度も足、腕、肩、胴体を斬り付けられ、刺された様な幻痛に見舞われた。
「っ~~~・・・!」
幻痛なのは身代わりの指輪で、斬られた事を無かったことにしてくれているからだった。
しかし、斬られた痛み自体がなくなるわけではない。
そのため、斬られた一瞬で様々な箇所の痛みが一気に感覚、脳へと伝わり、転がって苦悶するくらいの痛みになって押し寄せてきた。
最後には力を失い剣がまたしても手から滑り落ち転がる。
クリスも体を倒れさせ、丸まった。
「・・・痛みはあるようですが・・・。
これは・・・辛そうですね?
出来れば一瞬で葬り去る方がよろしいのですが・・・」
メイドは周囲を軽く見て、首を振った。
「正直、どこまで力を出してよいのかわかりません。
苦しませてしまうのは心苦しいのですが・・・」
微かに眉を下げるメイド。
しかし、クリスを殺さないという選択肢は無いようだった。
〔クリス・・・立ってください!
・・・僅かですが痛みを和らげます〕
サポートの言葉通り、急に痛みが引いてきた。
「(あ・・・ありがとう)」
ヨロヨロとしながらも剣を掴み、再び立ちあ上がったクリス。
「・・・(やはり、外傷が見えませんね。
・・・服には切り口が残っているので切った事は間違いないようですが・・・)」
メイドはクリスをジッと観察する。
「・・・っ」
〔クリスっ〕
ヨロっと体が一瞬傾いたことにサポートが焦る。
しかし、姿勢を持ち直し再び剣を構えるクリス。
その頭には先ほどから電子音の様な音が何度も鳴り響いていた。
【レベルが上がりました。
レベルが上がりました。
レベルが上がりました。
レベルが上がりました。
レベルが上がりました。
レベルが上がりました。
・・・・・・
・・・】
先ほどとは違い体、精神的ダメージにより、意識がハッキリしているのか朦朧としているのか分からない状態だった。
ただ、鳴り響く電子音だけがやけに大きく耳を、脳を揺らしていた。
「・・・少しだけ、力を出しましょうか・・・?」
そんな事をメイドがボソッと言った瞬間、一気に加速した。
「っ!」
ガキ~ギギギギ・・・。
「?」
先ほどよりもほんの少しだけ力を出したメイドの攻撃にクリスが食い付き、受け止めた。
ガキ、ガキン!・・・ドン・・・ダン・・・ズザ―――・・・。
続いて、更に2連、3連と斬り付けようとした剣もガードして見せたクリス。
しかし、メイドの力と勢いには完全には殺せず、小さな体は吹き飛び、バウンドし10メートルほど転がった。
「・・・(先ほどの攻撃に追いつい・・・た?)」
メイドは首を傾げてクリスを見つめる。
メイドにとってもクリスの存在がよくわかっていないらしく、観察していた。
「く・・・ぐっ・・・はあ・・・はあ・・・うぷっ」
何とか立ち上がったクリスだが、少しだけ青ざめ気分が悪くなっていた。
頭の中の電子音は一定のリズムで今もなり続けている。
「(気持ち悪い・・・)」
〔これは・・・・・・。
もしかしたら、レベルアップ酔いかもしれません〕
「(レベルアップ酔い?)」
〔はい。
クリスはこの世界の住人と違ってモンスターからはほとんど経験値、マナを変換して自身の力に蓄えることが出来ません。
この世界のシステムとは違う存在だからです。
ですからクリスの場合、経験値は主に誰か・・・何かと戦い得た実戦経験そのものが経験値として変わるのでしょう〕
「(・・・だから・・・?)」
口元を抑え、少し屈みそうになるのを我慢するクリス。
〔あのメイド。
あの異常な存在と戦っていることでクリスの中で、通常では得られないほどの経験値が蓄積されているのです〕
「(・・・こんな戦闘中に?・・・)」
〔待ってください。
先に酔いを何とかします。
クリスの中に入ってくる膨大な情報とマナが原因でしょう。
私の方で処理しますのである程度は抑えられます〕
いつ鳴り止むのか分からない、頭の中の電子音に苦しませられながらも何とか踏ん張る。
「(・・・ありがとう。
少しだけ・・・痛みと同じで、戻ってきたよ・・・)」
〔おそらく、身代わりの指輪のおかげで本来なら一瞬で死んでもおかしくないほどの桁違いな相手と戦う事で急激に成長させられているのでしょう。
致命傷や死んだ回数すら・・・もしかしたら、カウントされているのかもしれませんね〕
「(死んだら経験値なんて元も子のないと思うけどな・・・)」
〔それだけ、今のクリスとあのメイドとは圧倒的な次元の隔たりがあるのでしょうね・・・〕
メイドはクリスの挙動に不思議に感じながら観察していた。
「(青ざめていたと思いましたけど・・・持ち直した・・・?
それに・・・少しだけ先ほどと雰囲気が違うような・・・?)
世界には不思議な生き物がいますね・・・」
クリスがサポートと話している間、メイドが襲ってこなかったのはあくまで、不思議な生き物を観察するためでしかなかった。
その時。
ドオオオン!
ガタタッ・・・。
遠くの方から聞こえる爆発音と地面の下から微かにくる振動でメイドは思い出した。
「ああ・・・そうでした。
申し訳ありませんが、あなたとのお遊びもここで切り上げなくてはいけません。
申し訳ありませんがさっきより強くいきますね?」
そういうとメイドは体からマナをユラリと放出し、両手の剣にもマナが行き渡る。
「ご安心ください。
今度は吹き飛ばすつもりで攻撃します。
私も色々と、この後の用事が入っておりますので・・・。
少々建物が壊れしまいますが・・・構わないでしょう。
私達には関係ありませんので・・・」
メイドは足を開き、腰を落とし、左手を前に剣を縦て、右手を後ろで肩の位置まで上げて水平に構える。
「不思議な生き物。
少しだけお相手出来て楽しかったです・・・」
「・・・」
クリスも構えて、集中する。
〔リンクしているクリスと私の視界なら、先ほどよりも対応できるはずです。
何としても生き残りましょう〕
「(速く、シェイミ―とキルシュを助け出さないと。
こんな奴がいたんじゃ、皆が危ない・・・!)」
戦闘音やモンスターの鳴き声が聞こえてくる中・・・隙間に出来た一瞬の静寂。
「「・・・・・・」」
飛び出す様に走り出したメイド。
「っ!」
クリスも同じくメイドへと飛び込む。
ゴッキィィィン・・・ガキン、ガキガキガキ、ギン・・・ザン、ダアアアアン・・・!
何度も斬りかかるメイドに食らいついていくクリス。
「(怯むな!前へ!)」
自身を鼓舞し無理やり接近に持ち込む。
「っ・・・」
ガキキィ~ン・・・。
たまらずメイドが後方へ飛び上がりと同時に空中で翻りながらクリスに連撃して距離を離した。
「(・・・どういう事でしょう?
先ほどと動きが違う)」
「はあ・・・はあ・・・。
(何とか見えるけど・・・)」
〔はい・・・。
私からしてもブレた残像しか追えていません。
ほとんどそこからの予測をクリスに見せている様な状態ですね〕
メイドが再び、攻撃を仕掛けていく。
剣を切り上げ、地面を走る衝撃波を作り出し、クリスに襲わせる。
クリスはその間を縫って近づき、自ら斬り込む。
そして、数度斬り合っては距離を開けられ、マナを使った範囲攻撃を仕掛けてきたりするメイド。
負けじとクリスもマナの質を更に高めて剣に密度の濃いマナを伝達して斬り込む。
離れた瞬間、同じく衝撃波を飛ばし追い打ちを掛けた。
が、簡単に切り払われ凌がれた。
「・・・(斬り合うごとに私の動きに対応している?
そんな子供がいるのでしょうか?)
・・・あなたは本当に何なのでしょう?」
メイドがクリスへと襲い掛かり、斬り付ける。
「(まだ、鳴っている。
もう少しは対応できると思うけど・・・実力が違う・・・)」
〔このままではいずれ、こちらが敗北します。
逃げるにしても、隠れるにしてもどこかに身を隠す何かを探さないと〕
いつの間にか、クリスとメイドが戦い争っている為に廊下の窓や壁が穴だらけになりぐちゃぐちゃになっていた。
そうして、幾度も交差して斬り結んでいた時。
「ぐっ・・・!」
お互いが飛んだ空中でメイドの攻撃をクリスが防いだと思った時、メイドの力で剣を弾かれがら空きになったお腹を蹴られ、3階から2階へと廊下に大きく穴を開けて吹き飛んだ。
大きく砂埃が舞い上がる。
「・・・」
スタッと下りたメイドは開いた穴から下を見るために近づいていく。
「ぐ・・・くう・・・」
クリスが立ち上がろうと体を起こし、動き出した瞬間。
ピキリ・・・・・・。
そんな音を聞いた気がした。
ふと自分が嵌めている指輪を見ると・・・そこには亀裂が入っていた。
〔限界のようです。
あと数回持ってくれれば良い方です〕
「(ここまでか・・・何とかして逃げ道を・・・)」
キョロキョロと周囲を探るクリス・・・その時。
「う~ん・・・私も鈍っていたのでしょうか。
ここまで戦われるとは思っておりませんでした・・・」
「っ・・・」
ゆっくりと長いスカートを舞い上がらせながらメイドが穴から下りてきた。
そしてクリスを見て、そんな言葉を述べる。
「いけませんね・・・戦闘からあまりに遠ざかっていたのでしょうか?
・・・仕方ありません」
メイドは両手の剣をどこかに戻し、代わりに槍を顕現させた。
手元は剣と同じく短く、手元から円錐の形で先の方が尖っているヴァンプレイト、と呼ばれるランスを持つ。
「っ!(マズい!)」
メイドがヴァンプレイトを持ち、マナを出した瞬間。
今までとは打って変わり、分かり易く紅い質のマナがランスから吹き出し、メイド自身が持っているマナの性質が変化した。
〔クリス!〕
「っ!」
ランスを構えたメイドがクリスに穂先を向けた所に光の粒子が集まりだした。
クリスは逃げられないと判断し、腰に下げたスリングショットに、今まで使わなかったビー玉をゴムで挟み、最大マナで迎え撃つ。
クリスが構えた瞬間、メイドのランスからビームが飛んできた。
「っ~~~・・・(今だっ!!)」
迫りくる粒子砲がスローモーションになって自分に向かってくる感覚を味わいながら、タイミングを見計らって撃った。
バシュン・・・ゴアアア~~~・・・・ッドッカアアアアアアアアアアアア~~~ンンンン・・・!
一瞬でビー玉は砕け散ったが中に溜めたクリスのマナが残り、それがメイドのビームと衝突した。
拮抗したのは一瞬。
すぐにそこへマナの力が集まり一点に収束する・・・そして、大爆発を起こした。
物理、魔法などを防ぐ一般のもの以上に頑丈な特殊な障壁で守られた城が大きく2階、3階、4階に大穴を開け一部を崩壊させた。
「(・・・今、何をしたのでしょう・・・?)」
開いた手で振ってくる埃や城のクズ片から手で守り、払いながらクリスの咄嗟に出た行動を思案するメイド。
「・・・ゲホッ、ゴホッ・・・う、ううう」
一方クリスは衝撃をかなり間近で受け、つきあたりの廊下の壁に叩きつけられ呻いていた。
〔クリス、しっかり〕
サポートの呼びかけにも、上手く反応が出来ず、何とか起き上がろうと壁に手を伸ばしていた。
「あれを防いで生き延びましたか・・・。
ここまで来るとあの生き物はかなり優秀だったと褒めておくべきでしょう・・・」
メイドはクリスにそんな感想を抱き。
そして、前へと歩んでいく。
「ぐっ・・・(力が・・・入らな・・・)」
急激なレベルアップでもたらされた不調。
サポートとスキルを使っての、リンクする中での異常者との戦闘。
そんな驚異の中、普段以上に一気に消費していくマナ。
知らず知らずのうちにクリスの肉体とマナはほとんど底を尽きようとしていた。
「どうやら限界のようですね」
「っ!」
ズゥオン!
ドガアアアアアアアン・・・!
声がした瞬間、転がるように横へと前転する。
ランスを振り抜いた体勢からゆっくりと戻るメイド。
そして、何が何でもと距離を開けようとするクリス。
もはや勝負はあった。
メイドにとっては変わらずクリスを殺すこと。
クリスにとっては、何としても生き延びて、友達になった子を助ける事。
そのために生き足搔いていた。
〔クリス、頑張って。
あと少し!〕
必死にサポートもクリスを励まし、何とかこの状況を打破しようとする。
「・・・っぐ・・・(まただ・・・!
俺は、まだ・・・助けてくれた人に・・・何も・・・・・・返せていない・・・!)」
クリスは転がりながらも何とか立ち上がっては壁へと倒れ、それでも必死にメイドから遠ざかろうとしていた。
「・・・もはや見るに値しませんね」
メイドは飛び出し、クリスにランスを振り抜く。
〔クリス、前へ!〕
サポートの言葉を聞こえた瞬間、条件反射で前へと飛び込んでコケる。
「・・・少しだけ・・・・・・楽しめました」
メイドがランスにマナを溜めて、右から左へと切り払った。
ドガアアアアアアアアアアアアアンン・・・・・・。
クリスが逃げ、再びぶつかった曲がり角の廊下。
つきあたりの壁ごとメイドはクリスを吹き飛ばした。
パラパラパラパラ・・・・・・。
そこは物資の一角だった倉庫。
その部屋を貫通し、奥の城の塀。
町の方まで大きく穴を開けるメイド。
上からたくさんの品物や木片などが落ちてくる。
倉庫だった部屋の壁は一面無くなり、床も半分吹き飛んでいた。
砂埃が舞ったその場所は色んなクズ片などが散乱していた。
「・・・少々、時間を使い過ぎてしまいましたね。
主の意向のために急ぎましょう」
時折、落ちてくる砂埃。
倉庫の部屋を見渡しメイドは踵を返した。
メイドはランスを戻すと再び、城の奥へと戻って行くのだった。
パラパラ・・・・・・コト・・・コツ・・・。
石か何かが落ちて地面にぶつかる。
ドクッ、ドクッ、ドクッ・・・。
〔・・・まだです。
マナは私が最大限消します。
クリスは息をまだ止めていてください〕
実感し鳴り響く心臓の音と頭の中の電子音を聞きながら・・・クリスはいくつもあった大きな木箱の下に埋もれる様に隠れジッとしていた。
【レベルが上がりました。
レベルが上がりました。
レベルが上がりました。
・・・・・・
・・・】
後半の戦闘になるにつれ緩やかになっていた報告のリズムが再び、メイドとの最初の頃の様に早くなる感覚を受けながら。
しばらくクリスはその場で息をひそめ休息を余儀なくされた。
【クリス】5才 人間(変化)
レベル 23 → ?
HP 279 → ? MP 265 → ?
STR 112 → ?
VIT 101 → ?
INT 107 → ?
RES 102 → ?
DEX 109 → ?
AGI 120 → ?
LUK 63 → ?
『マナ性質:レベル 2 → ? 』『強靭:レベル 2 → ? 』『総量増加:レベル 6 → ? 』




