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転と閃のアイデンティティー  作者: あさくら 正篤
13/473

12 助かった・・・のか?

「モルド兄ちゃん!こっち!」

「板が外されて、閉じてた穴が開いてる」


 ミィナ、ロークはモルドを連れてステイメッカの門の近くの壁に普段、板で隠されているんだろう、抜け穴が開いていたのを見つけ、そこに近づいて行った。


「アーシュはここから外に行ったのか?」

「うん。

 だって、ここ、僕とアーシュが最初に見つけた場所だから」

「私も後でロークに教えてもらったの」

「・・・もしかして、ミィナたちここから外に出で森に行ったりしてないよね?」

「・・・ちょっとだけ」

「・・・・ホントに、たまにだけど私たちもモンスターを倒してレベルを上げたかったから」

「・・・・・あのね。

 そんな危険なことをしたらクレア姉ちゃんたちが心配するだろ?」

「・・・ごめんなさい」

「黙っていったのは、悪いと思うけど・・・・って、そんなことより早くアーシュを探さないと」

「そうだね。

 今はアーシュを探そう。

 この話はまた今度ね」

「うっ!・・・・やっぱダメかぁ」

「ごまかしちゃダメ」

「は~い」


 ミィナたちは抜け穴を潜って外に出てアーシュたちを探しに行った。


「・・・?

 それにしてもミィナ、ローク。

 この抜け穴の前の横にある大きな穴は何?」


 モルドが指したのは、抜け穴の近くに半径10メートルはあろうかという大きなクレーターだった。


「知らなーい。

 こんなの、前は無かったから」

「・・・うん、僕も知らない。

 こんな大きな穴、何か大きな音がしたんだったら門の兵士さんあたりが気付くと思うんだけど?」

「・・・・そんな話は聞いてないな。

 分かった。

 これについては後で兵士さんとギルドの方で、僕が話しておくよ。

 とにかくアーシュを探そう」


 3人はアーシュが向かったと思われる森の方に向かって走っていった。




「これは、これは。

 目的の方から来てくれたか。

 ・・・まあ、よいか。

 今はこの女のほうが先だな。

 ・・・おい、聞こえているか?

 こっちは、目的と接触した。

 こちらの都合が終わるまでは何としても邪魔はさせるなよ」


「・・・もう一度、お聞きします。

 あなたはここで何をしていらっしゃるのですか?」


 男は誰かと何やら話しているそうで、こちらの質問を聞いていないようだった。


 そこで、再度、協会の壊された入口から入ってきたクレアが少し大きく、鋭い口調で質問した。


「・・・何。

 ちょっとした、時間をつぶして待っていたところだ。

 この教会だったか、そこに神の加護を受けている者がいてな。

 どうやら、その加護が他の信狂者とは違って、随分と愛されているらしくて。

 ・・・・それが、少々、邪魔でな・・・・今のうちに排除しようかと思ったわけだ・・・」


 クレアは黙って男の話を聞いていた。

 普段はおっとりとした雰囲気や顔つきをしているが、今は鳴りを潜め、見たことないくらい真剣で険しい顔をしていた。

 いつの間に持っていたのか、自分の身長くらいある銀のロッドに先端の頭頂部には瞳と同じエメラルドの宝石が埋め込まれ、天使の羽で外から包み込むデザインをしている、そんな杖を体の前、斜めに構え男に対して戦闘態勢をとっていた。


「・・・教会の扉がこんな破壊をされていたら、周りの皆さんが気付くはずなんですが?」

「?・・・ああ。

 そういうことか。

 安心しろ、ここに来る時も、音が外に漏れないようにしている。

 それに、この辺りの住人には眠ってもらっている。

 私も、無意味に殺すのは本意ではない。

 あくまで、用事があるものだけだ」

「・・・つまり、その用事が私と・・・」

「まあ、そうなるな・・・。

 少々予想外なことがいくつかあったが・・・」


(どうしよう、怖い。

 クレアと男が話し合っているが、男から感じるものが死の恐怖といってもおかしくないぐらい。

 どうしてクレアはそこで話せているんだ?)


 クリスは恐怖で何もできず物陰から様子をビクビクしながら見ているしかできなかった。


「・・・こうして、話しているのも良い余興だが、あいにく時間は有限だ。

 そろそろ、始めよう。

 安心しろ。

 周りには被害が出ないように、ことを終わらせる」

「・・・」


 緊張感がどんどん高まっていく。

 クリスはこれまでとは全く次元が違う殺し合いになるだろう気配に心が押しつぶされかけている。


(だめだ。

 このままじゃクレアさんは殺される!)


 怖い。

 死にたくない。

 巻き込まれたくない。

 嫌だ。

 死にたくない。

 こんな所で死にたくない。

 イヤだ。

 ・・・

 ・・

 ・


 頭の中がそんな想いで埋め尽くされる。


 俺を巻き込まないでくれ!

 俺は関係ない!

 俺は無関係だ!

 早くどっか行ってくれ!


 心の現実逃避がより強くなってくる。


「ライトシェル!

 ライトカバー!

 ・・・ライト!」


「・・・なるほど。

 ただの光をうまく使って攻撃と防御、補助をするのか・・・面白い」


 男はクレアの攻撃をやすやすと避け、うまくクレアの攻撃の当たる射程外に立ち回り翻弄する。

 スキを見て攻撃を仕掛けるがクレアの張った防御魔法に拒まれる。


「・・・少々、面倒だな。

 ・・・ああ、なるほど。

 これが、選ばれた者の加護か・・・なるほど。

 ・・・うっとうしい」

「ッ!!

 ライト!」


 クレアも攻め込まれないように距離を置いて攻撃を懸命に仕掛ける。


 そんな二人の戦いでもはや、教会の建物はグチャグチャになっていた。

 一部の壁は穴が開き、床は木が剥がれ、石畳も削れたり壊れたりしている。

 行動にあった、長い椅子はほとんどが潰れ、端のほうに追いやられ、もはや、二人の周りには円形のスタジアムができ周りに邪魔なものは無くなっていた。


 クリスの方にも長い椅子の一部や祭壇の真ん中にある大きな石像の一部が飛んできた。

 クリスは隠れる場所を追いやられて、明かりが前へ出ざるを得なかった。

 クリスが出て、どうすればいいか立ち往生している時、事態は急変する。


「なかなか参考になった。

 しかし、そろそろ時間のようだ。

 ・・・冥土の土産だ。

 受け取れ」


 男は足元の噴き上げていた靄を右手の平に集めると、さらにそこに濃い紫のスパークが混じった、マナを送り込んだ。

 そして、拳大ぐらいになったところで、クレアに向かって投げつけた。


「ッ!

 ライトシェル!

 ライトカバー!

 ライトソーン!

 レザリングライト!」


 咄嗟にクリスを中心に光の守護魔法をかけ、周囲の空間をクレアの光属性で埋め尽くして、男が放った黒い球に向かって、クレアも光の玉をぶつけた。

 2つの玉がぶつかると、激しい風と黒い紫と青緑のスパークが走り、教会内の周りをさらに壊していく。

 壁にヒビがたくさん入り、祭壇の石像が膝より上が吹き飛ばされ、後ろのステンドグラスのなくなって大きな穴をあける。

 それでも消えない2つの玉の勢いは急速に交じり合うようになると一気に天井を突き破る暴風を起こした。

 その勢いに、クリスとクレアは教会の壁に叩きつけられた。


「グッ!」

「アウッ!」


 天井から埃やくずが落ちてくる。

 辺りの音が無くなり、静かになったころ。

 ゆっくりと男が浮遊から教会に足をつけた。


「・・・まさかただの強力な回復呪文を応用で攻撃に使おうとは・・・。

 私の知らない使い方だ、この世界が進歩したのか、この女が工夫したのか・・・・。

 あるいは・・・」


 男は物思いにふけるほど、大したダメージもなく佇んでいた。

 腕を組み、片手の親指と人差し指を顎に持っていき考える。


「・・・しかし、これはずいぶんと騒がしくしてしまったかもな。

 ・・・頃合いか・・・」


 男は考える姿勢からクリスたちに体を向き直した。


「ッ、・・・ウッ!」

「・・・はぁ、・・・はぁ」


 痛みからやっと動けるようになったクリスが立ち上がった。

 クレアはまだ、起き上がれずにいる。

 上半身だけでも起き上がろうと手に力を込めている。


「・・・これ以上は、ただの拷問だな。

 ・・・さらばだ」


 男はゆっくりと近づいてくる。


 みるみるクリスたちとの距離が縮んでくるのを、クリスはスローモーションで見ていた。


 初めから気づいていた。

 クリスが隠れていることを目の前の男も、クレアも。

 だから咄嗟に先ほど、自分たちの戦いで巻き込まれると思ったクレアはクリスに防御魔法を展開して、守ることを優先した。

 その結果、自身の防御魔法が不十分になってしまった。


 それに、思い至ってしまったクリスは、何を思ったのか男の前に立ち、近くにあった木の破片をナイフ代わりの対峙した。


「・・・」


 男は立ち止まり黙って、クリスを睥睨する。


「なんだ?貴様」


「・・・」


 今度はクリスが黙ってしまう。


(怖い。

 死にたくない。

 くそっ!

 どうして俺はこんなこと!)


 クリス自身咄嗟に出てしまった行動のため何も考えていいなかった。

 震える体で木の破片を男に向け構える。

 そこに自分の最大限の体内マナを活性化させて。


「・・・ほー。

 その年で、うまく使うものよ・・・。

 粗削りだが悪くない・・・」


 男にとっては簡単にひねられる子供と油断しているため、クリスを観察対象としてみている。


「・・・?

 何だ貴様?

 そのステータスは?」


 男は先ほどとは違い、クリスを訝しんだ。


「・・・イレギュラー、か。

 ・・・しかし、なんだ、こいつ?

 何かが欠けている・・・」


 それからほんの少しだけ妙な沈黙がこの空間を包み込んだ。


「・・・まあ、よい。

 そこの女が先だ、どけ小僧」


 言うや否や男が歩きを再開した。


「ッ!

(怖い!でも、ここで、なにかしないと!)」


 震える中で必死に考える。


 男がさらに距離を縮めた瞬間、クリスは考えることを放棄して、前へ全力で飛び出した。

 先ほどのクレアたちとの戦闘はほとんど視認すらできてない。

 それでも、ここで動くしかなかった。


「っあああああ!」


 叫びながら走り、切りつけようと男に振り下ろした。

 男は顔をそらし簡単によけ、ホコリを払うように手を振った。


「ッ!」


 咄嗟に気づいたクリスが、男から距離を離す。

 離すと同時に手に持った木の破片を顔に投げつけ、すぐ近くの手頃な破片を見つけて武器代わりにする。


「・・・お粗末だが。

 行動力と潔さは良いな・・・」


 男にとってはじゃれている感覚なのだろう。

 テキトーに流している。


「クッ!

 ああ!」


 そのじゃれつきを払いのけようと振った男の手が破片にぶつかり、破片は砕け散った。


「・・・?

 なんだ?」


 微かに手の甲に痛みを感じた男は自身の手を見る。

 そこに、クッキリと切り裂かれ、微かに血がにじんでいた。


「・・・私が、傷を受ける?

 ありえん。

 何だ貴様」


 男は初めてクリスに興味を強く持った。


(くそっ、全然効かない!

 どうすればいい?

 こんなことしなければよかった。

 俺は何の関係ないだろ!)


 強い恐怖と後悔で、自己保身を優先的に考えてしまい、頭の中がぐちゃぐちゃになる。


「・・・こいつも始末するべきか?」

「!」


 男が出した強い殺気で、金縛りにあったように動きを止めてしまった。


 男は無言で近づき、クリスに手を振りかざそうとした所、横から青緑の弱弱しい魔法球を受ける。


「・・・まずは、こっちが先か・・・」

「・・・はぁ、っ・・・はー。

 この子は殺らせません!」


 クレアが少しずつクリスたちに近づいていく。

 服は破け、片足を引きずり、頭から出血して片方の目に掛かり、満足に開けられない左目。

 その状態でも、果敢に杖を男に向け、ゆっくりと歩く。


「・・・そのボロボロでも子供が大事か・・・」

「はぁ、はぁ、・・・あなたには関係ありません。

 この子がどんな未来が待っているのかを、あなたが勝手に決めていいことではありません!」

「フン。

 ・・・ここにきて、説教か・・・。

 人形は人形らしく、道化を踊ってればいいものを・・・」


 クリスの前に盾になりかばう様に、クレアが立った。


(助かった。

 死なないかも・・・。

 そうだよ。

 俺は関係なかったんだから)


 クリスは自分のことで頭がいっぱいになってしまっている。


 この期に及んでとは言うが、人にとっては窮地に立たされると、何を起こすか、最優先に考えるかは人それぞれ。

 まして、今まで自分が自分を守ることに必死だったクリスにとっては自分勝手な言い訳でも、自身の心を守る立派な対処法だった。


「・・・では。

 終わりとしよう」

「ッ!」


 クレアが杖を構えようとするがその動きはとろく緩慢であった。


 クレアの動き出しが終わるころ、クレアの胸の中心に男の腕がクリスの方に拳が突き出していた。

 クリスはただそれが、スローモーションに見え凝視していた。






【クリス】3才

 レベル 12

 HP 56 MP 39

 STR 20

 VIT 15

 INT 12

 RES 13

 DEX 22

 AGI 18

 LUK 14

 『欠損』


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