127 人形
〔さて、クリス。
私達は城に向かいましょう〕
クリスは頷き、分かりやすい大通りは避け、裏路地を進んで城へ走って行く。
裏路地を使うのは、モンスター達との接触を避けるためだった。
トウジロウ達が殲滅してくれる以上、無意味な戦いを避け、城へと向かうことを第一に考えたからだ。
ちなみにボールドはツェーゲンのパーティに、ケイトはテスのパーティに、テトはトウジロウのパーティに参加する事にしたようだ。
「・・・でも、なんか変だ・・・」
〔ええ。モンスターがいるにしてもマナの流れがおかしいですね〕
「うん。何でこんなにたくさんいるんだ?」
「ん?なんだ~、そいつ等?」
太った男は小太り老人に質問した。
「彼らは・・・まあ、人形ですよ」
そこには様々な種族の者達がいた。
しかし、その者達には生気というものは感じられなかった。
いや、正確には存在していない様に思えた。
「人形・・・言い得て妙だな。
確かに、生きている感じがしない。
へ・・・まるでゾンビだな」
「正解ですよ。
彼らはまさに私にとって使い捨てのゾンビです。
痛みも人格も無い。
ただ、私の命令で動く人形です」
「・・・」
男は黙って、その人形達を見渡す。
見た限り生きた存在を感じない事と、全員に何かしらの紅いアクサせりーや鎖、仮面、イヤリング等決まった色を必ず持っていた。
たくさんの者達がいる中で決まった色の何かを必ず持っているこの状況はただでさえ違和感があるのに更に拍車をかけ不気味さが増していた。
「あれはあんたの差し金か?」
「ああ。紅いものですよね?
まあ、そうとも言えますし、違うとも言えます。
あれは、私の仕える主の色なので・・・」
「変わった趣味だな。
配下や駒にも同じ色を持たせるのか?」
「いえ、あれらは・・・少々違いまして・・・まあ、ちょっとした証、と判断していただければ」
言葉を濁す老人とは打って変わり、太った男はそれほど気にしていない様子で、それ以上この事に関して質問することは無かった。
「しかし・・・随分変わったマナだな。
あまり変化を感じねえが・・・強いのか?」
男の懐疑的な質問に老人は考え込んだ。
「う~ん、どこを強さの基準に置くべきか困る質問ですね~・・・」
「どれだけ戦えるかだな」
「ああ、それでしたらご心配なく。
腕が折れても、首が無くなっても動きますよ?」
「・・・それってヒトなのか?」
「言ったでしょう人形だと。
我々の仲間になれず、魂まで抜け落ちてしまった出来損ない。
それがこの道具ですよ・・・にゅっふふふふふ」
老人は楽しそうに人形の兵隊達を眺めて楽しそうに笑う。
その人形には性別も年齢も関係なく、実に幅が広かった。
上はかなり幼い子供から老人、老婆までと多種多様それが城の広場を埋め尽くさんばかりにいた。
クリスが感じていた違和感は小太り老人がどこからか連れてきた元ヒトのなれの果てであった。
「あの城の中・・・凄く異様だ。
何かが集まってる」
〔その様ですね。
急ぎましょう。
ツェーゲン達がシェイミ―とキルシュを探してくれていますが、私達の方でも早く見つけて保護した方が良さそうです〕
「うん・・・」
クリスは体内マナを循環させ高速で壁なども走ったり、蹴ったりと移動をしながらも出来るだけ音も大きくならない様に注意して城へと突き進んでいく。
それは、徘徊するモンスターの目を避けて隙間を縫うように物陰から物陰へ移動して急いだ。
そしてお城の前まで到着した。
壁を蹴り、民家の屋根上に到着。
そこから城が見える範囲を確認するが、先ほどまで感じていた違和感のマナ達が散り散りになって町に繰り出していた。
城の内部には少数が残っているだけだった。
裏路地を進み来てしまったために、出会う事が無く、一体何が町に繰り出したのかクリスは解っていなかった。
〔町でモンスターを掃討している皆さんには少し申し訳ありませんが・・・私達は私達の出来ることをやりましょう〕
「うん」
クリスとサポートは誰もいないことを確認し飛び降り、城へと進む。
「(・・・誘ってる?)」
〔はい。確実に・・・〕
大きく開かれ無人の状態で門が開かれている。
城門を守る兵士も誰もいない。
「(モンスターにしろ、何にしろ誰かはいると思ったんだけどなー・・・)」
〔クリスを待っている者が、シェイミ―達を除き1名、奥に居ますけどね〕
クリスもそれは分かっていた。
隠す気が無いのか、それともその男の持つマナが、男の気持ちに反応し勝手に溢れ出ているのか。
城の奥の一角からクリスにまで届いてきそうな重く、濃いマナが漂っていた。
〔どうされますか?
やはり、あの者と戦うのですか?〕
「(う~ん・・・正直言えば、勘弁してほしい。
元々、俺はシェイミ―とキルシュを助けるのと、ついでに欲を言えば宝石を回収したいってのが本音だから。
別に戦いにそこまで乗り気ってわけじゃないんだよね)」
〔・・・では、私達もシェイミ―とキルシュの救出を優先しますか・・・〕
「(そうだね。
分散して探した方が見つかる確率も高いし、早く助けられると思うから)」
〔分かりました・・・では、その方向で微かに感じるマナから探っていきましょう〕
サポートはそういうと、クリスに感覚的にそれらしいポイントを教え導く。
〔可能性がありそうな場所にあたりを付けました。
先ず、ここから探してまいりましょう〕
「(ついでに、宝石をどこかに保管してあるのなら回収していこう)」
クリス達はそう決めて、正面の門を潜り抜け、すぐに目の前の大きな扉ではなく、脇の召使いが使うこの城で働く従業員用の扉へと向かう。
〔しかし・・・シェイミ―達にもし、あの男、もしくはその関係者が側にいた場合は・・・〕
そのサポートの言葉に、扉に手を掛け少し開けた所で止まったクリス。
「(うん。戦うよ。
出来るだけ、殺し合いは避けたいけど・・・。
この世界でそれを避けることは難しい・・・)」
〔はい・・・。
殺さず倒すのは、相手がそれを受け入れ戦闘を止めさせなければいけません。
ですが、大きくなればなるほど引っ込みがつかなくなってしまいます。
どちらかが死ぬまで争いが起こってしまう事も覚悟していきましょう〕
「(その上で、出来る限り殺すことのない倒し方で行く。
甘い考えだけど・・・俺は、避けたい。
モンスターを殺しておいて矛盾しているけど・・・)」
扉を潜り、城の内部へと潜入するクリス。
〔いえ、優柔不断と言われてしまうかもしれませんが・・・。
命というものをクリスは自分の生きた経験から考えているのです。
それが間違った行動ではないと・・・私は思いますよ〕
サポートがクリスに寄り添った存在であったとしても、クリスにとってはかけがえのない相棒だった。
「(行こう。
先ずはシェイミ―とキルシュだ)」
〔了解〕
「・・・2日ぶり・・・」
「ええ、そうですね。
あなた方とは決着をつけたいと思っていた所ですよ」
プリムが若い男に挨拶を交わし、男も返事を返す。
槍を肩に乗せる様にしてプリム、ヘレンの前へ歩み、一定の距離を保って止まった。
「・・・今日は、もう1人がいないようね?」
ヘレンが周囲を見回し前回戦った若い女を探す。
「ああ、それでしたら、子供達の見張りをすると言っていましたよ。
このタイミングでウチのバカ共か、あの老人辺りが何かしでかさないためだそうですよ」
その言葉に後から来たテスが訝し気になり、傍にいるゾッドに聞く。
「・・・信用できる?」
「難しい話ですね」
即座に否定するゾッドを大仰な仕草で反応し残念がる男。
「本当ですよ。
まあ、ここまでやってしまって勝手なのも確かですが・・・誓って、不埒な事はしておりませんよ。
これでも・・・僕はその辺りは、仕事以外は公平な振る舞いでいるつもりですので・・・」
「・・・嘘くさい」
「全くだ」
プリム、ヘレンが構えだし、男の言葉を否定した。
「・・・まあ、信じてほしいとは思っていませんので・・・」
パチン。
男は指を鳴らすと、周囲にいた仲間と、近くにいた特殊モンスターが集まってくる。
「あなた方2人の相手は僕がします。
しかし・・・そちらの2人には申し訳ありませんが、その間、ウチの者達の相手をしていただきましょう。
あなた方が僕達の戦いに観客でいてくれるとは思っていませんので」
ゾロゾロと集まってくる男の仲間達と特殊モンスター。
「テス、申し訳ないけど頼める?」
「ゾッドも・・・お願い」
「大丈夫よ。
ヘレン、プリム」
「僕達の事は気にしないで、そちらの敵に専念して下さい」
テスとゾッドもそれぞれ戦闘態勢に入り、周りを見回してゆっくりと腰を落とす。
「・・・決着をつけましょう。
あなた方が倒れる姿を見るために」
「ちょっと、飛ばし過ぎやしませんか・・・?!」
ケイトはロイドの無茶苦茶な大立ち回りに困惑していた。
「はぁ・・・申し訳ありません、ケイトさん」
「どうやら、相当不満が溜まっていたようですね」
「・・・どうして?」
イスカがカイルの言葉に疑問を持った。
「それは・・・」
「あんた達だけが勝手に限界突破したからでしょうが!」
フェリルがカイルの代わりに魔法をモンスターに向けて撃ち込みながら声を飛ばした。
「テメエらだけ勝手に先行ってんじゃねえよ!」
ロイドもモンスターを蹴り飛ばし、向かって来た刺客達を殴り飛ばし建物の壁に叩きつけていた。
「あ・・・荒れていますね・・・」
「あの時は、その作戦が最善だと思い、私も反対はしませんでしたが・・・」
「フェリル、ロイドの2人は納得がいかなかったようですね」
「・・・間違った?」
イスカが全員に聞く様に顔を振り向き、問いかけた。
それはケイトにも届けられていて・・・。
「えっ?あたし!
え・・・ええ!
え、えっと・・・その・・・」
イスカの少し乏しい表情から悲しい雰囲気が伝わったのか困るケイト。
「ああ、あ・・・あの時は的確な判断だったのではないかと・・・」
「・・・そう?」
「・・・はい・・・もちろん!」
何とか言い切り、落ち込ませないよう必死にフォローするケイト。
「・・・良かった」
少しだけ頬を赤らめて嬉しそうにはにかむ。
「(どうすればいいんですか!これ!)」
「(あの子はちょっと、変わった子なのよ。
あれでも、自分の行動に責任を感じていたんだと思うわ)」
「(素直な方なのですが・・・少々、会話が苦手ですので・・・)」
ケイトはイスカの反応にどうしたらいいかをメルム、カイルに助けを求めるのだった。
「・・・それにしても・・・頑丈な建物」
イスカが周囲の建物や地面を見て、そんな感想を抱いた。
「たぶん障壁の影響でしょう。
物理、魔法を含めて被害を抑える仕組みが施されているんだと思います」
「ええ。
そうでもしないと、今頃ロイドとフェリルの戦闘で周囲の建物がかなり無くなっていた事でしょうね」
「主に、フェリル・・・」
「え?・・・ロイドさんではなく?」
イスカの口から意外な言葉にケイトがつい聞いてしまう。
イスカはフルフルと首を振った。
「フェリルは魔法豊富ですからね~。
繊細な魔法も使えるのですが・・・」
「・・・あの性格」
「活発で元気な子でして・・・。
そのー少々、細かな作業よりも、大きく大胆な行動を取られる子でして・・・」
「端的にいって・・・大雑把。
細かい作業をするのが嫌い・・・」
「なんか・・・以前にも似た様な事をどこかで聞いたような・・・?」
「そう・・・?」
「まあ、あの子もちゃんと仕事はこなしてくれるので心配は無いと思いますよ」
「ちょっと~!
私の事を勝手に雑でいい加減って言わないでくれる!
ロイドと違って私は広範囲専門なのよ!
チマチマした作業は性に合わないだけよ」
フェリルが魔法を放ちモンスターを次々と倒していき、その合間にイスカ達の会話に加わっていた。
「大体、障壁があるって事は被害を抑える構造の魔法を作っていることは分かっているし、問題ないって判断しただけよ」
「はんっ、どう・・・だか!」
ロイドが刺客を倒しながらフェリルの言葉に反対する。
「この前のだって、本当は一気に大規模魔法で片づけた方が楽って言ってたじゃねえか」
「その時その時で判断してるだけよ。
そんな事も分からないの!」
「分かってたまるか!
お前のせいで何度、後ろから危険に晒されたと思ってるんだ!」
「勝手に突っ走って、前に出て行くのが悪いんでしょ!」
「・・・あんな調子で大丈夫なのですか?」
「ああ、いつもの事です。
気にしないでください」
「ああ見えて、本当は仲間を信頼していますので。
あれも一種のお互いを認め合っている心の触れ合いの様なものです」
「・・・仲良し」
「「誰が!!」」
「・・・」
お互いを指差し否定しあう2人にどう反応したらいいのか困惑するばかりのケイトだった。
「ケイトちゃんが心配です~」
「大丈夫だと思いますが・・・?」
「いえ、メルムさん達のご迷惑をお掛けしていないか~・・・」
「それこそ心配ない。
あそこにはもっと狂暴で粗野な者がいますからね」
「ディック」
「おっと、これは失礼しました」
「はっはっはっ、まあ元気があっていいじゃねえの。
俺のトコの連中はそういう元気よさが無く、冷めてるからな~・・・」
チラッと弟子達を見るトウジロウ。
「・・・もしかしなくても私達の事ですよね?」
「分かってて言ってんだよ」
「はぁ・・・そもそも、私達の所は先生1人がその元気担当の様な位置づけですよ」
「なに!?」
「僕達が一歩引いた立場で物を考え対応しようとしているのは、別にそうしたいからではありませんよ?」
「先生が、お1人で色々と勝手無茶な行動をするから私達はそれに振り回されて・・・その結果、こんな冷静に対処しなければならない状況が作り上げられたのですよ」
「その事を先生は・・・も・ち・ろ・ん。
・・・お分かりですよね?」
3人の弟子たちの無言の笑顔の圧に一歩後ずさるトウジロウ。
「し・・・知らなかったです~」
テトも短い付き合いで、大体メンセイテンの冒険者パーティの雰囲気は割と物静かに行動していくメンバーだと思っていた。
「(し・・・知らなかった~・・・)」
同じく1人。
当の本人だけが全くその事に気付いてはいなかったが。
「ん?どうしました?先生」
カレンの笑顔に凄味が増し、知らなかったとは言えない状況に立たされる。
目線をどこか誰もいない方向へと目を向け、ダラダラと汗を流すトウジロウ。
「・・・はぁ・・・ホント、人の事言えませんでしたね」
カレンが先ほど勇者達にあれだけ偉そうに言い切った事を思い出しトウジロウに言う。
「あ、ああ・・・あれは、あの時は無駄死にをさせるわけにはいかなかったからで・・・」
「分かってますよ。
先生が意外と面倒見が良いことくらい・・・」
「・・・」
何ともむず痒くなるのか、トウジロウは頭を掻き適当に周囲へと視線をやった。
「・・・ふふふ。
良い師弟関係ですね?」
「まあ、こちらとしてはもっとしっかりと自分の立場も考えていただけるとありがたいのですが・・・」
「それでも・・・良いパーティです~」
「・・・そちらはどうなんだい?」
「私達・・・ですか?」
「以前から組んでいるようですし、それなりに仲も良いのかと・・・?」
「うーん・・・どうなんでしょうかね~?」
「違うのですか?」
「私とケイトちゃんは~、昔からの付き合いで、教会の孤児として一緒に過ごしていた仲なのですよー。
・・・ただ、ボールドさんは教会の本部から派遣されて私達と組んだ方なので、組む前にどんな仕事をしてたのか~、とか。
どんな理由で教会の仕事に就いたのか~、とか、知らないんですよ」
「・・・その辺りにまで入ってほしくないのかもしれないな」
「たぶん、そうでしょうね。
誰にだって過去はあります。
土足で踏み込んでほしくないのでしょう」
「はい~。
ですから、私もケイトちゃんもあまりその話題には触れない様にしているのですよ」
「ま、言いたくなったら自分から言うだろう。
もしくは必要に迫られたら・・・」
トウジロウの言葉にテトが反応した。
「迫られたら・・・ですか?」
「あいつは合理性を重視するタイプだ。
おそらく、仕事に関してはその様に感じた。
あくまで個人としては分からねえが・・・もし、それが仕事の上で必要な事なら、おそらく話してくれるだろうよ」
「・・・出来ればそういった話し方は避けたいですね~」
「はっはっはっ・・・それでいい」
トウジロウは笑って、この話を切り上げた。
「・・・先生」
「・・・何だろうな?」
不自然な歩き方や、ゆっくりと近づいて来る数人のヒトを目撃してトウジロウは止まった。
「逃げ遅れて隠れ続けていた人達でしょうか?」
「いえ・・・それはないでしょう」
「カレンに同感です。
この数日、ここを占拠した特殊モンスターが無差別に人を襲う事例はありませんでした」
「先ほどの襲撃者・・・とは違うのでしょうか~?」
「関係性は分かりません・・・ですが・・・」
「ああ。
なんだ?このマナの流れ方は?
・・・いや、止まってるのか?」
トウジロウは目の前の集団から、生きている生き物独特のマナの流れを感じなかった。
「・・・ゾンビ・・・とは違う気がします~・・・」
テトも探り、感知した後、杖を構え戦闘の態勢に入った。
「では生きているヒト・・・でしょうか・・・?」
「分からん・・・油断するな。
さっきまでの奴らと違ってマナの量が異様に小さく感じる。
・・・・・・だが」
「はい、あの古城の吸血鬼と似て濃度が一般人よりも確かに濃いです。
それに・・・何か濁っている?・・・混ざってるの?」
「安定していません。
こんなヒトいる方がおかしいです」
「確かにな・・・・・・止まれ・・・。
お前達は何者だ?」
トウジロウが代表し前に出て、ゆらゆらと向かって来ている集団に話しかける。
「「「・・・・・・」」」
ずさ・・・ずさ・・・。
答えず真っすぐに進んでくる集団。
そして・・・あと数歩という所で立ち止まる。
「・・・」
トウジロウは腰に左手をやって鞘を親指で押して、少しだけ刀を抜く。
何時でも、対応できるように身構え抜刀の準備をした。
そんなトウジロウの行動に自然とカレン、チャルル、ディック、テトが、それぞれ自分達の立ち回り易い配置へと移動する。
「・・・もう一度だけ言う。
テメエらは・・・何者だ・・・?」
「・・・っ!」
集団の1人がトウジロウの話を無視しいきなり飛び込んで襲い掛かってきた。
ガキィ~イン・・・。
襲い掛かった男は反対方向へと飛んで行く。
「チッ、えれぇ硬えな。
いったい何で出来ている?」
「「「っ!」」」
男が吹き飛ばされた事を皮切りに次々と襲い掛かってくる集団。
そこに種族も年齢も関係なく混ざった集団が次々とトウジロウ達を襲い掛かってきた。
「「「・・・・・・・・・・っ~~!」」」
接触したトウジロウ達と集団との戦闘音を聞きつけ遠くからまたしても複数の集団が押し寄せてきた。
「っ!・・・何ですか、これは!」
「知るかよ!今は戦え。
殺しても構わん」
「ちょっと先生!」
「見て見ろ!」
チャルルがトウジロウを咎めようとしたが、トウジロウが顎で指した先。
そこには首が寸断されても関係なく体だけで襲い掛かってくるモノがそこにはいた。
「ゾンビの部類を遥かに超えて不気味だな」
「ひえ~、あ・・・頭が・・・」
ゴロゴロと転がってきた首に驚くテト。
「油断するなよ。
一気に叩き斬れ。
こいつらさっきの特殊モンスターよりもよっぽど頑丈だ。
手加減するとこっちが死ぬぞ!」
トウジロウ達が未知の存在と相対している頃・・・他の所でも。
「チッ・・・くそ、硬え」
「燃やせば・・・って、本当に燃えてるの、コレ!?」
ロイドは硬さに苦戦し、フェリルは燃やされてもほとんどダメージを受けず、前に進んでくる集団に戸惑っていた。
「倒せないわけではありませんが・・・」
「うん・・・倒すのが一苦労」
ケイト、イスカが共に同じ考えに至り悩む。
属性によるダメージが思っている以上に相手には届かず、物理で対処するしかなかった。
「カイル君、これは・・・!」
「ゾンビではありません。
聖属性は全く効果がありませんでした!」
「・・・という事は・・・ヒト・・・?!」
「・・・違う」
メルムの驚きの声を出すが、観察したイスカが拒否した。
「ヒトっぽいなにか・・・」
「どういう事、イスカ?」
「分からない。
だけど・・・人が持つマナの流れが全く感じない。
そこにマナはあるのに・・・流れが感じない」
「流れ・・・マナの流れ?」
カイルはイスカの言葉に疑問を持ち、じっくりと襲い掛かる集団を観察した。
マナを視覚的にも観て相手の持つマナの性質を観察するカイル。
「・・・これは人であってヒトではない」
「どういう事よ?」
「彼らには人としての人格がありません。
いえ、個人という性質に現れるマナが魂が無いのです」
「はあ!
ちょっと待ってよ現にそこに」
「あそこにいるのは人だった存在です。
マナだけが残り、本来の魂に宿る人格が・・・無いのです。
彼らにはもう・・・個人というものは存在しません。
ただの傀儡・・・生身の人形です」
「生身・・・!?」
ケイトがカイルの言葉に衝撃を受ける。
それはメルム、フェリル、ロイドも同じだった。
「だったら、ただの人形がどうしてこんなにも硬え。
それにでたらめな強さなんだよ!?」
「無理やり何かをしたのでしょうね。
どういう仕組みなのかわかりませんが・・・とにかく、今はこのヒト達を倒しますよ!」
メルムが指揮し、全員がヒトだった存在と戦っていた。
「・・・何なんですかね?
こいつ等は・・・」
「今は先に倒しましょう。
どうやら見境ないようです」
ゾッドの言葉を受けテスが答えながらチラッと別の方向を見た。
そこには、襲撃者とモンスターに戦いを挑んでいるヒトだった存在がいた。
異様な硬さと強さで、モンスターすら苦戦し始めていた。
襲撃者は撤退しようとするが、どこにいたのか周囲から次々と湧いてくる傀儡に囲まれ。
殴り、蹴られ、喰われ、殺されていく。
「・・・ゾンビではないけど・・・いったい彼らは・・・?」
「ヘレン、プリム。
終わったか!」
ヘレンとプリムがゾッドの言葉に振り返り、すぐに戦闘に参加した。
「・・・お待たせ」
「少し時間が掛かった」
ヘレンとプリムが先ほどまでいた所には若い男が空を見て倒れていた。
槍は壊され、服もボロボロ。
周囲の地面や壁には無数の切り傷や焼け跡などがあった。
「(・・・どういう・・・事だ?
あの時より・・・もかなり強くな・・・っている・・・)」
ほとんど意識も薄れている中で男は青い空を見上げていた。
そして・・・フと自分のボスが言っていた事を思いだした。
『突破者っつうのは魂を高次元へと上げる。
何故そんな事が起きるかまでは知らねえが、上がった奴は決まって分かることがある』
『何です?』
『それはな・・・』
昔、何気ない会話で聞いた記憶だった。
「・・・『高位になれば世界が変わる』・・・」
始めは強くなれば見ている景色が違って見えるのは当たり前だろうと、流していた。
しかし、今は・・・。
「(なるほど・・・感じる、知覚する・・・認識する世界が変わって見えてしまうのですね)」
自分の中でようやく何かが分かってきたようだった。
「・・・だから・・・あなたは、いつもつまらなそうに生きていたのでしょうか?」
誰に言うでもない、自分の中の理解を深めるために出てしまった言葉だった。
「・・・あなたに死なれては困ります」
「?・・・どうし・・・て?」
テスの言葉が聞こえたと同時にプリムの出した召喚獣が男を加え、テス達の傍まで引きずる。
「私達は敵対する者全てを殺しに来たわけではありません」
「ん」
「それに・・・あなたには領主の子供達の居場所を教えてもらいますので勝手に死なれては困るのです」
「ははは・・・そのためだけに・・・生かされているのですね・・・」
「?何を勘違いしている?」
「?」
「言ったでしょう?
無意味な殺しはしないと。
どんな理由があるにしてもあなたには私達が全力を持って生かして連れて帰りますよ」
「君達は・・・勇者か何かか・・・?」
「違う・・・ただのお人よしの冒険者」
「自分で言うのもなんですが・・・そういう事です」
「・・・」
驚いていた男は、ゆっくりと表情を柔らかくして微笑む。
「・・・変わった連中だ」
テス達の行動は若い男の中にあった冒険者という常識を、ほんの少しだけ改めさせるだけの印象を与えた。
「ヤハト!」
「あいよ」
ツェーゲン達はシェイミ―とキルシュの救出を優先して、城へと乗り込んでいた。
サックの力とツェーゲンの索敵で周囲を探っているが思った以上に広いつくりをしていたのか現在、地下へと続く大きな階段を下りていた。
そして、ここにもヒトだった存在・・・傀儡がいた。
「・・・なんなんですの~、このヒトは・・・」
「個性・・・自分という人格を失った存在・・・」
「サック?」
「・・・こいつ等はもはや人ではないと?」
「人だった存在が何らかの理由でほぼ死人のようになった成れの果て」
「・・・つまり・・・どういう事?」
「人ではないのか?」
「分からないけど・・・たぶん、ここから人として戻ることは無いと思う」
「人格を失って・・・そこに個人となる個性も無い。
あるのはただの生きた人形・・・確かにほとんど死人だな。
いや、生きていると考えるのも怪しい存在だな」
「誰かに操られている・・・傀儡か・・・」
ツェーゲン、ボールドが倒れた、元人だった存在に考えを巡らせる。
「モンスターがいない代わりにあの男達の仲間が現れたと思いきや・・・今度は人形かよ」
「きっとあいつが何かしたんだわ」
「ええ。おそらくあの老人かと・・・」
シャーリィの言葉にノイシュも同意した。
「ノイシュ、お前達の方はどうだった?」
ツェーゲン達が人がいる場所を進んで捜索する代わりにノイシュ、トリシュ、ベーデルは念のために無人の部屋を調べさせていた。
「やはり、予想通り手掛かりになるものはありませんでした」
「同じく。
1階のツェーゲン様が指示した部屋には何も・・・」
トリシュもノイシュと同じく首を振って答える。
「私の方も同じですね・・・とすると・・・やはり」
ベーデルも現れツェーゲンに告げた後、階段の先を見る。
「2階、3階の可能性もある、もしくは離れの塔に専用の部屋に閉じ込められている可能性もあるが・・・今は、コッチが先か・・・」
異様な雰囲気を感じさせる地下通路に続く階段。
「・・・誰かがいると考えた方がよさそうね」
「もし、あの子供が戦った男なら・・・私を置いて構わん。
先に領主の子供達を連れてこの国を退避しろ」
「ダメ」
「シャーリィ」
「ダメですわ」
「ああ。俺達は家族だ。
ここでお前だけを置いて行くわけにはいかねえよ」
「しかし・・・」
「俺が残ろう」
ボールドの発言に一同が注目する。
「この中で、おそらく突破者は俺だけだろう。
どこまでやれるかは分からんが時間は稼ぐことが可能だろう」
「・・・いいのかよ?」
「まあ、勝てないと判断したら撤退し、仲間の下に合流する様に努めるだけだ。
聞いた話だと、テス達を殺すつもりは無かったんだろ?」
「はい。・・・見た限りの印象では・・・」
「では、それに賭けるとしよう」
ボールドはそこで話を打ち切り、階段を下りていく。
「(ど・・・どうするの・・・?!)」
焦ったシャーリィが他のメンバーに話を振る。
「(あの男の力を頼ろう。
あの男が参加するなら、私も含めればまだ時間と生存率は上がる)」
「(おいおい・・・ったく。
だったらお兄さんも参加する。
お前達は子供達を見つけたら救出と同時にすぐに撤退するんだ。
もし、子供が重要なら俺達を倒す以上にお前達を追いかけ奪いにやってくるはずだからな)」
「(ちょっと待ってください!
それでは・・・!)」
ツェーゲンは手を出して言葉を遮り、首を振った。
「(これ以上割くのは危険だ。
残るとしたらボールドとヤハト・・・それと俺だ。
どちらにとっても危険だ。
特に子供を連れての脱出となるとより難しくなる。
これが最善だろう・・・)」
どんな敵が他に待ち構えているのか不明な為に、人員が限られる中で戦える最高戦力を割いてあたるしかなかった。
「・・・」
悔しそうにするシャーリィをサックとクラルが肩に触れ慰める。
「私達に出来ることをしましょ・・・ね?」
「・・・・・・わかった・・・」
暗い通路。
一定間隔で光が走るように何度も往復し、通路を少しだけ明るくしていた。
通路を歩くこと少し・・・そこには大きな扉があった。
城の建物と違い構造に別の時代を感じさせる扉だった。
「おや?・・・どなたでしょう?
こんな所に見知らぬ人が大勢来るなんて。
この通路には人形を置いていたはずですが・・・にゅふふふふふ・・・」
【クリス】5才 人間(変化)
レベル 23
HP 279 MP 265
STR 112
VIT 101
INT 107
RES 102
DEX 109
AGI 120
LUK 63
『マナ性質:レベル 2 』『強靭:レベル 2 』『総量増加:レベル 6 』




