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転と閃のアイデンティティー  作者: あさくら 正篤
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125 自分本位な者達

「おいおい、まだ始めねえのかよー」

「作戦でもう少し待ってっつてもよー。

 そんなことする必要ねえんじゃねえか?」

「そうだよな?

 俺達がいるんだし・・・。

 もしかして、ここに来てビビっちまったとか?」

「噓でしょ~!

 せっかくここまで来てんのにー。

 アタシ、ちょっとイイトコの貴族の男と飲みに行く所を断られたのよ?

 強制参加で・・・!」

「私だって、今日はのんびり過ごすはずだったのに~。

 いい加減サッサと始めて、終わらせればいいじゃない?」

「そうよそうよ。

 何を待っているのよ!」


 一部の冒険者から戦争開始の合図が始まらない事に痺れを切らし始めていた。


「ですからギルドからの通達で、さらなる援軍が来るまで待ってくださいとお願いされたはずです。

 ここに、来る前に皆さんにも連絡が入っていたはずです」


 まとめ役の男が、我慢の出来ない冒険者達を宥める。


「・・・。

 俺達はこんな時の為に呼ばれた選ばれた者達だ。

 そんな俺達が今が絶好の機会だと言っているんだ。

 何故、そんな事が分からない・・・!?

 ギルドの頼んだ増援より先に、現場で、今見ている光景を・・・君はどう感じるんだ?」

「そうだそうだ、勇者様の言う通りだー!」


 1人の男が囃し立てると、周りも同調し騒ぎ出す。


「ギルドは昼に開始するつもりだが・・・一刻も早く、この国の人々は安心と、自分達の町を取り戻してほしいと願っているはずだ。

 君はその事をどう思っている?」

「だから、サッサと始めろ、というのでしょうか?

 ・・・僕はこんな時だからこそ、慎重に期して挑むべきと考えます。

 あなた方も見たでしょう?

 連絡にあった特殊モンスターの話を。

 そして、ここから見たはずです。

 その異様な姿を、自分達の目で・・・!」


 指揮官はこの場にいる者達、全員に聞かせる様に話す。


 指揮官の男の言葉に頷く者が半数、黙しているが理解している者が少数。

 しかし、勇者一行が来たことで、攻める姿勢を強めた事により残りも者達の勢いは止まらなかった。


「現場を見て判断するのだな。

 お前達は慎重すぎる。

 それで今まで生き残って、今の地位まで上り詰めてきたようだが・・・。

 これ以上の議論は無い。

 更なる上を目指し、本当の意味で世界を救う事が出来る者は、ここで前へ進める者だけだ」

「その通りだ。

 臆病者は黙ってそこで待っていろ!」

「は~あ、やっと始められるのね~。

 サッサと終わらせて帰りましょうよ?」

「は~ですねー?」


 ゾロゾロと去って行く勇者一行と賛同して冒険者達。


「・・・あれで上位なのか?」

「危険を理解して、なお飛び込もうとする勇気は素晴らしいですが・・・」

「いくら何でも無鉄砲すぎますわ・・・」


 残った者達も、去って行った勇者達の行動には頭を抱えそうなほどだった。


「・・・どうするんだ?」


 指揮官の仲間が今後を聞いた。


「仕方ないよ。

 元々、そこまで足止めできないだろうって分かっていたし・・・。

 それでも、少しは時間を繋いだと思う」

「援軍が強力だから待てって話だったよな?」

「うん・・・。

 何でも今回のモンスターと直接戦った者達が来てくれるって話だよ。

 って、君も見ただろ?」

「いや~。

 俺、ああいう資料とかって見ると眠くなっちまって・・・スマン」

「はぁ・・・」


 ため息を吐いた指揮官に別の者達が質問する。


「連絡にあった話、お前は信じるのか?」

「何度も復活するモンスター。

 しかも、かなり強いって話だし」

「下手したらAランク相当だという話だよね?

 ちょっと嘘くさいけど・・・」

「う~ん。

 それがどうも本当の話っぽいんだよな~?」


 1人の男が発した言葉に注目が集まった。


「どうしてそんな事が言い切れる?」


 それは尤もな話だ。

 他の者達も頷いたりと、同意見だった。


「何でもその冒険者は``エルフェンローゼ、メンセイテン、アスリカの鳳光、砂丘のダムガ``。

 この4組が関わっているらしい。

 今ここにいる者達の中には直接会って、手を組んだことのある者がいるなら分かるはずだ」

「まさか・・・!」

「あいつ等が!」

「なるほど・・・だから・・・」


 何名かは知っていたようだった。

 ほとんどの者達も名前だけは有名だから当然知っていた。

 彼らもまた高ランクの冒険者。

 世界に行けば、そこそこ名が知れ渡っている者達だ。


 しかし、直接会い、仕事で協力をした中なら、ほんの少し依頼で共闘しただけでも・・・分かるものがある。

 お互いの力が、一般のそれを遥かに画している存在同士なら、いやでも理解してしまうのだから。


 ここに集まった者達の反応から、何かを察した他の者達も、事の深刻さが理解できてきた。

 自分達の思っている以上に危険で、深刻な状況に今、立たされていることに・・・。


「・・・あのバカ(勇者)共に言わなくていいのか?

 そんな大事な事」

「言ったさ、昨日の晩、到着して会議が行われる前と後に・・・。

 それでも奴らは``小物の存在など知らん。

 俺達は国の懇願を聞き届けて動いたまでだ。

 足を引っ張るなら容赦はせん``と言って聞く耳を持たなかったんだ」

「ああ、あの態度から考えると簡単に想像できそうな感じだ」


 指揮官は肩を落とし、仲間が同情し肩を叩いた。


「しかし、どうする?

 このまま見殺し、というのは・・・」

「仕方ないんじゃない?

 忠告も制止も聞かないんじゃ、自分自身で手痛い目に遭って気付くしかないよ」

「・・・だけど、それじゃあ可哀そうよ」

「だったら、助けに行く?

 止めときなさいよ。

 たぶん、ランクが上がって自分を思い上がっているだけの馬鹿よ?

 そんなの助けてちゃ命がいくつあっても足りないわ」

「確かにな・・・」


 1人の女の言葉に賛同する残りの者達。


「助けに行きたい気持ちは分かる。

 だけど、それは君自身も考える必要がある?」

「私自身?」

「大抵、俺達冒険者って我が強いじゃない?

 そしてそこに、レベルがすぐに上がってステータスがぐんぐんと伸びていくと次第に傲慢になる奴も現れるわけ。

 君はまだ冒険者になってまだ浅い方なのかな?

 この拠点を守るくらいだからCランクの子かな?」

「は・・・はい・・・」

「なら、仕方ないか。

考えてみなよ。

 低ランクでも偉そうにしている奴っているでしょ?」

「ええ・・・まあ」


 心当たりがあるのか・・・ハッキリとは言うが、何かを濁す女性冒険者。


「ま、低ランクなんて、自分を腐らせて他人に当たる奴らか新人達を見下したい、そういった傾向にあるけど・・・。

 高ランクになると違うんだ」

「違う?」

「強くなった分、自信が過信に変わるんだ。

 しかも気付かない内に・・・」


 指揮官が話に入る。


「過信がいつの間にか、自分は優れていて、俺の行動は正しい。

 間違っているのはソッチだって考えが出てくるようになるんだ」

「なまじ自信が付き始めると、自分のプライドが高くなった分、ちょっとの事では人の事なんてどうとも思わなくなる。

 これが良い方向に向いてくれるなら構わないんだが・・・そんな都合の良い話は・・・無い」

「人格を変え、態度を変え、人との立場を変える。

 勝手に相手の評価を下げて見るんだ。

 まあ僕達も無意識にやってしまっている部分が知らず知らずにあるんだけど・・・」

「それは誰にでも起こる考え方だ。

 しかしよ・・・傲慢になった奴のその態度は顕著だ。

 分かり易い例が、不正を働きまくる貴族とか権力のある者だ」

「・・・ああ」

「分かったか?」

「はい・・・」


 その顔には、誰もが一度は経験したことが少なからずあるといった顔だった。

 他の者達も当然知っている。


 ここに集まった者達はそれぞれがランクが高いメンバーで集まられているからだった。


「それでも助けた方が良いという君の主張は理解できるよ・・・?

 だけど、それでもあえて言わせてもらうね?

 ・・・今回のまとめ役は僕が務めている。

 その立場として言う。

 これ以上、無駄に戦力を分散させ減らすことは得策ではない。

 よって、ギルドの連絡にあった援軍が来るまではこの拠点にて待機を命ずる」


 指揮官の言葉に誰からも反対意見は出なかった。


「後は・・・まあ、なんとかするしかないよねー・・・」

「はは・・・閉まらねえなあ・・・」

「仕方ないよー。

 元々、僕にこんな役向いてないんだから~」


 所々から笑い声が聞こえてくる冒険者の拠点だった。




「にゅっぷぷぷぷぷ・・・バカが来ておりますね~」


 帝国の首都アルヴォーク。

 その首都にある王城。

 そこの屋上から首都の外を眺め、楽しそうに笑う小太りの老人。


「はあ~・・・なっんか、数人ほど、いやもうちょっといるっすか、が攻めてきているようですね。

 何でっすかねー?

 一緒に攻めてくれば良いと思うんすけど?」

「たぶん、戦力を小出しにして手の内を探ろうとしているか、単純に考えなしに突っ込んでいるかだろうな」


 小太りの老人のすぐそばに若い男女が同じように首都の入り口付近を眺めて話し合っている。


「にゅふふふふふ、たぶん後者じゃないでしょうかね~?

 あの無駄に目立つ鎧を着た者を知っていますよ。

 あれは勇者ですね。

 そのすぐそばにいるのは関係者。

 にょっほほほほほ、どうやらこの戦争を厄災と国は判断したようですな~?

 勇者御一行が攻めてきましたよ~?」


小太りの男はそれは楽しそうに小躍りしていた。


「あれが勇者っすか~・・・。

うーん、見た目はそれっぽい感じですが、強いんすか?」


 ほとんど小粒過ぎて、その中の1人を見つけるなんてのは難しいはずなのに、女は平然としていた。

 それは小太りの老人も同様だった。


「・・・よく見えますね?

 私にはさっぱりです」

「おや?

 あなたなら魔法で遠くを見ることも可能だと思いましたが・・・」

「今は、少し温存して調整中です。

 あなたの話とウチのボスの話が本当なら・・・あの者達が来るのでしょう?」

「・・・前回はコテンパンにされたっすからね~・・・。

 今度はコッチが叩きのめす番っす」


 男の言葉に女が気合いを入れる。

 前回のテス達への襲撃。

 半分は成功と言えるが・・・半分失敗。

 途中で退避しなくてはならなかった若い男女はその屈辱が、当然残っていたからだ。


「・・・あれは私も失敗しましたよ~。

 まさか、最後に来たあのガキが宝石を持っているとは思っていませんでしたからね~・・・」


 爪を噛みギリギリと悔しそうにする老人。


「・・・それの意味が私にはよくわかんないんっすよね~?

 ボスもあんたもそんな子供に逃げ帰ったってのが、いまいち・・・」

「に、逃げたわけではないぞ・・・!

 あれは、君らのボスが勝手に判断しただけです!」

「・・・その当たり、こちらもいまいち理解に苦しむのですが・・・。

 ボスの持っていた斧の破損から考えて、ウソというわけでないのは確かなようですね」

「うぬぬぬぬっ。

貴様達のボスがあそこで撤退さえしなければ・・・


悔やまれるのか唸る小太り老人。


「それも、今日で決着がつく・・・」


そこに現れたのは王冠を被った男だった。


「これはこれは・・・。

もういいんっすか?」

「ああ。

隠れるのは終わりだ。

これからの戦況を少しは確認して置かなくてはな」

「そんなに、危険な相手があの中にいるとは思えないんすけどね~」

「いつも、予定が狂う時は些細な見落としからだ」

「あいっ変わらず、慎重な男だな~」

「あ、ボス。

お帰りなさ~い」

「もう、宜しいのですか?」

「ああ。

錆び付いた感覚を取り戻すのに、チッと時間が掛かっちまったが・・・これであの小僧と戦える」


気軽に話すのは若い男女のボス。


そして、その前を歩き女が気持ち畏まった人物は・・・帝国の元王ゲネイスト・メル・バルであった。


しかし、この国を統治していた最近までと違い、その見た目は明らかに若かった。


何をしたのかボスと呼ばれる元英雄と元王は30代前半の姿に変わり果てていた。


「最初見た時は兄弟か親戚の何かだと思いましたっすよ~」

「確かに・・・。

少し、といってよいものではありませんね、もはや・・・」

「仕方ねえだろ?

元々、自分の限界を突破したのは50になってからなんだぞ?

再び突破したのは、更に100年後。

そりゃあ感覚も狂うっつうもんだよ」

「私もそうだな。

大体コイツと同じ時期だったかな・・・?」

「・・・。それにしては・・・体型。

あまり変わりませんでしたっすね?」


女は太った男のお腹周りをまじまじと観察して感想を述べた。


「おいおい、ちゃんと見ろよ。

前回よりも3,4周りは綺麗に減ったはずだぞ。

たった数日でここまで持ってきたんだ。

俺の頑張りをちゃんと褒めろよ」

「どこがだ。

お前は元々太っていただろう。

少し昔に戻ったぐらいではそう変わらんぞ」


太った男の言い訳に元王が昔の話を持ち出し否定する。


「聞きたかったんすけど。

王様とボスっていつから知り合いなんっすか?」

「ん?・・・何時だった?」

「・・・ずいぶん昔だな。

確か、お前がどこかの酒場で潰れていた頃に私が介抱してやったのが最初だったか・・・?」

「あまり今と変わらない様に聞こえますが・・・」

「ガッハッハッハッハ・・・。

まあ人間、そう変わらんってこった」


太った男は肩に修理してもらい綺麗に磨き上げられた斧を担ぎ笑った。


「つまり、昔からの知り合いってことっすよね?

 ああ~、だから今回の依頼にほとんど確認することなく、すぐに受けるって言ったんすか・・・」


 頭を掻きに罰が悪そうに答える男。


「・・・こいつには借りがちょ~っとばかしあってな。

 断ることが出来なかったんだよ」

「はぁ・・・何となくですが、そんな気がしたんですよ」


 若い男がため息を吐きながら納得した。


「っで?

 ゲネイスト・・・お前が欲しがった宝石は渡したが・・・あんなもんどうするつもりだ?」

「お前も気付いていると思うが我々の限界突破は当然、回数を重ねるとどんどんその条件が難しくなる。

 その結果、何も成長も変化も起きない、停滞の状態だけが長く続く」

「まあ、そうだな。

 世界でみりゃあもっと上の化け物がいるが、そいつらと比較しちまうと俺達の限界値越えなんてのはあまりねえに等しいかもな・・・」

「いくつかの条件が突破するためには必要だというが、それが分からん。

 だったら、それだけ長い年月を掛けて溜め込んだ色んな念が入ったマナの宝石を使えばその条件を無視して突破が可能になるのではと・・・そちらから話があってな」


 ゲネイストは小太り老人へと視線を送る。


「ええ、ええ。

 一応そのはずですよ?

 ただ・・・あなたがどれほどのマナを溜め込めるか、保有する事が可能かは不明ですがねー」

「あの宝石にはそれが可能なのか?」

「ええ、それは間違いありませんよ?

 あなたもどうです?

 元王と同じくあなたも2回は突破されているそうですし・・・」


 老人は太った男に聞く。

 まるでついでの勧誘とばかりに。


「・・・それも考えてるが・・・。

 そりゃあ、後の話だ。

 第一、また限界を超えたとして、今度はあんたみてえな得体の知れねえ存在に目を付けられ続ける人生なんて・・・俺はまっぴらだからな」

「・・・確かに、あなた方よりも突破した回数が多い者。

 限界値そのものが高く才能に溢れた者や選ばれた者がいれば、そちらに注目がいきますがね~。

 それでも・・・その力を得てなお、欲するのが本来の生き物(・・・・・・)の在り方のように思うのは私の勘違いでしょうか?」


 ニターっと口元が三日月のように、大きく弧を描く老人。

 太った男はそれを真意を探る様な顔で見てから、肩を落とす。


「生憎、俺も予定が入っている。

 ここに来るガキを倒せたら、俺にはもう必要ねえ。

 限界を超えるにしてもやる気があった時にでも自力で何とかしてやるさ。

 ・・・だが・・・もし、あのガキに勝てない様な事があった時には、生き残っていたらまた誘ってくれ」


 太った男は踵を返し城へと戻って行った。


「あ、ちょっと待ってくださいよ~」

「やれやれ」


 若い男女も同じく城の中へと戻って行った。



「・・・それで・・・確認したいことがございます」

「なんでしょう?」


 ゲネイストは老人に尋ねる。


「宝石が私を更に高みへ昇らせて頂ける事は分かりました。

 あなた方がおっしゃるなら間違いないでしょう」

「ええ、ウソは付いておりませんよ?」

「疑ってはおりません。

 ただ・・・・・・どうして、あのような子供を攫ったのでしょうか?

 何か理由がおありなのは重々承知しておりますが・・・事情をお聞きしても?」


 ゲネイストは老人の横まで行き、屋上から攻め込んできた勇者達を眺めていた。


「なあにちょっとした宝石の使い方の実験・・・の様なものですよ。

 あなたの器の強制昇華と同じくちょっとした強制を働かせるための確認。

 そのためにここへ連れてきたのです」

「詳しくお聞きしても?」

「残念ながらそこまでは・・・私にもその事を話していただいてないので何とも。

 それに・・・私は駒の1人の様なものです。

 それを離す権限を持ち合わせてはおりません」

「そうですか・・・それでは仕方がありませんね。

 もう1つ確認を。

 この戦いで宝石を手に入れた暁には」

「ええ、話は通しておりますよ。

 私の主も構わないという許可を得ております」


 ゲネイストは老人に深々と頭を下げた。


「それを聞けて安心しました。

 感謝します」

「・・・あなたも変わった方ですねー。

 この国の王に君臨しながらも、それをあっさりと放棄なさるとは・・・」

「王に興味はございませんでしたから」

「では、なぜ今まで?

 誰かに王位を渡せばよかったではありませんか・・・」

「そうですね・・・しいて言えば、使える時の切り札の1つと考えていたのです」

「にゅ・・・にゅはははははは・・・まさか、そのためだけに?」

「はい。

 あいつも申しておりましたが、私もあいつも似ております。

 自分で言うのもなんですが、我々は未だ冒険者・・・の様な性格なのかもしれません。

 王になって長く、自分から世界を、強さを捨てて、統制に身を費やすことになった後悔。

 かたや・・・かつては英雄とまで上り詰めながら、世界に絶望し、余生を好きに生きる事に謳歌する者。

 どちらにも言えることは一度、冒険を下りてしまってからは、その機会に恵まれなかった事です」

「・・・。

 好きに生きた方は何時でも帰ってこられると思うのですが・・・」

「肉体より精神が・・・心が一度落ちると、いつの間にか腰が重くなり、上げ辛くなるのです。

 仲間との冒険に楽しさを見いだしてしまった結果の1つでしょうか・・・。

 どうしても、あの時の仲間でないと・・・。

 いえ、仲間だったからこそかもしれせんね」

「・・・その仲間達は?」

「死にましたよ。

 殺された者、寿命で死んだ者、病で亡くなった者。

 色々ですが・・・一番は・・・限界突破を出来たのがあいつと私だけ、という事でしょうか」

「なるほど・・・仲の良いパーティほど、身内が一気に別次元に高くなってしまうと、自分との格差で隔たりが出来てしまったと」

「冒険者というのは自尊心の塊の様な者が多いですから。

 今まで均衡していたバランス、あるいは分野において、下に見ていた者にあっさりと抜かれ、追いつけなくなると・・・途端に関係にヒビが入ってしまったりするものです。

 私の入っていたパーティも大人数だったために、その例には漏れず。

 気付けば徐々にバラバラになっていき・・・」

「最後には解散して・・・普通の生活を送るようになった者、別のパーティに入るか作るかして立ち上がった者と・・・なんとまあありきたりな」

「ええ本当にありきたりです。

 人が腐っていくには十分な時間だったのですよ」

「ふーん・・・」


 興味を無くした老人は踵を返し、城の中へと戻る。

 ゲネイストも同行した。


「今回、さらなる突破を願ったのは、自分達を捨てた者への腹いせですか?」

「いえ、違います。

 そんなくだらない言い訳ばかりして付いて来れなかった無能と一緒にされる生活には我慢がならなかったのです。

 私も奴も・・・もっと、更に上にいける才能があった。

 それを今度は邪魔させないためですよ」

「そこまでして、あなたが欲したいのが力・・・ですか?」

「ええ、力です。

 邪魔者を排除するためには力が必要なので・・・」


 老人はゲネイストの顔、正確には瞳を見た。

 暗く笑う顔、更にその瞳に映っているものは何もない真っ暗な混沌と化した貪欲な目だった。


「にゅふふふふふ・・・歪んでますね~。

 良いですよその顔。

 気に入りました」


 老人は楽しそうに笑いながら城へと入って行った。






【クリス】5才 人間(変化)

 レベル 23

 HP 279 MP 265

 STR 112

 VIT 101

 INT 107

 RES 102

 DEX 109

 AGI 120

 LUK 63

『マナ性質:レベル 2 』『強靭:レベル 2 』『総量増加:レベル 6 』

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