11 危機はいつも突然に
ざわついていた冒険者たちもギルド長、バルクが先頭を切って問題となる特殊モンスターの討伐に乗り出してくれたので安心したのか、その後はスムーズに担当や計画が話し合われすぐに出発となり門の外へと歩き出した。
その時、クリスは横を通り過ぎるバルクを間近で見た。
その印象は、遠くから説明されてたのを見た時より、獰猛で野性的に見え、それでいてもっと若く見えた。
(なんか、間近で見ると下手したら20代半ばでも普通に見えるなぁ。
これが限界を何度も超えた男なのか・・・・というか、本当に同じ人間か!)
むしろ若干人間であることを疑わしく思うクリスだった。
孤児院に帰ってきたところ、中が少し騒がしくなっていた。
「だからさぁ!オレ達も行こうよ、モルド兄ちゃん!」
「だめだ。
僕たちが言っても足手まといにしかならない」
「そうよ、アーシュ。
あなたはまだ子供なんだから今日はおとなしくここで待ってなさい」
(アーシュ、モルド、クレアさんか。
まあ聞こえた話から、行きたがって仕方ないんだろうけど)
「そうよ、アーシュ!
あなただってまだ冒険者になってないじゃない」
「ちゃんと冒険者カードだって持ってるよ!
オレだってちゃんと冒険者できてるだろ!」
「それは仮登録だ。
ミィナの言う通り、君はまだ正式な冒険者じゃないんだ」
「・・・そうかもしれないけど、オレだって冒険者としてこの町で仕事をしてるんだ!
それに、あんなにいっぱいケガや病気になって倒れた人がいるのに・・・町のために、オレは何もできないのかよ!」
「・・・・アーシュ」
「アーシュ、あなたのこの町の人たちを思う心はとても立派です。
でも・・・今は我慢してね?
それにもしここでアーシュが飛び出してもしものことがあったら、私もこの孤児院にいるみんなも悲しい思いになっちゃうから。
今回は諦めて、お姉ちゃんのお手伝いをして?
これも立派なお仕事よ?
・・・だめ?」
「・・・・・わかった」
クリスはタイミングを見計らい少しずらしてから孤児院の扉を開け、中に入った。
中には少し空気の重い感じが伝わってくる。
そこには向かい合う形で入り口前にアーシュ、モルド、クレアがいて少し離れたところに少し憤慨しながら両手を腰に当てたミィナが、その横を不安そうにするロークと成り行きを見守っていたシスター長がいた。
「ただいまー」
入ってきたクリスが声をかけながら前を向いた。
クリスを見たアーシュたちはすぐに別々の行動をしだした。
「クリス!おかえりなさい。
もうそろそろ夕飯だから手を洗ってきてね?」
「モルド・・・ほかのシスターや子供たちを呼んできて?」
「わかった。
ミィナ、ロークも手伝って」
「う、うん」
「・・・」
それぞれが奥へと向かっていく中、クリスとアーシュはふたりでたたずんでいた。
「アーシュ、ご飯だってさ、行こう?」
「・・・・ああ」
その後、普段元気なアーシュは食事中もずっと無口だった。
夜も更けりそろそろ眠る時間。
今日はケガ人の看病のためこれからクレアとシスター長は病院に夜勤に出るため支度を始めた。
「モルド。
私とシスター長はこれから病院に行きますのでここをよろしくね?
他のシスターたちもいるけど、あくまで子供たちの世話をしてもらってるだけだから・・・」
「わかってる。
もし何かあったら僕が何とかするよ」
「ごめんね。
こんな時にあなただけに頼ってしまって」
「ううん、気にしないで。
昔はクレア姉ちゃんもシスター長がいないときにしてくれてたから」
「あの時は神父もいたからだよ」
「・・・こんな時だからこそ、神父に帰ってきてほしかったんだけど」
「・・・そうね・・・。
でも大丈夫、モルドならやれるってお姉ちゃん信じているもの」
「ははは、なにそれ?」
「え~?、お姉ちゃん本当に信じているのに~」
「・・・わかった。
何とか頑張ってみるよ」
「クレア、そろそろ行きますよ?
準備のほうは大丈夫ですか?」
「あ!はい、シスター長。
すぐに行きます。
それじゃあ、モルドお願いね?」
「うん。
いってらっしゃい」
「いってきます」
モルドは入り口までついていきクレアとシスター長を見送った。
さらに夜は更け皆が寝静まったころ、こっそりと孤児院の裏口から出ていこうとする者がいた。
(・・・よし!
他の冒険者が戦ってるのに、ジッとなんてできるか!)
月あかりをちょっと避けるようにして暗い場所に移動して、町の入り口に向かおうとする影が一人いた。
その髪が薄くだが、きれいに赤く見える光を反射していた。
「モルド兄ちゃん!」
「どうしたんだ、こんな夜中に、みんな寝てるんだから静かにするんだ」
「・・アーシュがいない」
「?」
「アーシュがベットにいなかったの」
「え!」
「・・たぶん、冒険者が言ったモンスターを探しに行ったんだと思う」
「そんな!」
「まったく!
あれほどクレア姉ちゃんにダメって言われてたのに!」
「わかった。
僕はアーシュを探してくるから、ミィナとロークはおとなしく待ってるんだ!」
「モルド兄ちゃん、私も行く!
アーシュがどこにいるかモルド兄ちゃんわからないでしょ?」
「いや、ダメだ。
僕もクレア姉ちゃんと約束したから、君たちを外には行かせられない」
「そんなこと言ってるとアーシュがもっと先まで行ってるよ?」
「いや、でも!」
「・・・モルド兄ちゃん。
アーシュがどうやって町の外に出るかわかるの?」
「え?町の外に?」
「うん」
「・・・いや、わからない。
そもそも、今は門番の人が人数を増やして入り口を塞いでいるはずだ」
「入り口はね、でも別の場所に、私たちぐらいが簡単に抜けられる穴があるの」
「え!どこに!」
「門の入り口の近く」
「そんなところに・・・」
「ほら、ついてきて。
時間がないよ」
「あ!待つんだお前たちー」
アーシュを追ってミィナ、ローク、モルドが孤児院を出て行った。
さらに少し経ち。
「・・・ん、んん!
・・・はー。
今、何時だ?」
昼間のモンスター狩りで思っていたより疲れていたクリスはご飯を食べた後、すぐにお風呂に入り、誰よりも早く布団に入って寝てしまった。
「・・・まだ、夜か。
ということは数時間は寝たってことか。
・・・やけに静かだなぁ・・・」
こんな深夜に起きている人は限られてくる。
この孤児院で何か用事でもない限りこの時間に起きている人はいない。
(まあ、こんな中途半端な時間に起きたのは遭難した時以来か。
・・・ちょっと懐かしい)
そんなことを考えもうひと眠りとベットに入って横になろうとした時、フと何の脈絡もなく、あの現役真っ盛りのようなギラギラしたギルド長が頭に浮かんだ。
(限界を越えた人ってのはやっぱりすごいんだな。
・・・・そういえば、俺のステータスってどうなったんだっけ?
自分の目の前の表記には数値として出てるけど、この世界の鑑定で見たことはなかったな・・・・。
あ!すっかり忘れてたわ。
俺、クレアさんに調べてもらってなかった)
あの時は自分のステータスの低さに不安でいっぱいであったため、他のこの世界の人とどうしても比較をして調べてほしかったクリス。
その後、クレアに別の用事が入ったため、その場はお開きとなった。
さらに、様々な対策に時間を費やし、実践して強くなり、もうそのことに対する意識が薄れていたためにもうその話をクレアともあまりしなくなっていた。
(うーん、教会に水晶があったはずだから、自分で調べてみるか?
どうせ手を置いて体内のマナ情報とかを読んで調べるだけだし・・・あ!でも、ダメだ。
たしか、関係者にしか使えないんだったっけ?)
そうこの世界の鑑定はギルドは専用の板、教会だと水晶で調べるそうだが・・・。
何かの初期登録でもしたのか、その仕事に正式についている人でないと鑑定機能が全く使えない。
ギルドはギルドの、教会は教会の鑑定物でしか鑑定を使えなかった。
「・・・まぁ、物は試し。
出来なかったら出来なかったでいいか」
開き直り、さっそく行動とこっそりとほかのみんなが寝ているところを起こさないように静かに部屋を出て行った。
この時、最近使えるようになった体内マナの流れを極力、小さくして気配を消すように動いた。
この能力が使えるおかげでモンスターに奇襲しやすかったり、遅くなってしまってもクレアにバレない様にしながら食事テーブルについて、初めから居たと誤魔化すことができていた。
普段はクレアたちに誤魔化すために使わないようにしている。
あくまで、緊急時のみである。
(・・・ホントやけに静かだな?
人も虫とか色んなものが寝るとこんなに静かなんだな)
ほとんど明かりが見えない中を歩いて一階に下り、そのまま繋がっている教会の通路に向かい、教会の扉を開け、教会の講堂に入り、奥の教卓のところまで行った。
「確かこの辺りだったような・・・」
教卓のさらに奥のある小さな部屋、荷物がたくさん置かれている中を漁りだした。
「・・・・お!あったあった」
目的の物を見つけサッと手を乗せた。
「・・・やっぱり、発動しないか・・・
いや、試しにこの前は祭壇付近でやったから、そっちで」
そう、言うが早いか早速、行動開始。
祭壇前、教会の講堂に出たクリスは再び水晶に手を乗せた。
・・・
・・
・
「何も起きない・・・。
・・すー、・・はぁ。
ま、わかってたけどねー」
口ではそう言いながら、結構期待していたクリスは、まだあきらめていないのか体内のマナを上げたり、何とか水晶に読み込ませようとマナを送ってみるイメージで注いだりと試行錯誤していた。
その時、突然、孤児院側とは違う、教会側の正面入り口から誰かが入ってくる気配がした。
それに気づいたクリスは体内マナを隠し、祭壇と教卓の近く陰になり明かりの射し込まない場所に咄嗟に隠れ息をひそめた。
少しすると誰かが入り口のドアを強引に開け入ってきた。
そこからなぜか、先ほどより部屋に暗さが増し光が差し込んでいるはずなのに見える部分がほとんどなくなっている。
その中、ゆっくりとした足取りで歩く男がいた。
その男の足元から暗い靄が噴き出し周りの明るさを奪っていく。
「・・・オカシイ。
確かにここにいるという情報だったはずだが・・・気配がないな。
・・・いや。
・・・・こんなところで何をしている?
それとも、隠れているのか?
面倒だ、早く出てこい・・・・さもなくばこちらから殺しに行くぞ?
・・・・・」
(やばい奴が来たっ!
ていうかバレてる・・・よな、これって。
・・・・怖い、どうしよう・・・・)
クリスは男が入ってきてすぐ元々、小さく抑えていた体内マナをできる限り必死で隠し、さらに小さくして身を潜めた。
入ってくる前から鈍い感覚のクリスでもわかる、会ったら、出たら殺されるという本能に訴えかけるほど強烈な恐怖。
この時のクリスは、やばい奴が来たっと思ったところが限界だった。
ほとんど頭が真っ白になり、どうしたらいいのか、何をすればいいのか、死にたくない。
ただそれだけが、本能的に残っているだけでそれ以外が何も考えられなかった。
動けない。
すぐ目の前に死がわかる恐怖からクリスは何もできなかった。
「・・・。
時間だ」
そういって男が歩く音が聞こえる。
ゆっくりと、それはもうゆっくりとクリスには聞こえた。
死へのカウントダウン。
この瞬間クリスにはすべてのことがスローモーションになっている。
ゆっくりと踏まれる足音を聞いていた。
「ここで、何をしてらっしゃるのですか?」
少し硬く、だけど涼やかな優しい声が聞こえた。
【クリス】3才
レベル 12
HP 56 MP 39
STR 20
VIT 15
INT 12
RES 13
DEX 22
AGI 18
LUK 14
『欠損』




