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転と閃のアイデンティティー  作者: あさくら 正篤
118/473

116 束の間って何だろう?・・・はっ、これの事?w

「ふ・・・ふぅああ~~・・・眠みぃ・・・」


 トウジロウは大あくびをして固まった体を伸びをして、ほぐす。

 古城での決戦も終え、現在、クリス達は古城を出て、更に外の砦の入り口まで来ていた。


 夕方に始まった古城攻略も現在は夜中。

 日付変更まではまだ時間があるが、彼らにとってはとても長い1日に感じられた。

 クエストも、後は冒険者ギルドに報告するのみで完了である。


「・・・ハードな依頼でした~・・・」

「っふふふ・・・こんなに強い相手と連戦では体が持ちませんからね~・・・」


 テトのガックリと分かり易く肩を落とした姿に笑うメルム。


「・・・後はココから帰るだけ・・・」

「メルムさん、プリムさん・・・召喚獣は呼び出せますか?」

「・・・ムリ」

「私もです。

 皆さんを乗せて運ぶほどの子はまだ無理ですね」


 カイルの質問にプリム、メルムがふるふると首を振って返事を返す。


「・・・という事は歩きですか・・・。

 最悪、この城か、どこかで一泊する事になりそうです。

「それも仕方あるまい」

「げっ・・・マジか~。

 出来れば、今日くらいは一杯飲みたかったんだがな~・・・」

「先生はいつもですよね?」

「っ・・・カレン・・・怖い顔するなよ・・・」


 テスの言葉に同意するボールド。

 トウジロウはイヤそうで残念がるが・・・笑顔のカレンに引き下がった。


「・・・ヘレン?

 この辺りのモンスターは?」

「大丈夫・・・たぶん、ココの主が支配していた領域だから、ほとんど制圧されていたのか、もしくは逃げてこの辺りにはいないようだ」

「そう・・・だったら、野宿でも大丈夫なようね・・・」

「その時は僕が見張りをやりますよ。

 今回の戦い・・・ほとんど何もしていない気がするので・・・」

「・・・それは僕も同じです・・・」

「そんなことありませんよ。

 カイル君もゾッドさんも十分、戦ったではありませんか」

「「・・・そう思いたいです」」


 デルトの攻撃を受け、気絶したこと以外は特にこれといった負傷も、ピンチも迎えていたのか怪しいと思う2人だった。


「・・・眠いの?」

「へ?・・・だ、大丈夫です・・・」


 クリスは思った以上に眠気が強く、頭がフラフラしていた。

 最後列にいたために周りは気付いてはいなかったが・・・同じく後方に居たイスカが気付き声を掛けた。


「・・・おいで」

「えっ?」


 イスカはしゃがみ込んで背を向ける。


「・・・いや・・・でも・・・」


 驚きで、微かに意識が覚醒するが・・・すぐにフラフラとしてしまう。


「・・・君が一番疲れている。

 それに・・・子供は寝る時間・・・」

「(いや・・・しかし・・・)」

〔クリス・・・彼女はテスと似たタイプです。

 言っても聞かない可能性が高いです。

 それに・・・急速に伸びる成長と、強敵やダンジョン攻略と・・・連戦に続く連戦でクリス自身の肉体と精神負担が大きかったのです。

 ここ最近、急激に夜になると眠気が強く襲ってくるのは子供だから、というわけだけではないようです。

 ここは、潔く、甘えておきましょう〕

「(・・・)」


 まともに回らない思考で、無理やり考えようとするが、すぐに途切れてしまう。


「・・・すみません」


 クリスは考えることを諦め、イスカの背中におぶさった。


「うん・・・おやすみ・・・」

「おやすみなさい・・・」


 背に乗る幼い子供を肩越しに微かに笑うイスカ。

 クリスはすぐに意識を手放し眠ってしまった。



「(・・・しまった・・・!)」


 テスは、話し合いの途中・・・後列のメンバーの方へ振り向いた時。

 イスカとおんぶされて眠るクリスを目にしたからだった。


 あまりの事に大きく目を開き固まってしまう。


「・・・テス?」

「・・・あれ」

「・・・ああ・・・なるほど・・・」


 ヘレンの疑問にすぐさまプリムが目線で答える。

 納得したヘレンはやれやれと首を振った。


「テス・・・今は帰るにしても、野宿にするにしてもどうするか考えるのが先だ」

「え?・・・っ~・・・でも~・・・」


 ヘレンとイスカを交互に見るテス。


「?」


 イスカはそんなテスを不思議に思い首を傾げる。



 そんな時。


 ダダダダダダダダ・・・・・・。


 微かに音が遠くの方から聞こえてきた。


「え?・・・なんですか~?

 また、戦いが始まるんですか~?」

「・・・大丈夫です。

 たぶん・・・この足音はウチのロイド君でしょう」


 メルムの言葉通り、遠くの方から砦に向かって大きな獣が近づいて来る。


「あれ?・・・それにしては大きいような・・・?」

「あれは・・・フェリルの召喚獣でしょう」

「・・・どうやら、向こうも戦いが終わっていたようだな」


 ケイトの疑問にカイルが答え、トウジロウがフェリルの召喚獣の背中に乗る弟子達を確認した。



「お~~い、おめえら~~・・・・・・・・・っ!・・・・・・遅れちまったが、来てやったぜ!!」


 ロイドの猛ダッシュで起きた衝撃と、砂埃等々は、プリムとメルムが作った障壁で問答無用でガードした・・・ついでに音もある程度遮るように・・・。


「・・・ロイド、うるさい・・・」


 イスカはムッと怒った顔で、野性味たっぷりの満面の笑みで言ってきたロイドに苦情を言った。


「先生、遅れて申し訳ありません」

「平原を片付けるのに手間取りました」


 召喚獣から降りて、トウジロウとカレンの傍まで寄ってきた、弟子のディックとチャルル。


「おう・・・お疲れさん。

 そっちの首尾はどうなった?」

「スタンピードは我々・・・ギルド長から依頼を受けたメンバーで相当しました」

「ごく一部のモンスターが、逃げおおせましたが、総指揮を務めるビスガル殿が部下を使って追う為、殲滅できると思われます」

「・・・じゃあクレフーテの町は無事なのですね?」

「ああ、コッチは問題くなく完了した」


 カレンの質問に力強く頷くディック。


「ふ・・・よくやったお前ら」

「いえ、こちらは簡単でした・・・それよりも・・・」

「・・・大変だったようね・・・」


 仲間のカレンと師のトウジロウ。

 それに他のメンバー達を見回し、衣服や髪などボロボロになった姿から相当厳しい戦いが行われたことを察した2人。


「こっちの敵は相当強かったのかしら・・・?」

「そうみてえだな。

 あれだけの規模のモンスター共を束ねるくらいだ。

 それぐれえでねえと張り合いがないぜ!」


 戦意が高ぶりやる気を漲らせるロイド。


「熱っくるしいんだからー・・・。

 それで?・・・メルム、ココの主はどこにいるの?」

「他に幹部みたいな奴もいるのか?

 だったら、早えとこ片づけねえとな」

「・・・」


 フェリルとロイドのやる気のある期待した目を向けられたメルムはどう答えたらいいのか困り、顔だけをヒクつかせながら笑顔でいる。


「先生達がここまでなるほどの強敵・・・微力ながら俺も参加します!」

「私も・・・多少はお役に立てるよう努めさせていただきます」

「あー・・・」


 ポリポリと頬を掻き、目線を逸らすトウジロウ。

 ロイド達と同じく、静かにやる気を見せる弟子に困っていた。

 そのまま、更に目線を外へ・・・カレンにぶつかり・・・どうしよう、と目で話しかけた。


「・・・はあ」


 カレンが肩を落とし、期待している4人に告げようとした時・・・。


「終わった・・・」


 イスカが端的に・・・答えを言ってしまった。


「・・・はあ?」

「・・・終わった・・・」


 理解できないロイドがつい口にしたこと事で視線をロイドに移し再度答えを述べる。


「えっ?」


 フェリルも仲間のメルム、カイルに確認するように視線を向ける。


「「・・・」」


 何とも言えない申し訳なさそうな苦笑を浮かべ、頷く2人。


「「・・・」」

「・・・はい、そういう事です」


 ディック、チャルルもカレンに確認を取った。


「あ~・・・その気持ちはありがたいが・・・そういう事だ・・・わりぃ・・・だっはっはっはっは」


 頭を掻き笑うトウジロウ。


「「・・・」」

「実は今から帰るか、ここで野宿するかどうしようかって話になっててな・・・」

「その話の途中で、あなた達が来たのよ」


 固まったまま石の様になってしまうディックとチャルル。


「せ・・・せっかく飛ばしてきたのに・・・」


 へなへなと崩れ落ちるフェリル。

 大きな鳥の召喚獣が悲しそうに鳴き、フェリルの傍による。


「ご・・・ごめんね~フェリル~・・・。

 あなた達が凄く気合いが入っていて・・・何だが申し訳なくて・・・」

「・・・すみません」


 謝るメルムとカイルからようやくロイドが理解する。


 その後、色々と文句を叫ぶが・・・それも後の祭りだった。



「・・・・・・」


 胡坐を掻き、顎に手を乗せてムスッと触れ腐れるロイド。


 現在、出してもらった召喚獣に全員が搭乗し帰還中。


 イスカはクリスを背中から下ろし、今は膝枕をして、その頭を撫でていた。

 心なしか、口元が緩んでいるようにも見える。


「(っ~~・・・またしても・・・)」


 自分がやりたかったのか、イスカの無自覚で取っている行動に悔しそうにしているテス。


「「はあ~・・・」」


 手に負えないと、仲間のプリム、ヘレンも首を振って諦める。


「少し見ない間に・・・随分テスはあの少年の事が気に入ったようですね・・・」

「・・・焼きもち?」

「違いますよ!」

「・・・ふーん」

「な・・・何ですか~・・・!?」

「いや・・・何も・・・」


 プリムとヘレンは呆れなのか、それ以上ゾッドに質問をしなくなった。


「・・・で?」

「・・・何?」

「結局、どうなったんだ?」

「倒したよ・・・」

「だからっ、どうやって・・・!」

「その子が倒してくれたのです」

「・・・は?」

「この子がね・・・今回のボスを倒してくれたの・・・」

「・・・いや、意味が分かんねえんだけど・・・」

「ははは、そうでしょうね。

 僕も気を失って知らない内に終わっていたので、君と同じ気持ちですよ」

「そういう事じゃねえよ」


 イスカ達のチームもそれなりに仕事がひと段落し、気が抜けていた。


「・・・まあ、こんな所だ」

「・・・信じられないのですが・・・」

「・・・本当の話なのですか?」

「お前達に嘘言ってどうなる?」

「私も見ていました。

 ・・・とても、信じられない話ですが・・・本当です」

「・・・」

「・・・本当なの?」

「私に聞かれても、困りますよ~」

「本当だ・・・。

 今回の依頼・・・最終的に、あの子供がいなければ、我々は奴に殺されていた」

「「「・・・」」」


 トウジロウとボールドのメンバーが固まって話し込む。

 デルトの圧倒的な強さを目の当たりにした、カレン、ケイト、テトの3人はあの出来事を思い出し沈黙してしまう。

 ほとんど一方的な戦闘。

 何も出来ずに沈んでいった自分達。

 それを自分達よりも奮戦した者にハッキリと言われては何も言えなかった。


「しかし・・・そんな子供が・・・本当にいるのでしょうか?」

「あ?・・・現にそこにいるじゃねえか」

「いえ、まあ・・・そうなのでしょうけど・・・」


 ディックとチャルルの2人にはいまいちピンときていなかった。

 はたから見ればただの子供・・・しかも、それほど端正が優れているわけではない。

 どこかの村にいる平凡そうな子供達の中の1人。

 そんな印象しか残らない子供だから、なおの事、信じられなかった。


「ま、あの子供が戦ってくれるのならお前達もハッキリわかると思うぞ?」

「?・・・それはどういう・・・?」

「ここに居るメンバー全員で挑んでも、そこの坊主には勝てないだろうって話だ」

「いくらなんでもそれは・・・」

「あの子が本当に戦えば・・・そうなるのでしょうね・・・」

「カレン・・・」


 笑い飛ばそうとしたディック達だったが、カレンが俯き加減で放った言葉にはとても、冗談とは言えない雰囲気を醸し出していた。

 そのため、ディック達もそれ以上は切り出せなくなった。


「喜べ、お前ら・・・英雄や勇者以外で、俺以上に強い奴がそこにいる。

 つまりは、俺にだってもっともっと上に行くことが出来るってわけだ・・・」


 心のどこかで、もうこれが(限界なんじゃねえか?)と思っていたトウジロウは、目の前にいる自分よりも何分の一も生きていない子供が、はるかな高みにいる事が嬉しかった。


 それは称賛でも、憧憬でもなかった。


「(坊主は突破者だ。

 どうやってその域に上れたのかはしらねえが・・・。

 あいつに上れて俺が行けねえはずがねえ。

 今ならそう確信できる・・・!)」


 とても楽しそうに笑っていた。

 しかし、その目だけはどこまでも挑戦的な目をしていた。


「・・・はあ」


 カレンは師のその顔を見た時、ついため息を零してしまった。

 しかし・・・心のどこかでは嬉しくもあり、口元が自然と少し上がっていた。


「(私はついていく。

 そして・・・必ず、私も・・・)」


 長い付き合いの結果か・・・それとも、元々これが彼女の本来の性格の一部だったのか・・・。

 弟子は師にとてもよく似ていた。




 森を抜け、平原を越え・・・目的の町が、徐々に近づいていく。



「っ・・・おい!・・・あれって・・・」

「・・・まさか!・・・すぐにビスガルさんを!」

「は、はい!」


 慌てた兵士の1人が見張り台から駆け下りていく。



「無事に帰って来たか・・・君達・・・心配したんだ・・・」

「はい・・・何とか、依頼を達成できました」


 メルムが代表し、町の門で出迎えたビスガルに報告する。

 その言葉を聞いた瞬間に一斉に、参加者達だけでなく、事情を知る町の者達は歓声をあげた。


「・・・お疲れ様です皆さん」

「・・・ギルド長・・・。

 古城の主討伐により、この町周辺の脅威は去った事・・・ここに報告させていただきます」


 ビスガルの横にいた、このクレフーテの町の冒険者ギルドの代表、セルリアにメルムが簡潔に報告を述べた。


「・・・大変な依頼、ありがとうございます。

 ここのギルド、代表としてお礼申し上げます」


 セルリアはゆっくりと深く頭を下げた。


「・・・ま、俺達はあまり活躍できなかったけどなー・・・」

「しっ・・・!」

「はっはっは、そんな事は決してないよ。

 君達のおかげで我が町の兵士や騎士たちに死者が出なかったのは、大変な功績だよ。

 ありがとう」


 ロイドの言葉に注意したフェリルだが、ビスガルがあっさりと否定し感謝する。


「それにしても・・・本当に大変な事だったようだね・・・」


 ビスガルは視線を静かに逸らす。

 同じく、中には紳士的に視線を逸らす男達もいたが・・・その逆もいた。


 激しい戦闘でボロボロになってしまったために、替えの服なんて呼びを持っているわけでも無いためイスカ達の服、鎧はかなり破れ、破損し、とても扇情的だった。

 露出度がかなり上がり、普段は見えない部分が見えてしまう心理は男達も目を釘付けにし興奮させた。

 しかし、それは何も男だけではなかった。


 戦闘でカイル、ゾッド、ボールド、トウジロウも似たように破けている為に、はだけて所が女性陣の心も動かしときめかせていた。


「・・・う゛・・・う゛う゛んっ!」

「・・・ああ?」


 セルリアの咳払いと、ロイドの睨みで、そそくさと目線を外していく男達。


「とにかく、ここでは何ですし、一度ギルドへ・・・。

 お預かりした荷物に替えの服などもお持ちでしょうから・・・」

「あ・・・はい・・・そうですね」


 若干赤らめながら、笑ってごまかすメルムだった。


「!・・・その背中のは・・・クリス君に何かあったのか・・・!?」

「?・・・寝てるだけ・・・」

「・・・寝てる?」

「子供はもう寝る時間・・・」

「あ?・・・ああ、そういう事か・・・」


 焦っているビスガルだったがイスカの落ち着いたトーンの声に早とちりだったと勘違いを正す。


「それじゃあ、ギルドへ」

「分かりました」


 セルリアの後へと続いて行くメンバー一同。


「あの・・・子供も意外と重いですから・・・私が変わりましょうか?」

「?・・・大丈夫」

「いえ、あなたもかなり負傷していたし、疲れているでしょうから・・・」

「それは、あなたも一緒・・・」

「私は見た目ほどダメージは受けておりませんでしたので・・・」

「あの相手に対して、それはそれはない。

 我慢は良くない・・・ギルドはもう、そこだし大丈夫」

「で、でも・・・う、ううう~・・・」

「・・・ここぞとばかりに行くな~テス・・・」

「・・・余程、子供とのスキンシップに餓えていたのかもしれない」

「・・・ここ最近、孤児の子達と遊べていなかったからな~・・・相当、溜まってたんだろう・・・」

「たまたまあの子がいたから、それが爆発・・・」

「やっぱり、長めの休暇が必要そうだな・・・」


 イスカとテスのやりとり。

 それを後ろから見ていたヘレンとプリムが観察しながら、セルリア達の後をついていく。


「だ~はっはっはっは・・・あのイスカがやけによく喋りやがる」

「・・・それだけ、あの少年が気に入ったのかもしれません」

「・・・けっ」


 楽しそうなトウジロウと暖かく見守るメルム、不貞腐れるロイドだった。




 次の日・・・。


「・・・」

「あ・・・起きた、クリス君?」


 目を覚ましたクリスは周りを見る。

 声を掛けられた方向を見ると、冒険者ギルドでよく、クリスの対応をしていた受付のお姉さんが椅子に座って何枚もの資料を両手に持ち読んでいる姿があった。


「・・・ここは?」

「ここはね・・・冒険者ギルドの仮眠室。

 何人かの職員が非常時の対応に備えて、使っている部屋の1つよ?」


 茶色と白の混じった天井。


「(見知らぬ天井・・・)」


 どこかで、聞いたことがある様な言葉とつい思い浮かべるクリス。


〔起きましたか、クリス〕

「(おやよう・・・あ、そうだ)

 おはようございます」

「はい、おはようございます」


 クリスは体を起こしながら挨拶を掛ける。

 お姉さんも返答し、持っていた資料を1つの束にして持ち替え、立ち上がった。


「それじゃあ、私は仕事が残っているから、部屋を出るわね?

 ・・・あ、そうそう。

 ギルド長が少し話があるから、もう平気なら一度会ってくれるかな?」

「はい、分かりました」

「お願いね」


 それだけを伝えると部屋を出て行った。


「・・・今何時だろ?」

〔少し遅めの朝といった所でしょうか。

 この世界の人達はクリスのいた地球と違って朝が早いですから〕

「じゃあ、サッサと会いに行くか・・・」


 クリスはベットから降り、並べられた自分の靴を履く。

 そして、身だしなみを少し確認する。

 といっても、従業員用の小さな鏡があるくらい。

 しかし、クリスほどの小さい子用ではないため、取り付けられた位置が高く、少し離れて背伸びをしなくてはならない。


「・・・とりあえずは問題なし」


 軽く確認をし終えたクリスはさっそく部屋を出て、ギルド長がいるであろう執務室へと向かう。


「ああ、言い忘れていたけど」


 部屋を出たタイミングで受付のお姉さんが戻ってきた。


「1つ上の階の冒険者用の会議室にギルド長はいるからね、じゃ」


 重要事項を言い終わると再び、仕事に戻って行った。


「会議室?」

〔おそらく、他の者達も来ているのかもしれません〕

「(ああ、なるほど)」


 クリスは冒険者が使う、会議室へと向かった。



 コンコン。


「どうぞ~?」

「失礼しま~す・・・」

「クリス君!」

「起きたか、坊主」

「・・・おはよ」


 セルリアの返事で入室したクリスをテスが発見し、席を立って傍まで行く。

 椅子に座って、トウジロウとイスカが挨拶を交わす。


「お・・っぶ、おはようございます・・・」

「もう大丈夫なのね?良かった~」

「・・・別に、ケガをしてたわけじゃないのに・・・」

「昨日、エルフェンローゼのリーダーがずっと彼の面倒を見てたからだよ」

「ああ~・・・嫉妬・・・」


 突然抱き着かれるが、顔だけは横を向いて、その状態で会議室に来ているメンバーに挨拶を交わす。

 そんなクリスを離さないとばかりに引っ付くテスを見ながらコソコソと話すプリムとヘレン。


「・・・やっぱり、あの子がアタシ達を救ったって実感が・・・わかないのよね~?」

「でもケイトちゃん。

 あの時、ボールドさんも含んで、皆さんがおっしゃっていたんですよ~?

 たぶん・・・嘘ではないと思いますよ~・・・」

「・・・あのガキがお前達を救ったのかよ・・・。

 あの緩みきった冒険者ですらねえ様な顔のガキが・・・」

「嘘をついても、何の得にもなりませんよ?」

「わ~ってるよ、そんな事・・・」


 ケイトやロイドといった、クリスの力に未だ信じられず懐疑的な者達もいるが・・・全員は少なからず高ランクの冒険者。

 今まで共にした仲間の言葉には、経験から嘘か本当かは大体わかってしまう。

 それぐらいの付き合いがあった。


「・・・元気になった?」

「え?あ、はい、おかげぇ、さまで・・・!」

「・・・」


 テスがクリスを自分の手元に寄せる様に引っ張り、護る様にクリスを覆い隠す行動に出るテス。

 テスは無言でイスカを見る。


「・・・?、どうしたの?」

「テス」

「・・・何でもない」


 仲間の注意に、クリスを抱きしめて拗ねるテス。


「ごめんなさい。

 ウチのリーダーが・・・」

「?・・・」


 いまいち状況が解っていないイスカだった。



「今回の依頼、無事、終わらせていただき誠にありがとうございます」


 セルリアが会議室のテーブルの横。

 両方から、それぞれの冒険者達が見える位置に立って、お礼を言った。


「本来の依頼とは別の事になってしまったかもしれませんが・・・。

 皆さんが引き受けていただいたおかげで町への被害はありませんでした。

 あなた方の尽力のおかげです」

「引き受けた以上は、最後まで通すつもりだったが・・・大変な仕事だったぜ~・・・」


 頭の後ろで組んで、背もたれに寄りかかるトウジロウ。


 現在、集まった冒険者達の大半が服装をラフな格好に替えていた。


「うん・・・危うく死にかけた・・・」

「もう少し、騒動の発見が遅れていたら・・・我々でも対処できなかっただろう・・・」

「イスカさん、ボールドさんがおっしゃるほどなのですか・・・。

 昨夜、簡単に報告を伺いましたが・・・それほどの強敵だったとは・・・」

「ありゃあ、あと少し遅れたら、現在の英雄や勇者達の出番になる。

 災厄クラスにこの人数だけで赴くなんざ自殺行為だからな・・・」

「うん・・・まだ、その一歩手前ぐらいで済んだ・・・」

「あれが、そう簡単に生まれてくるワケではないでしょう・・・」

「ええ。むしろ何か作為的な所を感じさせます」


 イスカ、トウジロウ、メルムの言葉に衝撃を覚えるセルリア。


「・・・誰かが仕向けたと?」


 メルムの言葉に・・・ギルド長としての責務か、その表情は真剣にメルム達を問いかけていた。


「分からん・・・奴も何らかの目的で動いていたようだが・・・何か怨嗟の様なモノを感じた」

「モンスターが・・・ですか・・・?」

「いや、俺達が戦ったのはバンパイアだ」

「それと・・・その者に協力していた魔物達・・・でしたね」

「・・・スタンピードの中にはモンスターも混ざっていたと聞いておりますが?」

「たぶんそれは、あのバンパイア野郎か、その部下達の仕業だな。

 ウチのディックとチャルルの話から考えると・・・。

 バンパイアの野郎も独自の方法でスタンピードの状況は気付いていたようだし」

「なるほど・・・統率の取れたスタンピードでしたので。まさかとは思っていたのですが・・・どうやら当たっていたようですね・・・」


 バンッ!


「ギルド長、すみません!

 緊急でお知らせが・・・!」

「・・・どうしたのです?」


 職員が突然入ってきたが、セルリアはその者の表情からただ事ではないと感じ、先を促す。


「帝国が・・・国境砦を襲撃しました!!」

「・・・何ですって!」

「現在調査中なのですが・・・先ほど、近くの町の冒険者から緊急連絡で、砦が陥落したとの報告が届いてきました!」

「まさか・・・帝国が攻めてきたのですか?!」

「それが・・・」


 どう答えたらよいのか言い淀む職員。


「・・・教えてください」


 テスがとても落ち着いた表情でセルリアの代わりに聞いた。


「砦・・・陥落後・・・襲撃したモンスター、消息を絶った・・・と」

「モンスター?」

「どういうことですか?」

「昨夜、砦に見た事ない魔物に似た新種と思われる異形のモンスターを数体、砦の在住していた兵士達が発見。

 そのモンスターは非常にゆっくりとした足取りで砦に攻めてきたそうです」


 職員は説明すると同時に歩き、セルリアに持ってきた一枚の紙を渡した。

 セルリアは受け取ると隅々まで逃さず読む様なスゴイ形相で目を通していた。


「どの様なモンスターか不明のため警戒していたそうです。

 しかし、方向は砦に向かって真っすぐに来ていたため、やむなく戦闘態勢に。

 砦を受け持つ指揮官が危険性が高いと判断し、少数を残し、町へと退避、国に緊急事態の連絡をよこしたそうです」

「先に連絡役から話を聞き・・・その後に在住していた兵士達が来た・・・」


 紙に書かれた情報を確認するうえで口に出し職員に問いかける。


「はい・・・。

 どうやら、指揮官の予感は当たっていたようで、全く歯が立たなかったそうです」


 牽制し、攻めてきた新種型モンスターの力量から避難させる兵士達を更に砦の外へと出し、僅かな時間だけでも逃げ切るための時間稼ぎに数人が残ったぐらいだったそうだ。


 そして、ゆっくりと攻めてきたモンスターのおかげ・・・といえばよいのか、少数の死者だけに留まったようだった。


「・・・その後、モンスターは忽然と消えたと・・・?」

「聞いた限りでは・・・。

 こちらの国のどこかに隠れた可能性を考慮し調査隊を派遣しているそうですが・・・現在の段階だと発見できず・・・」

「消息を絶った・・・」

「はい・・・」

「一体どういう事なの?・・・」


 セルリアは、まるで自分に問いかけているような質問をしたのだった・・・。






【クリス】5才 人間(変化)

 レベル 23

 HP 279 MP 265

 STR 112

 VIT 101

 INT 107

 RES 102

 DEX 109

 AGI 120

 LUK 63

『マナ性質:レベル 2 』『強靭:レベル 2 』『総量増加:レベル 6 』

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