112 残っている希望
「ははははは・・・やりますねー。
ではこれならどうでしょう?」
デルトはボールドの攻撃を難なく躱し攻撃を加える。
ボールドも何とかついていくがどうしても1歩出遅れてしまう。
「っぐ~~~!!」
下から振り上げた振り上げただけの爪を用いた攻撃がボールドを大きく後方へと弾き飛ばし、後を追うように切り裂く風が追いかける。
「はああああっ!」
横合いからデルトに攻撃を仕掛けるケイト。
その間にテトはボールドに迫る、爪の風を障壁で和らげ、別の方向へと逸らす。
「ふ~む・・・あなた方には謝罪しなければいけませんねー。
まさかここまで戦えるとは思っていませんでした。
連携がいいのでしょうか?
先ほどの者達よりも能力は多少、劣る所もあるようですが・・・それ以上の技量を感じます。
良い勉強になりますよ・・・」
「っ~~~・・・どこまでもバカにして~・・・」
「いえいえ、そんな事は決してありませんよ」
斬り込んできたケイトの剣を逸らし、躱し、2本の指で挟んで止めながら話しかけるデルト。
ケイトは全力で押し込もうとして体が微かに震えているが、全く微動だにしなかった。
「ふん!」
デルト目掛けて飛び、大剣を袈裟切りに振り下ろすボールド。
「・・・やはり、良い連携だ」
デルトは、直前に避難し入れ替わるように入ってきたボールドの攻撃とケイトの連携の流れ。
更に、両者の間に僅かに生まれてしまった隙を縫うように魔法で牽制し、行動を阻害させるテトの判断力に賞賛していた。
一連の流れがスムーズに出来ているからこそ、未だに決定的な攻撃を与えていない現状が、デルトには嬉しかった。
もちろんそれは、まだまだ加減しているからこそでもあった。
デルト自身も制御が完全に出来るようになるまで全力を出すことを避けていた。
「(周囲にだけ、破壊力の範囲を上げても、当の対象に攻撃を与えられなければ意味がない。
範囲攻撃だけでは・・・奴にダメージを与えられない、そんな気がしますからね~・・・)」
デルトは自分の器が昇華して影響か、復讐の対象である存在にどうすれば攻撃が届くのかを感覚的に感じ取り始めていた。
「(ただの復讐なら、関係者を根絶やしにすればいい。
しかし、それでは奴を・・・殺すことは出来ない・・・)」
外側の表情、口元とは裏腹に、冷静に今後の自分の課題に向き合っているデルト。
ボールド達の連係プレイは善戦していた・・・だが、ほとんど全力であたっていた3人に対し、常に調整し冷静に対処できているデルトでは力量に差が開く一方だった。
調整し、力のコントロールが上手くなるにつれ、強くなっていくデルト。
感覚が、技量が、意識が今の体に対応しようと変化していたからだった。
それに引き換え、徐々に力を出し続け、疲労で繊細さが欠け始めているボールド達。
それは一瞬の隙だった。
ほんの少しボールドが不利な姿勢から態勢を立て直すために、重心がわずかにズレた瞬間だった。
デルトの振り抜いた爪の攻撃で大きく弾かれ距離を開けられた瞬間。
何とかカバーに入ろうとケイトが剣にマナを流し、技を放ち、無理やり形勢を整えようとした。
だが、その隙が反対から来た爪の攻撃にまで意識が回らず、気付いた時には切り裂かれ大きく壁付近までケイトは吹き飛ばされていた。
「ケイトちゃん!!」
焦ったテトが急いで駆け寄り回復魔法を掛ける。
防具をも簡単に切り裂き深い傷を負ったケイトはぐったりと倒れ全く動かなかったからだった。
「テト!」
「え?」
ボールドの声に反応しケイトから顔を上へと向けた時、目の前にデルトがいた。
デルトが一瞬で距離を詰め、テトへと攻撃しようとする。
そんな場面をスローモーションで見ていた。
ボールドは声と同時にデルトに追いつこうと走るが距離が少しずつ開くばかりだった。
「(間に合わない!)」
ボールドから教会の剣士としての普段表情は消え、ひどく焦った顔になる。
「線火!」
突然、デルトの横を火柱が飛んでくる。
デルトは飛んで回避する。
「逃がさない・・・」
デルトが回避した方向へ先回りし、更に火を纏ったハルバードが横払い、切り上げ、更に回転しての袈裟切りで一気に玉座の傍までデルトを叩きつける。
ドッガーーーーーーーン・・・・・・。
玉座の傍が大きく吹き飛び、外の山と海が見える綺麗な夜景を映し出した。
ット・・・。
遥か下から飛び上がり、玉座前に着地するデルト。
「ふう・・・思ったよりも早い御着きのようだ・・・」
やや汚れ、負傷したデルト。
しかし、特に気にした様子も無く、煤けた服を払っているだけだった。
「マジか・・・」
「む~・・・結構良い所入ったと思ったのに・・・」
技を繰り出し、上手く不意打ちが入ったのにも関わらず、平然としているデルトに驚く者と不満の者。
「来てくれたか・・・」
ボールドは自分でも思っている以上に、助っ人の参戦に安堵していた。
「遅れて申し訳ありません!」
「・・・メルムさん・・・皆さん・・・」
「カイル、手伝ってください。
ケイトさんのケガが酷い」
「はい」
メルムとカイルがテト、ケイトの傍によりすぐさま回復魔法を掛ける。
「申し訳ありません。
これより、私達も参戦します」
「それで・・・あれが・・・?」
「ああ。ココの主だ」
「古城の王ってわけですか・・・」
カレンがボールドに報告し、すぐさま戦闘態勢に入る。
ゾッドが、黙ってこちらを見ているデルトに注意しながらもすかさず、この場にいる仲間達に補助魔法を掛け身体強化をする。
「テスさん達のパーティは?」
「へ?・・・あ、いえ、まだ来てません」
メルムの言葉に少し放心状態だったテトが、意識を現実に戻し答える。
「まっ、そうだろうな。
隠し通路がある可能性つっても、俺達より遠回りしてたからな。
そもそも隠し通路自体、あるかどうかも分かんねえんだ。
ここにすぐに来れるはずもねえか」
「それは違う・・・。
城には必ず抜け道が作られているもの。
そうでないと攻められた時、外へ出られない」
「イスカさんの言う通りです、先生。
何があるか分からないため、避難経路は作っているものです。
しかし・・・どうやらこの場では、私達の方が先に着いてしまったようですね」
トウジロウが周りを見回し、テス達の不在を述べると、すかさずイスカとカレンが間に入った。
「・・・まあ、今はいいか、そんな事・・・。
っで?・・・どう見る?
奴の強さ・・・?」
「異常・・・」
「んな事は分かってるよ」
「?」
「・・・奴は突破者だ。
ほぼ間違いないだろう・・・。
種族進化にしても、上がり方が異常だ」
「・・・何か心当たりでも?」
「我々が来る前に、奴は別の者達を戦っていた」
「は?あの異様なマナの気配・・・お前さん達が先に戦っていたんじゃないのか?」
「違う。我々のそれを感知してココに来たのだ」
「何者?」
「分からん。
だが・・・今回のスタンピードとは関係ないようだった」
「そうか・・・んじゃあ、そっちはいいや。
んで?ボールド・・・あんたの、そのボロボロ具合から見て・・・奴の強さランクで言えばどんなもんだ?」
「冒険者の記載で言えば・・・Aの上位に入っていると考えて間違いない・・・」
「おいおい、たった1体だろ?
それで、そのボロボロ具合・・・Aランクの上位にしたって、そこまでか~?」
「言っただろう・・・奴は突破者だ。
今のギルドランクと奴のレベルを踏まえた強さは別に考えるべきだ」
非常に軽い調子で聞いてくるトウジロウに真面目に事実を返すボールド。
「レベルはそこまで高くない?」
「ああ・・・おそらく700あるかどうかっといった所だろう。
但し、レベルと強さは必ずしも一致するとは限らない」
「・・・もしかして、裏の表記で考えるべき?」
「レベルどうこうではないが、ランクでいくのであれば」
「おいおい、あれって噂の話だろ?
本気で信じてるのか?」
「無い、と決めつけるよりはこっちの方が、今はしっくりくる・・・」
「ああ・・・しかし、こうなると、かなり厳しいぞ?
今のメンバーでどこまで戦えるかだ・・・」
「・・・へっ、世界ってのはやっぱ広えなあ・・・」
思わずニヤけてしまうトウジロウ。
「真面目にやれ。
もはやこれは、災厄だ。
国際条例を適用するべき案件だぞ?」
「そうなんだけどよ~・・・」
「もうそろそろ話は終わりましたか?」
玉座で戦闘中断して待っていたデルトが再び声を掛けた。
僅かに負った傷も、汚れた服もとっくに綺麗サッパリ消えていた。
「・・・あなたはこの国に何がしたいの?」
イスカが代表して話しかけた。
「この国に?・・・。
特に意味はありませんよ?
もともとこの城も、力を蓄えるには丁度良いと引き籠っていただけなので・・・」
「・・・あなたは私達の敵?」
「おいおい、何言ってんだイスカ?」
突拍子もない事を質問するイスカにトウジロウが、今更何をと驚く。
「ふーむ・・・難しい判断ですね~。
そもそも先ほど言いました通り、この国自体に恨みはありませんし。
誰彼構わず、人を無差別に襲い続ける気もありませんし・・・」
「・・・ではスタンピードはどうして?」
「あれは今後のために布石です。
私が殺したい本来の相手のためには、多少なりとも使える物を増やしておきたかったので・・・」
「そんな事のために・・・?」
「そんな事とは心外ですね~。
これでもそのために私の命がけで戦っていこうとしているのですから・・・」
「・・・無関係な人を巻き込んでる」
「それは私だけの問題ではありませんよ。
それこそ一定の力を持つものなら、何かしら無関係な者に影響を与えてしまっているのですから。
何もしていないと、自分達だけが被害者面するのは良くありませんよ」
「・・・だとしても、ここで止まって別のやり方にだって変えることは出来ると思う」
「その結果が、私の目的に繋がるとでも?」
「それは分からない・・・。
ただ・・・考え方次第だって思うから・・・」
「・・・確かに、それは言えますね・・・。
しかし、残念ながらあなたの国そのものには関係なくても、その国を支配している者の中に、私が復讐したい目的の邪魔をする者がいた場合・・・どうします?」
「守る・・・それが依頼なら・・・」
「犯罪者でも?」
「・・・場合による」
「ふ・・・都合の良い言葉ですね~!
いえ、逃げているだけですか・・・」
「俺達は冒険者だ。
やりたい事ばかりじゃねえが、受けるかどうかは自分で決める。
それはもちろん責任と覚悟っつうのが伴うけどなあ。
だがよ~、一般の奴らと違って自分で好き勝手に選べることでもあったりする。
だからこそ、今テメエの前にいるってわけだ」
イスカ達の間に割って入りトウジロウがデルトに答える。
「・・・。
それはつまり、戦う以外選択肢は無いという事で良いのかね?」
「ったりめーだ」
「・・・違う」
イスカはデルトとトウジロウにそれぞれ訴えようとする。
・・・しかし、イスカに向けられた返す様にトウジロウが真面目な顔になって答える。
「諦めろイスカ・・・。
奴は話してどうこうなる奴じゃねえ。
自分の目的のためなら平気で全てを犠牲に出来る。
奴の天秤に妥協って言葉はねえ。
だからこそ、国をまたいでの村々の襲撃だ。
奴にとって俺達は、力を蓄えるエサでしかないってことを理解しろ」
「・・・」
「お前だってここまで上り詰めた冒険者だろ。
例えヒトの様に話、優しい素振りを見せても、今、目の前にいる奴の本質はモンスターと変わらねえよ」
「・・・」
イスカもそれは分かっている。
しかし、無駄に争いを避けられるなら避けたいと思っているだけだ。
争いによって得する事以上に、失う事の多さ方が圧倒的だと何度も知っているからだった。
「俺の同意見だ。
奴と戦っていてわかる。
奴は目的を果たすまで、いつまでも暴れまわる存在だ。
何としてでも今のうちに倒さなくてはならない」
「・・・残念」
少しだけ眉を下げ、悲しそうになるイスカ。
とても整った綺麗な顔だからこそ、その悲しそうな表情が辛そうに見える。
「交渉は決裂・・・という事ですね」
「はっ・・・初めからそんな気はねえくせによく言うぜ・・・」
「そんな事はありませんよ?
これでも私は、出来るだけ、穏便に事を運んできたつもりなのですから・・・」
張り付いた薄っぺらい紙の様に、ニヤついた笑みを浮かべるデルト。
そこには果たしてどの程度の譲歩があったのか・・・。
古城から離れ月明りが射す森の中。
「・・・ふう・・・ここまでくれば大丈夫だろう・・・」
「お疲れさん、ツェーゲン」
未だ、地面に膝を付き、起き上がれないツェーゲンの手を肩で回し、支え立ち上がらせるヤハト。
「・・・あんなに宝石の力を使って大丈夫なの?」
「このままじゃ・・・」
不安そうになるシャーリィとクラル。
「大丈夫だ、一時的に力を解放しているだけだろう。
その一部を、自分の物に変換したからといって、宝石の力すべては奪えまい。
問題は奴の強さの方だ・・・」
「あれは予想以上だった。
・・・あれをどうする?」
肩を貸したヤハトが歩きながらツェーゲンに聞く。
「あれはもはや厄災クラスと判断される。
一般的なモノではなく、英雄が出て行かなければならないほどの・・・」
「それって国際・・・ショウレイ?」
「国際条例」
ツェーゲンの話に乗っかり、自分の中でうろ覚えの記憶を口にするシャーリィ。
間違えた言葉にすかさずクラルが正す。
「って事は・・・今回来た奴ら以上の化け物が動くって事か?」
「ああ・・・中には本物の勇者も動く可能性がある」
「でも・・・あいつ等って、たぶん高ランクの冒険者だよね?」
シャーリィはクラルに、そしてヤハトに確認を取る。
「お兄さんの聞いた限りでは、たぶんBの上位からAランク辺りだって話だよ。
って言っても、そもそもそんな上位の存在がそうそう集まるかどうか自体分からないだろう?
たくさんいるといっても数がそこまで多くないんだから」
「別にランクが全てではない。
そもそもレベルで判定基準を重く置きすぎているから、不測の事態に対し、対応が遅れるんだ。
その者自身の強さはレベルだけでもステータスだけでも表せられん、という事をいい加減気付くべきなんだが・・・」
ツェーゲンは苦々しく、言葉を吐く。
「仕方ないって・・・肩書きでヒトって安心するから・・・」
ヤハトの言葉に「分かっている」とだけ漏らすツェーゲン。
肩書きの存在は文明が発展すればするほど、その存在の有る無しが人の精神の安定に左右する。
自分で一から全て、責任を持ってやらなくてはいけない恐怖よりも。
初めから安心して任せられる存在に頼った方が確実、安全を確保できるなら・・・ヒトは楽をしたいものだからである。
不要な不安や恐怖を負う必要が無いのだから・・・。
「・・・いつまで甘えているのかしらね・・・?」
「・・・本当に恐怖を・・・身に染みて理解する時まで・・・でしょうね・・・」
シャーリィの言葉に俯き、何かを思い出すクラル。
その時。
「み・・・見つけました・・・」
ドサ・・・。
言葉を発するや否や倒れてしまう男。
「ベーデル!」
ヤハトに預けていた手をすり抜け駆け寄るツェーゲン。
ヤハト達も駆け寄る。
「何があった」
「も・・・もうしわけ、ありま・・・せん。
移送中・・・何者かに、襲撃を・・・受けました・・・」
「え?!・・・それって!」
「だいじょう・・・ぶです。
・・・サック様・・・トリシュとノイシュは・・・無事です・・・。
先に避難させ・・・3人は安全です。
ですが・・・その時に培養モンスターと・・・宝石を・・・奪われました!」
「何だと!」
「申し訳・・・ございません・・・」
「ツェーゲン・・・」
ツェーゲンが無意識に力が入ってしまい強く倒れたベーデルの肩を持ってしまっていた。
その事をヤハトに注意し気付かせる。
そして、一刻もさせておくべきだった事を告げる。
「シャーリィ、クラル。
ベーデルを回復させてくれ」
「・・・私、そういうの得意じゃないんだけど」
「ワタクシも・・・」
そう言いながらも、ベーデルの傍へ膝を付きマナを使い回復にあたる。
徐々に出血し、負傷して青い顔をしていたベーデルが少しずつ正常に戻っていく。
「ありがとうございます。
もう大丈夫です」
「すぐに起き上がるな。
ゆっくりで構わん・・・何が起こったか話してくれ」
倒れた姿勢からゆっくりと近くの木にもたれ座るベーデル。
「ツェーゲン様の手筈通り、我々は次の場所へと移送のための準備をしておりました。
すると・・・どうやって入ってきたのか1人の男が会議場で座っていたのです。
私が資料を燃やし破棄し、撤収のために出ようとした時でした」
真っ暗な会議場。
そこに足をテーブルに掛けふんぞり返った男が1人座って待っていた。
そこへベーデルが会議場に戻ってきた所、椅子に座り背を向けている男を初めて認識した。
「よお・・・ずいぶんとゆっくりしてたな?
なんか大事な物でも燃やしてたのか?」
「・・・」
「おいおい、こっちから話しかけてんだからちょっとはリアクション取ってくれよ。
寂しいじゃねえか・・・」
クックックっと笑いが漏れてきそうなそんな声が聞こえそうな口調。
「・・・あなたは?」
「お?やっと、返事してくれたかぁ・・・」
長い沈黙の末、発したベーデルにゆっくり「よっこいせ」っと言いながら、椅子から立ち上がり振り向く男。
「ちょっとした用でよー・・・あんたの組織がちょ~っと邪魔だって奴から何とかしてほしいって話が来たんだよー・・・あ~、監視だったっけ?まあ、いいや」
その男はずんぐりむっくりした、お腹周りが大きな体系をした男だった。
ハッキリ言えばデブである。
しかし、デブというにはがっちりとした筋肉が見える体格をしていた。
「ドワーフの血筋ですか・・・」
「いや、こりゃあ単純にちと太っちまっただけだ・・・まあ、気にするな」
「それで・・・私を排除しに来たと・・・」
「逸るなよ。
まあ、そうだけど・・・。
順序ってものは・・・大事だろ?」
どこか飄々とした雰囲気を醸し出す男。
「(見た目は・・・40代・・・いえ、50代といった所でしょうか。
しかし、雰囲気とは違い、なんと獰猛な気配・・・。
力量が読めません・・・)」
「ああー・・・鑑定しても無駄だぞ?
俺はあんたより強えからなあ。
鑑定っつっても、その練度だと、せいぜいレベルが大体、予測できれば良い方か・・・」
表情こそ外には出さないが、行動を読まれドキドキしているベーデル。
薄暗い会議場だからこそ誤魔化せているが、微かに冷や汗を掻いていた。
「・・・では、私は逃げられないのですね・・・」
「うーん、実はそんな事はねえんだよな~。
ココの施設は壊す予定だそうじゃねえか。
だったら俺が手伝ってやるよ。
ただし・・・そのついでと言っちゃあなんだが、ここで作っていたモンスター共を・・・全部よこせ。
あ、あとついでに・・・お前達が手にした宝石も」
「っ!」
瞬時にベーデルはマナを使い、魔法での攻撃と煙幕を同時に出し、回避行動に出るのだった。
「やれやれ、いきなりおっ始めるなよ」
男はゆらりと動くのは最初の一瞬だけだった。
ドゴオオオオオン・・・・!
突如、突風の様に凄まじい風が吹くと逃げるベーデルと捕まえ地面に叩きつけた。
ドゴンッ!・・・ダン・・・ザザーーー・・・。
「おっと、悪い。
久しぶりなもんで、つい力加減がミスっちまう」
叩きつけるつもりが勢い余り、手から滑り落ち、叩きつけから、回転するように前へ飛んで行くベーデル。
「っぐ・・・グフ・・・」
「お~おお、よく耐えた。
やるじゃねえか」
カッカッカと両手を腰に着けて笑う男。
ベーデルはヨロヨロとしながらも何とか立ち上がった。
ほとんど無意識に体内マナを外皮・・・自分の体を覆い強力にしていたからこそ今の押さえつけに耐えられただけだった。
「(次元が違い過ぎる・・・このままでは・・・)」
「安心しろ。
別に殺すつもりはなかったんだからよ~・・・っと、もう来たのか」
男はベーデルの後ろ、施設の入り口から入ってきた者達を見て、一気に戦意を消した。
「もう~・・・早いっすよ~。
勝手に始めないでくださいよ~」
「な~に、言っておる。
お前達の方が暴れたんじゃろうが?」
「あ・・・やっぱ、分かります?」
「ココに来た時点で検討がつくわ。
・・・で?どうじゃった?」
「一部は私達が破壊してしまいました。
でも、残っているモノはしっかりと奪取、成功です」
「ほいっ、この通り・・・」
1人の女が包みを持ち上げる。
「それは!・・・」
ベーデルには見覚えがあった。
その袋は自分の主人達が大事に使っていた袋だったのだから。
女はその中から1つの石を取り出した。
薄明りの中でも綺麗に輝く赤い宝石がハッキリと見える。
「まさか・・・」
「そ、あんた達のお仲間を襲撃して回収させてもらいましたっす。
いや~、なかなか強いヒトじゃないっすか~。
これ奪うのだけは成功しましたけど、逃げられちゃいましたよ~」
「どうするんです?
そこの虫も排除するんですか?」
もう1人の男が太った男に声を掛ける。
「いや、別にいらねえよ?
そんなの」
「?、排除って話じゃありませんでしたっけ?」
「ああ、そうだぞ?
目的はモンスター共と宝石の確保だ。
知ってる奴を始末ってのも言われていたが、それは・・・あまり優先していなかったようだし。
この施設さえ壊せればいいんじゃあねえか?」
「いい加減っすね~」
「いつもの事だろう」
「おい、聞こえてんぞ」
まるでベーデルなんて、居ないように話し合う3人。
「っというわけでな・・・もう出てっていいぞ?」
急にベーデルに話を振る太った男。
「え?ホントに良いんですか?」
「今更、戦ってもな~。
っというか、遊びにもならん」
「うわっ・・・酷い話っすよねー?」
女が若干引いたように男に言う。
「・・・分かりました。
まあ、いいでしょう。
我々は見逃しましょう。
どこへなりと好きな所へ行きなさい」
道を譲る男と女。
「・・・」
訝しむベーデルは前後を挟む3人を見る。
「ほれ、サッサと行け」
肩を竦ませ、あっちへ行けと手でジェスチャーする太った男。
警戒は解けないが、攻めてくる気配が無いと判断したベーデルはその場を後にするのだった。
「良いんっすか?
本当に行かせて・・・?」
「構わん。
あの程度の雑魚、吐いて捨てるほどいる。
いちいち構ってやるつもりもないわい」
「んー、あれでもCランクくらいの強さはありそうでしたのに・・・」
「はんっ・・・昔、アーティファクトが決めた基準で判定する冒険者ランクなぞ、下らん化石と変わらんわ。
真の強者を正しく判定できんガラクタなんぞ捨ててしまえ!」
「そのガラクタの一部だと思うんすけどね~?」
女は宝石を見ながら言う。
「それは依頼で必要だから、持っているんだよ。
無くすなよ?」
「分かってるっすよ。
・・・それで、本当に逃がしてよかったんすか?」
今度は一緒に来た男の方に声を掛ける女。
「ああ。・・・言ったはずだ我々は見逃すと。
もし外で、私達の配下達と出くわしたとしても、そこまでの責任は取れん。
襲撃されたのなら不運だったと諦める事だな」
「うわ~ひっど~・・・。
インチキだ~」
「言葉を間違えるな。
ちゃんと伝えたはずだ。
最終的にどう受け取るべきかは奴次第・・・それだけだ」
「んな事より、お前達も来たのなら、サッサと手伝えよ。
ココを破壊するぞ?」
「は~い」
「分かりました」
・・・・・・
・・・
「私は何とか、脱出したのですが、施設の襲撃者が複数入り口付近に居まして、何とか森深くに避難しながら逃げていたのですが・・・数が数で、殺されるのも時間の問題でした。
そこへ負傷したサック様達が自分の傷も顧みず私を助けてくださったのです」
「・・・皆は無事なのね?」
「はい、シャーリィ様。
傷の大きなサック様をトリシュとノイシュが看護しております。
彼女達もケガを負いましたが何とか無事です。
現在、安全を確保しながらゆっくりとサック様達は第2の施設へと向かっております」
「え?・・・でも、そこって・・・」
「はい。移送中にモンスターが奪取されたためほとんどがもぬけの殻です。
ですが、生活をするだけの設備は整っております。
今は安静する場所としてなら私達にとっては最適な場所だとサック様が・・・」
「そうか・・・ご苦労、皆が無事で何よりだ・・・」
ツェーゲンはそれだけを述べると立ち上がり、ヤハト達から少し離れ空を見上げる。
「ツェーゲン・・・」
シャーリィが声を掛けようとしたところをヤハトが肩を掴み、振り向いた所を首を振って止めた。
「今はそっとしておこう」
「・・・うん」
ツェーゲン達にとっては、ちょっとしたミスが大きな計画の後退へと繋がってしまった。
「・・・でも、皆が無事だったのが1番よ~」
「・・・ああ、そうだな」
クラルが回復を終わらせヤハトの方へ顔を上げた。
「まだ、全部が終わったわけじゃない。
お兄さん達のやれることをやろう・・・」
シャーリィとクラルが頷く。
ベーデルも頷き・・・そして、離れたツェーゲンの方へ振り向く。
「分かっているさ」
ツェーゲンも話を聞いていたのかヤハトの言葉に肯定した。
「ひとまずは第2のアジトに帰還し、回復に専念する。
作戦はその後だ」
ガン・・・ガキン、ガガガガガガ、ドゴンッ!ガアアアアアアアアア・・・・・・・。
激しい攻防が繰り広げられていた。
「・・・なかなか、しぶとくて良いですね~。
あなた方との戦いは私に、あの者との差を縮めているという確信が持てますよ」
「そいつは・・・どうもっ!」
「っ!」
トウジロウ、イスカが入れ替わり攻撃を繰り出す。
「・・・ふん!」
その隙間を溜めた重い一撃を叩きこむボールド。
「う・・・ぐふ・・・」
「立ち上がらないで・・・」
倒れてなお必死に立ち上がり戦おうとするカレン。
しかし、体がついて来れず、いう事を利かなかった。
同じく倒れたメルムがなけなしのマナで必死に怪我をしたカレンを回復していた。
彼女もマトモに立ち上がる気力は失っていた。
死屍累々。
誰もまだ死んではいないが意識を持ち動けているのがトウジロウ、イスカ、ボールドの3人だけ。
意識はあるが立ち上がれない者がカレンとメルムの2人だけだった。
「(・・・悔しい。
私は・・・こんなにも弱い・・・)」
口から血を流し、涙を流し・・・目の前では、傷だらけでも、何とか食い下がる自分の師匠達を見ている事しかできないカレンは臍を噛むしかなかった。
ただ、倒れて見ているだけしかできない状況を悔しくて、涙を流しながら見ているだけだった。
それも終わりを告げる。
幕はあっけない結末で終わりを迎えてしまったりする。
3人は必死に戦っていた。
だが・・・たった一言。
強者のたった一言で・・・状況はあっさりと傾いてしまった。
「これぐらいでいいでしょう」
デルトのこの一言が決定的な瞬間だった。
「っぐ、がはっ!」
「っ!ああ!」
「ゴフッ・・・!」
トウジロウは刀ごと力技、拳のみで打ち返され腕が反対方向へとぐちゃぐちゃに折れる。
その瞬間にお腹を蹴り残っていた壁に突き刺さる。
イスカも何とか耐えていたがハルバードをはたき落され、回し蹴りで大きく地面のバウンドし回転して、倒れたカイル達の傍まで転がってくる。
ボールドはそれでもあきらめず最後まで戦おうとしたが、大剣を叩き折られ、伸ばした爪ごとお腹に刺さり、手が貫通していた。
貫通した態勢で止まるデルト。
「なかなか楽しめましたよ・・・ありがとう」
貫かれた態勢で止まっていたボールドを投げ捨てる様にイスカ達を同じく共に倒れているケイト達の傍に放り投げた。
「・・・まだ・・・・・・まだだ」
「カレン・・・さん」
メルムは青い顔で倒れ伏し、顔だけを無理やり刀を杖代わりに立ち上がったカレンを見る。
「・・・もういいでしょう。
あなた方の役目は終わりました」
「私達の目的は・・・お前を殺すこと・・・」
「どうやって?
いま、何とか立っているだけのあなたにですか?」
「・・・」
デルトを睨み何も言わないカレン。
「・・・ふ、ふふ・・・ウウウハッハッハッハッハッハッハッハッハッハ・・・」
「・・・」
「いや~、ここまで行くと、もはや哀れを通り越して惨めになります。
そんな幻想は早く壊してしまった方が、あなた方のためになるのでしょうか・・・?」
ゆっくりとカレンに向かって歩いてくるデルト。
そしてカレンも前、手が届く距離まで近づき止まった。
「・・・さようなら。
私のための供物よ・・・」
ゆっくり振り上げ、攻撃が向かってくる瞬間もカレンはデルトから目を離さなかった。
「勝手に殺さないでください!」
足元から急に氷が生まれ、デルトを突き刺そうとしてくる。
「おやおや、本当に往生際の悪い・・・」
デルトは飛んで再び後方の玉座の傍に着地した。
「大丈夫?・・・」
「早く回復を!」
「これ、使ってください!」
プリムが致命傷を受けているボールドを最優先に回復させ。
ヘレンとクリスが荷物から回復薬を飲める者達に飲ませていった。
・・・ドサッ・・・。
支えていた気力が抜けたのか、カレンは倒れ込んだ。
急いでクリスが近づき回復薬を渡す。
「大丈夫ですか?
自分で飲めますか?」
「・・・あな・・・た・・・」
クリスの顔を見た時、何とも言えない驚いた表情をするカレン。
しかし、クリスにとっては、今のメンバー達のボロボロの状態を助ける方が優先のため、カレンの表情をいちいち気にしてはいられなかった。
「自力で飲めますか?」
再度クリスに質問されたカレンは頷いた。
クリスは傷を治す回復薬と、マナを回復するポーションを1つずつ渡し、他の倒れている人達の所へと周った。
「あなたがココの大ボスってことですね。
私の仲間に随分とひどい仕打ちをしてくれたようですね」
テスはとても落ち着いていたが、言葉とは裏腹に吹き出しているマナはすさまじい勢いが出ていた。
感情が完全には抑えきれず、その影響で周囲にまで地面を凍り付かせてしまっていた。
しかし、デルトはそんなテスを一瞥した後、何故かクリスを目で追っていた。
そして、気持ち悪いくらいのニヤつき顔へと変化した。
クリスも回復薬を配っている最中に突然、目の前に現れた半透明のボードに困惑していた。
「え?・・・これって?」
【緊急クエスト】
未来の幸の為に、元レッサーヴァンパイア
デルト・ベント・シェハンをこの場で倒せ!
【クリス】5才 人間(変化)
レベル 19
HP 224 MP 201
STR 89
VIT 80
INT 92
RES 81
DEX 84
AGI 88
LUK 56
『マナ性質:レベル 1』『強靭:レベル 1』『総量増加:レベル 5』




