100 それぞれの戦場へ
「まったく、邪魔してないでよね!」
「ふう~・・・物足りませんわ~」
「君ら・・・お兄さんの分も暴れておいてその言い草はどうなの・・・?」
「どうでもいいわよ、そんなの」
「ほら、さっさと行きますわよ?
ここに居るレッサーのお馬鹿さんに躾というモノを教えてあげなくちゃいけませんし・・・」
つかつかと先を歩くシャーリィとクラル。
「き・・・ぎざま゛ら゛ぁ~・・・」
「あら、まだ死んでいませんでしたよ?ヤハト」
「ほらサッサと行くんでしょ?」
震える身体で必死に起き上がろうとする兵士の1人。
身体中ケガを負い、下半身が失ってなお生きている。
「しぶといねー。
もしかして・・・それが君の親玉から貰った力なのかな?」
「ぜっ・・・だい゛に・・・ごろじて・・・や・・・」
「もういいわよ、そんなの」
遠くから飛んできた火の玉であっさり燃やされ力尽きる兵士。
「・・・流石に今のはひどいんじゃない?
せっかく必死に、俺達に暴言吐こうとしていたかもしれないのに。
最後の意思だよ?
もうちょっと尊重してあげても「どうでもいいわね、そんなの」・・・」
「聞くだけ無駄ですわね」
「あー・・・・・・すまん」
ヤハトは手を合わせ、燃えカスになり世界に還元され消えていく兵士に謝罪して、その場を去って行った。
そして・・・その場所には争った結果による燃えた後、破壊され壁が凹んだり削られ部屋がボロボロになっていた。
今はもう静寂が支配し、いくつかのドロップアイテムが落ちているだけだった。
「?・・・通路からも侵入者か?」
「デルト様、どうされました?」
「キュレス、君の所の部隊とダルゾの部隊が消されたようですよ?」
「はい?そんなばかな・・・。
通路という事は・・・私が配置した場所ですと、この城の抜け道の方ですか?
あそこは私の精鋭を数人配置し、更にその部下達までいたはずです。
たかが、以前より強いだけの侵入者がそこまでの力を持っているとは・・・」
「・・・どうやら、この侵入者、冒険者とは違うのかもしれませんね~・・・?」
「もしかして、先ほどデルト様がおっしゃっていた者達っ・・・」
「いえ、あの者達なら、おそらく正面からくるでしょう。
実力でねじ伏せる自信があるから、わざわざ抜け道というルートを使ってコッソリ奇襲する様な者達ではないと思いますから・・・たぶん、別の者達でしょう。
ふふふ・・・わざわざ、抜け道を使うという事は・・・私に用があるのかもしれませんね~?
これはこれは・・・面白い」
「私が向かいます」
「いえ、あなたの機動力は、私達にとっても重要です。
あなたは城だけでなく、砦とこの山の周囲を見て回っていただけますか?
侵入者が他にも隠れているかもしれません。
あなたと、あなたの部下達で索敵にあたって下さい」
「ハッ。
デルト様がそういうのでしたら・・・。
では、失礼します」
・・・・・・バタン。
「・・・ふふふ、さあ私に早く辿り着くの者は、いったい誰なのですか?
もっと、私に力をつける生贄を・・・ふふふふふふふふふ」
「・・・到着」
「そうそう・・・分かり易い相手がいるけどな・・・。
・・・なあ、もしかしなくてもあんたらが俺達の相手をしてくれるのか?」
「当然!」
「我が相手をする」
トウジロウの質問にダルゾが楽しそうに、ゴクガスが腕を組んで答える。
「話が通じる相手・・・ですか・・・」
「では、俺達の事はー・・・?」
「当然知ってる・・・前回の復讐に来た冒険者だろ?」
「侵入者の間違いではないのか?」
「いや、そんなことはどっちでもいいだろ」
続けての質問にも普通に話し出すダルゾとゴクガス。
「復讐ではありませんが・・・まあ、形はどうあれ似た様なものかもしれませんね。
・・・私達は依頼でこの城の主を倒しに来ました。
もし通していただけるのであれば戦わずに済ませたいのですが?」
「はっ、冗~談!」
「ですよねー・・・ま、分かってましたけど」
メルムの質問に鼻で笑って楽しそうに構えだすダルゾ。
それを受け、イスカ達もそれぞれが戦闘態勢に入る。
「・・・ちなみに聞いておきたいんだが・・・お前達は何だ?」
ボールドが気になり確認のために聞いてみる。
「オレか?・・・オレはデルト様の幹部の1人のダルゾってもんだ。
ここに、前回の様な雑魚じゃなくて強そうな奴らが来るってんで門の前で待っていたってわけだ」
「我はゴクガス。
我も故あって、ここの主に協力している。
一応、我も同じ幹部の1人になる」
「おいおい、幹部がこんな最初の場所で待ち受けているのが普通なのか?」
「いや、普通はしねえ。
でもよー・・・奥で待ってても、誰も来ないんじゃ面白くねえだろ。
いつ来るのかも分からねえうえに、来たとしても弱りきった奴だと張り合いがねえ」
「然り。
我らは自分の力で強者と戦い勝ちたいのだ。
そこに、己の本当の力が表れる」
「・・・なんか先生みたいなタイプですね?」
「はははー、いいじゃねえか面白れー。
じゃあ、いっちょ俺が相手になってやるよ」
トウジロウが進んで一歩、前に出た。
「ちょっ、トウジロウさん!」
慌ててメルムとカイルが止めに入ろうとする。
「いいじゃねえか。
こんな相手がいるってのは珍しいぜ?
1人くらい、俺にサシでやらせてくれ・・・」
「・・・いいのですか?
あなたのリーダーあんなこと言ってますが・・・?」
「はあ・・・好きにさせてあげてください。
一応、ああなって、今まで負けた事がありませんので、大丈夫だと思います」
ゾッドがカレンに確認を込めて聞くが、いつもの事なのか諦めたように頭を手で押さえ呆れ返っていた。
「・・・じゃあ、私達がもう1人?」
「うーん・・・念のために補助だけは付けたいのですが・・・」
チラッとトウジロウを見るカイル。
「いらねえいらねえ」
あっさりと手をヒラヒラさせ拒否する。
「・・・ここに幹部がいるけど、他にも当然、中にはいるって考えていいのよね?」
「は~、いったい何人いるんですかね~?」
「ここで、止まっていても仕方がない。
我々は先に進んでもいいだろうか?」
ボールドはメルム達に確認を取る。
「えっ・・・うーん、出来れば、全員で戦って倒して方が一番被害は少ないと思うのですがー・・・」
「数人くらい先に進みたけりゃあ、進んでいいぜ?」
「ああ・・・。
我と対等に戦える者が残ってくれるのであれば、通ってくれて構わん」
話を聞いていたダルゾ、ゴクガスは門から少し脇に離れ道を譲った。
「ずいぶんな自信じゃねえか?」
「まあ、中には他にも部下や幹部がいるからな。
ここで、全員を相手にしても良いが・・・中の奴が不満を漏らすからな」
「なに、ここで我が勝ったのなら、今度は中に入って仲間を我が倒しに向かうだけの事。
どちらにしてもやることは変わらん」
余裕たっぷりな2人の幹部。
「・・・では、私が戦う」
イスカがトウジロウの横に並ぶ。
「イスカ!あなたまで・・・」
「この中を調べるのは時間が掛かる。
メルム、カイルは先に行って・・・」
「えっ、それだとイスカさんが・・・」
「大丈夫・・・問題ない」
その言葉に誰よりも戦闘狂になっている3人がそれぞれ楽しそうに答える。
「決まりだな・・・。
カレン、お前も先に行け。
前衛のお前が彼女たちのサポートにあたれ」
「・・・わかりました」
「っという事は、お前とお前が俺達の相手ってわけか・・・」
「実力のほど・・・期待しても良いのだな?」
「ああ、精々、吠え面をかかせながら殺してやるよ」
「・・・倒してあげる」
お互いが戦う事が決まった事でメルムも諦めて次の行動へと切り替える。
「・・・仕方ないわね。
カイル、カレンさん、ゾッドさんも私達は、私達の作戦に沿って進みましょう」
「・・・分かりました」
「はい」
「了解です」
「私達は範囲の広い砦なので4人で周ります。
よろしいでしょうか?」
「構わない。
もともと、私達は3人で向かうつもりでもあった」
「じゃあ、あたし達は城かー」
「は~・・・なんかちょっとだけ緊張してきましたね~、ケイトちゃん・・・」
道を譲ったダルゾ、ゴクガスを通り抜け門を潜りメルム達は砦を、ボールド達はさらに先にある城目指して向かって行った。
「っで?どっちがどっちの相手をするんだ?」
「ふーむ、俺としちゃあ2人まとめて相手しても良いんだが・・・」
「我は女との相手は避けたいところだな。
戦う必要があるならそうするが・・・」
「じゃあ、お前の相手は俺がするって事で」
「じゃあ・・・あなたの相手は私」
「お?・・・ははは。
俺も一応、女相手だから多少手加減してやってもいいが・・・?」
「いらない」
「ははは、だろうな」
門からお互い戦いやすい間合にまで横に移動し、1対1の状態を作る。
「・・・んじゃあ、始めるか!」
トウジロウの声を合図に、それぞれの戦いが始まった。
一方、その頃、平原の方では・・・。
「陣形の再編成が完了しました」
「ご苦労、お前も陣形に加わってくれ」
「ハッ!」
ビスガルに報告した兵士は自分の配置へと戻っていく。
「(さて・・・どう出る?)」
ビスガルはこの先の戦い方に相手方の出方を窺うように前方を見据える。
すると、そこに・・・。
「なあ、俺達が先に戦って削っちまって構わねえか?」
「こんな所でずっと待つのって性に合わないのよねー」
ロイドとフェリルがビスガルのいる真ん中の本陣まで近づいて聞いてきた。
「ちょっ、ロイドさん。
ここ私達が担当のはずですよ?
どうしたんですか?」
キャシルはロイド達を見てビスガルの傍まで走ってきた。
マイク達もそれに続く。
「いつまでもここでじっとしていても埒が明かねえ。
いっちょこっちから、先に向こうに攻め込もうと思ってな」
「被害をできるだけ少なくするにはその方が良いと思うのよ」
至極簡単な事だろ?っと顔に書いていそうなくらいに平然と告げる2人。
「はぁ・・・まったくお前達は・・・まともに連携を取る気はあるのか?・・・」
「どうぜ大暴れしたいから、直接、大将に言いに来たのでしょう」
続いてやって来たのは、右翼側で待機していたはずのディックとチャルルだった。
「はっ、よく言うぜ。
お前らも先陣きって戦いてえから来たんだろうが」
「そうよ。
私をこの馬鹿と一緒の扱いにしないでくれる!」
「んだとゴラ~ッ!」
「何よ、やる気!」
すでに関係ない所でヒートアップしているロイドとフェリルの2人に困惑するビスガル。
「しかし、あなた方は本来、こちらではなく向こうの古城の方へ行かれる方々。
ここで負傷されましては・・・」
「はん、そんな心配すんなって」
「そうね・・・一応、私達も高ランク冒険者。
こういった大勢を相手する戦いは初めてじゃないの」
「し・・・しかし・・・」
ますます戸惑うビスガル。
「ビスガルさん、安心してください。
一応我々も雇われた身。
引き受けた仕事はキッチリやりますし・・・ここで、ケガをしたのならそれは自己責任」
「はい・・・私達は冒険者です。
毎回毎回、無謀な挑戦はいたしません。
自分達のやれる範囲をキッチリ見極めることも重要ですので・・・」
「ひひ、だってさ、マイク~」
「う・・・わ、分かってるよ・・・」
「ですから、ここは我々に先陣を切らせていただいてもよろしいでしょうか?」
「被害を最小限にするには、おそらくこの方が良いでしょうから・・・」
「それに・・・人が入り乱れての戦いになったら、使えない魔法とかあるし・・・」
「う・・・う~ん・・・」
ビスガルは腕を組み悩む。
救援を頼んだのはコッチ。
それなのに重要な事をほとんど相手任せにして良いのかと、葛藤が出てしまう。
「・・・ビスガルさん、良いんじゃねえか?」
「・・・マイク・・・」
悩むビスガルにあっさりとフランクに話すマイク。
「確かに、ここで他の冒険者と足並み揃えて戦ったら、使えない能力や魔法だってあるんだし。
むしろ、先に俺達が行って、数を削れば・・・案外、結構早く決着がつくんじゃねえか?」
「マイク!・・・あんたはもうー」
キャシルはまたも無謀な事を言い始めるマイクに注意する。
「でも、意外と合ってるかも・・・」
「そうだな・・・。
俺達が自分の実力に自惚れるわけにはいかんが、それが確実に大打撃を与えることになりそうだ」
トルカ、コールディがマイクの言葉に賛同した。
「お前達まで・・・」
ビスガルはそんなマイク達を驚き、困り果てた顔で見る。
しかし・・・マイク達の顔に、確かな自信が見て取れたビスガルは意を決す。
「分かった。
では、我々は君達の後に続く形で出るとしよう。
その合図はどうする?」
「それじゃあ、私が合図するわ。
そろそろ、ここから暗くもなるだろうしある程度一掃した後に照明代わりに光の玉を上空に撃つからそれキッカケで動いてもらえる?」
「分かった。
・・・じゃあ、そのことを他に者達にも伝えておく」
ビスガルが横を向くと、控えていた騎士達が頷き、方々に散っていった。
「じゃあ、これで先に俺達が行けるってわけだ」
「それじゃあ、サッサと片付けて、イスカ達に追いつかないと」
「俺達も行こう。
先生に追いつきたい」
「はい・・・といっても先生だと・・・とっくに終わらせている可能性もありそうですけど・・・」
ロイド、フェリル、ディック、チャルルが少しだけ下り坂になっている平原を進み、モンスター集団へと向かっていく。
「俺達も行こう」
「あ、待ってよー」
「力を試すいい機会」
「前回もそれ言ってなかったか?」
マイク達も続いてモンスター集団に向かって行った。
「(押し付ける形になってすまないが頼んだ・・・)」
ビスガルはモンスターに向かって行く8人の冒険者達の後姿を黙って見送るのだった。
【クリス】5才 人間(変化)
レベル 19
HP 224 MP 201
STR 89
VIT 80
INT 92
RES 81
DEX 84
AGI 88
LUK 56
『マナ性質:レベル 1』『強靭:レベル 1』『総量増加:レベル 5』




