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転と閃のアイデンティティー  作者: あさくら 正篤
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98 守るための選択と戦の足音

「クリス君達の方はどうなったんだろうな?」

「もうそろそろ、着いて戦闘を始めてるんじゃない?」

「場所が広い。

 主を倒すのには時間が掛かる」

「まあ、それまでにこちらもなんとかしないといけないけどな?」

「・・・いよいよかしら・・・?」


 マイク達の見る方向から少しずつ霧が向かってきていた。


「なあ、お前らに聞きてえんだがよ?

 あのガキが向こうに行くのはどうしても納得できねえんだが、お前らはどうして止めねえんだ?」

「そんなの決まってる。

 俺達より彼1人の方が強いからだ」

「その辺りがどうしてなのか聞きたいんだけど・・・?」


 エルフェンローゼのメンバー、ロイドとフェリルがマイク達に聞きたがる。

 実力が分からないとかそれ以前に、クリスは子供。

 そんな子供より自分達が平原側、そして何より子供を危険な戦場に迷わず薦めさせた状況が、いまだ自身の中で折り合いがついていなかった。


「仮に実力がそこそこあるとしても・・・普通、そこはお前たちが行くんじゃねえか?」

「それは俺に気になる。

 わざわざ、あなた方が降りる必要は無かったと思いますよ?

 あなた方がまだCランクだとしても、ミカルズの・・・塔、でしたっけ?

 あれを踏破した者はBランクに入ると言われているそうじゃないですか。

 でしたら、あの子供よりもあなた方が行った方がよほど戦力になると思いますが?」

「そうよねー。

 私ほどでないにしても実力があるなら、あの子供よりもあんた達の方がよっぽどサポートとして信用できそうだけど?」

「出来ればお聞かせ願えないでしょうか?」


 途中からメンセイテンのメンバー、ディックとチャルルも加わり、質問に参加していた。


「・・・分かってねえな~」

「まったく」

「これは・・・仕方ないのかなー?」

「いや、だからっ!・・・」

「1つ、こちらからもお聞きします」


 なかなかすぐに言わず、勿体ぶるように感じたロイドが声を荒げそうになる。

 そこを、まとめ役であるコールディが止め、逆にロイド達に質問を返す。


「あなた方は彼を・・・クリス君を見て、どう感じましたか?」

「あん?・・・そんなの、ただのガキだろ?

 まあギルド長が推すくらいだし、そこそこ使えるくらいだろ」

「私もロイドに賛成。

 ちょっと特別な才能でもあるのかもしれないけど、結局は子供なんだし、そこまで言うほどのもんじゃないでしょ」

「・・・悔しいが、そこのロイドとフェリルと同じ意見だ。

 非常に遺憾だが・・・」

「あ゛あ゛!ケンカ売ってんのか!?」

「・・・失礼ですが、私も同意見です。

 ・・・あなた方は違うと・・・?」


 ディック達はチャルルの言葉に真剣になってマイク達を見た。


「あ~・・・やっぱそう思うかー」

「そこは一緒・・・昔は、だけど」

「まあ、私達もマイクが助けようってクリス君に関わらなければ、そう思ってたけどね?」

「「「「???」」」」


 自分の考えていた事と帰って来た返答?に少しズレていることでますます混乱するロイド達。


「ああ、すまないウチの仲間が。

 ・・・我々も最初は彼に対して実力に合っていない場所に戸惑っていたんだ。

 ・・・ディックさんでしたっけ?」

「呼び捨てで構わない」

「では・・・ディックが言っていた通り、我々のパーティも彼を侮っていました。

 ミカルズの塔は、クレフーテの町にあるダンジョンでも高めのダンジョンにあたりますので。

 本来、彼ぐらいの子供はもう1つの初心者用のダンジョンであるチタに行くはずなのですよ。

 ミカルズに行く前の町の門や、塔の前にも兵士や騎士達が見張りとして常時数人はおりますので、彼らが子供を見かければ呼び止め、保護するはずです。

 ・・・しかし、我々がミカルズに攻略した日に、他の冒険者達が騒いでまして・・・」

「子供がミカルズに入るという話」

「それが本当かどうかは、保護するはずの兵士達が通したことで本当だってなって騒いでいたの」

「・・・それが、彼・・・ですか?」

「そう。

 最も中には彼がミカルズに入れることを気に食わないと感じる者も中にはいたけどな?」

「ミカルズに入れるという事は、ギルドから・・・ひいては町の人達から実力がある冒険者だって認められた証だから。

 そんな事を何の実績も実力も不明の子供が行くのが許せないって人が中にはいたの」

「・・・それって、問題にならなかったんですか?」

「なったんだよ・・・いや、正確にはなりかけた・・・が、正しいのか、これ?」

「新人いびりしようとした者達が、彼にちょっかいを掛けようと先回りして、モンスターの集団に殺されかけていたらしい」

「らしい?」

「たまたま、駆け付けた子供がモンスター集団を一掃して、貶めようとした相手に逆に助けられた」

「そもそもこの時点で、結構子供の中でも力があるという証拠。

 あの中の塔の上を目指すルートはいくつもあって、その中の特定の階層にまでたどり着いている事、それ事態が普通なら無茶苦茶だ」

「過去に子供が登ったという例は確かにある」

「じゃあ、問題ないって事だろ?」

「ただし、それは保護者・・・ディック達の様な高ランクの者達が万が一を考え同行してのという事。

 彼は、そこまでをひとりで登って見せた。

 しかも、聞いた所によれば初めて塔に入った初日で・・・」

「・・・冗談でしょ?」


 流石のロイド達もマイクの話に信じられず、フェリルがその代表として、言葉を出しマイク達の顔を見た。


 マイク達は``分かる``という気持ちも込めながら話の続きを語った。


「信じたい気持ちは分かるが事実だ。

 そして、その日に塔へ挑戦した者が決めた階層枠の中層まで、辿り着いてしまったんだ。

 途中から我々も同行する形で・・・」

「本人が言うには初日だから軽く下調べくらいに気持ちだったそうよ?」

「「「「・・・・・・」」」」


 ロイド、フェリル、ディック、チャルルは高ランク冒険者。

 今まで、難しい依頼を何度もこなしたし、その経験からマイク達の実力はある程度は分かっているつもりであった。

 実際、自身の経験から相手の事はそれなりの能力があると評価していた・・・が、例外(クリス)が現れた。

 今までの常識を吐き捨てろと言われている様なものであったために、彼らにはすぐにそんなことは受け入れることが出来なかった。


「・・・お前達がいたから・・・初日はその中層まで行けたんだよな?」

「そ、そうそう。

 そのダンジョンを攻略できたあんた達が途中からフォローしたからでしょ?」

「はい、常識的にはあり得ない部分が多々ありますが・・・あなた方がいたから登れたのではないでしょうか?」

「俺も同意見だ。

 もともと、あんた達の実力があってだろ?」


 それは、まだ自分の中に残っている常識に縋り、あるいはそうであってほしいという願いを込めて確認のために出てきた言葉だった。


「残念だけど違う」

「私達も中層までは行けてなかったのよねー」

「ああ。クリス君と出会ってなかったら、俺達はまだ下層で素材集めに必死になっていたな・・・」


 トルカ、キャシル、マイクの3人が祈るようにも聞いたロイド達の言葉をあっさりと切り捨てた。


「我々はそこまでの実力を備わってはいません。

 たまたま、彼に手伝ってもらう代わりに、私達も勝手ながら助力しただけなので・・・」

「・・・・・・・・・・・・」


 とても重い沈黙が続いた。


「あなた方は俺達より強い、そして皆からも信頼されるくらいの実績を積んできています。

 だから、その常識は変わらないでしょう。

 ・・・しかし・・・ふ、これは俺達も同じなのですが彼の力を少しでも何も感じられなかったのなら・・・あなた方もまだまだ、という事になります」

「・・・・・・確かに、先生には何度も言われましたね。

 自分の常識を平然と覆す化け物は世界中探せばそこら中にいるって・・・」

「・・・ああ、確かに言われたな・・・」

「あなたは笑って流してしまいますけどね」

「お前だってそうだろ?

 そんなのがたくさんいるわけがないって・・・」

「しかし、現実に目の前に現れた。

 ・・・・・・それで先生は・・・」

「・・・あの楽しそうに笑っていた顔か・・・」

「あなたも気づきましたか?

 おそらく、勘でしょうが先生は彼に何かを感じたのでしょうね・・・」

「・・・・・・自分がまだまだ甘いってのは、この事か・・・」

「それは、私も・・・おそらく、カレンもそうでしょうね」

「・・・っち、イスカは気づいていたのか?」

「そんなの分かるわけないじゃない。

 ・・・でも、何となく不思議には思ってるんじゃない?

 子供をギルド長自らが推すぐらいだし・・・」

「・・・・・・クソッ・・・」


 自分なりにようやく納得する4人。

 各々が自分達のパーティメンバーと話している。


「(・・・彼らのマナって俺達と同じくらい?)」

「(総量だけで見れば)」

「(でも、そもそもレベルが明らかに違うから、私達みたいにマナのコントロールが出来てない状態でって条件付きだけどね)」

「(はぁ~・・・っつう事はやっぱり俺達があのチームの中じゃあ1番下って事かー)」

「(もともと、分かりきっていた事だろう。落ち込むことは無い。

 それに・・・彼のおかげでこのメンバーの中に特別とはいえ参戦できるんだ。

 俺達は俺達の仕事をしよう)」

「(私達の目的は・・・兵士や騎士達、冒険者のフォローしながら大将となるような存在の速やかな排除・・・だっけ?)」

「(そう。ただし今回のスタンピードはどこかで統制されてるって事は、上手く戦わないとモンスターが散らばってしまう可能性もあるってギルド長が言ってた)」

「(頭を倒せば勝利ってわけでもねえのか・・・)」

「(数が数だから殲滅しないと周りに被害を出しかねん。

 時間との勝負でもある、なかなか大変な戦闘になるぞ?)」

「(霧が濃いうえに・・・もうそろそろ夕方。

 これって、クレフーテの町に深夜辺りに奇襲を掛けるつもりだったのかな?)」

「(たぶんそう。

 だから、この平原で早く倒しておきたいって考えたんだと思う。

 ここだったら、広々と戦える)」

「(確かに、ただでさえ霧で見えづらい中、森なんかで戦えば、見えない所から襲撃される可能性が高いしな)」


 遠くの方で太鼓の様な物が叩く音がマイク達の方まで聞こえてきた。


「・・・いよいよか・・・」


 先ほどの知らせでマイク、キャシル、トルカ、コールディは話し合いを打ち切り、目の前の今から始める戦闘へと意識を切り替える。

 それはロイド、フェリル、ディック、チャルルも同様だった。


「俺達は左側の陣から前進して、強い奴と指揮してる奴を叩く」

「では、私達は右側の方を・・・」

「じゃあ、俺達は真ん中か・・・ま、人数が一番多いんだから当然か」

「それじゃあ、早めにサクッと片づけるぞ?

 ほら、行くぞフェリル」

「偉そうに命令しないでくれる?

 あんたがリーダーじゃないんだから」


 ロイド、フェリルは左側の陣へと向かって歩いて行った。


「俺達も行こう。

 出来るだけ早く倒して先生に追い付きたい」

「ええ、そうですね。

 それに・・・彼の実力をこの目で確かめてみたいですし」


 ディック、チャルルは右側の陣へと移動して行った。


「そんじゃあ、俺達は・・・まずは、モンスターを殲滅を優先しよう。

 クリス君に追いかけるにしたって、ここを何とかしないと意味がねえしな?」

「ええ、そうね。

 ふっふっふ~、待ってなさい。

 今度こそ思いっきり魔法で粉々にしてあげるんだから・・・」

「・・・キャシルに体内マナを教えたのは・・・失敗?」

「そんな気もしなくはないが、今回はこれが大きな助けになるだろうし構わない。

 俺達も行こう」


 マイク達は真ん中の陣の前線の方へと歩き出した。



「いいか、お前達!

 先に話しておく・・・今回の戦いは、中には苦しい者が現れるだろう。

 それは、モンスターの強さもさることながら、これは精神的に追いやられるだろう!」


 先頭で指揮を取るのはビスガルだった。

 町の護衛に兵士と騎士はある程度は残している。

 その上で領主であるフロスタン家は護衛騎士にリンジーと念のために冒険者ギルドのギルド長、セルリアに領主達に護衛を頼んでいた。


 そして、護衛を任せた後は、クレフーテの町を離れ、指揮を取っていち早くスタンピードを終わらせるために最前線に赴いていた。


 当然、ここでの総指揮にあたるのがビスガルになっている。

 クレフーテの町で英雄と称される彼に誰も反対する者はいなかったからだ。


 近くにいる魔法使いの支援で声を遠くに大きく届かせるよう手伝ってもらい、声を張り上げている。


「分かっている者もいるだろうがもう一度言う。

 今回のモンスターの中にはゾンビがいる。

 それは、かつての知り合い、友人、家族、恋人が含まれている可能性があるからだ!

 いいか!たとえかつての大切な人だったとしても、言葉を話していたとしても彼らはすでに死んだ存在だ。

 仮に流暢に話したとしても、それが生前と違わないくらいに見えたとしても、彼らの中に入っている魂は全くの別物だ。

 油断すれば、友人のフリをして殺しにかかってくるだろう。

 もしここで、この戦いに躊躇いがあるのなら構わん、今すぐクレフーテの町に帰って護衛にあたってくれ。

 これは脅しではない。

 もう一度言う、これは脅しではない。

 自分の現状を考え、自分が出来る最善を尽くしてくれ。

 それが、ここに居る仲間達のためにもなる。

 そろそろ、時間が迫ってきた。

 これが最後だ・・・もう一度、自分自身に問いかけ正しいと思える選択をしてくれ」


 ビスガルの言葉に、兵士達、騎士達、他にも近くまで来て聞いていたのだろう冒険者達が話し合った。


 もともと、参加していたが、今回の戦に動揺が隠せない者が中には居た。


 その者達が仲間に託し、あるいは仲間に背中や肩を叩かれ、迷っている者達を帰らせていた。

 後ろを振り向き、未練が残ってしまう者。

 涙を流し、仲間に頼む者と次々と踵を返し帰っていく者達がいた。


「(町のために、一丸となって戦ってくれようとしたその気持ち、私は誇りに思う。

 しかし、残した家族が気になるのなら・・・気にするな帰って、家族を側で守ってやれ)

 お前たちの分は我々が何とかする・・・だから・・・町を頼んだ!」


 次々に帰っていく者達。

 ・・・そして、残ったのは最初に平原に来た時より3割近くの者達が帰っていった。

 中には実力がもともと、無かった者も参加しようとしていたが・・・いざ、戦が近づけばどうしても自分の能力に及び腰になっても仕方がない事だった。


「(怖気ついたって構わない。

 それは、生きる事・・・生き残ることを天秤にかけて生存率を優先した結果だ。

 何も恥じる事じゃない)」


 ある程度人数が減った所で、他の隊が指揮の下、陣形を立て直す。


「・・・ふ、それでもここまで残ってくれたか・・・ありがたい・・・」

「私達は・・・あなたの背中を見てきました。

 これまでのあなたの活躍があったからこそ町は平和だったのです。

 私達も町のために・・・あなたと共に戦う覚悟であります!」

「・・・ありがとう」


 ただ、短く感謝を伝える。

 その中にはたくさんの想いがそれぞれにある。

 しかし、それを言い表せる言葉は無かった。

 だから、たった一言・・・ビスガルはこの場に参加した人達に感謝を述べた。


「気にするな、俺達は好きでやっている。

 あんた達、兵士や騎士達と違って好きに動いてる冒険者だからな。

 ただ・・・今回はギルド長の緊急だから仕方なくだ」

「よく言うよ。

 お前が真っ先にこの戦いに参加するって言ったくせに」

「そうそう。

 町がやべえっていきなり俺達を叩き起こしたのはお前だろうが」

「うるせえ!

 おめえらみたいのがのんびり出来てるツケをちゃんと払うのが筋ってだけの話だ」

「ははははははは、違えねえ」


 ドッと冒険者達の中で笑いが起きる。


 帰っていく者達の中でも比較的かなりの数が残っていたのが冒険者達だった。

 彼らも彼らなりにクレフーテに愛着があり、手放すことが出来なくなっていたからだ。

 今回のスタンピードに残ったのはその大切な場所を彼らも奪われない様にするためであると、大義名分を立ててでも動くつもりでいたようだった。


 そして、皆が平原の向こう、霧が一層濃くなっている場所を見据える。


 ダ・・・ダン・・・ダン・・・ダン・・・・・・。


 霧が濃くハッキリとその規模は目では視認できないが振動と共に大きさがバラバラの混成モンスター達がビスガル達の向かい側、数百メートル離れた場所に姿を現した。


 彼らもまた、誰かの指揮の下、等間隔に横へと広がりビスガル達と同じく陣形を組みだしていた。


 徐々に霧が辺り一面を覆い始め、夕日が霧の中を幻想的に輝かせる頃。


 スタンピードという名のモンスター達による戦争が始まろうとしていた。






【クリス】5才 人間(変化)

 レベル 19

 HP 224 MP 201

 STR 89

 VIT 80

 INT 92

 RES 81

 DEX 84

 AGI 88

 LUK 56

『マナ性質:レベル 1』『強靭:レベル 1』『総量増加:レベル 5』

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