9.本当の願い
魔物を無事に倒して、シエナの治療を終えたエリスティアは、再びリーセと共に焚火の前にいた。
シエナは先に休むように言い聞かせると、渋々とだが言うことを聞いてくれた。
どうやら、ようやくシエナもリーセのことを信頼するようになってくれたらしい、と安堵する。
「ありがとうございます。今日だけで、二度も助けられてしまいましたね」
「だから、気にしなくていいよ。仕事だからね」
「……それにしても、女性の方とは思いませんでした」
「ん? ああ、別に言う必要もないと思ったからね。よく勘違いされるけれど」
あれから、水に濡れたままでやってきたリーセが服を整えている時に、見てしまった。『彼』ではなく、『彼女』であるということを。
その事実を知って、水浴びを拒否したことが少し恥ずかしくなってしまう。
「君も早く寝た方がいいよ。明日は早めに移動するからね」
「はい、分かっています。その……少しだけ、お話したいことがありまして」
「ん、なにかな?」
「えっと、どう切り出したらいいんでしょうか」
「ははっ、それを僕に聞くの? それって、二人じゃないと話せないようなこと?」
「! それは……えっと、はい」
「なるほど。じゃあ、僕を雇ったことに関係があるのかな? たとえば――僕のことを知っていて、雇ったとか」
「っ、ご存知、だったんですか?」
リーセの言葉を聞いたエリスティアは、目を丸くした。
だが、リーセはくすりと笑みを浮かべて答える。
「いや、なんとなくそう思っただけだよ。いくら王女様とはいえ――僕みたいな人間を雇うなんて、少しおかしいとは思っていたからね」
「《詐欺師》――リーセ・デイグレン。あなたはそう、呼ばれていますよね?」
「ははっ、その名前か。そうだね、僕はそうとも呼ばれている。詐欺なんてしたことはないけどね。噂話で聞いたのかな?」
「……はい、そういう、冒険者がいるとだけ」
「そっか。まあ、その名の通り――というわけではないけれど、確かに僕は悪い噂ばかりを流されている。それを知っていて僕を雇ったのは……僕にしか頼めないことをしたいからかな?」
「……」
リーセの問いかけに、エリスティアはすぐに答えられなかった。――それを答えてしまっていいのか、分からなかったからだ。
だが、それを察してか、リーセが口を開く。
「『君を狙った人間が誰か分からない』、『このまま狙われて、周りの人間が傷つくのは嫌だ』、『でも、どこにも逃げられない』――ってところかな?」
「――っ! ど、どうしてそれを……」
「顔に書いてあるよ。まあ、大体は予想しただけのことさ。そういう子に会ったことがないわけじゃない」
「……そう、なんですね」
「ああ、それで――君の依頼はどれかな?」
「どれ……?」
「うん、ただこのまま守ってほしいのかな? それとも、君を狙う人間を全て始末してほしい?」
「そんなこと、できるんですか?」
「やろうと思えばできるとも。僕は『最強の魔導師』だからね」
「ふふっ、自信満々でそれを言い切れるのは、本当に尊敬します。そう、ですね――」
エリスティアは、ちらりと視線をシエナが眠る方向へと送る。
くすりと笑みを浮かべて、エリスティアは静かな声で話し始めた。
「シエナとは、ずっと一緒だったんです。あの子はわたしのことを守るって言ってくれて、幼い頃は泣き虫だったのに、気付けばメイドで、わたしの護衛をしてくれるくらいに強くなってくれました。でも、このままだとあの子も危険です。その危険な道が、どれだけ続くか……わたしは不安でしかなくて……だから――こんなこと、願っていいのか分からないんですけど……」
エリスティアは、悲痛な表情で言葉を続けた。
「わたし達を、助けてくれますか?」
それは――出会った時にエリスティアがリーセに向けた言葉。
あの時も本音だったが、今は意味が違う。
エリスティアの言葉を聞いて、リーセはにやりと笑みを浮かべた。
「そういうことなら、契約更新だね。もちろん、その分の依頼料ももらうけどね」
リーセはそう、言い放った。
エリスティアは今日、初めて心の底から安堵するのだった。




