7.焚火を囲んで
幸いにも、それほど時間はかからずに野宿のできそうな場所を見つけた。
ある程度開けた場所で、近くに水場があるところがいい。
今日のところは休んで、明日また進み始めれば、森を抜けることができるだろう。
食材の調達も一先ずは近くの山菜と川で獲れた魚で十分だ。
魔法で起こした焚火を囲うようにして、今は一息ついている。
「なにからなにまで、ありがとうございます。本当なら、護衛としてのお仕事を依頼しているはずなのに……」
「慣れないところなら仕方ない。これくらいのサービスはするよ。さ、そろそろ魚の焼き加減もいい感じだから、食べるといい」
「はい、いただきます」
僕が促すと、エリスティアは焼きたての魚を口に運ぶ。そして、驚きに目を見開いた。
「! おいしい……こんなに焼いただけなのに、こんなにおいしいものなのですね」
「獲れ立てだからね」
「確かに、おいしいですね」
不服そうだったシエナも、魚の味については認めてくれたようだ。エリスティアの言葉に同意しただけかもしれないけれど。
「このお魚も、魔法で捕まえたのですか?」
「そうだよ。僕は魔導師だからね。魔法でできることは全部魔法でするし、大抵のことは魔法でできると思っているよ」
「得意魔法とかはあるんですか?」
「んー、大体なんでも使えるかな。苦手なものは作らないようにしてるんだ」
魔法の種類と言うと、主に『属性』で分類される。
『火』、『水』、『風』、『土』、『雷』、『氷』、『無』が『基本属性』であり、『闇』、『光』は『例外属性』と呼ばれている。
基本に含まれない魔法については、例外属性のいずれかに該当することになるのだ。
エリスティアが使っていた『回復魔法』などは、『光』に分類されることになる。
魔法を発動するには魔力を使い、『魔法陣』を描くことで『効果』を初めて発動することができる――故に、魔導師になるための最低条件としては、魔力を宿していることと、魔法陣を作り出すだけの魔力操作の才能が必要となるのだ。
それぞれの属性で、魔力の扱い方は結構異なってくる。
元々の魔力が『無』であるとすれば、『魔法陣』によって属性変換を付与することで、初めて『基本属性』の魔法を発動することができるのだ。
僕の言う『苦手なものを作らない』というのは、いずれの魔法も使えるようにした――オールラウンダーということだ。
「何でも使えるって、やっぱりすごいですね。私は『水』と、それから『回復魔法』が少し使えるくらいです」
「僕は魔導師だからね。それなりに使えるではなく、真っ当に使えなければならないから。シエナ、君はどんな魔法が得意なのかな?」
「……特別、得意な魔法はありません」
「シエナったら……ごめんなさい」
「ははっ、別に構わないよ。確かに得意な魔法を話すっていうのは、リスクにも繋がるからね」
「そうなんですか?」
「それはそうさ。魔法は魔導師の命――手の内を晒してしまえば、いくらでも対抗できてしまうからね」
「貴方が先ほど見せた、刺客に気付かれずに仕留めた魔法もその一つ、だと?」
「あれはちょっとしたテクニックみたいなものだよ。ある程度実力のある魔導師には通じないかもしれない」
僕が得意とする魔法――というより、魔法陣の展開の仕方だ。
罠のように地面に魔力を走らせて展開する。だが、魔法を発動するレベルの魔力は流さない。
あくまで、気付かれないように魔法陣を展開し、隙を突くための技術だ。
真っ当に戦う必要なんてない。その技術さえあれば、大抵の相手はどうとでもなる。
「魔導師と言えば……リーセさんは冒険者ですよね? 今更なんですけれど、今はそちらのお仕事って大丈夫なんでしょうか? 冒険者ってパーティで行動するとも聞きますし」
「ああ、それなら心配いらないよ。丁度パーティを抜けたばかりで、今は一人なんだ。仕事もなくて、探していたところだよ。むしろ助かったくらいさ」
「それならよかったです。正直、勢いで誘ってしまったところもあったので……」
確かに、あの場で僕を誘ったのは紛れもなく勢いだと言えるだろう。
あそこで僕を雇っていなければ、今彼女達がどうなっていたかも分からないが。
「さてと……それじゃあ、僕は水浴びでもしてこようかな。君達もどう?」
「え!? わ、わたしは……今日はその、遠慮しておきます」
「私はエリスティア様の傍にいます。貴方お一人でどうぞ」
「あら、そうかい。……覗かないでよね?」
「の、覗きませんよ!」
「誰が好んで貴方の裸など……」
「ははっ、冗談冗談。それじゃあ、ゆっくりしててね」
僕はそう言い残して、二人の傍を離れる。水場は近いから、何かあってもすぐに戻れるだろう。
水場に近づいたところで、「ふぅ」と一息を吐いた。