5.お人好し
「それで、この後どうするのかな? まさか、町の方には戻らないよね?」
僕はエリスティアに問いかける。
彼女達は刺客に追われてここまで逃げてきたのだ。わざわざ、町に引き返すようなことはしないだろう。
僕としても、すぐに町の方には戻りたくはなかった。
「そう、ですね。まだ町に仲間がいるとも限りませんし……」
「というか、王女様がわざわざあんな町に何しに来たのかな? 小さい町というわけではないけどさ」
「わたしはいくつかの町の統括を任されているんです。実際に話を聞かないと分からないこともあるので、町で抱えている問題があれば、わたしがそれを聞いて解決策を一緒に考えています。これは、王族の責務だと思っています」
「ふぅん、直々になんて大変だね。護衛はいないのかな?」
「私が護衛を務めさせていただいています」
スッと会話に割って入ってきたのは、シエナだ。
先ほどのエリスティアの治療もあってか、もう立ち上がって歩くことも平気らしい。
睨むような視線を受けて、僕は笑みを浮かべて答える。
「なるほど、頼りがいのある護衛だね」
「っ、先ほどから一つ言いたいことがあったのですが……リーセ様」
「ん、なにかな?」
「エリスティア様の護衛になることは認めました――ですが、それがエリスティア様と馴れ馴れしく会話をしていい理由にはなりません」
「ああ、なるほど。僕の話し方が気になる、と」
「失礼ながら」
「ちょ、ちょっと! 気にしなくていいですよ、リーセさん。話やすいようにしていただければ……」
「んー、そうだね。敬語で話せって言うならそうするけれど、エリスティアが言うのならこのままでいかせてもらおうかな」
僕はそう答えながら、ちらりとシエナに視線を送る。彼女は小さくため息を吐いた後、
「エリスティア様がそう仰るのであれば、承知致しました」
そう言って下がった。……それでも、不服そうな雰囲気を漂わせているのは分かる。
僕は決して自分の性格がいいとは思っていない。
むしろ、悪い方だとは理解している。だからこそ、今の状況はほんの少しだけ楽しくもあった。
先ほどからのシエナの僕に対する態度――ただ、警戒しているだけではないようだ。
「話を戻そうか。一先ず、ここから別の町に向かうということでいいね? ただ、馬車は壊れてしまったし、馬も逃げてしまった。だから、ここからは歩きで移動することになるけれど……それでいいかな?」
「わたしは大丈夫です。シエナは――」
「ご心配お掛け致しましたが、私はもう大丈夫です。早いところ、ここを移動しましょう」
シエナは周囲を警戒していた。
他に刺客の仲間がいるか分からないが、仮にいるのであれば――いつまでも仲間が戻ってこないのなら、様子を見に来る可能性だってある。
ここに留まるのが危険だということは、彼女も分かっているのだろう。
「それなら決まりだね。一先ず……このまま道を歩いて移動するには君達の姿は目立ちすぎる。森の中を移動しようと思うけど、いいかな?」
「はい、分かりました。あ――その前に、御者の方の遺体はどちらに……?」
「ん? ああ、それならそっちの方に埋めておいたよ。悪いけれど、立派な墓を作ってやれるほど、僕は優しくないんでね」
「いえ、それなら……せめて、祈らせていただきたいんです」
「エリスティア様……」
「そういうことなら、いいよ。それくらいの時間はあるだろうから、行ってくるといい」
「ありがとうございます、行ってきますっ」
そう言って、エリスティアは僕の示した方向へと向かっていく。
その後にシエナも続いていく。
残された僕は、二人の姿が消えた後に小さくため息を吐く。
「どうやら、本当にお人好しみたいだ。……王族なら、一人や二人死んだくらいでどうとも思わないと思っていたけれど」
少なくとも、僕はそう考えていた。




