勇者は秘密を共有する同士の仲に嫉妬する
それは、恋人が世界を救う旅から帰ってきて、祝いの宴や王族への謁見など諸々が済み、やっと二人きりになれたその夜のことだった。
「ユーリカ。ずっと待たせてごめん」
真剣な瞳で見つめられて、ユーリカは胸が高鳴るのを感じた。
『無事に帰ってきたら結婚してほしい』――そう伝えられたのは、彼が天命を受け勇者となって、旅立つ前日のことだった。
もしや別れを告げられるのかとドキドキしていたユーリカは、その言葉にほっとする気持ちと舞い上がる気持ち、両方を抱いたのを覚えている。
そうして、今日。
いつかと同じようにドキドキしながら、ユーリカは彼――アレクの言葉を待った。
アレクは旅の中でたくさんの人と出会い、絆を育んだようだった。そうしてその中には、当然異性も存在した。
彼が浮気するとは思っていなかったけれど、胸は騒いだ。それでも信じて今日まで来た。
「――だけど、ごめん。結婚を、待ってほしい」
だから、一瞬、何を言われたかわからなかった。
「え……?」
これがもし、「別れてほしい」という内容だったら、むしろユーリカの思考は止まらずに済んだかもしれない。もちろん、「結婚しよう」だったら、思い余ってアレクに抱き着くほどに喜んだだろう。
けれど現実は、そのどちらでもなかった。
「待って、って……ええと、どうして?」
「ユーリカに非はない。僕の問題だ」
「理由を聞いてるのよ、答えなさい、アレク」
つい、昔のような口調で嗜めてしまって、ユーリカは自分がかなり動揺していることを自覚した。
ユーリカとアレクは幼馴染だ。そうして、アレクの方が五歳ほど年下である。ユーリカは彼にお姉さんぶって対応することがしばしばあった。それは年齢が上がるごとに無くなっていったものだったけれど。
アレクは苦しげな顔をした。けれど結局、絞り出すように告げた。
「……ユーリカ、君、魔術師の知り合いができたんだろう」
「? ええ。……それが?」
「……その魔術師は男で、とても懇意にしていると、聞いた」
アレクは目を伏せた。それは自分を恥じる仕草だった。
ユーリカは嫌な予感が胸に広がるのを感じた。
「待って、アレク、その魔術師と私の仲を――疑っているの?」
アレクは肯定も否定もせず、口を開く。
「君が、不誠実なことをしているとは思わない。君はそういうことができる人間ではないと、これまで共に過ごしてきた時間から信じられる。だけど、僕が駄目なんだ。わかっているのに、君とその魔術師の間に疚しいことがないだろうとわかっているのに、もしかしたらと思ってしまう。……自分が、こんなにも浅ましい、醜い考えをする人間だと、思っていなかった。そんな自分が、このまま君の傍にいてもいいのかと、そんなことまで考えてしまう。こんな気持ちを抱えたまま、君と結婚の誓いをするのは冒涜だ。だから、待ってほしい――僕がこの気持ちに折り合いをつけられるまで」
「これは僕の問題なんだ。時間がほしいだけなんだ」と繰り返しアレクは言った。
ユーリカは呆然と、それに頷くしかできなかった。
そして翌日。
ユーリカは自室で盛大に親友に泣きついていた。
「どうしようリウ~~~!!! ねぇこれって破局の危機? ただでさえアレクの歳の問題があって結婚まで待ったのにさらにこんなところで仲がぐらついたら横からかっさらわれるフラグじゃない!?」
「まあ落ち着け。深呼吸しろ。言葉遣い乱れてっぞ。相談には乗ってやるから。……にしてもそうか、そういう風に見る人間がいたか」
転移魔術で遊びに来たその親友こそ、アレクの言っていた魔術師本人――リウ・フェンだった。
「リウと外で会ってたのなんか数えるくらいなのに、まさかこんなことになるなんて……」
「っつーかお前がその場で『懇意にしている』を否定すればよかったんじゃないかと思わないでもないんだが」
「だってリウと仲がいいのは本当だもの……アレクに嘘はつけないわ」
「ああ、勇者サマは『嘘を見抜く瞳』も持ってらっしゃるんだったか」
「それもあるけど、好きな人に嘘はつきたくないじゃない」
「恋する乙女だなー」
「恋してるもの、当たり前でしょう」
「そこまで堂々と言えるお前を疑う気持ちがさっぱりわかんないな。やっぱ会えない時間が不安を増幅させてんのか?」
「そうなのかしら……元々アレクは結構、人の言うことを素直に聞きすぎる子ではあったんだけど……」
素直といえば聞こえはいいが、人の言うことを鵜呑みにしがちなところがあった。天命を授かった時も、戸惑う段階をすっとばして受け入れていた。そういった性質が今回、悪い方に出ているわけだが。
「俺とお前のことを勇者サマに入れ知恵した人間も、どうせ悪意に塗れた言い方したんだろうしな。いや、悪意じゃなくて嫉妬か?」
「アレクを慕う人がたくさんいるのはわかっていたけど、そういう手で来るなんて」
「正々堂々奪い取るんじゃなくて絡め手でまずはお前と破局させようってのが、また意地悪いな」
やだやだ、とリウは呆れたように首を振る。ユーリカも同じ気持ちだった。
「アレクと一緒に旅をした仲間とか、旅の中で出会ったお姫様とか、そういう人たちにアレクが傾くなら仕方な――くはないけど、まだ納得できたわ。でも、こんなことで別れるなんて嫌」
「でも勇者サマは、別れるとは言わなかったんだろ? 結婚を待ってくれって言っただけで」
「アレクは責任感が強いから、一度プロポーズした相手を振るなんてできないだけかもしれないじゃない」
「お前もたいがい後ろ向き思考だよな」
だって、アレクはとても素敵な人なのだ。ユーリカは未だに、どうしてアレクが自分を選んでくれたのかわからない。自分がアレクを好きで、アレクも自分を好きだなんて、奇跡としか思えないのだ。
「でもまあ、勇者サマが不安だって言うなら――やっぱ言うしかないんじゃねぇの。俺たちの繫がり」
「やっぱり、そうかしら……」
ユーリカとリウ・フェンは親友である。いや、もっと正しく表すなら『同士』だった。
――前世を覚えている者同士、という。
リウ・フェンと出会った日を、ユーリカは未だ鮮明に覚えている。
それはアレクが旅立って、数ヵ月が過ぎた頃のことだった。
ユーリカはアレクが心配で落ち着かない気持ちが続いていたので、気分転換に花畑に来ていた。一人物思いに耽っているところに、リウ・フェンが転移魔術で現れ――目と目が合った。
雷が落ちたような衝撃だった。運命的ですらあった。
一目でわかったのだ。彼は同士だと――前世の記憶を持つのだと。
それはリウ・フェンも同じだったという。そうしてリウ・フェンは、ユーリカに言った。
「お嬢さん、ちょっとお話でもしようか」と。下手なナンパですらもっとマシな誘いをするだろうその台詞に、けれどユーリカは頷いた。そうして二人の付き合いは始まったのだ。
そう、ユーリカは前世の記憶を覚えている。
日本という異世界に住み、普通に生きて、普通に死んだ、その記憶を抱いて生まれてきた。
けれど誰にもそれを言えなかった。この世界で前世の記憶を持っているというのは、前世で犯した罪が拭われていない証だとされていたからだ。
前世のユーリカは別に罪人ではなかった。罪という罪を犯した覚えもなかった。清廉潔白とまではいかないけれど、他人に恨みを持たれたり、憎悪を向けられたりするような生活は送っていなかったし、その原因となるようなことをした覚えもなければ、彼女の知り合いも躊躇いなくそれに同意するだろう――そんな、言ってみれば『無害』な部類の人間だった。
それなのに前世の記憶がある――そのことについて、リウ・フェンは「異世界の記憶だからだろう」と言った。それは彼の経験則に基づいていた。
リウ・フェンは複数の前世の記憶を持っている。そうしてそれは、彼の魂が『流浪するもの』として定義づけられているからなのだとユーリカに教えた。
リウ・フェンの魂は元々は別の世界のものであり、そこでは各々の魂の性質を定義づけられる儀式があった。そこでリウ・フェンの魂は『流浪するもの』として定義づけられ、様々な世界を巡るさだめを負った。
記憶に残る生も、記憶に残らない生も体験してきたリウ・フェンは、今ユーリカたちが生きるこの世界に限っては、幾度巡っても『記憶に残らない』のだと魂で知ったのだという。正確には、世界に『罪』と定義されたことを為した場合にのみ記憶が残ると。
けれど異世界での記憶は、この世界の理に縛られない。ゆえに、魂から剥がれ損ねた記憶がユーリカには残っているのだろうと。
その説明はユーリカにとてもしっくりきた。それが正しいと、理屈ではないところで感じ取った。
そして、ユーリカの心の閊えをとってくれたリウ・フェンに親愛を抱くようになるのは当然だった。
けれどそこには一片たりとも恋愛的な意味は含まれない。なぜなら、ユーリカはアレクを好きだったからだ。いつまでも待つと誓えるほどに好きだったからだ。
リウ・フェンもまた、ユーリカに恋愛的な感情は抱かない。なぜなら彼はユーリカよりも長く長い記憶を持つ人だからだ。ユーリカに対してよちよち歩きのひな鳥を見るような気持ちしか抱けないほどの長い記憶を持つ魔術師だからだ。
……しかしそれは、残念ながら当人たちの間でしか通用しない理屈である。
ユーリカとリウ・フェンが会うのは、ほとんどが人目に触れないユーリカの家だった。前世の話をするのに、他の場所は不都合だったからだ。
けれど、偶然外で会うこともあった。そこから家に招くこともあった。それを見られていたのだろう、とユーリカは思う。
ユーリカはアレク以外に特別に親しい人間がいなかった。両親は流行り病で亡くし、今は天涯孤独である。そんな中、親しく話し、家に招くリウ・フェンの存在を穿った目で見る人間が現れたのは、考えてみれば当たり前のことだった。
だが、当たり前だからといって、このことでアレクとの仲が揺らぐのは本意ではない。
「話すしか……ないのかしら……」
「嘘をつかないんだったらそれしかなくね? 俺が『前世の記憶有ります~』っつっていい結果になったことはないけど、そこはお前と勇者サマの絆を信じるしかないだろ」
「……そう言われると不安しか浮かんでこないのだけど」
「俺は異端認定断罪火あぶり終身精神病棟行き、よくてちょっと頭のおかしい人だなくらいで済まされる感じだったからな。楽観的なことはちょっと」
「ますます言える気がしなくなってきたわ……」
むしろそれを聞いて勇気が湧いたら驚きだ。
じとりとリウ・フェンを睨んだユーリカの頭を、ぽんぽんとリウ・フェンが叩く。
「まあ、お前がどっちを選んでも――俺との付き合いをやめるとしても、応援はしてるぜ」
その言葉に、ユーリカはむっとした。
「アレクだけを選んであなたとの付き合いをやめるなんて、そんな薄情な人間に見えるの?」
「そーいう選択肢もあるってことだ。そうむくれんな」
子どもをあやすようにリウ・フェンが言う。
ユーリカは抗議も込めて頭を撫でる手のひらをばしりと叩いた。
(とはいえ、本当にどうしたらいいのかしら……)
リウ・フェンが帰って一人になった部屋で、ユーリカは思い悩む。
このままアレクの気持ちの整理がつくまで諾々と待つか、リウ・フェンとはそういう仲では絶対にないのだと前世の記憶のことを話してしまうか。
危ない橋を渡らないのであれば格段に前者だ。けれどそれは、身から出た錆を無視してアレクに甘えるということに他ならない。
(そもそも、話していないことはずっと引っかかっていたのだし)
罪の濯がれていない人間だとアレクに思われるのが怖くて、話せないまま来ていた。何事も話せなければ恋人同士ではないとまでは思わないが、やはり不誠実ではあるだろう。
話した結果、アレクがユーリカとの結婚を思いとどまるどころか別れを切り出す可能性だってなくはない。それでも、こういう機会が巡ってきたということは、話すべきときが来たということだろう。
(うん、話そう)
そう決意したのと、コンコンとドアが叩かれたのは同時だった。
「アレクだけど……」
「っ、アレク?」
慌ててドアを開けに行く。開けた先には、どことなく悄然としたアレクが立っていた。
不思議に思いつつ、家の中に招く。けれどアレクは、数歩入ったところで立ち止まった。
「? どうしたの?」
「……ここに、彼も招いた?」
アレクの澄んだ湖のような瞳が昏い光を湛えているのに、そこでやっとユーリカは気づいた。
アレクが信じられないような乱暴さでユーリカの腕を掴む。痛みに顔をしかめるユーリカに、それでもアレクは力を緩めず、そのまま壁に押し付けられた。
「やっぱりだめだ、君が他の誰かと、男と、親しくしているのに平静でなんていられない――ねえ、僕が嫌いになった? 長く一人にしたから、置いていったから、本当は僕から心が離れてしまった?」
「そんなことないわ。落ち着いて、アレク」
「だったらどうして二人きりで会ったりなんかするんだ!」
ユーリカは目を見開いた。怒鳴られたことにもだけれど――何よりもその内容に。
リウ・フェンは伝達魔術で伺いを立ててきたあと、直接家にやってきた。他人に見られているはずがない。もしそれを知ることができた人間がいるとしたら――この家は覗き見られていたことになる。
「誰に聞いたの?」
「……否定しないんだね」
低く、昏い声だった。ユーリカの知らないアレクだった。それに一瞬怯んだのを察したのだろう、アレクは自嘲するように小さく笑った。
「僕が怖い?」
吐息がかかるような距離まで近づいて、アレクは囁いた。ユーリカは否定も肯定もできなかった。見つめるアレクの視線の強さに気圧されて、身動きが取れない。
「それでも僕は君を手放せない。君を支えに世界を救ったんだ。君がいるから世界を救ったんだ。今更僕を要らないなんて言っても、聞いてあげない」
「そ――」
そんなこと思ったこともない、と否定しよう何とか開いたユーリカの口を、けれど聞きたくないというようにアレクが塞いだ――唇で。
「んっ」
「何も言わないで。何も聞きたくない。僕を拒絶する君の声なんて聞きたくないんだ」
キスの合間に懇願するようにアレクが言う。息を乱されながら、ユーリカは衝撃に呆然としていた。
(本当に、アレク? だってアレクは、旅に出る時だって不安になるくらいあっさり出て行ってしまったのに――こんな、)
「無事帰ってきたら結婚してほしい」とは言われた。
だけどそれだけだった。抱きしめられたことすら数えるほどで、本当に好かれているのかと思い悩んだことは両手の数では足りなかった。会えない間の手紙だって、近況報告ばかりで。
それなのに今は、まるでユーリカがいなければ生きていけないとばかりに、縋りつくようにユーリカを抱きしめて唇を塞いでいる。
まるで現実感がなかった。
「ま、って……アレ、ク」
「待たない。ずっと――ずっと我慢していたんだ。僕が君に相応しい心根を持っていないとしても、君を他の誰かに渡すなんて考えられない」
力の入らない手でアレクの肩を押し返そうとしてみても、逆に捕らえられてより深い口づけを許す結果になってしまう。もはやユーリカは、ただただアレクに翻弄されるしか許されていなかった。
* * *
「――ごめん!」
数分後。
ユーリカはアレクの土下座を受けていた。
突然我に返ったように唇を離しユーリカを解放したかと思うとこれだ。正直ユーリカは事態についていけてなかった。
「……それは、何に対しての謝罪?」
「君に、……その……無理矢理に、迫ったことへの」
頬を赤らめたアレクが言いづらそうに口にする。まるで乙女の反応だ。襲って来た側なのだが。
「……それは……その、今は置いておきましょう。――それより、アレク。もしかして、何か我を忘れるような魔術でもかけられていたのではない?」
ユーリカは魔術師ではない。けれど、魔術師の素質が少しある、らしい。リウ・フェンと過ごす中で、なんとなく魔術の気配を感じることができるようになった。そして、その気配が、先程の――我に返ったようになるまでのアレクから感じ取れたのだ。
「……わからない。君と懇意にしているという魔術師と会って……それから、記憶が曖昧で」
(……リウ……余計な気を回したわね)
ユーリカと別れたあと、余計なちょっかいをかけに行ったに違いない。本人はユーリカの背を押す一助のつもりだったのだろうが。
「こんなことをするつもりじゃなかった。……いや、言い訳だ。口にしたのは、僕の本心に違いないんだから」
「……そう、なの?」
アレクは恥ずかしげに目尻を染めた。
「嫉妬する気持ちを、必死に抑えてた。結婚まで時間が欲しいと言ったあの時の言葉も本当だけど……嫉妬で君にひどいことをしそうになる自分を抑えきれる自信がなかった。だから少し、距離を置きたかった」
その言葉に、乱暴に口づけられたことを思い出して頬が熱くなる。そんなユーリカを見て、アレクもまた赤くなった。微妙な空気が流れる。
「そ、その……魔術師――リウとは本当にそういう仲じゃないのよ」
「……でも、家に招いたんだろう?」
「それは、その――人には聞かれたくない話があって、」
言いかけて、これではますます誤解を助長するだけだと気づく。
これはもう言うしかない、とユーリカは覚悟を決めた。
「――私、前世の記憶があるの!」
「……え?」
またも昏い瞳になりかけていたアレクが、間抜けた声を漏らした。
「リウ・フェンも前世の記憶がある人で――私よりたくさんの記憶を持ってて。相談に乗ってもらっていたの、それだけ」
一気に言って、ユーリカはアレクの反応を待った。
しばらく放心したように瞬いていたアレクは、ゆっくりと口を開いて、「……それだけ?」と繰り返した。
「今日は、その、アレクが『結婚を待ってほしい』って言ったから――それについて相談していただけで。リウ・フェンは気兼ねなく話せる相手ってだけで、そういう……アレクが心配するようなことは何もないの」
「……前世の記憶がある?」
「……そう。この世界では、前世の記憶があるのは罪が濯がれていない証だと言うでしょう。だから……言えなくて」
少しの沈黙。
そののちにアレクは――「なんだ」と口にした。
「『なんだ』って……」
あまりにもあまりな言葉に、ユーリカの口調に棘が混じる。
それに気づいたのか、慌てたようにアレクが言い募った。
「いや、君が言えなかったのはわかるんだ。罪人の証だって言い伝えられてるんだから」
「アレクは、気にならないの……?」
「この世界がそうさだめてるだけだって、旅の中で知ったから。――ああ、なんだ、よかった……。いや、僕が割り入れない領域の話なのはよくないけど……僕から心が離れたわけじゃ、ないんだよね?」
それはもちろんだ。頷くと、アレクはほっと肩の力を抜いた。
(あ、そうか、『嘘を見抜く瞳』……)
やけにあっさりと納得したと思ったけれど、ユーリカが嘘をついていないことをアレクは間違いなく理解できるのだ。それならば納得がいく。
「……こんな、嫉妬で君にひどいことをしそうになるような男だけど。それでも、結婚してくれる?」
「……前世の記憶繫がりの同士がいる女だけど。それでもいいなら」
ユーリカの言葉にアレクは少しだけ複雑そうな顔をしたけれど、今度は優しく引き寄せられ、ぎゅっと抱きしめられた。
「君という人に代わりはないから。どうか結婚してください」
「――はい」
* * *
後日。
「俺なりに責任を感じてのことだったんだって」
悪びれる様子もなく、リウ・フェンはあっけからんとそう言った。
「それであんな魔術をかけようってなるところが人の心をわかってないのよ」
「でも結果よければすべてよし、だろ? 丸く収まったわけだし」
「それとこれとは話が別。反省してちょうだい」
「へいへい」
肩を竦めるリウ・フェンを睨む。と、やりとりを黙って見ていたアレクが、複雑そうに呟いた。
「やっぱりちょっと、嫉妬するな……」
「そりゃ、気の置けない友人同士と恋人同士は違うからな。どっちの立場も、ってできない以上、そういう感情とはうまく付き合うしかないだろ。――ガス抜きはさせたんだから、それくらい我慢しろって」
リウ・フェンの言葉の意味を理解して、ユーリカとアレクは赤くなる。それを見て、リウ・フェンは満足そうに喉の奥で笑ったのだった。