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ホムンクルス 瓶の中の未来 Ⅴ  作者: パワーミツオン
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拡散する狂気

             ホムンクルス  ~瓶の中の未来 Ⅴ


 翌日、朝起きると、両腕に赤い発疹が浮かび上がっていた。

 あいつが言っていたことが、本当に起こるのだろうか。まず始めに両腕が病に罹り、目が見えなくなり、身体が腐り始めるという恐ろしいことが…………。

 不安に苛まされた私は、知り合いの開業医のところに連絡をした。

 私から連絡を受け取った医師は、直ぐに医院に来るようにと、言った。

 医師は、長年この街で皮膚科を専門に営んできた開業医だ。腕が良く、この町に住んでいる人たちは、皆、この医師を信用している。

 医師の診断結果は、ジンマシンというありふれた名の病名だった。医師は笑って、「なにか、おかしいものでも食べたんじゃあないのかね」と言った。

 私は腑に落ちなかった。この発疹は、単なるジンマシンではないはずだ。悪い物など食べてはしないし、あいつは、私の腕が病によって蝕まれてゆくだろうと言っていたのだ。腕にできたジンマシンは、その前兆ではないのか?

 私は、病院を後にした。

 病院を後にした私は、アパートに帰り、腕を抱えるようにしてベッドに潜り込んだ。

 寝つかれない。腕の発疹が気になって寝つかれない……。

 少しの間だけ、まどろみ、あれこれ考えているうちに、眠られないまま夜が明けた。 

 次の日の朝、猛烈なかゆみが私を襲った。

 両腕が、赤く腫れている。やはり、ただのジンマシンではない。両腕が高熱を発し、じくじくと病んでいるのだ。

 かゆみに耐えかね、腕を掻いた。何度も何度も腕を掻いた。だが、かゆみは収まらない。ますます酷くなってゆく。掻き続けているうちに、皮膚がペロリとめくれた。めくれた皮膚の下から血糊が溢れ出し、血糊と一緒に黄色い膿が出てきた。

 驚いた私は、腕から膿を搾り取り、医師からもらった軟膏を、その上に塗りつけた。が、塗りつけたが、軟膏の隙間を縫うように、小さな蚕みたいな虫が、腕の中から出てくる。後から後から、無数に出てくる。腕からウジャウジャと湧き出たその虫は、腕を這い上がり、私の胸、腹、顔によじ登ってきた。

 私は、悲鳴をあげ、のたうち回った。ゼンマイがいかれたお猿の人形みたいに、むやみやたらに暴れまくった。

(気持ち悪い……。気持ち悪い……。気持ち悪い……。誰か助けてくれっ)

 一時間くらい、格闘しただろうか。ふと、気がついてみると、蚕のような虫は、そこから消えていた。

 両腕からも熱がひいている。痒みもなかった。

 あれほど私を苦しめた両腕の発疹は、なにごともなかったように、醜い傷跡だけを残して、そこからなくなっていたのであった。

 だが、安心はできない。高熱は発してはいないが、皮膚がペロリとめくれた私の腕は、凄まじい状態になっているのだ。見る人が見れば、あまりの酷さに卒倒するだろう……。

 なにが、ただのジンマシンだ。ただのジンマシンが黄色い膿を出すものか。私の腕は、汚らしい膿を出し、蚕のような小さな虫を、無数に吐き出したのだ。

 いま、思い出しても吐き気がする。

 蚕のような虫は、毒々しい朱色の顎と、黄ばんで汚らしい体色を誇示するかのように、私の体を這い回ったのだ。

 おぞましい……。

 街の開業医などあてにはならない。この腕に起こったモノを、ただのジンマシンなどと、ほざく医者など信用できない。

 私は、机の上のパソコンで、著名な皮膚科を検索し、アパートを出て、電車に乗った。

 電車のつり皮に掴まり、なにげなく、電車内に吊り下がっているポップwp見た。

“鬼畜! 妻を焼殺し、我が子を絞め殺した男”

 週刊誌の扇情的な記事が、目に止まる。いま(ちまた)で話題になっている事件だ。

 事件は十日前、世田谷の住宅地で起きた。簡素な邸宅で起きた兇悪な事件は、どこにでもいる平凡なサラリーマンが起こした凶行だった。

 何かが狂っているのだろう。このところ陰惨な事件ばかり続いている。ここ一ヶ月の間に残虐な事件ばかりが、立て続けに起きていた。

 丁度一ヶ月前、新婚の夫婦が仲人に殺害されるという事件が起きた。夫婦を殺害した仲人は、新婚の夫婦を殺しただけで満足できなかったのか、夫婦と同居していた姑も惨殺した。

 凶器は、日本刀だった。新婚の夫婦と、その新婚の姑を惨殺した仲人は、凶行が行われた後、割腹自殺を図った。

 その事件から、三日後。幼稚園の保母が、昼寝をしている園児たちを、出刃包丁で、刺し殺すという事件が起こった。保母は、園児を刺身にして食べたかったと供述したという。

 保母が起こした事件から、五日後。

 若手県会議員が、選挙運動中、選挙カーを暴走させ、学校帰りの小学生の列に突っ込むという惨事が起きた。事故を起こした若手県会議員は、怪我をした児童を助けもせずに、選挙カーから降りたあとも、マイク片手に演説をしていたという。

 さらに事件は続く。同日、テレビ局でアイドルグループが拳銃を乱射して、観客を射殺したのである。

 アイドルグループの凶行に、テレビ局はパニックに陥り、事件を起こしたアイドルグループは、観客を射殺した後、みずからの拳銃で頭を打ち抜き、命を絶ったのであった。

 新婚の夫婦と、その姑を惨殺した仲人も、寝ている園児たちを出刃包丁で刺殺した保母も、下校中の小学生の列に車を突っ込まらせた若手県会議員も、テレビの生中継中に観客を拳銃で射殺したアイドルグループも、凶行を起こす数日前に、おかしなことを言っていたと言う。

 ダークグリーンの髪の小人が、私の未来を食べてゆくと……。


          

             = Ⅵに続く =


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