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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

元奴隷の私はいつの間にか大嫌いな貴族の執事になりました。

作者: デューク

短い短編でパッと読めると思います。


御暇なときにちょっと楽しんでもらえたら幸いです。




「ねえ、ラフタ。私が何を言いたいかわかっているでしょう」


そう、彼女は言い放つ。

その少し棘のある、しかい、気品を損ない物言いは彼女の育ちの良さが窺えるものだ。


名をマリアンヌ・エネ・トゥワイス。

上級貴族であり、我が主と並ぶ今世の二大美女と呼ばれるお嬢様である。


まずは、その髪。遠目からだが良く手入れされている一目でわかる。

真っ赤な燃える炎ような長い髪。しかも、陽炎のように揺らめくたびに世界も揺らいでいる錯覚を覚える。


次に瞳。こちらもルビーやどんな宝石よりも鮮やかなと紅色の瞳は、非常に好戦的な彼女の性格を表しているようだ。その瞳に見られればまるで戦火にいるかの如く心を惑わせる力を持つ。


容姿もすごい。首、肩、そして腰の括れ。どれ一つとっても素晴らしいが一切の無駄がない均整の取れた体。そして白い肌に豊満な胸はお伽噺の王女と言っても過言ではない。


その力強さ、気品、優雅さから「灼熱の戦乙女」とまで呼ばれることがある。

噂ではあるが彼女は世界を指先一つで動かす事のできる傑物とまで言われている。


「気持ちは嬉しいです、マリー。でも、私は譲れないし、彼がどうしても必要なの。そのために全てを擲うつことも厭わないくらいに思っているの」


対して言うのは、我が主の言葉。

名はラフタ―・アル・ティベリア。なにを隠そう下級貴族である。


しかし、主もすごいのだ。

これは身内贔屓なしで主の評価である。


さらさらとしたその長い金髪は女神の御髪ではないのかとも呼ばれるほどに爛々と光を纏わせている。

冷たい海を彷彿させる蒼の瞳には、主との瞳と目があえば最初は必ず凍り付いてしまうのも無理のない話である。


マリアンヌ様が丘と称するなら、こちら平原である。(ただし、触れてはならない主の逆鱗である)

まるで彫刻のように滑らかなその白い素肌と体の曲線美は芸術の一言に尽きるであろう。


「凍土の女神」、マリアンヌ様と対照とも呼べるその二つ名が世間での主を物語っている。


本来、下級貴族と上級貴族の間にはかなりの差がある。

それこそ、下級貴族が上級貴族に対して粗相があった場合、下級の領地は地図から消えてもおかしくないほどである。


なぜ、お互いがこれほどまでに気安いのか一言でいえばライバル。

ほぼ確実に対立するのである。が、実は仲が悪いのではない。

方向性が真逆ではあるが、だからこそ、互いに認め合っていると主は言葉を漏らしていた。


「なぜわからないのですか!あなたは上級貴族に嫁ぐべきです!でなければ、その才が霞むと言うのに」


「それは違うともうの、私は。夫が誰であろうと私は変わらない。夫で私の評価が変わるなら、それが私の本来の価値です」


「言いたいことはわかっているのです、ラフタ。しかし、今まで貴方は下級貴族だからとわたくしとの差異でいらぬ面倒が掛かったではないですか!」


「そうね、マリー。上級貴族の力、そして貴女の意志と力強さ。何度、純粋にぶつかる事が出来ればと願ったことでしょう」


「ならば、やはり!」


「でもね、マリー。私はウィリアムが必要なの。どうしてもよ。私と貴方が親友であるように彼もまた私の従者として代えがたいものなの。その彼を受け入れることができる人、上級貴族にいるかしら?」


「………」


そう、なぜ今日は彼女たちが衝突しあうのには大きな理由がある。


私ことウィリアムは主が伴侶を作られない大きな枷である。

主に仕え立派な執事服に身を包み、このような場に同席している私だが昔ではありえないこと。





そう、私は元々奴隷だ。

孤児であり、生きるためとはいえ沢山の悪事を重ねた私はとある上級貴族に手を出し捕まった。

神にも等しい者に手を出した。

この世の一番の愚者、それが私であった。


奴隷商へと突き出された私は徹底的に痛めつけられた。

その時には体中が痣だらけ。目は片目しか開かないほどであった。

見せしめとして街中を歩かされ、倒れれば引きりながら。

もちろん、体を隠す衣服などない。


誰からも助けられなかった。当然である。善意で助けるには相手が悪い。

誰もが笑っていた。当時は娯楽の一つだった。

愚か者であり、私がいれば彼らの立場も一つ上に感じれるからだ。


奴隷も同じだ。いや、より酷かったと言える。

それはなぜか。


豪華な食事が与えられる。

胃に入らなくても食べなければならない。

無理矢理詰め込まれ、次の調教が早くなる。


他の奴隷は体が保てる最低限の量だ。私はその逆の体を崩さぬ最高量の食事。

それを見た彼らの心中は想像に難くないだろう。


そして奴隷間での交流。しかも、闘技場での一般公開だ。

それは、本来、奴隷の人間としての矜持を無くさぬためのもの。

しかし、私は彼らからすれば餌だ。まるで、猛獣が一つの上質の餌を貪るかのように集まってくる。


奴隷のくせに好待遇にみえるなのは、このためだ。

何度死の淵を彷徨ったことか。

しかし、死ぬことは許されなかった。


そう、皆の最高の娯楽。

それが、ウリィアムの生涯。寿命が尽きるまで弄ばれる。

予定だった。





俺は人間が嫌いだ。

特に貴族。上級はこの世から消し去りたいほどだ。

怒り、恨み、そして、復讐心。

まるで、呪いのようのように私の魂へとこびりついていた。



奴隷間の交流の最中の事。

一人の場違いな少女がそこにいた。

神に愛されている美貌、何もかもが思うが儘と示す服、

それは、私が一番嫌いな上級貴族の雰囲気だ。


彼女と目が合う。

執念では言葉が足りないほどの思いが溢れた。

―全てを奪ってやる―

しかし、全てを奪っても呪いは軽くならないだろうと感じていた。


「………彼にするわ」


世界が止まった。奴隷商や従者、そして、自分も、周りの観客、

全てが凍り付く。


誰もが知っている、彼は娯楽であると。

誰もが知っている、彼のその罪の重さを。

誰もが知っている、彼のこの先の未来を。


一人の少女は世界を変える。


「………お、お待ちください!大変失礼ですが、彼はいけません!」


奴隷商は懇願するように声を張り上げる。


「あら、どうしてかしら?」


少女は言う。全て知っている。

しかし、それが何か?とでもいう表情で。


「彼は……その………とある上級貴族の方に手を出し、奴隷に身を落としたのです」


「聞いているわ、そして、もちろん、相手も知っている。その上で彼にすると言っているの」


腸が煮えくり返るのが分かる。またも、貴族かと。

俺の尊厳はいつも貴族に狂わされる。

もういい、あいつを殺して、世界に一矢報いるつもりで飛び掛かる。


「………!きゃぁ!」


彼女に触れる寸前、

彼女の従者に首を締め上げられていた。


止まった世界は私が動かした。

飛び交う怒号、悪意の眼、漂うよどんだ空気。

まるで、私の狂気が世界に繋がったみたいに会場が悪意に染まる。



くそったれな貴族にの悲鳴の一つをあげさせた。

私の狂気で世界を染めた。

冥途の土産には十分な代物だ。


首が締まる。死ぬかもしれない。

気付けば私は最高の笑顔を作っていた。

それは、本来苦しいだけの代物だ。

人間の活動が止まっていきゆっくり罪を感じ後悔させる行い。

だが俺には天国へ向かう快楽しかない。

私は、絶頂の状態だった。


しかし………、

それは長くは続かなかった。


「………手を離しなさい」


「?!」


そう、また世界が止まった。

俺の渾身の、命を使った最期の一撃は一人の少女。

たった、一言で切り伏せられたのだ。


「聞けません、お嬢様の恩情に対してのこの仕打ち!反省の色もない!即刻、処刑すべきです!」


「………あなたは私に反逆するのですか?」


「?!………しかし」


「……はぁ、仕方ないわね。首の拘束を解け、手と体の拘束は許可する」


「………、わかり…ました」


しぶしぶと首を抑えていた手が離される。

あと、少しで死ねたのだが、体は回復させるために息を吸う。

死にたい自分と行きたい体、そう身体(じぶん)すら敵だった。

絶望と孤独、また地獄へと心を堕としていた。


「………、落ち着いたかしら」


「………」


「?言葉、話せないのかしら?」


「………こ……ろ……せ……」


「聞こえないわ、もう少し大きな声でお願いします」


「ころして……くれ………はやく………」


「ふむ、それは聞けないです」


「お願いだ!今すぐ!はやく!俺を殺してください!」


我慢の限界だった。

俺の慟哭が響く。顔は涙と鼻水で洪水を起こし、顔は醜悪なほど歪む。

これまで耐えれたのはいつか死ねるという希望。

そして、やっと解放されるいう喜び、快楽。それは猛毒だった。


そこから会場はどっと沸く。やっと、元に戻ったと。

楽しい娯楽を思い出したように笑い声が木霊する。


俺はたった一つの希望という猛毒で天国から地獄へと引きずりた。

その光の大きさは前よりも影を大きく育ててしまったのだ。

あれは光を知らないが故に耐えられた。

もう自分は耐えられないと魂が訴えていたのだ。


「………いいでしょう。そこまで言うなら交渉しましょうか」


「…どういうことだ?」


「私は貴方が欲しい。でも、貴方は解放を望む。だから、契約をしましょう」


「………」


「あなたは私が大人になるまで、そうね、五年。五年間私に仕える。それが終わればあなたの自由。私の権限で、解放後も貴方への支援、迫害の禁止。この契約でどうかしら?」


俺は貴族が嫌いだ。

これは絶望の中にある俺を支える言葉だ。


確かに破格すぎる条件だ。

隣に置く。金も出す。名誉も貸す。被害も受け持つ。

それは奴隷にとって、いや、平民ですら、喜んで尻尾を振るだろう。

しかし、

それは彼女は俺に残った最後の矜持を差し出せという。


やはり俺は貴族が嫌いだ。

弱者の俺みたいなやつの命はまるで家畜でも買う気楽さで使う。

貴族は強者だ。彼らは望めば沢山の物を手にする。

その生まれた時からの決定的差は絶対に覆せない。


「………断る」


「あれ?断るの?どういうことかわかってるの?」


「あぁ、俺は貴族が嫌いだ。特にあんたみたいに全てが自分の物だと勘違いしている奴には反吐が出る」


「?!貴様、本当にどこまでも!」


拘束が強くなる。首など絞めずともこのまま殺してやると言わんばかりに。


「くっ、いいのか?くそったれなお嬢様の命令すら守れないのだな、まったく躾すらできない貴族だとはお笑い草だ。お嬢様は大変立派なようだ」


「?!お嬢様、命令を……今すぐにこいつを処罰する許可を」


「ふふ、素晴らしい!本当に素敵ね!あなた!」


「………は?やはり貴族というのはおかしな連中の総称だったんだな」


「ええそうね、認めるわ。貴族は大なり小なり特殊な嗜好を持っている」


「おまえは飛び切りの変態趣味」


「私はね、家畜が嫌いなの。貴族や美貌という餌に飛びつき貪り尻尾降るようなのは特に嫌い。私の周りにはそれがいっぱいなの」


「つまり、おまえは荒野の化け物でも調教したいと?」


「いいえ、違うわ。貴方のように信念の為の自分の命すら顧みない人とても好きなの。私も同じだから」


「なるほどな、好奇心のためならゴミでもいいのか」


「私から見れば貴方は宝石よ。この状況で私に頭を垂れない貴方のような人が無駄死にする。それこそ、私の一番の損失ね」


「今から死ねばお前に一生の傷をつけれるのだな、実に愉快だ」


「ええそうね、だから契約させる。私の使えるもの全てを使ってね」


「………一つ聞いてもいいか?」


「どうぞ」


「五年後解放する。その後にお前を殺すだろう。そしてほかの貴族にもこの手で殺す。それでも約束は守るか?」


「いい、実に素敵ね。思った通り……いえ、思った以上だわ!契約に入れるわ。私に関しては問題ない。恨むこともしない。私を殺した場合あなたが権力を継いでもいい」


「わかった。なら、問題ない」


「お嬢様!勝手に決めてはいけません!」


「いいえ、もう、どうしようもないわ。契約が成立したもの、ラフタ―・アル・ティベリア、あなたの契約者の名前よ、ウィリアム」



これが私と主の出会い。そして二人の関係だ。








あれから、契約から4年。つまり、あと1年で契約終了だ。


「でも、やっぱり納得いかないわ。そいつは危険よ、貴族への敵意があるもの」


「マリーに対してはそうなるわね」


そう、何を隠そう。私の手を出した上級貴族、それはマリアンヌだった。

まだ憎い。が、聞けば彼女は私の処罰には関わっていない。

私が奴隷になったことしか知らず、後は親の指示だったそうだ。


私は今でも貴族が嫌いだ。

でも主には恩がある。それを返すまでは死なないし死ねない。

しかも、彼女に着くと沢山の貴族を相手にできる。


殺すのは簡単だ。でも、主にはもっと面白い仕返しを教えてくれた。

色々なものを使い相手を心から屈服させる。

プライドの塊の貴族達が負けて悔しがる姿が最高だ。


これからも主に仕えたいと思っている。


「手は出しませんよ。マリアンヌ様、それよりも良い物を教えてもらったので」


「よくここまで丸くできたわね、ラフタ。お父様から全て聞いた時、貴族がたくさん血を流すことを覚悟したのに」


「マリー、最初に言ったでしょう。彼は至高の原石。磨けば私たちを超える傑物よって」


「ほんとにね、ラフタだけじゃなく、わたくしまでも利用する。責任が掛かるやつ以外には死亡なし。こいつの影響で悪徳貴族は瀕死。正当性があり、悪徳貴族以外には手を出さないから反感もなし」


「嬉しいですね、嫌いなマリアンヌ様にそこまで評価してくれるなんて」


「ここまでもの貢献が無ければ打ち首にしたいくらいだわ」


「ふふ、本当にウィリアムは自慢の執事よ。貴方にそこまで言わせるのだから」


まったく、主には敵わないな。


「そういえばラフタ。一つ聞きたいのだけれどいいかしら」


「答えれる範囲でお願い」


「なんでこいつ引き取ったの?」


「予感があったの、ウィリアムは磨けば最強の武器になるって。そうね、強いて言えば」





「一目惚れね」



















なんか書いた時と全然違うものが出来ました。


神様の介入により死亡フラグビンビンなお嬢様を助ける悪辣なループもので、某有名なファンタジーループ系のシナリオの予定がどうしてこうなった。


まだまだ、自分のスタイルが決まってないので、読みづらかったり、ヘンな文章になってるかもしれませんが楽しんでもらえたら幸いです。


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