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 千波に連れていかれたのは、陸奥中里市内にある病院だった。

 彼女は一度、一条家に電話を入れた後、ここに響を連れてきた。どうやら一条家に連絡して響にこの件を任せることの許可をもらったようだ。

「どうしてここに?」

 4階にある病棟の通路を進みながら響は訊いた。

「被害にあった子がここに入院しているんですよ」

 と千波が答える。「崇史君はそこの小学校に通っている3年生です」

「入院? でも、ケガはたいしたことなかったって」

「ええ、その時のケガはね」

「どういうこと?」

「他にケガの痕があったんですよ。タバコによる火傷の痕のようなものです」

「タバコ?」

 ギクリとした。それが何を意味しているのか、響にもすぐに理解出来た。「誰が?」

「ハッキリしません」

「まさか親が?」

「だからハッキリしないと言ってるじゃないですか。せっかちですね」

 千波は少し怒ったような言い方をした。

「あ、ごめん」

「一条家から病院にお願いして検査入院としうことにしてもらいました。明日には退院することになっています。入院の手続きの際に私も会いましたが、父親は子供のことを溺愛しているようです。そして、母親はタバコを吸いません。ただ、ちょっとだけ違和感のある親子でしたけど」

「じゃあ家族ってわけじゃないんだね?」

 響は少しだけホッとした。親から虐待される子供がどれほど辛いか、それは響にもわかるような気がした。

「そもそもそれが火傷の痕と決まっているわけでもないんです。正確にいえば、そう見えるだけで本当の火傷の痕じゃありませんでした」

「じゃあ何?」

「傷ではなく、傷に見えるもの。痣……痣に見えるような影……」

「ずいぶん曖昧な言い方だね」

「よくわかっていないんです。本人もその傷痕がいつ付いたのかわからないそうです。病院に来て初めて気づいたようです」

「じゃあアレが原因で?」

「そうかもしれませんね。ただ、何の意味があるのかがわからないんです。それはあくまでも傷痕であって、痛みも何もないようです」

 千波はある病室の前で足を止めた。

 そして、ドア脇のネームプレートを指差す。そこには『柏木崇史』の名前があった。どうやら、それがその少年の名前のようだ。

 ドアを開けて病室へ足を踏み入れる。窓に近いベッドに薄いブルーのパジャマを着た一人の少年の姿が見えた。少年はベッドに座り、ボンヤリと窓の外を眺めていた。

「崇史くん」

 千波の呼びかけに少年は振り返った。響を見た少年の瞳が少し警戒するように左右に小刻みに動く。見知らぬ響の存在に少し緊張しているのかもしれない。

「こんにちは」

 と響は笑顔を作ってみせて近づいていった。そして、自分が千波の同級生であることを話して聞かせた。それを聞いて崇史は少しだけ安心したような表情になった。

 少し雑談をした後、響はさり気なく本題へと話をむけた。

「崇史くんは先日、公園でおかしなものを見たんだって?」

「あ……うん」

 すぐに崇史の表情が曇る。無理もない。あのような存在と出会い、それを簡単に忘れられるはずもない。

「怖かった?」

「……よくわからない」

 そう答えた崇史のパジャマの袖口から出た手首に火傷のような痕があるのが見えた。

「わからない?」

「あんなの見たの初めてだったし……最初は怖いと思ったけど……でも、別に何かされたわけじゃなかったし……」

「君はアレが何かわかったの?」

 崇史は強く首を振った。

「知らない」

 だが、それはどこか違和感のある表情をしているように思えた。

「本当に?」

「アレは何なの? 人間じゃないよね?」

 逆に崇史のほうが聞き返す。

「あれは……」

 響はどう答えていいものか口ごもった。迂闊なことを言ってはいけない気がした。隣に立つ千波は一切口を出すことなく、静かに二人のやりとりを眺めている。

「幽霊なの? 死んだ人なの?」

「どうしてそう思うの? もしかしてアレが誰なのか知ってる?」

 崇史は表情を固くした。それでもーー

「……僕は会ったことがないんだ。でも、お母さんの持っている写真で見たことが」

「写真?」

 千波が驚いたように聞き返した。「この前はそんなこと言ってなかったよね?」

「……うん。ごめんなさい、後で思い出したんだ。お母さんの子供だった人って聞いたことがあるんだ」

「子供だった人?」

 その言葉に響はひっかかった。「でも、さっき死んだ人って言ったね」

「うん、お母さんの子供は死んだって言っていたから」

「そう」

「お母さん、かわいそうなんだ」

「お母さんのこと、好きなの?」

「うん、ボクの手を褒めてくれるんだ。キレイな手だって」

 そう言いながら、崇史は母親の言葉を思い出すように自らの手を見つめた。

 ほんのりと甘い香りがする。崇史が着るパジャマからだろうか。

「良い匂いだね」

「お母さんが好きなんだ。お母さんは、ずっと部屋でお香をつけているから、自然にこの匂いがつくんだって」

 崇史は本当に嬉しそうに微笑んだ。


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