最初の英雄3
執務室の扉をノックすると聞き慣れた声が聞こえてくる
「俺だ、親父入るぞ」
乱暴に扉を開けると父が書類になにやらサインをしていた。
「グロウか、その言葉遣いはどうにかならんのか。」
「へいへい、で親父殿本日はどのような御用件で御座いますか。」
まったく、言いつつそれ以上咎めるつもりはないのか再び書類に目を落とすと少しの沈黙が流れるが
話し出すのを待ってみても黙したままの父に少し苛立ちつつ訪ねる。
「何だよ、なんの用で呼び出したんだよ。」
「あぁ、ミステルの様子はどうだ。最近はお前が剣術の指導をしているんだろう、座学は心配になるほど優秀だが。」
それが本題ではないことは様子をみればわかるがいまだに書類から目を離さずに話し続ける父を睨みつけるがなお話そうとしない父に肩を竦める。
「はぁ、ミステルは優秀だよ気づいてないかも知れないが既に身体強化は身に付けている。末恐ろしい奴だよ身体強化何て騎士団に入ってから習得する高等技術だぞこのままいけば王都で、いや大陸で一番の剣士になるかもしれん。」
先程まで必死で走っていた弟を思い出すとまた自然と笑みが溢れる、
8つという歳では考えられない一時間以上の走り込みに身体強化という技術で見事耐え抜いた姿に思わず見栄を張ってしまったが自分が8つの時など十分すら走れていたかわからない。
天賦の才というものは恐ろしいがそれが弟なら嬉しく思う、そう遠くない内に自分は抜かれるだろうそれすらも嬉しく思える。
「そ、そうか。あいつは座学でも既に王都にある中等学院の内容すら修学しつつあるというのに、成長が楽しみだな。」
「で、本題は何なんだよ。そんなことで呼び出したわけじゃねえだろ。」
「そうだな本題にはいるか、魔族の件だ。話しは聞いているな」
「あぁ何日か前に団長に聞いたが魔族か、最近活発になってきてるらしいじゃねえか。でも俺たち騎士団がいれば問題ないだろあんな奴等」
魔族とは人ならざる者のことである、異形の姿をしておりおよそ理性と呼べるものは有しておらず非常に残忍で凶暴な性質の生物である。
魔物のような獣崩れとは違い基本集団行動はせず、個々で気ままに残虐の限りを尽くす。だが一個人では敵わないが騎士団が数名で対処すれば難しくない相手でもある。
「各個撃破ならそうだろうな、だが今日上からきた話ではどうやら統率する者が現れたらしい。」
「は?なんだよそれ彼奴らの王でも現れたってのか、お伽噺でもあるまいし見間違いかその話し自体何の確証も無いものなんだろ?」
「そうなら良いんだがその確認の名が我が家に下った。本日はその話だ、グロウお前に行って来てもらいたいこれは騎士団を通さない非公式の通達だ。」
椅子に深く座り直し言い放った父に騎士団を通さない話しと聞いて戸惑う、普段騎士団を通さない調査の場合
王都にある冒険者ギルドを通し冒険者に調査依頼としてクエストを出すのが普通である。
「なんだよそれ騎士団も冒険者達も介さない調査って、その調査が他の連中にバレたら不味いってのか。」
「そうだ、陛下と宰相殿そして騎士団長は王都内に間者がいると睨んでいる。それで戦の功績で騎士爵から男爵になったわアーデスト家に矛先が向かった。他の貴族どもは大分様変わりしているだが我が家はまだ私一代だそのぶん他より信用されているのだろう。」
「間者って、それ本気で言ってんのか。居るわけねえだろそんなの」
「あくまでも可能性の話だそれに騎士団長も着いて来るらしい、我が家も多少疑われてえいるのだろうな。でだ、行くのならん何人か一緒に連れて行く者を選んでおけ。」
「団長も来んのかよ、じゃあ断れねえじゃねえか。いつ行くんだよ」
「二ヶ月後だ、期間は三ヶ月を想定しいている。頼んだぞ」
話しは終わったと再び書類に向き合う父に溜め息を漏らし部屋を出る。
(面倒なことになっちまったな、間者何て本当にいるのかね。なら連れて行ける奴は平民出身の信頼できる奴か。)
心の中で独り言ちるとミステルの事を忘れ騎士団のいる王城へ連れて行く部下を探しに向かうのであった。
読んでいただき有り難う御座います