最初の英雄
かつて数多の英雄逹がその悪しき者共に挑み
そして敗れ去っていった。
世界は邪悪なる神の眷属により
希望の光すら届かぬ闇に覆われた。
一騎当千の武勇を誇る屈強な騎士は山とも見紛うほど巨大な悪に。
神速を歌う雷鳴の勇者はその神速ですら逃げおおせる事の出来ぬほど、視界一面に広がる炎を吐く悪に。
魔術の深淵に到達し万物を操ると言われた健老は、その術をすら嘲笑うかのように踏み砕く醜い肉塊の悪に。
世界が支配されてなお諦めぬ人々の心を希望を、全て飲み込み消し去っていった。
人々はその悪しき者共を魔物と呼び、それでも尚希望を見いだす事を諦めずにいた。
この物語はそんな数多の英雄逹の一人から始めるとしよう。
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それはまだ世界が悪に飲まれる前の時代
ハーマル大陸王都グレイルフ、その王都グレイルフの貴族の末席にその英雄は産まれた。
男爵家次男ミステル・アーデスト、その男児が産まれた日は快晴の昼下がり
「旦那様無事産まれました奥様も無事です!」
「そうか産まれたか!」
書斎に駆け込んできた執事を一瞥すると安堵の表情を見せる
体が弱い妻の二度目の出産に早朝から落ち着いて居られなかったのかどっと疲労が押し寄せてくる。
「直ぐに向かうから先に行っていてくれ。」
「かしこまりました。」
執事を先に妻の元へ向かわせ気持ちを落ち着かせる為にしていた書類仕事を片付ける。
「さて、男か女か聞くのを忘れたな。あいつも相当舞い上がっていたようだ」
産まれたことだけを告げ妻の元へ向かわせた執事を思い独りごちる。
書類を整理し足早に妻と産まれた子の元へ向かうと
綺麗な白い布に包まれた子を抱く妻の姿があった、だいぶ疲れている様だが此方に気付き笑みを浮かべる姿にまたも安堵する。
「あなた、元気な男の子ですよ。目元なんかあなたにそっくり」
「そうか男か、産まれたばかりでそっくりも何もないだろう。」
そんなことないですよと微笑む妻の手を取り、よくやったと声をかける。
腕の中に抱かれている子は確かに髪の色は少し暗い金の色をしていて自分の子であると強く認識させるものであった。
「この子名はミステル、ミステル・アーデストだ」
「ミステル、いい名前ですね。ほらミステルあなたのお父様ですよ。」
まだ目も開かない子の手に指を添えるとしっかりと力強く握り返してくる、
ミステル・アーデスト後の最初の英雄がここに産まれた瞬間だった。