幕間小話:商人夫婦のその後
「……行きましたね」
カンドル隊が混じった商団が、演の都に向かって徐々に小さくなっていく。大木の頂から、二組の眼が葉越しに覗く。
「まさかこんなところでカンドル隊に出会うとは思いもしませんでしたね、ハンゾウ様」
女がポツリと口を開いた。足元に、先ほどまで背負っていた背負子を置いている。その隙間から見えているのは──爆竹だ。
男の方が笠を外し、口の中から丸め込まれた綿を取り出した。衣の中にも手をやると、ぼとぼとと中身の詰まった布袋が幾つも落ちてきた。一瞬にしてふくよかさを失い、骨ばった体型となる。
「間抜けな奴らだ。この俺に少しも気付かんとは」
鼻で笑うこの男こそ『鼠』の頭領、ハンゾウである。一見、どこにでも居そうな顔つきであるが、鋭い眼光が油断ならぬ人物だと物語っている。
「……ま、この爆竹には気付いたみたいだがなァ」
「カンドル隊を直接ご覧になるのは10年前以来ですか?」
「……ああ」
ハンゾウは憎悪のこもった眼で、遠目に商団を睨む。
「あいつらなど俺の視界に微塵でも映ることを許さぬわ。ああ、忌々しい!」
「けど、いいのですか? 懇意にしとかなくて。王様はカンドル隊の隊長と試し合いとやらをしてるみたいですけど、王様はじきに彼らを引き入れますよ?」
「そんなこと、俺の知ったことか! 俺の毛一本さえ見つけられずに手をこまねいているようだが、何もできずに王様に失望されるがいい! そしてそのまま召し抱えの話もなかったことになればいい!」
くっくっくとあざ笑う頭領を見て、女は情けなさそうにため息を吐いた。
「まぁ、歪んでますこと」
「うるさい! 王様にお仕えするのは俺たち『鼠』だけで十分だ!」
「はいはい……」
けだるそうに返事をした部下に、ハンゾウは眉をひそめる。
「おま……っ、これでも俺は頭領だぞ? なんだその態度は」
「大丈夫です尊敬してますキャーハンゾウサマステキー」
「雑だなおい!」
「……とまあ、冗談はここまでにしまして」
そこで、女は目を細めて遠くを見やった。先ほどカンドル隊がやって来た方向から、大人数の団体がやってくる。
「あの屋号紋は──演の商団のものですか。今度こそ仕事がやってきましたね」
女は背負子に手を伸ばし、ハンゾウも笠を被りなおす。
「さっきはあいにく景の商人ゆえに手は出せなかったからな……。よし、今度こそ派手にぶっ放してやる。王様の野望への布石のため、演じゅうの馬という馬を散らしてやる! 行くぞセンリ‼」
「はぁい」
それと同時に、枝が揺れる。そこには二人の姿はなく、残ったのはひらひらと舞い落ちる木の葉だけだった。




