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並行世界(パラレルワールド)は君のいる世界  作者: 方丈 治
第二章

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渦中の然々

「ほれ、これで完了じゃ」


 腕に包帯を巻き終えると、その腕をヨハイ翁はパシンと叩いた。もちろん包帯を巻かれた腕は傷を負っているわけで、その腕の持ち主であるセトは声にならない声を上げた。


「~~~~! けが人に何しやがるんだよ、じーさん!」

「妓楼に行こうとしていたところに飛び込んできたおぬしのせいで、わしは機嫌が悪いんじゃ」


 耳をほじりながら、ヨハイは答えた。こんな老人でも、昔は都一の姉弟薬師と謳われたものだ。


「お~、こんなむさ苦しい男どもより、久々におなごの治療がしたいものじゃ。おなご、おなご……おなごは来ないものかの~」

「来るはずねえだろ、とうの昔に養生所たたんでるってのに。診てるのはうちの隊員くらいじゃねえか」

「──けが人ですっ!」


 その時、養生所に飛び込んできたのは、奈美とヒョウイだ。奈美の肩を借りているところを見ると、ヒョウイはどこかに怪我を負っているらしい。

 奈美の姿を見た途端、ヨハイが嬉しそうに目を輝かせた。


「おお! おなごが来たぞ」


 だが、以前奈美が女であることは他言無用だとライカに念を押されたことを思い出し、ヨハイはこほんと咳払いをした。


「いや、おなごではなかったな……」


 なんだそれ、と言いたげなセトの横を、奈美とヒョウイが通っていく。ヒョウイをヨハイの前に座らせながら、奈美が口を開いた。


「先生、次はヒョウイの手当をお願いしてもいいですか?」

「傷は浅いから大したことない……。ヨハイの爺さんの手を煩わせるまでも──」

「背中ばっさり斬られてて何言ってんだ!」


 奈美が一喝すると、ヨハイは機嫌よさそうに腕まくりをした。「女人」に「先生」と呼ばれて、嬉しいのである。


「よい、よい。一人も二人も一緒じゃ。……ん?」


 ヨハイはその時、テキパキと動いている奈美に気付いた。ヒョウイの上衣を脱がせると、次は棚から治療に必要な道具を出している。


「……おぬし、薬師じゃったか?」

「違いますよ。ただ、少しだけ治療の仕方を知ってるだけです」

「そうか……なら、手伝ってもらうぞ。ねーちゃんは今出かけてての、手が欲しかったところじゃ」

「わかりました」


 ヨハイを手伝う奈美を見ながら、暇を持て余したセトがヒョウイに話しかけた。


「だせーな。背中取られたのかよ」

「……黙れ。ご令嬢かばっての負傷だ。不足はない」

「ま、敵ながらあのしつこさは見事だよな。で、まだり合ってるのかよ?」


 必要ならまた参戦しに行くぜとセトは立ち上がりかけたが、後ろから奈美──その腕で何を言っているとでも言わんばかりの顔だ──に肩をつかまれ、椅子に押し戻された。


「その必要はない。もう鎮圧した」


 ヒョウイが不服そうに言ったので、セトが訊ねた。


「……今回もか?」

「ああ。襲撃団の頭を、あと一歩のところで取り逃がした。何人か生け捕りにした下手人もいるが、下々には黒幕の正体など知らされていないだろう」

「くそ~このままじゃあな……。何か、状況を打破できねえか……」


 セトとヒョウイの間に沈黙が流れる。それを打ち破るように、ヨハイが包帯を巻き終えられたヒョウイの背中をパシンと叩いた。


「おぬしもこれで終いじゃ!」

「…………‼」


 セト同様、ヒョウイも声ならぬ声を上げる。しかし、ヨハイはさらに追い打ちをかける。


「ほれ、歩けるならとっとと出て行かんか! これでやっと妓楼に行けるんじゃからな!」

「相変わらず容赦ねえな、じーさん……」


 セトが呆れた顔で立ち上がると、すでに出て行こうとしていたヨハイが振り返った。


「このじじいにできる事は、もはや妓楼に行くことくらいだがの。おぬしらは若いじゃろ。ぶつぶつ言っとらんで、今できる事をせいっ!」


 それだけ言うと、ヨハイは意気揚々と出て行った。


「へーへー。わかってるよ」


 ヨハイの捨て台詞に、セトがぶつぶつとこぼしていると、一緒に養生所を出たところでヒョウイが呟いた。


「俺たちが今できること……か」


 もちろん、地道に今の護衛任務を続けていくしかない。それはセトもヒョウイも分かっている。

 そんな時、二人の後ろからついてきていた奈美が、感心した様子で独り言ちた。


「やっぱりすごいな、カンドル隊って。人間を一人、助けたんだもんなあ……」


 先ほど見てきた隊員たちの戦いぶりを、奈美は思い出す。所用のためライカと都に訪れていた奈美は、とある珂族の屋敷が襲撃されているところに遭遇したのだ。

 都中の令嬢を鳥や猫を使って見張り番をしていたイスビがいち早く敵の動向に気付いたため、敵が屋敷に侵入してきた時点で、カンドル隊の応援部隊は間に合った。

 奈美が見た時にはすでに苛烈な戦闘が繰り広げられており、ライカも即座に状況を判断し、戦いに加わっていった。

 屋敷の周りのそこらに敵が横たわっていた。その中に仲間の一人混じっていたのがセトだ。セトは腕の出血を止めようと取り急ぎ自ら応急処置を施していたのだが、傷が深く、奈美に養生所へと無理やり連れて来られたのだ。


 セトをヨハイに任せて、急いで襲撃場所に戻った奈美だったが、すでにカンドル隊が襲撃団を鎮圧した後だった。ライカが隊員たちに「後片付け」の指示を出しているのを見ていると、うずくまって動けないでいるカンドル隊の一人を見つけた。それがヒョウイだった。そのすぐそばでは、珂族の娘が青ざめた顔で泣いていた。

 養生所に行くほどではないと渋るヒョウイを奈美が強制連行したのは、皆の知るところである。


「別にすごくない。カンドル隊六名に対し、向こうは二十数人。これくらいなら鎮圧して当然だ。むしろ敵の一人を令嬢に近付けてしまったのはカンドル隊の手落ちだ。いくら四方八方から攻められたとはいえ……」


 奈美の独り言に、ヒョウイがそっけなく返す。セトも、頷きながら同意している。

 だが、奈美は語気を強めて言い返した。


「すごいよ! 一人の命を救うのがどれだけ大変か知らないだろ!」


 セトとヒョウイが照れ隠しに顔を見合わせると、話を逸らした。


「そーいや、ナミも襲撃された屋敷に戻るんだよな? 俺たちは後始末が残ってるから戻るが、おまえは隊長のお供の途中だったっけ」

「そうだよ。今日も王様との謁見があるんだってさ」


 景王とカンドル隊の隊長の昵懇じっこんぶりは、隊員たちも知っている。景王から直属部隊に誘われているという話を聞いてから、皆、浮足立っているのだ。


「俺たちカンドル隊が城に戻る日も目前だな」

「ま、その前に、『鼠』のかしらを捕まえなきゃなんねえけどな」

「……隊長も副隊長も、あれからその話はしてくれないが、やはりハンゾウを捉まえるのは難しいということか」


 セトとヒョウイがぶつぶつと話し合っていると、奈美が何かを思い出したように「あっ」とつぶやいた。


「そういえば、ヒョウイさ。屋敷に戻るんなら、助けたお嬢さまに顔見せとけよ」

「……何故だ?」


 ヒョウイがきょとんとした顔で聞き返したので、奈美は呆れたように答えた。


「何故って、自分をかばって目の前で斬られた人のことが気になるのは当たり前だろ! 元気な様子見せとかないと、あのお嬢さま、自分のせいで他人に大怪我負わせたって、これからずっと罪悪感を背負うことになるよ」

「そんなことはあり得ないから安心しろ」

「は?」


 ヒョウイが断言したので、奈美は思わず眉をひそめた。


「珂族が卑しい一隊員の身を案ずることなど絶対に無い。任務中に起こった出来事ならなおさらだ」

「そうかなあ……。あのお嬢さま、ヒョウイのこと、すごく心配してたように見えたんだけど」


 奈美が考え込んでいると、横からセトが茶化した。


「ボーっとしてて見間違えたんじゃないのか? あのお嬢様、可愛かったもんなあ。見惚れてたんだろ、ナミ」

「はあ?」


 奈美が呆れた顔でセトを睨んだところで、屋敷に到着した。下手人たちの死体は塀の方に並べられており、上にはむしろが掛けられていた。生きたまま捕らえられた者たちの姿が見えないのは、捕庁に連れていかれたからだろう。


「戻ったか」


 三人を見つけたライカが、声を掛けた。セトとヒョウイに訊ねる。


「傷の具合はどうだ?」

「軽傷でした」

「問題ありません」


(……どこがよ)


 口々に答えるセトとヒョウイを見て、奈美は横目でジトっと睨む。

 そこまで見て、ライカは本当のところを察したらしい。にやりと笑うと、親指で後ろを指した。


「こっちはちょうど始末を終えたところだ。おまえたちの待機場所には交代が入ったから、もう窟に戻って休んでいいぞ」


 セトもヒョウイも、口には出さないが、喜んでいるのが分かる。ライカに礼をして立ち去ろうとすると、ライカが口を開いた。


「ただし、ヒョウイ、おまえは少し残れ」

「え?」


 ヒョウイが顔を引きつらせて、振り返った。やはり敵を令嬢に近付けてしまった失態を怒られるのだろうか。それとも、情けない背中傷を負ってしまったことの方だろうか。だが、どちらも違った。


「おまえと話をされたいようだ」


 ライカが目線で知らせると、その先にはヒョウイがかばって助けた令嬢が立っていた。令嬢は年かさの女性──彼女の母親だろうか──の制止を振り切ると、ヒョウイの方へと駆け寄ってきた。

 それを見て、ヒョウイは本能的にひざまずこうとする。──が、令嬢に止められた。


「おからだに障ります。どうかそのままで」

「────っ」


 遠目でも、ヒョウイが困惑しているのが分かる。珂族の前ではひざまずくのが当然の礼儀。だが、その珂族から礼を尽くすのを止められているのだ。無理もない。

 令嬢はすっかり泣き腫らした目を細めて、ヒョウイの胴体に巻かれた包帯を痛々しそうに見つめた。それから合わせた両手をギュッと握ると、その手をヒョウイの前に差し出した。その手の中には、小さな軟膏入れが載っている。


「我が家お抱えの薬師が作った傷薬です。よろしければ、どうかお使いください」

「……えっ」


 ヒョウイは戸惑った様子で、令嬢と手の中の物を見比べた。それから、素直に受け取ってよいものか、助けを求めるようにライカの方を振り返る。

 ライカがひとつ頷いたのを見て、ヒョウイはおずおずと軟膏を受け取った。令嬢も、ホッとしたような顔である。


「サゾリ! もう良いでしょう!」


 母親のとがった声がして、令嬢は踵を返した。


「……ありがとう」


 その瞬間、小さく言葉が放たれる。

 令嬢は母親のもとに戻ると、半ば引きずられるようにして屋敷の中に消えていった。それを見ながら、セトが呟いた。


「なんかすげえもん見ちまったな……」


 珂族から直接、傷の心配をされただけでなく、感謝の言葉をもらったのだ。普段は絶対に見ることのない光景に驚くのも当然だ。

 ヒョウイはというと、まだ軟膏を握りしめたまま、呆然と立っている。奈美はそんなヒョウイに近寄ると、こそっと言った。


「ほら、おれの言った通りだろ」

「……『ありがとう』……だと?」


 ヒョウイがぼんやりと呟いたので、奈美が首を傾げる。


「……何かおかしいか?」

「おかしいに決まってる。珂族だぞ……? 平民相手に礼なんか言うか」

「あのね……そういう風習だか何だかよく知らないけど、礼くらい言うだろ。珂族だって人間なんだから」


 奈美は呆れた様子で返した。


(……それにしても、「ごめん」じゃなくて「ありがとう」って言ったあのお嬢さまに拍手を送りたいものだわ)


 そんなことを考えながら一人微笑んでいると、こつんと頭を叩かれた。


「何、にやついている。偶然にもひと騒動に巻き込まれたが、用事があることを忘れてないか」


 ライカが大きな風呂敷包みを見せながら言った。


「あいつらの所に寄っていくんだろ」

「……そうでした」


 城に行く前に、シムとイスビが籠っているいおりに差し入れを持っていく予定だったのを、奈美は今思い出した。風呂敷の中には、自分も少しは力になりたいと思って作った握り飯が大量に入っている。


「貸してください。……あ」


 奈美が風呂敷を受け取ろうとして手を差し出したが、ライカはそのまま持ったまま、屋敷を出て行こうとする。何だか優しくなったのは、いつからのことだったろう。やっぱりむず痒いと思いながら、奈美もその後を追う。


 裏門から外に出ると、表の方の門の外では、いまだ野次馬であふれていた。

 ──こわいねえ。いつまでこんな物騒なことが続くんだろうね。

 ──さっすが天下のカンドル隊だ! あの黒装束の奴らを、あっという間にやっつけやがった!

 ──……見たか? 人離れした術を操る連中だぜ。頼もしいには違いないが、人外の存在に都をうろうろされるのも……。なぁ?

 ──倭国一の都も、そろそろオシマイなのかねぇ。だとしたら、都から離れることも考えないと……。


 ライカについて人混みに紛れ込むと、あちらこちらから人々の話し声が聞こえてくる。その内容は様々だ。それらに思わず反論したくなるが、ぐっと堪える。そんなことしたって無駄だし、何よりライカに怒られる。


(でも、“人外”ってナニよ“人外”って! まるで化け物扱いじゃない‼)


 むしろ都を救っている英雄だというのに。奈美が一人ぷりぷりしていると、ある事実に気が付いて、その怒りが一気に冷めた。


(出会った当初は、私もカンドル隊こいつらのこと、バケモノだって思ってた……)


 彼らと暮らすようになって、今はそんなことは微塵も思わない。だが、過去にそう思っていたのは確かに事実だ。

 自己嫌悪に陥っていた奈美を現実に引き戻したのは、ライカの声だった。


「二人ともご苦労」


 奈美は我に返って、辺りを見渡した。いつの間にかシムとイスビが籠城中のいおりに着いていたのだ。都の中心部にある建物としては、かなり小さくて古臭いが、彼らにはこの方が落ち着くのだろう。

 奈美がライカの背から覗くと、縁側でシムがあぐらを組んだ状態で目を閉じている。その後ろに、イスビが大の字になって寝転がっている。


「あ……隊長」


 ライカに気付いたイスビが体を起こそうとしたが、ライカに止められた。


「さっきの襲撃で疲れてるだろ。よくやったな、ゆっくり休め」


 屋敷襲撃事件も決着がつき、シムと交替して休憩に入ったばかりのイスビは、ホッと息をつくと、再び床に頭を置いた。

 イスビは元々けだるそうに生きている人間だが、今はさらにけだるそうだ。というよりも、激しく消耗している様子だ。一度に数百の獣を操って都中を見張り、怪しい動きを発見した時は応援要請をしに行かせ、応援部隊の援護も行わせたのだ。もちろん他の場所の見張りを継続しつつ、だ。こんな大仕事をしては、疲弊しているに決まっている。


「お疲れ、イスビ。握り飯作ってきたけど……また食べられそうな時でいいから、シムと食べろよ」


 汗だくのイスビを見て、奈美はそれしか言えなかった。とりあえず彼に必要なのは休息だ。

 だが、イスビが手を差し出してきた。


「いや、今、食う」

「え? あ、うん……」


 奈美が風呂敷を広げて握り飯を一つ手渡すと、イスビは寝転がったまま、むしゃむしゃと食べ始めた。


「苦労をかける。お前たち二人の天力に頼った任務ですまないが、もう少し辛抱してくれ」


 ライカがそう口を開くと、すでに握り飯ひとつ食べ終えたイスビが、手に付いた米粒を口で拾いながら言った。


「これが俺らの任務だから文句はないです。ただ正直言えば、今後どうなるか分からないっすよ──奴らの尻尾を捕まえるのが先か、それとも俺とシムがへたばるのが先か」


 ライカはひとつ頷くと、踵を返した。それを見て、奈美もイスビにひとつ頷くと、ライカの後をついていく──。





「ねえ、イスビはああ言ってたけど……大丈夫よね? 何か手があるんでしょ?」


 再び都の中を歩きながら、奈美は前を歩くライカに訊ねた。だが、ライカは奈美の方を一瞥しただけで答えない。


(何よ、私なんかが知らないでいいってこと? それとも、本当に手の打ちようがない状況……だったりして)


 奈美が考えていると、ライカがようやく口を開いた。


「お前が今考えるべきことは、いかに平凡な女人に変装して目立たずにいられるか、だけだ」


(……そうでした)


 いつの間にか景の都の遊郭──景趣に入り、ライカの向こう側に東菊が見えたところで、奈美は思い出した。今日から景城に行く際は、この東菊で女の姿に変えていかなければならないのだ。

 奈美には、はっきり言って、面倒くさいことだった。自分はただの付き人だというのに、何故わざわざ着替えていかなければならないのか。カンドル隊として生活している今、女性の恰好をしたいという願望も今さらないので、やるべきことがたくさんある身としては、ただただ時間の無駄だ。


(それもこれも全部、王さまの要らないおせっかいのせいなんだから!)


 奈美は心の中でそう文句を言ったが、仕方がない。ここで「ほどほどの女人姿」にしていかなければ、この前みたいな──まるで珂族の令嬢のような姿にさせられてしまうのだから。

 二人は東菊の表玄関ではなく、裏口へとまわった。ここの娼妓やカンドル隊の隊員たちに見られてはいけないので、シイラシにはそう話をつけてあるのだ。


「俺はここで待つ」


 ライカが裏口の扉を開けて、言った。奈美は周りに人気がないことを確認すると、そっと中に入る。


「うん、急いで着替えてくるわ」


 いつも奈美がここで過ごしている部屋へと急ぐ。裏口からだと近いので、すぐに着いた。扉を開けると、東菊の女中であり、奈美が女であることを知る数少ない者であるライラが待っていた。


「遅かったね。急ぐだろ? 早速始めるよ」

「ごめんなさい。ちょっと問題があって」


 奈美が部屋に入るなり、着ていた男ものの衣を脱ぎ始めた。用意してくれていた衣を着ながら、後ろではライラが奈美の髪を結ってくれている。衣を着終わる頃には、簡単な化粧までしてくれていた。さすがはベテランの女中である。


「ライラさん、ありがとう! 城から帰ってきたら、また着替えに来ます。それじゃ──」

「ちょっと待ちな」


 慌てて出て行こうとする奈美を、ライラは引き留める。そして、奈美の頭にポンと何かを載せた。垂衣の付いた笠だ。


「ライカさまの隣を女人が歩くのは、きっと目立つからね……せめてものお守りだよ」


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