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並行世界(パラレルワールド)は君のいる世界  作者: 方丈 治
第一章

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【番外編1】悩めるカミトキさん

 

 山中の窟……その中の自分の部屋で一人、悶々としている男がいた。その名をカミトキといい、カンドル隊の副隊長を任されている。


 クタラ村から帰ってすぐに、彼は隊長に呼ばれた。


「ナミのことだ。あいつも料理番の仕事に慣れてきただろうし、そろそろ食料の調達も任せようと思う」

「わかりました。それではナミに馬の呼び方と荷車の場所を──」


 そこでカミトキは、ナミが馬に乗れないことを思い出した。そういえばクタラ村の行き帰りは、恐れ多くも隊長の馬に一緒に乗せてもらっていた。


「……あと、馬の乗り方も教えておきます」

「ああ、頼む。……いや……」


 ライカは一度は頷いたが、少し考えてから口を開いた。


「馬の乗り方は教えてなくていい」

「……え? それでは、どうやって都から食料を運ぶんですか?」

「そうだな……。隊員たちあいつら、妓楼通いによく都へ行くだろ。そのついでに一緒に連れていってもらえ。食料を荷車に載せるのも手伝わせればいい」

「隊員たちに料理番の仕事をさせるということですか? ですが、自らに課された仕事を他の者に分け与えるのは、規律を乱すことにつながるのでは……」

「ナミはそそっかしいところがあるからな。落馬して怪我でもしたら、誰が料理をする? それに、あいつのあの細腕じゃ米俵も持てないだろ。隊員たちに自分の飯ぐらい自分で運ばせて何が悪い」


 そう言うと、ライカはさっさと消えていった。


 その場に残されたカミトキはというと、時が止まったように固まっている。隊長らしからぬ言葉が、頭の中をぐるぐると回っているのだ。


(いつもなら厳格な隊長が、ナミに甘い……!?)


 いろいろ思うところもあるが、隊長の命令に従わないわけにはいかない。


 カミトキはその夕方の定例会で、集まった26名の隊員に隊長の言葉を告げた。


「ナミの仕事を手伝えって? ったく、仕様がねえな~~」

「一人じゃ何もできねぇンだから」

「けどナミの野郎、あんな面して、オレたちを顎で使うの結構上手いよな」


 隊員たちの間には、ナミの手伝いを嫌がる雰囲気はない。むしろ、なんだかんだ言いながらも進んで手伝ってやろうという流れになっている。


 カミトキは隊員たちの反応を見て、再び固まることになったのは言うまでもない。そして、彼はひそかに決意した。


(隊長や隊員たちはナミにやたらと過保護だが……私は騙されないぞ)


 その後の夕餉の時も、いつものように食堂の隅で食べながら、粗探しするかのように奈美の動きを見張っていた。


「おかわりいる人ーー?」


 すぐ横の炊事場から、ナミが杓文字を持って現れた。すると、飯をかきこんでいた隊員たちが次々に立ち上がって椀を差し出す。


「おかわり!」

「俺も!」

「おい、おまえ、昼餉のとき三杯くらい食ってただろ。少しは遠慮しろよ」

「おまえこそ朝餉は四杯食ってたろ!」

「なに!? そんなことちまちま覚えてんなよ!」


 二人の隊員によるケンカが勃発しそうになったが、すかさずナミが間に入って、ぺんぺんと二人の頭を杓文字で小突いた。


「はい、ケンカしない! こんなことになるだろうと思って夕餉は多めに作っといたから!!」

「……おう……」

「……すまん」


 二人の男たちが大人しく座るのに見て、ナミは二人の椀を持って炊事場に消えていった。


(ううむ、自分より大きな男相手に杓文字ひとつで場を収めるとは……)


 最後の一口を食べ終え、箸を置いてから、カミトキは気付いた。


(ち、違うっ、断じて感心などしていな──)


 一人で焦っているカミトキの前に、ナミが立った。さきほどのおかわりの椀はすでに持ち主の手に渡っていて、ガツガツと二杯目を食べている彼らがカミトキの目の端に見えた。


「な、なんだ……?」


 訝しげに訊ねるカミトキに、不安そうな顔をしたナミが訊ねる。


「ご飯、おいしくないですか?」


「はっ……? いや、そんなことはない。うまいぞ」


 そう言うと、途端にナミの顔がほころんだ。


「そうですか! いや~良かった~。カミトキさんっていつも全然おかわりしないから、おれの作ったご飯、口に合わないんじゃないかってずっと思ってて」

「いや、不味いからお代わりしないんじゃない。隊員たちの腹を満たしてやるのも副隊長の務めだからだ」

「えっ! 自分は遠慮してまで、隊員たちを腹いっぱいにさせてたんですか!? そんなこと、もうしないでくださいよ。カミトキさん──じゃない、副隊長のおかわり分もちゃんと作っておきますから! ね!?」

「あ、ああ……」


 ナミの剣幕に押され、カミトキはただ頷くしかなかった。それに満足したのか、ナミがにっこりと笑って、カミトキの椀を指した。


「じゃ、おかわりします?」

「……頼む」

「了解しました!」


 ナミがそう言って、ビシッと敬礼すると、カミトキの椀を持って炊事場に消えていった。

 それを見ながら、カミトキは思った。


 ──自分も「ナミ過保護一派」に加わってしまいそうだ、と。


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