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並行世界(パラレルワールド)は君のいる世界  作者: 方丈 治
第一章

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28/67

懸命に、生きる

 

 奈美はライカがどこかからか見つけてきた男物の衣に着替えると、ライカに連れられて窟の外に出た。昇りかけている朝日が目にしみるが、とても温かくて心地いい。


 辺りを見渡すと、山の中だった。窟から助け出した女や子どもたちはそこいらに座りこんで喋っていたり、隊員から渡された水を飲んだりしている。出発の号令がかかるまで待機させられているようだ。

 カンドル隊の男たちは武器や馬の確認など、引き揚げの準備で忙しそうに動いていた。そのなかで奈美の存在に最初に気付いたのは、カンドル隊の一人──人懐こい無骨者、セトだった。


「ナミ!? ナミじゃねえか!」


 セトは駆け寄ってくると、屈強な腕でナミの首を絞めた。


「こンの馬鹿野郎! 勝手にさらわれやがって!」


 他の隊員たちも気付いたようだ。ざわざわとナミの周りに集まってくる。


「そうだぞ。俺たちがどんだけ心配したと思ってる!?」

「もう窟で美味い飯が食えなくなるかと思ったぞ!」

「女と間違われて連れ去られるなんて情けない奴だな、まったく……」


 喉を絞められて、放せと声を上げることもできない。奈美にできたのは、セトの腕を死に物狂いで叩くことだけだった。


「お、すまん。つい……」


 ようやく気付いたセトが、奈美をパッと放す。奈美はぜえぜえと息を切らしながら、セトを睨む。


(無事に戻ってきても、仲間に絞め殺されたんじゃ馬鹿みたいじゃないのよ……!)


 だが、奈美にはわかる。彼らはぶっきらぼうだが、その顔を見れば、ナミが無事だったことを嬉しく思っているのは一目瞭然だ。


(……心配かけちゃったのよね)


 今までは、自分は決してこんな奴らの仲間ではないという思いがあった。しかし、彼らの喜ぶ姿を見ていると、これからはもう少し優しくしてやろうと思う。


(……とりあえず、窟に戻ったら腕によりをかけて美味しいものでも作ってあげようかな)


「それにしてもよー」

 隊員の一人が、思い出したように口を開いた。


「おまえ、女だって勘違いされてさらわれたんだろ? 実は男だってバレなかったのか?」

「そりゃ、バレなかったんだろ。男と分かればすぐに殺されてたに決まってるぜ。さらわれていった時のことを思い出してみろよ。ナミの奴、何というか……女っぽかっただろ。いつもにも増して」


 その時のことを思い出したのか、セトが居心地の悪そうな顔をした。男である仲間にそんなことを思う自分を恥じているらしい。

 セトの発言に、他の隊員たちも妙に納得したように頷いている。


「あー確かに……。髪を下ろしてると、不思議とそう見えるもんなんだな。いつも頭に頭巾巻いてるから特にな。あんなに紅い髪をしているのも初めて知ったしなあ」

「連れてこられてすぐに男だってバレたよ。でもカンドル隊で料理番やってるって言ったら、炊事雑用するなら生かしといてやるって言われたんだ」


 隊員たちの会話に内心ヒヤヒヤしながら、奈美は用意していた答えをすらすらと言った。先ほど窟を出る前にライカから、隊員たちに何か訊かれたらこう答えろと言われていたのだ。

 ライカの思惑通り、隊員たちは「運のいい奴だなー」と素直に受け止めている。それを見て、奈美が安堵していると、向こうの方から奇妙な雄叫びが聞こえてきた。


「ぬおおおおおおお」


 奈美と隊員たちが振り返ると、一人の隊員が猪のごとく、奈美めがけて突進してくるところだった。


「……グクイラさん?」


 奈美が呆気にとられているのもつかの間だった。今度は激突で殺される──。いつでも逃げられるように身構えたが、その心配は無用だった。

 グクイラは奈美の目の前でピタッと立ち止まると、奈美の顔をじっと覗き込んだ。そして、不意に奈美の体をバンバンと叩き始めた。


「いたっ、いたっ、痛いって!」


 奈美が叫んだところで、グクイラがまたもやピタリと固まった。


「いったいな……俺は布団じゃないぞ。何なんだよ、まったく──」


 奈美が文句を言いながらグクイラを睨んだが、その顔を見てびっくりした。あの“戦の鬼”と恐れられたグクイラが、顔をぐしゃぐしゃにして泣いているからだ。他の隊員たちも、彼の泣き顔を見たことがないらしく、目を丸くしている。


「……亡霊でも幻でもない……。……おまえさん、無事だったんだな……良かったなあ、うう……」


 グクイラの男泣きを前にして、奈美は怒りも呆れも通り越して、意味も分からずただ励ますしかなかった。


「え、ええと……良かったな……?」


 その時、辺りがおもむろに静かになった。隊員たちの視線の先には、窟から出てきたライカ──カミトキとダンチョウを後ろに連れている──がいる。奈美を窟の外に連れて行ったあと、二人と共に再び中に戻っていたのだった。


「……引き揚げの支度は整っているようだな」


 ライカは辺りを見回すと、そう言った。それから隊員たちの方へ進み出て、こう告げた。


「今から窟に火を放つ。皆、下がれ」


 隊員たちや村の女子どもたちが、窟の入口から下がる。それを見て、奈美が隣にいるグクイラに訊ねた。


「……火? 何するんだ?」

「武人の情けだ。敵さんとはいえ、しかばねを山野にさらしたままで去るのは武人の道義に反するからな」

(──つまり、火葬するというわけね)


 奈美は窟の入口を見遣った。幾つもの酒樽が転がっている。そしてその辺りの地面に水たまり。水たまりは窟の奥へと続いている。そういえば、先ほど窟の中をこっそり移動していた際、酒樽を抱えた隊員たちが石畳の地面に酒を撒いていた。やけに隅々に撒いていたが、あれはこのためだったのか。


 窟の前に立ったライカが、右の手のひらを足元に向ける。すると、その先にあった酒の水たまりに引火した。炎はみるみるうちに酒の通り道に沿って窟の中へ伝播していく。

 これを見て、奈美は確信した。──ライカの持っている術は“火”だ。


 そういえばいつだったか、テスが“瞬足”だの“天力”だの言っていた。瞬足というのはテスの天力で、ライカの天力は火を操ることなのだ。


(私がオオカミに襲われたときも、ナゴリの身代わりを焼いたときも、ライカあいつの仕業だったのね)


 そんなことをぼんやり考えていると、窟の内部から轟音が響いた。それと同時に入口から熱風が噴き出し、奈美は思わず顔を背けた。

 熱風が収まり、奈美は目を開けて気付いた。奈美の周りのカンドル隊の者たちは誰一人として、目を背けていない。皆、野盗たちの最期をしっかりと見守っている。

 奈美は彼らの姿を見て、彼らの、武人の何たるかを垣間見た気がした。

 それからは奈美も、じっと燃え盛る窟を見つめた。


 野盗たちはこれまで悪行の限りを尽くし、放っておけば復讐の名のもとにさらなる悪行に手を染めるはずだった。そんな奴らが退治されて本当に良かった。それなのに。


 ──この、胸の中に、ぽっかりと空いた穴のようなものは何だ。


 あんなに必死になって救おうとしていた命が、いとも容易く灰になる。奈美は一片の虚しさを抱きながら、目の前を見据えた──男たちが、その腕や脚に巻かれた紗覧と共に燃え尽きるまで。


◇◇◇


 馬に揺られること数時間。テシジャガ山からクタラ村に帰還すると、村の入口では男たちが今か今かと待っていた。野盗にやられた傷はまだまだ癒えるはずもなく、どう見ても歩ける状態でない者も中にはいる。だが、カンドル隊が自分の家族を救出しに行ったと聞き、居ても立っても居られずに家から飛び出してきたのだった。

 そんな彼らの姿を見つけるやいなや、女や子どもたちは次々と馬から飛び降りて、それぞれの家族のもとへ駆けてゆく。生きて再び会えたことを涙を流して喜ぶ彼らを見て、奈美は自分の苦労も、感じた虚しさも、無駄ではなかったと思えた。


「ナミのあーにきーー」


 しばらくの間、奈美がぼうっと涙の再開を眺めていると、向こうから奈美を呼ぶ声がした。テスだ。


「お疲れのとこ悪いっすが、今すぐ村長の家に来てください。ライカの兄貴が呼んでるっす」

「え、村長さんの家に? 私が?」


 確かライカは村に着いて早々、村長の家に向かっていったはずだ。付き人である奈美に何か雑用でもさせる気か。

 不審に思いながらテスに連れられて村長の家に向かうと、そこにはライカにダンチョウ、そしてクタラ村長とクルキ村長がいた。二人の村長がライカの前でひれ伏していたので、奈美は驚いた。


「ライカさま、まことにありがとうございました。悪党どもは退治され、若い者たちも無事戻り、村の者は皆、喜んでおります」

此度こたびは何とお礼を申し上げたらよいのか……」


 クタラ村長もクルキ村長も、ひどく恐縮している。そんな態度にうんざりした様子のライカが、ため息をつくと口を開いた。


「頭を上げてくれ。カンドル隊は依頼された任務を遂行したまでだ。報酬はきっちりもらっているのだから、そんな真似はするな」

「ですが、ライカさま……。あなた方の足を引っ張っただけでなく、大事なお仲間がナゴリにさらわれてしまったのは、我々の落ち度です」


 二人の村長の頭がますます低くなるのを見て、奈美は首を傾げた。


「……どゆこと?」


 奈美の声を聞いて、村長たちがぱっと顔を上げた。奈美の方に駆け寄り、その手を握る。


「おお、ナミさんですな!? 無事であられて本当に良かった……。此度のことで、あなた様には何とお詫び申し上げたらよいのか……」

「村の男たちにまさに神業に近しき手当てを施し、多くの命を救ってくれたのは、ナミさんだと聞き及んでおります。皆、感謝しております。ありがとうございます」

「そんなお方に、我々はなんという仕打ちを……」


 突然、涙の滲んだ二人の老人に囲まれては、困惑するしかない。奈美はライカとダンチョウに救いを求めると、ライカが口を開いた。


「村の者たちを手当てしたのがおまえだと知って、礼を言いたいと言うのでな。おまえをここに呼んだんだ。……そして詫びたい、と」

「謝られる覚えはないよ。ありがとうと言われる覚えならあるけど」


 奈美が腑に落ちないでいると、クルキ村長が真面目な顔で告白した。


「カンドル隊の皆さまが来られてすぐに野盗どもが奇襲を仕掛けてきたのは、我々の中に裏切り者が混じっていたためです。その者がナゴリと通じており、奇襲の手引きをしたのです」

「えっ──、誰?」


 裏切り者? 寝耳に水の話に、奈美は驚いた。

 クタラ村長とクルキ村長が視線を交わした。言いづらいらしく中々その名を口にしないでいると、ライカが口を開いた。


「──クザン村の長だ」

「クザン村の村長さん? って確か……任務の依頼人のうちの一人の?」


 奈美は初めてクタラ村に着いてからというもの手当てに没頭していて、しかもその後は野盗にさらわれてしまったので、その人物には会ったことも見たこともない。だが、手当ての最中に隊員同士の話を耳にしていたので、この近辺の3つの村々の村長が合同で依頼してきたのは知っていた。


「そうだ。おまえの言葉で気付いたんだ。内通者がいることにな」

「……おれ、何か言ったっけ?」

「軽傷者でも血が止まりにくい上に、傷口が変色していると。それで敵が毒を使ったと思い当たった」


 確かに言った。ナゴリにさらわれる前、クタラ村で手当てをしていた時だ。あの時はまだ村人たちが毒に冒されているなんて思ってもいなかった頃だ。


「……でもそれが、裏切り者に気付いたこととどう関係あるんだ?」

「驚かないんだな。すでにナゴリから聞いていたか。……村に到着したばかりの頃、3人の村長の話を聞いていた。そのとき、クザン村の長が言っていた──俺たちが来る前の襲来で腕にかすり傷を負ったが、血はすぐに止まった……と」

「……あ」


 なるほど、と奈美は思った。かすり傷なら通常ならば血はすぐに止まるだろう。だが、あの毒を塗った武器でつけられた傷であれば、止血に苦労するはずだ。


「おそらく自分が内通者だと露見してしまうのを恐れるあまり、自ら傷つけ、偽装したんでしょうなあ。……野盗集団が武器に毒を塗っていることも知らずに」


 ダンチョウがニヤリと笑って補足した。ライカが続ける。


「それからは隊員にクザン村長を見張らせておいたが、尻尾はすぐにつかめた。村のはずれで伝書鳩を飛ばそうとしていたからな」

「伝書鳩って……ああ、ハトに手紙を運んでもらうアレ?」


 奈美の言葉に、ダンチョウが「そうです」と頷いた。


「文は、ナゴリに宛てたものでした。カンドル隊がクタラ村に到着したことが書かれてあったのです。クザン村長はおそらく、クタラ村の状況を逐一報告しろとナゴリに命じられていたのでしょうな。ですので、軽率にクザン村長の文を握りつぶせばナゴリは怪しむと考え……我々の監視下のもと、伝書鳩を飛ばすことにしたのです。その時はまさか、二度目の襲来の合図になろうとは思いませんでしたがな」

「……ん? その手紙を読んで、ナゴリたちはまたやって来たのか? カンドル隊がいるって分かってるこの村に? それっておかしくないか?」


 ふつう、自分たちを仕留めにきた敵がいる場所にわざわざ向かうだろうか。奈美なら近づかない。


「村人に使った毒の効き目がどんなものか見たかったらしい。それと……ご丁寧にも俺たちに挨拶がしたかったんだと。クタラ村で戦った時は気付かなかったが、あの野盗集団の顔ぶれ……十数年前の戦で戦った相手と似ている。ナゴリと戦った時の会話から考えてもそう考えて間違いないだろうな」


 奈美は少し驚いた。ライカは、ナゴリたちが因縁の相手だと気付いていたのだ。


「ナゴリめ、伝書鳩まで使うとは、あの見た目に反して用意周到な奴だ。ま、それが野盗どもを攪乱させる一助になったわけだがな」


 ライカがくっくっと笑う。それを見て首をひねった奈美に、ダンチョウが説明した。


「野盗たちの再襲撃にあった後、『カンドル隊は想定外の急襲に手をこまねいており、当分討伐には出られない』という旨の文をクザン村長にお願い──というより、脅して飛ばしてもらったのです」

「……ははぁ、だからあいつらはのんきに宴会なんて開けてたってわけだ。手紙で追手がかからないと分かってたから」


 奈美は意を得たとばかりに指を鳴らした。いくら野盗の窟が見つかりにくい場所にあるとはいえ、自分を討ち取りに来たカンドル隊にケンカを売った後なら追手の恐怖におびえるものだ。そんな様子がまるっきりなかったのは、自分たちは安全だという確信があったからだ。


「でも、分からないな……。クザン村の村長さんがどうして野盗の味方なんかになったんだろ? だって、クザン村も野盗集団の被害に遭っていたわけだろ?」


 奈美がうーんとうなっていると、クタラ村長とクルキ村長が目配せをしてから、クタラ村長が口を開いた。


「それは……野盗どもがクザン村に最後に村を荒らしに来た三月みつき前のとき、ナゴリと取り引きをしたようです。クザン村を襲うのはこれで最後にする代わりに、野盗どもに協力する……と」


 そこで、クルキ村長が合わせる顔がないとでも言わんばかりにぐっと俯き、クタラ村長は奈美の手をぎゅっと握り、言葉を絞り出した。


「私共がまことに詫びなければいけないのは……同じような取り引きを持ちかけられたら決して応じないとは言い切れぬ、この心なのです。我々も……クザン村長と同様なのです」


 奈美がクタラ村長を見つめ返したその時、家の外から穏やかでない音が聞こえてきた。


「何だってンすかね?」


 テスが外の様子を見ようと扉を開けたちょうどその時、一人の隊員が飛び込んできた。


「ここにいますか、隊長!? 村の連中が、クザン村長を──!」


 ライカがダンチョウや二人の村長と顔を見合わせると、急いで外に出た。突然の出来事に出遅れた奈美も皆の後を追いかけて家を出ると、外には大勢の人だかりができていて、騒然としていた。

 ライカたちがそこへ向かっていくと、その人だかりはある民家の前に集まっている。それを見たクタラ村長が、顔色を変えてつぶやく。


「あれはクザン村長の……」


 殺気立った村人らが、クザン村長を閉じ込めている家を取り囲んでいる。彼らの中には、棒や鍬を持った者もいる。


「何だ何だおまえら、物騒なモノ持って。誰もこの先は通さねえぞ」


 入口の前に立っているカンドル隊員──クザン村長の見張り番だ──が、帰れと言わんばかりに手を振った。だが、村人たちも譲らない。先頭の男が厳しい顔で口を開いた。


「野盗どもを倒してくださったあなた方には大変感謝しております。しかし、クザン村の長をどうするかは我々の問題……。そこを通してください」

「ならんならん。クザン村長の処遇はこれからクタラ村長たちが決めるだろう。だから大人しく……」


 次の瞬間、大きな音が辺りに響いた。入口の扉の横にある格子窓を、村の男数人が大きな丸太で突き破ったのだ。


「あっ! おまえら……」


 見張り番の隊員が制止する間もなく、数人の男が窓を乗り越える。家の中から揉める声が聞こえたと思えば、入口を蹴破って男たちが出てきた──取り押さえたクザン村長を伴って。


「あ~あ……」


 見張り番の隊員が、先行きの不安を思って頭を抱えた。任せられた仕事を全うできなかったのだから、隊長に怒られるのは必至だ。

 家の外に出されるやいなや、クザン村長は村人たちに取り囲まれた。彼らの圧にのまれて、その場で腰を抜かす。


「裏切り者に死を!」

「死を以て償いを!!」

「殺せ!」

「クザン村の長を殺せ!!」


 殺気立った群衆の斉唱に、クザン村長はすっかり縮み上がり、震えている。このままでは気が狂ってしまうのではないか──そんなとき、割って入ったのがクタラ村長だった。

 クタラ村長はクザン村長の隣にひざまずくと、村人たちに向かって頭を下げた。村の長老が突然そんなことをしたので、村人たちは困惑した。


「……!? なぜあなたが──」

「クザン村長はおのれの村を守りたかったのだ。私もこのクザン村長と同じだ。私の村を──おまえたちを守れるのならば、野盗どもの手を握っていただろう。だから私も、おまえたちに詫びなければならぬ」

「……私も同罪です。どんなことをしてでも自分の村を守りたい気持ちは同じなのですから」


 クルキ村長も二人の横に出てきて、同じように頭を下げた。そんな二人の村長を見て、クザン村長は一瞬だけ複雑な表情を浮かべ、そのあと今にも泣き出しそうな顔になり、やがて自らも頭を下げた。深々と。


 思ってもいなかった光景に、村人たちは戸惑いを隠せない。つい先ほどまでいきり立っていた感情のやり場に困っている様子だ。そんな彼らにクタラ村長が提案をした。


「……クザン村長にはクタラ村の復興に尽力させることを約束させる。それ故、どうか、この場を収めてはもらえないだろうか」

「……はい! このクザン村の長、その名にかけて何でも致します……!」


 村人たちは互いに視線を交わした。誰も何も言わないが、持っていた棒や鍬が少しずつ下ろされていく……。


「ふう……何とか収まって良かった。あのままクザン村長が殺されでもしてたら……」


 村人たちの怒りが静まっていくのを見て、見張り番の隊員が安堵のため息をついた。


「九死に一生を得たな」

「うわあ!?」


 隊員は思わず飛び上がった。背後には、いつの間にかライカが立っている。隊員は恐る恐る訊ねた。


「たた隊長……もしかして、一部始終、見ていたんですか……?」

「おまえが素人相手にあっさり侵入を許すという、間抜けなところもしっかりな」

「すっ、すみませんっ」


 いつ鉄拳が飛んでくるかもわからないので、隊員は思わず頭を抱えた。が、飛んできたのはライカの静かな声だった。


「今回はクタラ村長とクルキ村長に免じて許してやる。次からは気を引き締めてかかれよ」

「あ……へ……?」


 予想外の反応に、隊員は呆気にとられて顔を上げた。おのれにも部下にも厳しいあの隊長の口から、まさか「許す」なんて言葉が出るとは。ナミがナゴリに連れていかれた時の動揺っぷりっといい、近頃の隊長は何だかおかしい。いや、良い意味でおかしいのだが。


(何つーか……人間っぽくなったよな)


 隊員に不思議がられているとも知らず、ライカがダンチョウたちのもとに戻ると、ダンチョウが声をかけた。クタラ村長がクザン村長の手を取って立ち上がらせようとするのを眺めながら。


「意外でしたなあ」


 村人たちが引きずり出してきたクザン村長をクタラ村長とクルキ村長が体を張って助けるとは、誰も思いもしなかったことだ。ライカもわずかに頷いて、口を開いた。


「……そうだな。正直、村人たちの底力を見せられたようで驚いた」


 その言葉に、ダンチョウがライカの顔を見た。


「あのままクザン村長を怨みにまかせて殺すのではと思ったが、あの者たちは自らで解決した。合理的かつ穏便に、な」

「彼らは生きるため、自分にできることをしたのです。クタラ村長とクルキ村長は友をかばい、クザン村長は罪を贖い、村人たちはそれを許した。みな、懸命にこの世を生きているのですよ」

「懸命に……生きる」


 ライカがそう呟きながら、何かを考える顔をしている。それを後ろから覗いていた奈美は、のちにその真意を知ることになる。


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