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並行世界(パラレルワールド)は君のいる世界  作者: 方丈 治
第一章

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復讐の鬼

 

 結局、何人の手当てをしたのだろうか。10までは数えていたが、それ以降は数えるのをやめたので分からない。大体15、6人といったところか。

 怪我を負った男たちの手当てを一通り済ませた奈美は、ナゴリの部屋で休んでいた。手当てをする横で怪我をしていない野盗たちは宴会を続けていたが、今はすっかり静かだ。昼か夜かも分からないこの窟の中に居てはどのくらいの時間が経っているのか分からないが、さすがの彼らも酔いつぶれたのだろう。


 手当てを終えた後で奈美はふと気づいた。野盗たちの傷は、カンドル隊がつけたものであることを。

 仲間(一応)であるカンドル隊の敵、野盗集団の手当てをした。つまり、敵の味方をしてしまったということになる──。


(いよいよ殺されるかな……)


 あの男──ライカならためらいなく、そうしそうだ。

 奈美が渇いた笑いをしたところに、部屋の扉が開いた。ナゴリだ。


「おら、新しい服だ」


 そう言うと、ナゴリは持っていた衣裳を奈美の方に放り投げた。下ろし立ての奈美の服がまたもや手当てで血と汗で汚れてしまったので(しかも紗覧は破れている)、気を利かせてくれたようだ。

 それに、手当てが済めばまた縛られると思った両手も、今もまだ自由だ。仲間を助けてくれたことに、奈美に少しでも感謝しているのだろうか。


「あ、ありがと」

「気にすんな。あいつらの面倒みてくれたおまえに、こんくらい当然だ。それに、その姿でうろうろされちゃ、いくら俺が目を光らせてても、あいつらに襲われるかもしれんかんな」


「その姿」とは、破れた紗覧のことだろう。本来、紗覧は薄い布が何枚か重なってできているが、奈美のは大勢の手当てで布をかなり使ってしまい、かなり薄くなってしまった。外から脚の線がうっすら見えるくらいに。

 奈美がそれに気付くと、慌てて紗覧をかき集めて脚に巻き付ける。その横でナゴリはそのまま部屋の中を進み、奈美の近くにドスンと腰を下ろした。飲み足りないのか、一人でちびちびと酒を飲み始める。


「……出て行ってくれないと着替えられないんだけど」

「ここは俺の部屋だ。自分の部屋に居て何が悪い」


 そっけなくそう言われ、奈美はムッとした。


「さっきは出て行ってくれたじゃない」

「あの時ゃかわやに行ってたんだよ。俺としては、このまま着替えをおっ始めてくれていいぜぇ。いいさかなになる」

「…………」


 ナゴリのニヤニヤとした顔を見て、奈美は溜息をついた。新しい服は後で一人になれた時にでも着替えればいい。

 奈美が着替えを諦めた様子を見て、ナゴリがさも残念そうにつぶやく。


「なんだ、着替えないのか」

「着替えるわけないでしょ!」


 そう言い返す奈美を見て、ナゴリはカラカラと笑った。


「本当に面白い女だ。自分の脚を見せつけておいて、着替えを遠慮する分別はあるのか」

「別に見せつけてなんか──……あーもういいわ」


 説明するのも面倒だ。奈美はがっくりと肩を落とすと、しばらく黙った。その時、ふと気になることを思い出した。


「……少し訊いてもいい?」


 ナゴリがこちらを見たので、ナミは少し聞きにくそうに口を開いた。


「クタラ村にあなたのお仲間をたくさん残してきたじゃない? ……どうなってるか気にならない?」

「別に気にならんな。戦った相手がカンドル隊なら、もう死んでんだろ」


 ナゴリのそっけなさに、奈美は肩すかしを食らったような気になった。ナゴリが仲間を気遣う様子を見て、この荒くれ者にも意外と人の心があるのかと思い始めていたところだったからだ。


「そ、それなのに宴会って気分になる? 仲間が死んだならふつう……」

「しくしく泣いて過ごせってか? 俺たちがそんなことするか。あのカンドル隊に一泡吹かせてやったんだ、嬉しくてしょうがねえぜ。こんな時に宴を開かなくてどうする。死んだあいつらだってあの世で馬鹿騒ぎしてるに決まってる」


 クタラ村での一件を思い出しているらしいナゴリの顔を見る限り、ナゴリは本当に嬉しそうだ。

 ──仲間を失っても、怪我をしても、そんな顔ができる理由は何なのか。その答えはカンドル隊にあるらしい。


「……ねえ。あなたたちはどうしてそんなにカンドル隊にこだわってるの?」


 奈美の問いに、ナゴリはよくぞ聞いてくれたと言わんばかりに身を乗り出した。


「あいつらには昔、えらい目に遭わされたからな。その仕返しのために、俺たちゃしぶとく生きてるんだ。こんな風に落ちぶれても、世間から恐れ蔑まれてもな」


 そこでナゴリは喉を潤すために、酒を一口飲んでから言った。


「俺たちがどうして野盗だの、追いはぎだのと呼ばれるようになったか、教えてやろう」


◇◇◇


「俺たちゃそれぞれ、元は倭国各地を巡り歩く雇い兵でよ。各国のお偉いさん方に雇われては、ちょっとした揉め事から戦まで、出向いてたってわけだ。ま、こんな世の中だからそんな仕事はいくらでもある。そンなかでも、ある人物から依頼の話を受けたときはぶったまげたってもんだ。誰だと思う?」


 ナゴリが奈美の顔をじっと見ている。奈美としては知る由もないことなので黙っていると、ナゴリはもったいぶった口調で告げた。


「……景ノ国の前王・ヤワジだよ! な、すげぇだろ?」


 そう言われても困る。奈美は徳川家康も織田信長も知っているが、ヤワジなんて人物は知らない。


「……誰?」

「なっ、おま、倭国の中でも1、2を争う大国の王を知らねぇのかよ!? 10年も前の王だけどよ、この名を知らねえ奴なんかいねぇよ!」

「あ、私、異国出身だから」


 平然とそう言い切った奈美に、ナゴリは呆れた様子だったが、説明してくれた。


「景ノ国の前の王・ヤワジはな、いろんな意味で名高い王だったよ。名君でな、国を善く治め、民からも臣下からも慕われていた。だが、晩年は人が変わったように暴君に成り果てたんだ」


 そこでナゴリの目がぎらりと光ったように、奈美には見えた。


「俺が雇われたのはその頃──ヤワジが悪政をいてた頃だ。集められた雇い兵は全部で百人くらいだったか……俺らの前に現れたヤワジが、言ったんだ──景の国内に反乱軍が出たから、その鎮圧に力を貸してくれるか、ってな」

「反乱軍……」


 また物騒な話になってきた。そんな言葉は、普通の病院看護師をやっていた頃の奈美には縁のなかった言葉だ。


「俺ちゃ、何の疑いもなくヤワジの言葉を信じてたよ。いつものように戦で敵をばったばったと倒していけば、報酬をたんまり貰えるってな。現に、ヤワジ本人がそう約束したんだ。──でも、奴は俺たちを裏切った」


 ナゴリの目を見て、奈美は悟った。やはり、この男は深い恨みを、怒りを抱いている。


「裏切ったって……その、報酬が貰えなかったの?」

「それどころじゃねえ。反乱軍の一部がやって来るってことで、俺ら雇い兵は景の都から少し離れた山岳地帯で待ち伏せしてたんだけどよ。来たのは反乱軍じゃなくて、五百の兵を率いるカンドル隊だった。はじめは援軍が来たのかと思って喜んだぜ。でも、相手が俺らを見て殺気立ってるのに気付いて、ようやく分かった──『まんまとハメられた』ってな」

「え……え?」

「おまえ、医術の腕はいいくせに、鈍いな」


 首をひねっている奈美を見て、ナゴリが苦笑した。だが、すぐに笑みを引っ込めて、憎々しげに怒鳴る。


「ヤワジは俺らを反乱軍に仕立てやがったんだよ! で、カンドル隊の奴らは俺らを討ち取りに来た王側の軍隊。俺らが何を喚こうが、無駄だったぜ。国王軍の鎧を身に付けたあいつらが正義で、みすぼらしい荒くれ集団の俺らが悪者だもんよ、誰がどう見たって」


 ナゴリが杯を持つ手に力を込めるのを見て、奈美は恐る恐る聞いた。


「それで、どうなったの? 戦ったの……?」

「あったりめーだろ。何で騙された上に、大人しく殺されなきゃいけねーんだよ。退路を作るのに必死で戦ったっての。……で、俺らの半分くらいは殺されて、結局逃げ切れたのは40人弱だったかね」

「でも、その、ヤワジって王様は、どうしてそんなことしたわけ?」

「反乱軍が出たって聞いた時の臣下たちの反応を見たかったんじゃねえの? 誰が味方で、誰が敵かを確かめたかったんだろ」


 ナゴリの言葉は、奈美を納得させるようなものではなかった。奈美は顔色を変えて、つぶやいた。


「……そんな理由でわざわざそんな手の込んだことするの? 関係ない人をたくさん巻き込んで……死人まで出して?」

「王族や貴族ってのはそんなもんだろ。それに、その頃の王は神経衰弱でまいってたみてぇだし必死だったのもあるかもな。ま、これは俺の推測だがね。

 ……で、報酬を貰うどころか、逆賊の汚名まで着せられた俺らは、行く当ても無くてな。結局、追っ手から逃れつつ、辺境の地で野盗をして食いつないでたら、はや10年──ってなわけよ。俺たちゃヤワジに雇われて集まった、取るに足らん雇い兵だがな……10年も苦楽を共にすりゃ、仲間意識が出てくるもんよ。だから仲間がやられりゃ、仲間を助けに行くし、やった奴に仕返しもしてやる。だが、復讐となると話は別だ。景の王族と貴族ども、カンドル隊の野郎ども、それに世間を相手に復讐できるなら、仲間が傷つこうが死のうが、俺たちは喜んでそうする」

「ちょっと待って」


 奈美はナゴリの言葉にかぶさるようにして言った。


「王や貴族、カンドル隊に復讐したいっていうのは、まあ分かるわよ。自分たちを陥れた張本人だものね。……けど、どうして世間にまで復讐したいのよ? 関係ないじゃない!」

「大いに関係あるぜ。やっとの思いで逃げてきた俺らに、世間の人間は冷たかった。そんな奴らに恨みを持って何が悪い? 一番に復讐してやりたいヤワジは先に死んじまったし、カンドル隊も失脚したからな……大勢殺してやらねェと腹の虫がおさまらねぇんだよ、俺らは」


 ナゴリはそこで怪しく──まるで体の中に鬼が潜んでいるかのように、怪しく笑った。


(──狂ってる)


 その異様と言える表情を見て、奈美は身震いをした。しばらく沈黙が続いた後、奈美はふと気が付いた。


「……あれ? そういえば、カンドル隊が失脚……とか言ったわよね。どういうこと? まるで以前は偉い立場にあったとでも言うような口ぶりね」

「は? 何言ってんだ、おまえ」


 ナゴリがあからさまに溜息をついた。完全に呆れている。


「今でこそカンドル隊は雇い兵みてえな仕事してるけどなぁ、10年前までは景王直属の部隊だったじゃねぇか。カンドル隊に居たくせにそんなことも知らねえのか」

「──え」


 奈美がぽかんと口を開ける間にも、ナゴリは話を続ける。


「カンドル隊と言ゃあ、隊員の数は雀の涙ほどだが、一騎当千の強者揃いで名高い。俺は実際に見たことねえが、人に聞いた話じゃ、あいつらはそれぞれに人離れした奇妙な術を持つらしい。そんな狂人じみた奴ら相手に、寄せ集めの雇い兵集団が今日、あっと言わせることができたんだぜ? な、すげーだろ?」


 ナゴリはそう言うと、嬉しそうに酒を傾けた。

 一方の奈美は、カンドル隊についての新情報を飲み込むことができないでいた。


(……景王直属の部隊? ……失脚?)


 そんな話は初めて聞いた。カンドル隊の男たちと暮らし始めてまだ間もないが、もしかして自分は彼らのことをまだ全然知らないのではないか。


(ちょっと待って。確か……)


 奈美は景の都に行った時のことを思い出した。都に入る時、ライカの身上札を見た門兵がひどく恐縮していたことを。どうやらナゴリの話は嘘ではないということか。


(それに人離れした奇妙な術って……つまり、テスのジェットみたいな力のことを言ってるのよね? あんなよく分からない力を、カンドル隊のみんなが持ってるってこと?)


「うーん……末恐ろしいわね」


 奈美の独り言に、ナゴリが顔を上げた。


「うん? 何か言ったか?」

「あ、何でもないのよ何でも」


 しかし、このナゴリという男は、確実に自分よりもカンドル隊のことを知っている。この際、もっと聞き出してやろう──奈美がそう思った矢先だった。


 遠くの方で、男の叫び声が聞こえた気がした。

 その瞬間、ナゴリの緩んだ顔がさっと引き締まった。奈美はそんなナゴリを見て、ごくりと唾を飲んでから訊ねた。


「あなたのお仲間さん、酔っぱらってるし、足でも踏み外して転んだのかしらね……?」

「……いや……」


 ナゴリはじっと耳を澄ましている。その間にゆっくりと杯を置き、傍に置いてあった大薙刀の柄を掴む。

 どうやら、足を踏み外して転んだのではなさそうだ。次から次へと男たちの叫び声が聞こえてくるからだ。

 ナゴリは何かを確信して、勢いよく立ち上がった。


「ナミはここから出るなよ。いいな!」


 それだけ言い残して、ナゴリは部屋を飛び出して行った。

 だが、素直に人の言うことを聞く奈美ではない。


(何が起こってるのかさっぱりだけど……今がチャンス!)


 奈美も、すぐに行動に移った。扉をそっと開けて外の気配を窺う。廊下の向こうから男たちの雄叫びや金属のぶつかり合う音が聞こえる。やはりただ事ではないことが起こっているようだ。

 辺りに人の気配がないことを確認してから、奈美は部屋を出て、駆け出した。


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