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青春男女  作者: ハセ
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第一話〈15回目の桜〉

 2011年4月4日。花の香りが街に満ちている春。今日は、神奈川県の光実原(みつみわら)高校の入学式の日。多くの新入生たちが入学式を迎えるために体育館に集まる。賑やかな雰囲気の中で、校長の声が聞こえてくる。

校「えーっと、それでは、第56回光実原高校の入学式を始めます。」

 拍手と共に、入学式が始まる。


 学生たちの顔にはいろんな表情が見える。新学期を迎える喜び、部活についての悩み、そして、この学生生活をどう過ごすのかについての心配まで。そういえば、光実原高校は成績が県内2位で、隣の町の木西田高校と競争している。学生たちに心配が見えるのはもしかしたら当然のことなのかもしれない。

 1時間後、校長の演説が終わってから入学式が終わり、学生たちは、先生の指導に従って配属されたクラスに入る。

源「あ〜、もう高校生か〜。三年間また勉強か!」

 ため息をしながら歩いているこの学生の名は(みなもと)(さとし)。彼はいつも元気な人である。元気すぎて、時々周りに心ならずも迷惑をかけるほどだ。

山「ちょっと!教務室すぐ隣だって!声高すぎだよ!」

 彼の隣で突っ込んでいるこの学生の名は山崎(やまざき)佳苗(かなえ)。源の幼馴染みで周りの人たちからよく男子と誤解されるが、聞き飽きたか、本人はあまり気にしていないようだ。

藤「まあ、気にしないでよ。不満は誰でも持つもんだから。」

 この学生の名は藤原(ふじわら)雅人(まさと)。典型的な平凡な学生である。

源「だよな?!佳苗ちゃんはいつもひどすぎだって〜。」

山「うるさいっ!恥ずかしいから!」

 彼らは、中学時代に友達になった。会話を聞いてみると、いったいどうやって友達になったのかは分からないが、友達ということは確かなようだ。

源「で、放課後にみんな暇?遊びに行こう!」

山「カラオケなら断るわ…。」

源「ええっ?!何で?」

藤「昨日も行ったじゃん…」

 そんなに楽しく話しながら歩いていた藤原たちの反対側から、誰かが歩いてくる。藤原は、その人を見て、面識があったのか、後ろを向いたまま立ち止まって、すれ違ったその人を見ていた。

源「うん?どうした?雅人。」

藤「…いや、何でもない。」

 どうやら知り合いではなさそうだ。


 それは3時間前の出来事だった。

 いつも早く起きる習慣がある藤原は今日も早く起きて静かな街を一人で歩いていた。折よく桜もきれいに咲いていたため、彼はせっかくの花見を楽しんでいた。

 その時だった。

 一人の少女が桜の木の下で桜を見ていた。藤原は何かに魅かれたように何も言わずに少女を見ていた。桜の木の下の前で立ち留まって桜を見ている少女の顔は、幸せそのものだった。

藤『楽しそうだな…。』

 その時、少女は彼の気配を感じて振り向く。彼女を見ながらぼうっとしていた藤原は彼女の動きにそっと驚いた。


二人が初めて会う瞬間だった。

 

 その瞬間、二人の周りは春の風がこっそりと吹いてくる静かな雰囲気になった。こんな雰囲気に慣れていない藤原は、勇気を出して微笑みながら少女に話をかけた。

藤「もしかして、新入生?」

湖「…!」

 彼の挨拶に、少女はそっと驚いた。彼も自分のなれなれしい行動に照れながら何も言えずにそのまま立っていた。

源「雅人〜!」

 気づまりな雰囲気の中で源の声が聞こえてきた。

藤「おう!それじゃ。」

 彼は簡単な挨拶をして、そのまま源の方に走っていった。少女は何か言いたいことがあったのか、ひそかに惜しみながら、走っていく彼を見ていた。

 藤原は何もなかったように友達と話した。

山「誰なの?知り合い?」

藤「いや、今日初めて会ったよ。」

源「初日からナンパかよ〜。」

藤「違うって!」

 ナンパという言葉には強く否定する。かなり照れたようだ。

 照れる気持ちを隠すために振り向いた彼はそっと驚く。桜を見ていた少女が、にっこりと微笑んだのだ。

 彼の隠そうとした気持ちがだんだん現れてくる。


 それが二人の最初の出会いだった。

 藤原は3時間前のことを思い浮かびながら、もしも間違ってはいないかじっくり考えていた。


 5分後、藤原たちは教室に入る。1年3組、教務室からも、食堂からも、遠くも近くもないあいまいな教室。教室の中にはもう多くの学生たちが入っており、その中で中学時代のクラスメートと出会った藤原たちはうれしく挨拶をした。

藤「おはよう。」

セ「おっ、藤原!」

セ「ひさしぶりぃー!山崎も!」

山「あ、おはよう。」

 うれしく挨拶をする藤原たち。そのあと、源に最初に見えたのは、真後ろの席だった。

源「後ろ行こう〜後ろ!」

山「サトシらしいね。」

藤「まあ、いつもの通りね。」

源「照れるじゃん〜。」

山「褒めてるんじゃないよ!」

 その時、教室の前のドアが開いて、誰かが入ってくる。ドアのほうを見た藤原。彼の目に入ったのは、三時間前に会った少女だった。

源「あ、あの子は…。」

 山崎もその少女を見る。少女が席を探していたとき藤原と目が合った。喜びながら少女のところへ行く藤原。

源「雅人?」

 少し緊張した様子の少女の前に藤原が立った。

藤「…同じクラスだね。よろしく。」

 藤原、少女に手を渡す。少女も少し緊張が解けたようだ。彼の手を握って握手を交わす。

湖「う、うん…こちらこそ…。」

 後ろの席で二人を見守っている源と山崎。

山「へぇ〜。」

源「一生懸命だな、雅人って。」

山「…どこが?ただの挨拶じゃん…。」


 初めてのホームルーム時間。1年3組の担任の名は岡村(おかむら)泰一(たいいち)。体育の先生で、指導のほうはうまいが、学生に対しては少し面倒がっているようだ。

岡「あ…今日は初日だから、簡単に自己紹介して終わるぞ。一人ずつね。」

 最初は藤原。

藤「藤原雅人です。よろしくお願いします。」

 次は山崎。

山「山崎佳苗です。よろしくお願いします。」

 次は源。

源「源智と申しま〜す!「げんち」とは呼べません〜!」

 「げんちとは呼ばない…」、彼のこっけいな自己紹介が大笑いを引き起こす。

山「バカかよ…。」

 学生たちの自己紹介が進んでいる中、少女の番になった。彼女が立って、藤原たちは一斉に彼女のほうを見た。緊張した少女が話し出す。

 湖「こ、湖ノ(このうえ)優月(ゆづき)と申します。みなさんと仲良くなりたいです。よろしくお願いします。」

 「湖ノ上」、めったに見られない苗字を持った彼女は、勇気を出して挨拶をして席に座った。彼女の珍しい苗字は、藤原たちの頭にしっかりと刻み込まれた。

藤『湖ノ上優月…。』

源『優月…。ユッキちゃん!』

山『湖ノ上って…。』


 休み時間。源はもう飽きてようだ。

源「あ〜もう帰りたい…。」

山「我慢してよ、もうすぐ終わるから。」

藤「そんなにつまんねーのかよ…。色んな意味で、すげーな。」

 にぎやかな休み時間、湖ノ上の席はまだ静かだ。


 放課後。1人で教室に残っていた湖ノ上は、今日のことを振り返る。

湖『終わった…。』

 彼女は友達が少ない。気が小さくて、近づきたくても勇気を出せないのである。彼女はこういう小心さを克服するために、いつも友達ができるよう思い込む。

湖『明日も頑張らなきゃ…。』

 こんな彼女に藤原はちょっとした衝撃だった。話をかけないと、目も合わせない学生たちの中で、唯一に話をかけてきたのが藤原だったから。口数が少ない彼女はやはり何も言わないが、表情はとてもうれしそうだった。

 その時、廊下を歩いていた担任が教室にいる湖ノ上を見て入ってきた。

湖「あっ、先生!」

岡「君は…。」

湖「こ、湖ノ上です。」

 まだ覚えていないようだ。

岡「ああ、そうだそうだ、ちょうどいいところに会ったな。」

 彼はなぜかうれしそうな顔をして、湖ノ上に紙の束を渡す。

湖「えっ?」

岡「初日からすまないが、これを浜田先生に預けてくれないか?」

湖「あ、はい…」

岡「すまんな、じゃ。」

 言い終わった担任は瞬く間に教室を出てしまった。

湖「あっ…。」

 再び一人になった湖ノ上。彼女が言いたかったのは、「浜田先生はどこにいらっしゃいますか」だった。

湖『行っちゃった…。』

 彼女は、戸惑いながらも教務室に行った。

 

 帰り道、藤原たちは登校の時の桜を見ていた。

源「やぁ〜今年も綺麗だな!」

山「そうだね。」

藤「来なかった?ここ。」

源「近道で行ったじゃん〜。」

藤「あ、そっか。」

 話しながら(かばん)を探った藤原は、とんでもない状況に直面した。

藤「うん?あっ!」

源「どうした?」

藤「携帯忘れた!」

山「え?!」

藤「ごめん!俺はいいから先に行って!」

 藤原は慌てて学校に駆けつけた。

山「全く…。」

源「珍しいな。雅人が携帯忘れるって…。」


 再び学校。教室に戻った藤原は焦りながら机を探って、やっと携帯を見つけた。

藤「良かったぁ…。」

彼は携帯を握って、帰ろうとしたら、ある席に置いてある鞄を発見した。

藤「鞄?」

 その時、教室の前のドアから誰かが入ってくる。

 湖ノ上だ。二人の目が合う。

湖「あっ…。」

 窓からそよ風が吹いてくる。まるで、あの時のように。

 湖ノ上はふと今朝のことを思い出す。さり気なく挨拶をしてくれた。その時を思いながら、彼女は勇気を出して藤原にお礼を言おうとした。

湖「きょ、今日はありがとう…。」

 でも、彼は理解できなかったようだ。

藤「…?何を?」

 湖ノ上は驚いた。何が伝わってなかっただろうか。戸惑った彼女は、急に恥ずかしくなった。

湖「な、何でもない!そ、それじゃ!」

 湖ノ上は何も見ずにものすごいスピードで教室を駆け出した。ともに戸惑った藤原。

 湖ノ上は自分の行動を後悔した。まだ親しくもないのに、なれなれしく話しかけたんだと勝手に思い込んでしまったのだ。

湖『私、何てなれなれしいことを…!』

 結局、一人に残された藤原。

藤「な、何で…?」

 翌日。

 自分の席で悩みこんでいる藤原。

源「よっ!雅人!」

山「おはよー。」

藤「あ、おはよー。」

 どうやら、昨日のことで元気がなくなったようだ。

源「どうした、雅人?元気そうに見えないけど。」

山「まだ携帯見つけてなかったの?」

藤「いや、見つけたけど…。」

源「…けど…?」

藤「フム…。」

山「…?」

 藤原が悪びれていた時、ドアが開き、湖ノ上が入ってくる。その湖ノ上を見た山崎は、小さな声で藤原にささやく。

山「藤原!あの子来たよ!」

 山崎のささやきに教室の前のドアを見ると、そこには湖ノ上がいた。彼女と目が合った藤原は彼女のところへ行く。

 緊張した様子の湖ノ上。

藤「おはよ。」

湖「…!お、おはよう。」

 湖ノ上、早く席に走っていく。

 戸惑う藤原。

山「やっぱ何かあったんじゃ…。」

源「ナンパ失敗かよ〜雅人〜!」

藤「違うって!」

 湖ノ上は焦りながら席に座る。相手に悪い印象を持たさないためになれなれしい行動はしないと思い込んだが…。

湖『なれなれしそうな行動はだめ!』

藤『俺…間違ったことでもやったのかな…。』

 逆の効果が出ているようだ。

 休み時間。1年3組の生活委員として、提出物を集めるために教卓の前で話す湖ノ上。

湖「今から学生生活計画表を集めますので、提出してください…。」

 生徒たちは一人ずつ湖ノ上に計画表を出す。

 藤原も出そうと席を離れると、後ろの席から声が聞こえてくる。

源「はーい、俺の分もお願いしまーす。」

山「あ、そうしたら私の分もね。」

藤「自分でやれって…。」

 藤原はいやいやしながら受け取って、湖ノ上のところへ行く。

藤「はい。」

湖「ありがと…。」

 湖ノ上、藤原の顔を一度見てびくっとする。

湖「それじゃ…!」

 急に駆け出す湖ノ上。

 戸惑う藤原。

藤「……。」

源「雅人〜!何してんの〜?」

 源の弾む声に応じて、藤原はいきなりのぼせる。

藤「あー訳分かんねー!」

源「ええっ?いきなり何?!」

山「そんなに悔しいの?」

藤「だって…俺、何もしなかったのに避けられてるじゃん。」

山「本当に何もなかったの?」

藤「…え?」

山「よーく考えてみて。」

藤「フム………。」

源「もしも、ただ面倒くさいから避けるんじゃないかな?」

 ショックで固まる藤原。

源「だ、大丈夫…?」

山「いや、そう見えないよ。」

 ため息をつく藤原。

藤「はぁ…。」

源「または、あの子に嫌われるとか!」

藤「うるせぇ!聞きたくねーよ!」

源「わっ!雅人が怒った!」

山「…何やってんだよ…。 そんなに悔しかったら、本人に直接聞いてみたら?」

 山崎の一言で考え込む藤原。

藤「……やっぱりそうだな…。」

源「でも、毎回避けられるのにどうやって?」

 疲れたように元気なく立った藤原。

藤「知らねーよ。」

 席を離れてどこかへ行く。

源「え、どこ行く?」

藤「トイレー」

 教室を出る藤原を見守る源と山崎。

源「雅人って、大丈夫かな…。」

山「さあね…。」


 一方、廊下を歩いている湖ノ上、窓の外を眺めていた岡村と会う。

湖「あ、先生!」

岡「お、湖ノ上か。」

 窓際で話し合う二人。

岡「昨日のことはわりぃな。とても忙しくてさ。」

湖「いいえ、大丈夫です。」

先「学校はどうだい?」

湖「すごくいいと思います。先生たちも優しいし、クラスメイトもみんな優しいし…。」

先「例えば?」

 

 一方、トイレに向かっている藤原、湖ノ上の件で頭が痛いようだ。今もまだ、自分が何を間違っていたのか考え込んでいた。その時、偶然と話し合っていた二人を見た。

藤「あっ、湖ノ上…。」

 藤原を気づいてないのか、話を続ける二人。

湖「その、藤原くんがいまして…。」

先「あ〜あの見た目悪いヤツだな?」

 藤原、びっくりする。

湖「えっ、見た目が悪いですか?」

先「人の前では優しくして、裏で陰口言うように見えるんじゃないか?」

湖「…えっ?」

 湖ノ上は否定しながらも、裏で陰口言うように見える藤原を想像する。

湖『何か、黒いイメージが浮かんだような…』

 もどかしくなった藤原。

藤『何言ってんだよ…!』

 そして、湖ノ上が話す。

湖「いいえ、いいえ!藤原くんはすごくいい人で、いつも優しくしてくれています。」

 黙々と話を聞く藤原。

湖「そんな藤原くんと、仲良くなりたいです…。」


 びっくりする藤原。彼の顔は、重苦しかった気持ちが、詰まっていた鼻がやっと通ったように涼し

くなった感じだった。

先「君……。アッハハハー!あんまり信じるなよ、アイツを!人をむやみに信じるのはヤバいんだからな!」

藤「何言ってんだよ、そこで!」

 見るに見かねて一言を言った藤原、びっくりする二人。岡村はからかいながらその場を逃げ出す。

先「なーにも言ってねーからなーアッハハハ!」

 湖ノ上は驚いたまま立っていた。

藤「全く…。」

 藤原、湖ノ上を見つめる。すべての疑問が解けたようだ。自分が嫌われていたのではなく、湖の上が恥ずかしがっていたということを。

 すべてが分かった彼は笑った。虚脱感もあったが、うれしくて笑ったのだろう。

湖「…えっ?」

藤「ハハ、ごめん、俺、すっごく勘違いしてた。」

湖「勘違い?」

藤「ちょっと不安だったよ。嫌われると思ったから。」

湖「嫌うなんて!私は…。」

藤「いいよ。もう分かるから。」

 藤原は微笑む。

藤「湖ノ上優月…、だよね?」

湖「う、うん…。」

藤「俺、湖ノ上と仲良くなりたいんだ。」

 そっと驚く湖の上。彼女には、いろんな気持ちが重なっていた。今まで彼女が望んでいたことが叶い始まっただからだった。

藤「よろしく!」

 手を渡す藤原。

 湖の上、深呼吸をして握手する。

湖「こ、こちらこそ!」

 微笑む藤原。

 彼らがいる窓際の外には、十五回目の桜が咲いていた。

ハセでーす。

小説書き始めました。5千字以上の小説は初めて書きますけど、どうなのか分かりませんね。(笑)次の作品もお楽しみ下さい。

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