81:不憫なアリス
『待ちなさい』
アリスは目の前の男にそう告げた。
『貴方に聞きたいことがあるわ』
『……』
『私を助けてくれたのは貴方……よね?』
男は黙ったまま取っ手が壊れたドアを閉める。
『……それが?』
『助けてくれた事には感謝するわ。けど貴方には他にも聞きたいことがあるの。大人しく捕まってくれないかしら?』
アリスはそう言うと男は露骨に舌打ちをした。
『まだそんな事言ってたのね。』
『……?それで答えは?』
『答えは"黙れ"よ』
『そんな怪我をしてもそんな強気でいられるのね』
その言葉に益々目の前の男は苛立ちを隠そうとせず眉間にしわを寄せる。
『私は一条の全面的な味方って訳じゃないけれど今の言葉にはさすがにイラッときたわ』
(この男はさっきからなんで女口調なのかしら……?追い詰められておかしくなったのかしら?)
アリスは指に魔力の糸を作り出す。
目には見えない魔力の糸、一条を襲った時と同じ糸である。
(あの時は躱されたけどあの怪我なら……無理よ!)
魔力の糸で男……つまり一条を捕らえようとアリスは腕を振るう。
しかしその糸は一条にかすりもしなかった。
糸が一条を捉える前に一条はその糸を燃やしたのだ。
『うそ……!これって……!』
『この子にもう無理は出来ないから一度で終わらせるわ』
一条の右手の文様が赤く、紅く光る。
アリスは一条の体から発生する魔力の量に驚きを隠せなかった。
(この魔力量……おかしいわ!!この男はただの人間だったはず!なのにこれは……)
『禁符「ロイヤルフレア」』
一条がそう宣言すると一条の真上から巨大な熱量を持った炎の塊が出現した。
(くる!防御魔法……?いや、無理!間に合わない!え、けどこの魔法って見覚えが……)
『……パチュリー?』
巨大な炎の塊はアリス目掛けて墜落した。
地面にぶつかった瞬間ゴォォォォォ!!!と吹き荒れる熱風と共に周りが焼けていく。
空気が、土が、木が、ありとあらゆる物が燃えていく。
『ぶっ、ゴボ、ゲホゴホ!』
一条は粘ついた赤い液体を口から吐き出す。
おびただしい量の血が地面を汚していく。
吐き出した血は熱風によりすぐに乾いていく。
(想定していたダメージよりも大きい……!これは一条の体に負担をかけ過ぎたかもしれないわね……)
『あ、ァァァァああ!!!!』
燃え盛る炎の中、声が聞こえてきた。
すると炎が中心から吹き散らされた。
その中心には火傷を負いながらも古びた本を片手に持ったアリスがいた。
(Grimoire of Alice……。彼女の魔道書か……)
『はぁはぁ……、やってくれるじゃない……』
『まったくだ。人の家でドンパチやりやがって。神社が燃えなかったからいいものを』
『『!?』』
アリスと一条は上からの声に驚く。
"それ"は丁度一条から見える位置にいた。
少し先にある神社、その屋根の上に"それ"は座っていた。
緑色の髪に青を基調とした魔道服。
右手には杖を持っており、その杖の先端には月を模したであろう三日月が付いていた。
一条は"それ"が魔法使いとまでは分かったがそれ以外は分からなかった。
『……あ!あー!!あの時の魔法使い!!』
アリスは"それ"の姿を視認すると大声をあげた。
『あん?誰だ……ってその魔道書……。ああ!あん時のガキ!』
『ガキ言うな!!』
(知り合い……?だとしたらマズイわね……。もうこの子の体で魔法を使うのは限界……。絶体絶命ってやつかしら……)
『いいかガキ、今回は見逃してやる。命が惜しければ去れ』
『……貴女この男の味方をするの?』
『ん?男?あ、そういう事か。まぁそうなるな』
『なんで』
『ハッ、なるほど。そいつがキレる訳だ。いいかガキ、今回に関しちゃ全面的にお前が悪い。これは揺るがない事実だ』
そして、と付け足す。
『この状況下でまだお前が駄々をこねるって言うなら……』
『言うなら?』
『こうだ』
"それ"がニコリと気味の悪い笑顔で笑うとアリスの服が弾け飛んだ。
『……』
一条は場の流れについていけなかった。
『……きゃぁあああ!?』
"それ"はニコニコ笑いながらとても楽しそうに告げる。
『まずは衣服を剥ぎ取って人間の尊厳とやらを奪ってみようか』




