64:名前
『ふんふん……なるほど……ここは外の世界なのね』
『外の世界って……』
『私の住んでた場所だと住んでる土地以外を外の世界って呼ぶ習慣があったのよ』
『なるほど……。それで自身のことが分からないって言ってましたがそれは一体……』
『自分の名前は覚えているのよ。けれど私の生い立ちがまったく思い出せないの。思い出せるのはただ私が住んでた地名と館の名前ぐらいなのよ』
『ふーむ……』
男は宙に浮いている少女と会話していた。
傍目から見たら中々シュールな絵面だが、気にすることはない。
何故なら今いる場所が男の部屋だということもあるが宙に浮いている女性は今会話している男以外には見えないのだから。
『それじゃあ質問をしてもいいですかね?』
『どうぞ』
『まず、あなたの体を見る限り透けてるように見えるんですが間違いないですか?』
『透けてるわね』
少女は自身の体をマジマジと見て男の質問に頷く。
『幽霊ですか?』
『……分からないわ』
『もう少し質問したいんですけどそろそろ重要な事があるので一旦失礼しますね』
『重要な事?』
女性が首を傾げると男は真剣な表情で言った。
『学校遅刻しちゃうんですよ』
-放課後・一階廊下-
『なんでいるんです?』
『あなたが急いで家から出て行ったら私まで引っ張られたのよ……』
『ええ……』
『よく分からないけどあなたと私でなにかしら繋がってると考えていいわね』
少女は無表情で言う。
(朝から思ってたけど表情があまり変わらない人だなぁ)
『それは私のセリフよ』
『えっ!?』
(心を読まれた?)
『ちょっと違うわね』
『んん……?』
『私が一方的にあなたとの感覚を共有してるみたい。あなたが大人から何かを教えられている時に眠そうだったから私もすごく眠かったの』
『なんとまぁ……』
『それで?あなたは今どこに向かってるの?』
少女は男の周りをくるくる回りながら質問してくる。
面白そうだなぁ、と思いながら男は答える。
『宇佐見菫子って人に会いに行くんですよ』
『……?どこかで聞いたことある名前ね』
『あ、名前で思いだしたんですけど……。えーっと、お名前は……?』
『そうだったわね。私の名前は「パチュリー・ノーレッジ」よ』
-同時刻・教室-
菫子は待っている間考え事をしていた。
どうしてもあちらの事を考えてしまう。
もし、寝ても行けないのならこの手であちらへの道をまた切り拓けば良いのではないか?
どうにかして行けないだろうか?
などと考えてしまう。
『うう〜、未練がましいってのは分かってるんだけどどうしてもなぁ』
菫子は頭を抱えて唸る。
そうこうしているうちに待ち人が来た。
厳密には廊下まで。
よく聞くと話し声がこちらまで聞こえる。
『ファーストネームで呼ぶのもあれですよね……』
『ノーレッジさんでどうです?』
『いや、失礼かなーって』
(さっきから誰と話してるのかしら?)
教室のドアが横にスライドされる。
そこから入ってきたのは175は超えているだろうか、菫子より背が高いのは確実だ。
あまり筋肉質とは言いがたくひょろっとしててどちらかというと正直貧弱そうに見える。
目に少々隈があり表情が硬いためちょっと近寄りがたい雰囲気だ。
『えっと……菫子さんでいいんですよね?』
『そうよ』
(表情と違って物腰は柔らかそうなのね)
『えっと、その菫子さんが立ち上げたサークルに入りたくて相談しにきたんですが……』
『ごめんね、誰も入れる気はないの』
『そこをなんとか出来ないでしょうか……?』
『そもそもなんでこんなサークルに入ろうとするの?何かの罰ゲームで来たのかしら?』
菫子の言葉に男は慌てて否定する。
『そんなわけないじゃないですか!ただ名前に惹かれまして……。その、間違ってたら申し訳ないんですけど秘封って秘密をあばくって意味なんじゃないかと思いまして……』
『……へぇ?』
菫子は少し驚いたように目を見開くと微笑して男に質問する。
『あなた名前は?』
『一条……です』




