62:幻想郷の消失
『私が今回動くのはかなりイレギュラーな方でね。本来であれば……別の者が動くはずだったんだ』
『別の者?』
『ああ、八雲紫という賢者と博麗の巫女、2人で出るべき事態だったんだ』
(……私が紫ってことに気づいていないのかしら?)
『だが、ここからが問題でな。異変が起きても紫は出てこないし博麗の巫女も姿を全然見せない』
『きっとのっぴきならない事情があったんじゃないかしら?』
『紫だったらありえるかもしれんが、博麗の巫女が出てこないっていうのはありえん。もう異変は今までのとは比にならないんだぞ?』
『そ、それもそうよね……』
(……けど結局こいつの正体は分からずじまいよね?代理……って事よね)
『ねぇ、私から質問があるんだけど』
『ん?なるべく手短になもう時間があまりない』
地震のように空気がひどく振動している。
それに合わせて金属を擦り合わせたような酷い音が響いている。
『あなた……空間を割る能力を使っていたけど、どういう事かしら?』
『どういう事も何も私の能力としか言いようがないのだが』
『ありえないわ』
『なんでさ、私の能力を否定されても困るんだけどなぁ』
『本気で言ってるの?』
『さっきからなんだ。そこまで気になるのか?』
紫は難しい顔をして八雲を見つめる。
『あなた……「あれ」と契約したの……?』
『……!お前……まさか……』
『私の名前は八雲紫よ。本当の事を教えてちょうだい』
八雲は首を振ると大きなため息をついた。
まるで探していた物が見つかったかのような安堵のため息だ。
『そうか……。良かった……!八雲紫は生きていたんだな……!』
『……?どういう事?』
八雲は立ち上がるとスキマを開いた。
そしてそのまま気絶している勇儀と霊華を無造作に掴むとスキマに投げる。
そしてスキマに自身の顔も突っ込んで何か一言二言呟くとそのままスキマを開いたまま紫の方へ振り向く。
『初めまして、私の名前は"八雲"』
『……え?』
『また会えて本当に嬉しいよ。……本当に良かった』
『八雲ってそれはどういう……』
紫が何かを言おうとする前に人差し指を紫の口元に当てて黙らせる。
『もう少ししたら夢想天生が発動する。……もしまた会える事があれば全てをあなたに話す。きっとあなたは忘れてしまうだろうけど私は忘れない。……だからどうか生きてくれ』
八雲はそう言って紫の足元にスキマを出現させ紫をスキマに落とす。
周りには何もいない。
ただ耳障りな音が段々と強くなっていく。
空気が振動し、周りの景色はそれに合わせてブレる。
『……発動。八雲「夢想天生」』
彼女がそう呟くと周りの景色が光に溢れる。
その光は粒子となって形を失っていく。
今はもう見る影もない幻想郷の景色に一瞬自然が溢れ、日が降り注ぎ、花は生を謳歌し、人は一生懸命に生きる。
そんな景色が本当に一瞬だが姿を見せた。
そんな光景を八雲は目の当たりにしてクスリと笑う。
『私が出来るのはここまでだ。後は今を生きる者が本当の幻想郷を取り戻す。……どうか彼女らが幻想郷を取り戻さんことを』
そして。
突如として化け物に襲撃され蹂躙された幻想郷はゆっくりと崩壊を迎える。
光は周りの景色を塗り潰し、真っさらな何もない空間へと塗り替えていく。
こうして幻想郷は崩壊とともに消失を迎えた。




