55:崩れる紅い館
『派手に始まったね、こりゃ』
レミリアがテラスから身を乗り出して外を見ていた。
外には巨大な蛇のような姿が見える。
レミリアはテラスから身を引っ込めて部屋に戻る。
『さて、小悪魔とパチェはあの子達を頼むぞ』
レミリアの言葉にパチュリーは何も言わないまま部屋から出て行った。
その様子にレミリアは苦笑しながら小悪魔にも声をかける。
『小悪魔』
『はい』
『あの子達とパチェと……フランを頼んだよ』
『……はい!』
失礼します、と小悪魔は頭を下げて部屋から出て行った。
『それにしても……っと、そろそろか』
レミリアは小さく何か呟くと周りが少しずつ紅く染まる。
それは紅い霧であった。
だが、異変の時とは少し違った。
館の周りから霧が広がることはないのである。
ただ館の周りが霧で包まれているだけであるが、館自体の面積が広いため、かなりの範囲と捉えられるだろう。
レミリアはテラスから飛び降りて庭に着地する。
数歩歩くと門から人影が見えた。
緑色の髪にカエルと蛇をあしらった髪留め、纏う衣装は巫女のそれと酷似していた。
『……おや。巫女様がお相手だとはな』
『茶化さないでくださいよ。どうせ視えてたんでしょ?』
『私が視る未来が絶対とは限らないのでね』
レミリアは肩をすくめながら笑う。
そしてレミリアはとある事に気づく。
『そうか、お前確か宴会で見たことあるな。山のとこの巫女だろう。神様は連れてこなくて良いのか?』
『おや、知り合いだったんですか』
『……?』
巫女の言葉にレミリアは眉をひそめるが巫女は話を続ける。
『ええ、その通り私の名前は東風谷早苗。あなたは神を信じますか?』
『残念ながら神は信じているが天敵でね。神に唾を吐く不届き者さ、私は』
『でしょうね。悪魔なんですから』
『さて、長ったらしい話はここまでだ』
レミリアの瞳に凶暴な光が宿る。
それに比例してか周りの紅い霧も濃くなってゆく。
『ええ、ここで長い長い話は終わりです。完結です。……さようなら』
レミリアは早苗の話を最後まで聞かずに突撃する。
しかし早苗が言い終わった瞬間、紅魔館が崩壊した。
レミリアはその崩壊した音に目を見開く。
だが、動きを止められずそのまま早苗に突撃してしまう。
『奇跡「白昼の客星」』
早苗がそう言った瞬間上からレーザーがレミリアに降り注いだ。
とっさにレミリアは槍を手から生み出してレーザーを弾くが数が多く捌き切れない。
レミリアは槍を上に投げるとすぐ後ろに退がる。
レミリアが退がった瞬間先程までレミリアがいた場所にレーザーが何発も降り注いだ。
レミリアが次に取った行動は相手の動向を見る事でもなく、武器を構える事でもなかった。
後ろを振り向いたのだ。
『な……館が……』
レミリアの眼前にはまるで台風が直撃したかのような有様だった。
所々が崩壊しており館が瓦礫の重みに耐えられず押しつぶされている。
『なんで……』
『酷い有様ですよねぇ。まるで台風が直撃したみたいじゃないですか』
『……あの一瞬でどうやった』
レミリアは早苗に背を向けたまま喋る。
早苗はクスクス笑いながら答える。
『奇跡ですよ奇跡。神を信じない不届き者には天罰という名の奇跡が起きたのですよ』
『……これが』
『はい?』
『これが神の仕業ってならやっぱり神とやらはミジンコ以下だな。軽蔑するよ、器が小さい』
レミリアは明らかに怒っていた。
言葉には怒りが滲んでいた。
そんなレミリアと正反対に早苗は余裕のある笑みを浮かべながら答える。
『たかが悪魔如きが何を言ってるんでしょうねぇ』
早苗は余裕のある笑みから酷薄な笑みへと変える。
『正直なところ、あなた方のような存在は邪魔でしかないので消させてもらいますね?』
『……はっ、霊夢に負けたような奴が言うセリフとは思えんな』
『あなたも負けてるくせに、って言うのは野暮ですよね。まぁ、霊夢さんに負ける心配はもうないから大丈夫ですよ?』
レミリアは館から早苗へと視線を移し、睨みつける。
『もう霊夢より強いからってか?お前みたいな奴がか?』
『それもあるんですが……』
早苗は一旦言葉を区切ると驚きの言葉を吐き出した。
それはレミリアにとって想定外で、信じられない言葉だった。
否、レミリア以外の人物が聞いても誰も信じられなかっただろう。
それぐらいの「ありえない」事を早苗は口にしたのだ。
『霊夢さんはもう死んでしまったので……勝つ、負ける以前の問題ですよね?』
あまりにもアッサリと、本当にアッサリと早苗は言った。




